箱根駅伝で準優勝した「創価大」が“圧倒的成長”できた納得の理由

箱根駅伝で準優勝した「創価大」が“圧倒的成長”できた納得の理由

  • 現代ビジネス
  • 更新日:2021/01/14
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「新参者」が巻き起こしたサプライズ

赤と青のストライプがテレビ画面をジャックした。正月の箱根駅伝で創価大の大活躍に驚かされた人は多いだろう。今大会は連覇を目指した青学大、全日本大学駅伝で6年ぶりの優勝を飾った駒大、前回大会と全日本で2位に入った東海大の“3強決戦”が予想されていた。いずれも学生駅伝を何度も制している強豪校だ。

一方の創価大は箱根駅伝に過去3回出場しただけのチーム。残り2kmで駒大につかまったとはいえ、4区で首位を奪うと、その後は143km以上もトップを独走した。今回の出場校では一番の“新参者”がサプライズを巻き起こした。

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創価大学駅伝部の公式サイトより

誰もが予想しなかった創価大の急浮上だが、就任2年目の榎木和貴監督だけはチームの躍進を確信していた。はたして榎木監督は選手たちにどんな魔法をかけたのか。創価大の強さの秘密を探っていきたい。

創価大陸上部は1972年に創部して、箱根駅伝予選会には1982年から参戦している。現在の基礎を築いたのが、2007年から駅伝部コーチを務めた瀬上雄然総監督だろう。箱根駅伝は2015年大会に初出場(20位)すると、二度目の出場となる2017年大会で12位に入った。次なる大きな変化は2019年2月に榎木和貴駅伝監督が就任したことだ。

榎木監督は創価大関係者ではない。宮崎・小林高、中大、旭化成という名門で競技を続けてきた。大学時代は箱根駅伝で4年連続の区間賞(8区、8区、4区、4区)を獲得。3年時(1996年)には中大の32年ぶり14回目の総合優勝に大きく貢献している。

現在の指導は大学時代に学んだことが軸になっているという。当時の中大は、現在東京国際大の監督を務める大志田秀次コーチが、本田技研のコーチと兼任で指導しており、選手たちと直接顔を合わせる機会は週に2~3回しかなかった。

「指導者が不在のことが多かったので、朝練習などは学生主体でやっていました。当時の中大は、学生だけでどうやって強くなるのかということを常に考えていたんです。いまの創価大もそうですけど、目標を達成するには選手がそれぞれ考えて、練習も工夫して取り組むようにならないといけません」

僅か1年で16校あまりを「ごぼう抜き」

榎木監督は2019年夏にこんなことを話していた。

沖電気のコーチ、トヨタ紡織の監督などを経て、榎木監督は2019年2月に創価大陸上競技部駅伝部監督に就任する。

駅伝部の寮にはトレーニング室も完備。400mのオールウェザートラックのまわりには、1周500mのクロスカントリーコースもある。監督要請を一度は断ったが、練習環境を見て、榎木監督は「勝負できる」と読んだ。

しかし、就任当初は故障者が多く、ポイント練習をしていた選手は10人ほどしかいなかった。箱根駅伝は10区間217.1kmで争われる。全区間ともに20km以上の長丁場だ。

まず榎木監督が始めたのは、月間走行距離で「750km以上」を選手たちの目標にさせたことだ。日々のトレーニングには、「ガーミン」というブランドのGPSランニングウォッチを活用。ただ走るのではなく、その“中身”も重要視させてきた。

「単に750kmを走ればいいわけではなく、選手たちには負荷の割合を説明しています。心拍数も計測できるガーミンは、運動強度の目安を5段階のゾーンで知ることができる。それが理想的なピラミッドのかたちになるように追い込んでいくんです」

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ガーミンのウェアラブルウォッチ/photo by gettyimages

選手全員がアプリでグループ登録しており、そのデータも共有。月間走行距離もランキングとして出るため、選手たちはゲーム感覚で競い合い、距離を踏んできた。就任1年目の夏には月間750kmを20人以上が突破。1000kmを越えた選手も5人いた。チームは確実に距離を積み上げてきた。

