近い将来、宇宙ステーションや月面に天文台が設置される理由

近い将来、宇宙ステーションや月面に天文台が設置される理由

  • @DIME
  • 更新日:2022/06/23

近年、宇宙では、地球の周りの低軌道に多数の衛星が打ち上げられている。その衛星群には、通称、インターネット衛星と呼ばれる大規模なコンステレーションを形成したものが多数を占めているが、これらの多数の衛星が地球からの天体観測を阻害してしまっている課題が発生している。

そのため、衛星運用企業は衛星にさまざまな工夫を実施しているが、抜本的な解決には至っていないようだ。未来の天体観測はどのようになるのか。

低軌道衛星の光害とは?

Bryce Techによると、2012年から2021年までに、小型から大型の衛星は1800機以上打ち上げられているという。そして、同期間において、600kgまでの重量の衛星においては、1743機打ち上げられている。大部分が2020年あたりから集中的に打ち上げられているのだが、これら600kgまでの重量の衛星をここでは小型衛星と定義すると、宇宙の低軌道は、大多数の小型衛星が飛行しているということになるのだ。

この大多数の小型衛星の代表格は、ご存知の方も多いと思うが、SpaceXのStarlinkであろう。もちろん、同市場のOnewebやリモートセンシング衛星のPlanetなども影響はあるだろう。Starlinkは、最終的に4万2000の衛星を打ち上げる計画なのだが、これにはある課題がある。その課題の一つは、光害(地球からの天体観測における問題)だ。

Starlinkの衛星が1万2000機打ち上がると、低軌道の衛星は90分で地球を周回するので、常に上空におおよそ200機の衛星が見えるという。そうなると、衛星の金属部分や太陽電池パネルは、太陽光を反射し、天体観測する際の画像に筋が入るなど支障が出てしまうのだ。

そのため、世界各国の天文台は、SpaceXに対して、衛星の部材を最適化や、太陽電池パネルの角度調節などを求めている。そこで、DarkSatという黒色の衛星が試験的に打ち上げられた。この対策によって明るさが55%低下したが、赤外線域の観測では、解決に至らず、採用されていない。また、VISORSATと呼ばれるサンバイザーを装備してアンテナへの太陽光の入射を防いだ衛星が試験的に打ち上げられ、一定の効果はあったようで現在のStarlinkは、VISORSAT仕様となっているようだ。

しかしながら、天体観測の際に多数機の衛星が連続で横切るため、観測視野を遮ることはどうしても回避することはできない。

No image

SpaceXのVISORSAT

(出典:SpaceX)

天体観測用の衛星の限界とは?

この低軌道に多数機の衛星が飛行することによる地球からの天体観測は、光害という課題を抱えていることはご理解いただけたかと思う。その解決策は、やはり天体観測を地球ではなく宇宙で実施すればいい、となるだろう。

まず、考えられるのは、天体観測ができる衛星を宇宙へと打ち上げることだ。もちろん、ご存知の方も多いだろうが、これまで、数多くの天体観測用の衛星は打ち上げられてきた。例えば、世界的に有名なのは、Hubble Space Telescope(ハッブル宇宙望遠鏡)だろう。Hubble Space Telescopeは、人工衛星だ。搭載された鏡(主鏡)の直径2.4m。地球の大気や天候による影響を受けないため、地上からでは困難な高い精度での天体観測が可能となり、数多くの実績を上げてきたのだ。

そして、もう一つ紹介しておかなければならないのは、James Webb Space Telescope(ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡)だ。James Webb Space Telescopeも人工衛星で主鏡は直径約6.5mに達する。これはHubble Space Telescope(直径2.4m)の2.5倍で、面積は7倍以上にもなるのだ。2021年12月25日に打ち上げられ、さまざまな成果が期待されている。

No image

James Webb Space Telescope

(出典:NASA)

