米国の本音は北京五輪参加?利用される曖昧な日本

米国の本音は北京五輪参加?利用される曖昧な日本

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  • 更新日:2021/04/08
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2021年4月1日、北京冬季五輪に向けたテストプログラムで競技するカーリングの選手たち(写真:新華社/アフロ)

(福島 香織:ジャーナリスト)

米国務省のネッド・プライス報道官は4月6日、2022年北京冬季五輪について、新疆などの人権問題を理由にボイコットする可能性を示唆した。同盟国らとも「話し合う」としており、4月16日にワシントンで予定されている日米首脳会談で議題に上るかどうかが注目されている。

4月7日、加藤勝官房長官は北京冬季五輪ボイコットについて話し合うつもりはない、としているが、果たしてそういう「曖昧な態度」を、この状況の中、貫いていいのか。

今回の日米首脳会談の最大のテーマは台湾防衛協力強化であり、首脳会談後の共同声明で「台湾海峡の平和維持」にどこまで踏み込んで言及されるかが、注目点だ。だが、私は同時にここで、日本の民主主義的価値観を旗幟鮮明にし、中国の人権問題についてもっとはっきりと言及すべきであろうと、意見表明したい。

当然、新疆で起きているウイグル人弾圧を「ジェノサイド」(民族虐殺)と表現することや、香港問題やウイグル人問題に対する善処なしには、北京冬季五輪を支持することも難しい、ということも含めてである。「曖昧な態度」というのは一時的には責任回避につながることもあるが、後々に悪い結果の責任をかぶせられることもあるということを、今思い出してほしい。

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北京冬季五輪の競技場となる、河北省張家口市に建設された国立スキージャンプセンター(2021年2月28日、写真:新華社/アフロ)

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日本の立場を確認したいバイデン政権

日本では、米国が北京冬季五輪ボイコットを検討している、という風に報じられているが、プライスは記者会見の後に投稿したツイートで、「我々は北京五輪に関してなんら宣言をしたわけではない。2022年までにはまだしばらく時間がある。しかし、我々は同盟国、パートナー国とこの件について緊密に協議し続け、我々の共同の関心、中国に対する共同の態度を確定することになる」との立場を説明した。つまり、具体的に共同でボイコットしよう、と呼び掛けたわけではないが、そういう選択肢をほのめかすことで中国の反応をうかがう、ということだろう。

こうした報道官の発言の背景には、フロリダ州の上院議員、リック・スコットら共和党議員グループが、2022年冬季五輪の中国の開催権を剥奪することを求める決議案を出したことがある。スコットは、ホストを米国が中国の代わりにやってはどうか、という意見を米メディア「ボイス・オブ・アメリカ」のインタビューに答えていた。

国際的な人権組織「クリスチャン・ディフェンス・コアリション」の主任、パトリック・マホニー牧師もボイス・オブ・アメリカに対して、「ウイグル人に対するジェノサイドを行い、香港を弾圧し、政治と宗教の異見人士に対する迫害を行う国家の冬季五輪に米国が参加することは、その良心に恥じる行為だ。我々は世界の自由主義国家が、米国とともに、中共の人権弾圧行為を非難し続ける立場にあることを望み、祈る」と語っていた。北京冬季五輪ボイコットを訴える人権組織は世界で180以上ある。

さて、バイデン政権としては本気で北京冬季五輪のボイコット、そしてその代替地による冬季五輪開催の検討に入っているのかどうか。同盟国、パートナー国と話し合う、という言い回しの裏には、ひょっとすると夏に東京五輪を開催する日本の意見、立場をまず聞きたい、という含みがあるようにも思う。

タイミングとしては、バイデン政権初の外国との首脳会談である日米首脳会談がおよそ10日後に控えた時期での発言だ。なのに、日本は本当になにもこの件について立場を表明しないつもりだろうか。

切迫する台湾情勢、中国に妥協できない米国

バイデン政権については異なる見方がまだ錯綜しているが、一つはっきりしているのは、米国政治というのはやはり民主主義システムに立脚し、議会、世論を無視しては内政も外交も行えない、ということだ。

選挙中のバイデン政権陣営の発言や、ブリンケン国務長官らバイデン政権のブレーンたちが過去に書いた外交政策に関わる論文などに目を通せば、中国共産党政権を完膚なきまでに叩き潰すという意志さえ見せたトランプ政権と比べると、やはりどこか中国と共存していく道を模索するそぶりがある。だが、目下、米国議会も米国世論も中国に対する悪感情と警戒が高まっており、バイデン政権としては、たとえ中国への妥協はしたくともできない現実がある。

一方、中国側の動きをみれば、3月、南シナ海スプラトリー諸島(南沙諸島)最大の環礁ユニオン堆周辺に海上民兵による“中国漁船”が200隻前後が集結し、フィリピン軍が「中国が人工物を建設しているのを確認した」と4月1日に発表している。これはエイプリルフールの冗談ではない。

かつてオバマ政権の8年間に、中国、フィリピン、ベトナムなどが主権を主張する南沙諸島で、中国が次々と人工島を造り軍事基地化していることが明らかになり、これを許したオバマ政権の失策は今なお批判されている。同じことを中国が今、バイデン政権になったとたんやり始めた、ということは、中国はバイデン政権を舐めてかかっている、ということではないだろうか。中国に対して、口で言うほどのことはできない、と。