箱根駅伝予選会を5位で通過すると、2年ぶり3回目の出場となる2020年の箱根駅伝で結果を残す。1区米満怜(現・コニカミノルタ)が区間歴代2位タイの快走で創価大初の区間賞をゲット。その勢いで往路を7位で折り返すと、9区終了時で10位とは55秒差の11位につけていた。

厳しい戦いのなかで、10区嶋津雄大が9.5km付近で中央学大を追い抜き、シード圏内に突入する。嶋津は東洋大も抜き去り、チームは総合9位で初めてシード権を獲得した。総合成績は10時間58分17秒で前回出場時(17年)を22分以上も短縮。嶋津は区間記録を13年ぶりに更新する1時間8分40秒で区間賞を獲得した。

前年の箱根駅伝は予選会を15位で落選した創価大。僅か1年ちょっとで16校あまりを“ごぼう抜き”したことになる。

メディアからしたらノーマークだった

「9区終了時で10位とは約1分差でしたから、正直、シード権は厳しいかなと思っていたんです。でも、選手たちはあきらめていなかった。それどころか、最後は7位争いをしていた早大と駒大の背中も見えていたんです。監督に就任してまだ11ヵ月ですけど、選手たちの成長を凄く感じています。

今回メンバーに入らなかった選手も自己ベストをどんどん更新していますし、チームの勢いは上がっています。今回で終わることなく、来年以降はもっと上を目指すようなチームになっていくと思いますね」

就任1年目の榎木監督は大きな手ごたえをつかんでいた。そして今季は「箱根3位」という目標を掲げて取り組んできた。前回取りこぼした区間をカバーできれば、狙える順位だと榎木監督は判断したからだ。選手たちからすれば、驚いたことだろう。しかし、徐々に現実感を伴うものになっていく。

今季はコロナ禍に翻弄されて、予選通過が有力視されていた全日本大学駅伝は書類選考(10000m公式タイム上位8人の合計記録)になり、落選。初出場になる予定だった出雲駅伝は中止になった。

創価大としては実力を披露する場所がなかったが、11月21日の八王子ロングディスタンス10000mで福田悠一(4年)が自己ベストの28分19秒26をマーク。同日の「激坂最速王決定戦2020@ターンパイク箱根」の登りの部(13.5km)では三上雄太(3年)が各校の5区候補たちを抑えて優勝するなど戦える準備は整いつつあった。

「メディアからすれば創価大はノーマークだったと思います。ただ私が就任して、チームは着実に変わってきました。夏合宿と秋の試合でも前年以上の成長が見られましたし、チーム目標に向かって選手たちがひたむきに努力してくれたかなと思います。

このチームだったら目標を達成できると感じていましたし、私が自信をなくすと、選手にも影響します。私は『絶対にいける』という声掛けをしてきました」

まさかの往路優勝

今年の箱根駅伝では、「3位以内」という目標を達成するために、「往路は絶対に3位以内で走らないといけない」と榎木監督は考えていたという。そのためには、チームの上位5人を往路に起用することを決めていた。

10000m27分50秒43の2区フィリップ・ムルワ(2年)でトップ争いに加わることができるように、1区には日本人エースの福田を起用。3区葛西潤(2年)と4区嶋津雄大(3年)が踏ん張ることができれば、5区三上で3位以内に入れるという計算だった。

3強の壁は高いように見えたが、駒大は1区で出遅れ、青学大は3区起用予定だった主将・神林勇太(4年)が戦線離脱。東海大は3区まで狙い通りのレースを進めながら、4区が区間19位のブレーキになった。

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photo by iStock

一方、創価大は1区福田がトップと15秒差の3位で発進すると、3区ムルワで2位に浮上。3区葛西が区間3位と好走して、4区嶋津がトップに立った。5区三上は区間2位で山を駆け上がり、サプライズともいる往路初優勝を奪い取った。