ここで、ちょっと鏡(主鏡)の直径に注目していただきたい。Hubble Space Telescopeは2.4m、James Webb Space Telescopeは、6.5m。後継に打ち上げられた衛星の鏡のほうが大きくなっている。それはなぜだろうか。実は、天文観測において望遠鏡の口径(直径)は大きい方が良い。大きな集光ができるからだ。大きな集光力は、短時間でデータを収集でき、より暗い、小さくて、遠方の天体まで観測できるからだ。また、口径が大きいほど、画像分解能が高く、細かい部分まで確認でき、詳細な天体画像を取得できるのだ。

地球上の天体望遠鏡にも目を向けたい。ハワイにある国立天文台のすばる望遠鏡の主鏡は8.2m、Hobby-Eberly Telescope(ホビー・エバリー望遠鏡)やKeck Observatory(ケック望遠鏡)などは10m級の鏡がある。現時点では、これらの大きさが地球上で最大級だ。今後、Extremely Large Telescope(欧州超大型望遠鏡)という主鏡39m級という大規模な計画もある。これらの巨大な望遠鏡は、小さな鏡をつなぎ合わせて全体で1枚の鏡として機能させている。そして、高精度な画像を取得するためには、隣同士の鏡の段差が、観測波長の1/10程度(~0.1μm)になるように常に制御する必要がある。その制御がとても難しい。鏡と鏡の隙間があると干渉パターンが出るので、画質は劣化してしまうのだ。

話を元に戻すと、人工衛星でこの大型の鏡を構築するのは、とても難しい。まず、ロケットに搭載できるサイズ、重量に限度があることが挙げられる。もし大型の鏡となると折り畳み式などの採用が必須となる。さらには上記のような鏡の面精度や鏡間の精密な制御が必要になるのだ。James Webb Space Telescopeの技術がとても高いことに気が付く。この点からも、現時点の人工衛星での天体観測は、限界があると考えられるのだ。

未来は大型のスペースステーションや月面に天文台は整備される!?

もちろん、人工衛星による天体観測は、大型化の技術開発を経れば、飛躍的に拡大するだろう。その前に、月面有人計画のアルテミス計画や昨今の民間企業のスペースステーション計画などから、そこに大型の天文台を設置する傾向にあるタイミングでシフトすることが考えられる。

まず、スペースステーションや月は、大気がない。つまり、天体観測に大気揺らぎがない。そして風もないため、風による微小な振動も回避できる。さらには雲など天候に左右されることがない。また、重力が微小もしくは地球に比べれば小さいので、自重による鏡の変形は小さい。温度による鏡の変形は地球に比べれば生後しやすい。そして、地球-月の間の距離分を遠くの天体を観測することができるのだ。

さらに、月には大量の砂であるレゴリスがある。このレゴリスはアモルファスで、この材料からガラスを作ることができるだろう。例えば、東洋製罐グループホールディングスは、月のレゴリスの模擬砂でガラスの製造に成功している。ただ、天体観測用の鏡として採用できるかは現時点では未定であるが、月にはこのようなポテンシャルもあるだろう。

No image

月での天文台のイメージ

いつの日か、それほど遠くない未来において、天体観測の主流は、宇宙が舞台という時代が訪れることだろう。もちろん、低軌道衛星による光害がなくてもこの検討は進捗していくが、この課題が直面することによってこの検討が進むスピードは加速することは考えられる。舞台が宇宙に行ったとしても、現在の地球での天体観測技術がそのまま採用できるだろう。この舞台が宇宙という新時代になるには、宇宙への大型の鏡の輸送や製造、構築という大きな課題がクリアする必要がある。クリアできた際は、急速に移行するだろう。その際、宇宙において広い場所や開けた視野を提供できることはビジネスになりうるかもしれない。

文/齊田興哉
2004年東北大学大学院工学研究科を修了(工学博士)。同年、宇宙航空研究開発機構JAXAに入社し、人工衛星の2機の開発プロジェクトに従事。2012年日本総合研究所に入社。官公庁、企業向けの宇宙ビジネスのコンサルティングに従事。新刊「ビジネスモデルの未来予報図51」を出版。各メディアの情報発信に力を入れている。

この記事をお届けした
グノシーの最新ニュース情報を、

でも最新ニュース情報をお届けしています。

外部リンク

  • このエントリーをはてなブックマークに追加