北欧にみた 脱「デジタル後進国」を急がなければならいない理由とは?

北欧にみた 脱「デジタル後進国」を急がなければならいない理由とは?

  • J-CASTニュース
  • 更新日:2020/11/22

コロナ禍の対応を通じて、諸外国に比べてデジタル化が遅れていることが露呈した日本。その最中に誕生した菅政権は、デジタル強化を前面に打ち出しているが、「デジタル後進国 日本」の遅れは、果たしてどれほどなのか? 遅れの何が問題なのか? 見習うべきモデルになるような国はあるのか?

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本書「デジタル化する世界と金融 北欧のIT政策とポストコロナの日本への教訓」は、それらの質問、疑問を一挙に解消してくれる一冊。わたしたちの生活の利便性向上や、少子高齢化が進む将来のためにもデジタル化が欠かせないことを教えてくれる。

「デジタル化する世界と金融 北欧のIT政策とポストコロナの日本への教訓」(中曽宏監修/山岡浩巳、加藤出、長内智著)金融財政事情研究会

把瑠都のエストニアばかりじゃなかった

2020年9月に発足した菅政権は、2021年には「デジタル庁」を新設してデジタル化政策を加速することを目玉政策の一つにしている。すでに脱ハンコや免許証のデジタル化、マイナンバーカードと免許証の一体化などを検討しているとされ、デジタル化の流れは早くも勢いを増している。

北欧諸国のデジタル化の実態をレポートした本書には、そんな菅政権が取り組もうとしているデジタル化政策のほとんどが述べられている。つまり、何年後かの日本のデジタル社会の姿は、本書を読めば具体的にわかってくるはずだ。

内外の金融財政問題などの調査研究を行っている金融財政事情研究会は2019年9月に「北欧フィンテック・キャッシュレス視察団」が10日間にわたりスウェーデン、フィンランド、エストニアの3国を訪問。スウェーデンではキャッシュレス化、フィンランドではMaaS(モビリティ・アズ・ア・サービス)、エストニアでは電子政府の実情を、主に視察した。本書では、その報告をまとめている。

この3国をはじめ、北欧各国ではデジタル化の取り組みは早くから始まっており、それぞれの国民に広く浸透している。その中で、エストニアは大相撲の元大関・把瑠都が同国で政界に転じたこともあって、デジタル化の先進ぶりが漏れ伝えられている。

エストニアや他の国々について、本書でその実情に触れると、SF小説のようなことが実際に行われていることがわかり、驚かされることは少なくない。だが同時に、そんなことが日本で可能なのかと疑心暗鬼にもなる。

銀行にもキャッシュなし

たとえば、わたしたちにとって最も身近なデジタル化の一つに「キャッシュレス化」がある。しかし、普及率では世界的には最も遅れているカテゴリーの一つでもある。

その対極にいるのが、スウェーデン。国民一人ひとり、街の店舗ばかりか、露天商や屋台の店主らもキャッシュを扱わない。銀行にも現金はほとんどなく、銀行強盗が押し入っても奪うものがなく、手ぶらで引き上げる事件もあったというほどだ。

スウェーデンは、1661年に世界で初めて銀行券(紙幣)を発行した国として知られるが、現代では世界最先端のキャッシュレス社会になっている。同国では2013年に銀行が現金の取り扱いを停止し始めたというが、当時の日本ではまだ「キャッシュレス」という言葉も一般的ではなかった。

デジタル化を進める大きな理由の一つは合理化だ。銀行が現金の取り扱いを縮小しながらデジタル銀行へのトランスフォーメーションを推し進めると、支店網が縮小され従業員が少なくなる。大手のスカンジナビア・ エンスキルダ銀行(Skandinaviska Enskilda Banken=SEB)は1998年に1万1053人だった行員数が2019年に8013人と30%削減された。

北欧各国では人口が多いとはいえず(スウェーデン=約1000万人。フィンランド=約550万人、エストニア=約130万人)、人材を効率的に適材適所に充てる必要がある。ある部門でデジタル化によって生じた「余剰人員」は、リカレント教育を通じて別の部門で生かされることになり、このシステムが国の生産性の向上につながる。その方法は、社会の少子高齢化が進む日本にとって大いに参考になるはずだ。

スウェーデンをはじめ北欧各国ではまた、リカレント教育を経た人材らによるスタートアップの活動も盛ん。スウェーデンのiZettle(アイゼトル)という企業はiPhoneアプリを使ったカード読み取り端末を開発し、低コストのため零細企業で導入が相次ぎキャッシュレス化推進にひと役買い、ユニコーン企業に成長した。欧州市場、メキシコ市場に同端末が普及、このことに目を付けた米ペイパルが投資し、2018年、22億ドルで同社を買収した。

クレカ、デビットカードとSwish

フリーマーケットなどで店主がカード端末を持っていない場合、キャッシュではなく、Swish(スウィッシュ)というシステムで支払いが行われるケースが多い。携帯電話の番号と銀行口座を紐づけたモバイル個人間送金システムだ。

カード決済に比べて店側のコスト負担が小さいので、零細店舗のオーナーはSwishを好む。クレジットカードやデビットカードが使えない小ビジネスの受け皿となり、キャッシュレス化がますます浸透するようになった。

日本でもおなじみの家具・雑貨の大手チェーン、スウェーデンのIKEA(イケア)は2018年10月、顧客の現金利用が減っている状況を考慮して、ストックホルムから北へ約100キロ離れたイェブレという街にある店舗で、完全キャッシュレス化の実験を行った。従業員の労働時間の15%が現金の勘定や保管、銀行口座への入金などに費やされており合理化の道を探った。

この実験の結果、現金でなければ支払えなかったお客の比率は、1000人にわずか1.2人だったという。その「1.2人」は、店内のカフェでホットドッグなどの少額の食事で、硬貨を支払っていた。実験後、同店では硬貨だけを持ってカフェに来るお客にホットドッグの無料券を渡し、「次回からはカードを持ってきてください」と伝えると、しばらく後に完全キャッシュレス化したという。

国を挙げてデジタル化、キャッシュレス化に取り組んだスウェーデンは近年、成長軌道を進んでいる。IMF(国際通貨基金)の推計(ドル換算)によると、スウェーデンの2017~19年の平均1人当たりの名目GDP(国内総生産)は5.3万ドル。日本の3.9万ドルを34%上回っている。購買力平価は日本より21%大きい。

「デジタル化する世界と金融 北欧のIT政策とポストコロナの日本への教訓」(中曽宏監修/山岡浩巳、加藤出、長内智著)
金融財政事情研究会
2800円(税別)

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