「予定通りに1区福田と2区ムルワが流れを作ってくれました。3区と4区はしのぐ区間だと思っていたんですけど、この2区間で逆に押し上げてくれたのが大きいですね。5区三上にいいかたちでつなぐことができました。自分の走りに徹することができたのが往路優勝の要因かなと思います」

2分14秒ものリードを受けてスタートした復路も好走する。6区と8区で駒大に詰め寄られるも、狙い通りに7区原富慶季(4年)と9区石津佳晃(4年)で引き離した。特に復路のエース区間を任された石津の走りは強烈だった。

石津は今回9区を走った選手のなかで10000mの自己ベストは15番目(29分34秒46)。しかし、7人の28分台ランナーを抑えて区間賞を獲得しただけでなく、区間記録に13秒と迫る区間歴代4位の好タイムを叩き出したのだ。2位駒大とのリードを3分19秒まで拡大した。

初優勝を逃したとはいえ、創価大は1~9区までのレース運びが圧巻だった。出場4回目にして、箱根駅伝エントリー上位10人の10000m平均タイムが13番目(29分05秒37)のチームはなぜこれだけの戦いができたのかだろうか。

「タイムで走るんじゃなくて人が走るんだ」

「私は『タイムで走るんじゃなくて人が走るんだ』ということを選手たちに言い聞かせてきました。10000m27分台の選手だから勝てないのではなく、その場にいる選手が走るわけだから、自分の走りに徹すれば27分台の選手にも勝てるチャンスはあります。1~9区までの選手は、そういう走りをしてくれたかなと思います」

シューズの進化もあり、10000mのタイムが高騰している。しかし、「タイムが上がった」=「走力が上がっている」というわけではない。自分よりも好タイムを持つ選手に対して恐れを抱いてしまう選手は少なくないが、創価大の選手はそんなことを気にしていなかった。

チームとしてはトラックのタイムではなく、別の“指標”があった。11月に学内でハーフマラソンのトライアルを行うと、気温が高いなかで12~13人が1時間3分台で走破した。さらに12月には30秒の時差スタートで15kmの単独走を実施すると、前年チーム3番目のタイムを11人がクリア。前回1区で区間歴代2位タイの快走を見せた米満怜のタイムも8人が上回った。

「米満が8人もいるチームなので、それだけみんな自信を持ってくれたと思います」

どんなトレーニングを積んできたのかわからない選手のタイムに惑わされるのではなく、自分たちのチームが確実にレベルアップしているという実感を大切にしてきたのだ。さらに、出場するレース内容についても明確な意識付けがあった。

「人の後ろについてタイムを出すのではなく、自分たちの力でレースを作ってタイムを出せるように指導してきたんです。失敗もありましたけど、どの試合でもチャレンジすることを忘れなかったことに成長があったのかなと思います」

次なる目標は?

駅伝は一斉スタートとなる1区以外は基本、単独走になる。集団でレースが進む記録会で好タイムを出すことと、単独走でもしっかりと走り切ることは別の能力が求められる。創価大は「自分で走る」ことを大切にしてきたのだ。

「目的を達成するためには、誰かに言われて行動するようではいけません。自分で考えて行動に移せるようになったことが一番の変化だと思います」

榎木監督は就任当初、第100回大会(2024年)で「優勝争いができるようなチーム作り」を思い描いて、「5年計画」を立てていた。それがわずか2年目で目標をクリアしたことになる。往路は1区以外の4人が残るなど、来季への期待も大きいが、榎木監督はどこを見つめているのだろうか。

「今回は『3位以内』が目標でした。復路も『優勝』という言葉を出さずに、『100%自分たちの力をだそう』としか言っていません。その結果が2位で、目標をクリアすることができました。

来季は出雲駅伝や全日本大学駅伝でもう一度『3位以内』をクリアするのが目標です。さらに自信をつけてからでないと、『優勝』という言葉は口にできないと思います」

出雲や全日本に一度も出場していないチームが箱根路で見せた“力強い継走術”。創価大の取り組みが、学生長距離界の“新たな潮流”になるのかもしれない。

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