国税の強制調査...基準は「不正申告1億円」以上?巷に転がる「マルサの都市伝説」の真相【元マルサの税理士が暴露】

国税の強制調査...基準は「不正申告1億円」以上?巷に転がる「マルサの都市伝説」の真相【元マルサの税理士が暴露】

  • ゴールドオンライン
  • 更新日:2023/09/25
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『国税最後の砦』と呼ばれる国税局査察部(通称:マルサ)。その実態はベールに包まれており、テレビや新聞、書籍などではさまざまな憶測が飛び交っています。しかし、“元マルサの税理士兼僧侶”という異色の経歴を持つ上田二郎氏は、「まったくの見当違いや正確性を欠く記事も少なくない」といいます。そこで、上田氏がこれまでの実体験をもとに「マルサの実態」を暴露します。

“元・マルサ”の筆者だから語れる「マルサの実像」

ある朝、国税局に出勤すると、隣の班が全員集まって何事かを統括官と相談していた。重大な事件が起こったことは、その雰囲気から十分に伝わってくる。何かあったことは間違いない。

しばらくして自席に戻った亀井査察官に「何かあったの」と、こっそり聞いた。

亀井査察官「ターゲットの店が、今朝、燃えちゃったんだよね」

筆者「今、どの辺を追っていたんだっけ?」

亀井査察官「歌舞伎町」

2001年9月に起きた「歌舞伎町ビル火災」は死者44名が出た大惨事だ。界隈では有名な風俗店が入る雑居ビルで発生した火災。どこを張り込んでいたとは言えないが、亀井査察官はビルの「ある店」を張り込んでいた。

ところが話はこれで終わらない。この深夜1時の現場をライブで見ていた査察官が他にもたくさんいた。現場にいた全員が内偵中だったのか飲みすぎて終電を逃したのかは分からないが、マルサの活動の一端を垣間見れる一例だ。

『国税最後の砦』と呼ばれるマルサだが、その実態はベールに包まれている。時折、脱税事件が小さな新聞記事で報じられる程度なのだが、2019年、関西電力の役員ら20人が、高浜原発がある福井県高浜町の元助役から約3億2,000万円分もの金品を受け取っていたことが判明し、一躍脚光を浴びる。原発利権に切り込んでいったのがマルサだ。

ところで、「マルサは大企業の強制調査はしない」や「強制調査に入る基準は不正申告1億円」などといった都市伝説があるようだが、経験のない者が書いた記事は、まったくの見当違いや正確性を欠く。

そもそも任意調査と強制調査はどう違うのか。守秘義務があってすべてを明らかにすることはできないが、読者にできるだけわかりやすくマルサの実像を伝えたいとの思いから“マルサを”徹底解剖する。

都市伝説“マルサは大企業を狙わない”の真偽

国税通則法第11章に「国税に関する犯則事件を調査するため必要があるときは、裁判官があらかじめ発する許可状により、臨検、犯則嫌疑者等の身体、物件若しくは住居その他の場所の捜索、証拠物若しくは没収すべき物件と思料するものの差し押さえをすることができる」と定めている。

ここでいう犯則事件の調査こそが、マルサの強制調査だ。そして、マルサが狙う不正所得を犯則所得と呼ぶ。犯則所得は一般的な税務調査で仮装・隠ぺい行為があった場合に賦課される重加算税対象所得に近いが、意図的な期間計算(期ずれ)や科目仮装(交際費限度額計算)などは含まれない。つまり帳簿外の取引や架空経費の計上など、除外取引によって私腹を肥やしたような簿外資金(タマリ)が生じる所得を指す。

また、マルサを知らない者は『調査官1人当たりの追徴税額はリョウチョウ(※)のほうが上』などと言うが、そもそもマルサは刑事告発を目的としているため、確かな証拠がある不正部分しか告発対象にならないことを理解していない。

※国税局資料調査課の通称

さらに「マルサは大企業には強制調査をしない」との記事を見かけるが、何が根拠なのかまったく理解できない。少なくとも筆者が東京国税局査察部に在籍していた期間、毎年とは言わないまでも2~3年に一度は調査部所管の大企業にも強制調査に入っていた。

大企業に強制調査を行わない理由として、申告した所得に対する率を挙げているようだ。仮に大企業の申告納税額が20億円あったとすると、調査で発見した脱税額が1億円だったなら5%の脱税率に過ぎず、中小企業の脱税率とは重さが違うとの主張のようだ。そうであるなら、大企業の申告所得が低ければマルサのターゲットになるということだ。

しかし、この憶測には誤解がある。大企業の強制調査が少ない本当の理由は「コンプライアンスがしっかりしている」からだ。ワンマン社長が私腹を肥やすような大企業は少ない。逆にいえば、脱税資金がワンマン社長の懐に戻る構図ならターゲットになってくる。

筆者が担当した大企業(服飾品の製造会社)は、海外子会社からのロイヤリティー収入を除外し、資金をハンドキャリーで国内に持ち込んで脱税していた。

このように、大企業にももちろん例外はある。そのようななか、相対的にみて「大企業への強制捜査が少ない」理由は、こうした“例外”が少ないからだといえるだろう。

上田 二郎

元国税査察官/税理士

上田 二郎

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