さらに、人民解放軍の空軍機が連日、台湾西南空域に飛行し、台湾武力統一のシナリオが動き出しているかのような動きがある。

中国当局が最近出した「国家総合立体交通ネットワーク計画要綱」によれば、2035年までに「全国123交通圏」(都市通勤圏1時間以内、都市同士の直通交通2時間以内、全国主要都市直通3時間以内の交通ネットワーク)の実現を目指しているが、この計画の中に台湾が組み込まれている。この時期までに中国と台湾をつなぐ大橋ないしは海底トンネルが開通していることになっているのだ。

福建省福州と台湾間の122キロにわたる海峡大橋を2035年前に完成させるとなると、中国の専門家によれば最短で7年はかかる、という。ちなみに香港・マカオ・珠海をつなぐ橋(55キロ)の建設は9年の歳月がかかっている。つまり、どんなに遅くとも2028年には建設を開始しなくてはならない。だとすると、2027年の建軍100周年前に、台湾統一を実現するという決意を固めている、というふうにもとれる。米インド太平洋軍司令官ノアキリーノ海軍大将も3月23日、上院軍事委員会で「台湾有事は多くの人が思っているより切迫している」と述べている。

つまりそう遠くない時期、ひょっとするとバイデン大統領の任期中にも“台湾有事”は起こりうる。南シナ海情勢の緊迫や8つ目の人工島建設(軍事基地)も、そういう中国の野心的青写真に組み込まれた状況だとすると、米国としては今、中国に最大限の圧力をかけざるを得ないはずだ。

天安門事件、日本の対中制裁解除の真実

だがバイデン政権には、バイデンファミリーと中国政財界との過去の癒着、米国経済界の中国市場への未練から、議会や世論に逆らっても、中国の関係をこれ以上悪化させたくないという本音があるのではないか。米国国務省の北京冬季五輪に関する、奥歯にものの挟まったような発言を考えると、「同盟国・日本の強い反対によって、北京冬季五輪ボイコットはあきらめざるを得ない」という着地点を実は求めているようにもみえる。

そう考えてしまうのは、天安門事件後の日本の対中制裁解除のときのことを思い出すからだ。天安門事件の大虐殺を世界中が目撃し、国際社会は中国許すまじと対中制裁を実施したが、翌年、日本がいち早く対中円借款の再開に言及し、1992年の天皇陛下訪中によって、中国の国際社会再デビューが決定的となった。

のちに産経新聞が、この背後に米国の強い要請があり、人権意識の高い米国世論のせいで米政権自身が対中制裁解除に動けない中、日本が西側の人権意識からくる非難の矢面に立って対中制裁解除を率先することになったと報じている。ジェームズ・リリー元駐中国米国大使、日本の橋本恕(はしもと・ひろし)元大使に、生前、言質をとっての特ダネ記事だった。

だが、国際社会の共通の認識では、天安門事件後の制裁解除は、中国市場に目のくらんだ人権意識の低い日本が真っ先に行った、ということになっている。

また、東京新聞(4月6日付)によれば、米オバマ政権が核兵器の先制不使用宣言を断念したことについて、国務省の核不拡散担当だったトーマス・カントリーマン元国務次官補が「対中抑止力の低下を懸念した日本政府が反対したことが宣言を断念した最大の要因だった」と証言した、という。一部、この報道について、違う解釈が示されているが、早い話が、国内の世論やそれを重視する米政権として、国家安全保障上の最善の選択を取れない状況を打開するために、日本をダシにした部分もあろうかというところだ。

このように、米国は日本に対して恫喝をかまして何でも言うことを聞かせようとする一方で、ときおり「日本が反対したから」「日本が望んだから」というのを世論に対して言い訳に使うことがある。いわゆる「外圧」を利用するやり方だ。

今、米国は、国内の反中意識の高まり、人権意識の高まりによって、北京五輪へいそいそと参加できる状況ではない。だが、同盟国日本の「反対」を言い訳にすれば、国内の議会や世論をなだめることができる。

一方で、日本の与党内にも、対中強硬姿勢を取りたくない勢力は小さくない。自民党内の親中派議員や公明党らの影響力が、日本政府の対中曖昧路線の正体だろう。だからこそ日本の与党内にも、「米国が強硬に求めたから」という言い訳をもって党内の親中派を黙らせたい「外圧」期待論がある、という。

日本は、はっきりと立場の表明を

さて、日本が米国の「外圧」になるのか、米国が日本の「外圧」になるのか。

いずれにせよ私が声を大にして主張したいのは、そろそろ日本は「外圧」を利用するのではなく、日本政府としてきっちりと国際情勢を見極めて、国民や国際社会への強い説得力をもって、台湾防衛へのコミットも、ウイグル人ジェノサイドや香港弾圧についても、立場を表明する必要がある、ということだ。

そして、北京冬季五輪を対中駆け引きの材料とすることは、ウイグル人弾圧や香港弾圧に歯止めをかけ、中国に台湾武力侵攻を思いとどまらせる最後にして最大のチャンスと考えるべきだろう。

日米首脳会談で、冬季五輪問題について公式には議題に上がらないとしても、記者会見をすれば出てくる質問だ。そのときは「米国が冬季五輪代替地を名乗りでるというなら、日本としては協力を惜しまない」ぐらいのことを言って、バイデン政権の対中強硬政策の本気度を確かめてほしいものだ。

米国以上に日本は人権問題を重視し、台湾海峡の平和に積極的に貢献する意思を持っていることをアピールしてほしい。でないと、もしも中国が北京冬季五輪の成功の熱気さめやらぬ勢いで台湾に武力侵攻したとき、「人権意識の低い日本が北京五輪ボイコットに反対したから」「日本が対中制裁に足並みをそろえなかったから」と日本の対中曖昧路線に責任を押し付けられかねない。

福島 香織

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