任天堂、実は業績が「大きくブレる」納得の3理由

任天堂、実は業績が「大きくブレる」納得の3理由

  • 東洋経済オンライン
  • 更新日:2022/09/23
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意外にも業績のブレが大きい任天堂。業績がブレる理由が決算書を読み解くと見えてきます(写真:タカス/PIXTA)

決算書には各社の実績がデータとして開陳されているのみならず、屋台骨となるビジネス戦略や、悲喜こもごものストーリーが隠されています。開示資料の海を泳ぎ、まるで「謎解き」のように企業の戦略を解き明かす「プロの読み方」とは?

大手町のランダムウォーカー氏の著書『会計クイズを解くだけで財務3表がわかる 世界一楽しい決算書の読み方[実践編]』から一部抜粋してお届けします。

1回目:東武鉄道がスカイツリーを建設した「納得の理由」(9月8日配信)
2回目:王将と日高屋、コロナ禍で「明暗」分かれた拠所(9月13日配信)
3回目:「任天堂=ずっと好業績の企業」イメージは誤りだ(前半)(9月18日配信)

任天堂の業績がブレる理由を読み解く

4回目となる今回は、引き続き任天堂をテーマに、その業績のブレの理由を決算書から読み解いていきたいと思います。

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出典:『会計クイズを解くだけで財務3表がわかる 世界一楽しい決算書の読み方[実践編]』

前回の分析では、任天堂の財務数値を15年分、時系列で並べて見ました。その結果、上図のように売上高が年度によって上下していることがわかりました。なぜ、任天堂の業績はこれほど大きくブレるのでしょうか。この理由を、まずは決算書を見ずに一緒に考えてみましょう。

ゲームの会社といえば、やはりヒット商品の有無で売り上げが上下するのはイメージしやすいかと思います。また、任天堂はゲームソフトだけでなく「Nintendo Switch」といったゲームハードも開発しています。ハードがなければそもそもソフトで遊べませんから、ハードの売り上げが重要であろうということも、想像にかたくないでしょう。

加えて、クリスマスやお正月など、ゲームがよく売れる時期に偏りがあることから、販売時期も重要になってきそうだと推測できます。

このように、ゲームソフトを販売するタイミングや、ゲームソフトを遊ぶためのハードの普及など、ゲームをより多く販売するための変数は数多く存在します。

リスクの情報から事業特性を読み取ろう

決算書を読んで、どう活用するかはその人の目的によって変わってきますが、いずれにせよ、任天堂のような「業績の振れ幅」が大きい会社は、原因を財務諸表や決算資料を通して確認することができます。任天堂の決算資料から、1つずつ読み解いていきましょう。

原因① ヒット商品の有無

まず、1つ目の原因は「ヒット商品の有無」です。これは「有価証券報告書」の【事業等のリスク】欄に記載があります。「事業等のリスク」には経営成績や株価に影響を及ぼす可能性のあるリスクが記載されており、任天堂の場合は、ゲーム開発の技術もつねに進化していること、ユーザーの嗜好はつねに変化していて、必ずしも毎回のように売れるタイトルが出るわけではないことなどが明記されています。

任天堂の事業等のリスクを確認してみると、「新製品開発」という記載が存在します。これは、任天堂をはじめとしたゲーム会社は、良くも悪くもヒット商品の有無により大きく業績が変動することを意味しています。

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出典:『会計クイズを解くだけで財務3表がわかる 世界一楽しい決算書の読み方[実践編]』

任天堂の2021年3月期の業績は非常に好調でした。その理由の1つに、魅力的な製品を多く市場に出せたという背景があります。任天堂の決算説明会資料に記載があるように、大ヒットといわれるミリオンセラータイトルを36本生み出し、売上高を大きく押し上げました。

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出典:『会計クイズを解くだけで財務3表がわかる 世界一楽しい決算書の読み方[実践編]』

大きな影響を与える「事業等のリスク」

原因② 季節的変動

【事業等のリスク】にはそのほかにも「業績の季節的変動」という記載があります。

コンシューマー向けのゲームは、魅力的な製品を開発することはもちろん、発売する時期も重要となります。年間の販売実績を見てもわかるとおり、クリスマスやお正月というイベントが集中する年末商戦の時期が最も需要が高くなります。

したがって、この年末商戦のタイミングに魅力的な製品をリリースできるかどうかということも売り上げに大きな影響を与えます。

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出典:『会計クイズを解くだけで財務3表がわかる 世界一楽しい決算書の読み方[実践編]』

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出典:『会計クイズを解くだけで財務3表がわかる 世界一楽しい決算書の読み方[実践編]』

前図のように、任天堂の売上高を年間ベースで見てみると、明らかに12月に偏っています。12月の年末商戦が1年でいちばんの稼ぎ時となるため、ポケモンなどのビッグタイトルの新作はいつも秋ごろに発売されているのです。

このことから、年末商戦前にリリースされる商品ラインナップは、任天堂の業績を予想する先行指標として活用できることがわかります。

原因③ ハード商品の普及

売上高に大きなブレが生じる原因の3つ目が、ゲームハードの普及です。ゲームソフトだけ持っていてもゲームで遊ぶことはできません。よって、ゲームハードを先に普及させる必要があり、この普及率が上がらない場合、業績に大きな影響が出てきてしまいます。

さて、ここで問題です。ゲームソフトとハード、利益率が高いのはどちらでしょうか。文章を読み進める前に一呼吸置いてぜひ考えてみてください。

よろしいですか?

結論から言うと、ソフトのほうが利益率は高くなる傾向にあります。ソフトはダウンロード販売もできますが、ハードは現物で販売しなければならなく、輸送コスト等もかかるためです。

ちなみに任天堂は、売上高に占めるハード製品の比率を開示しています。この売上高ハード比率と、売上高総利益率の推移を時系列で追うと面白いグラフの動きになります。

売上高総利益率(粗利率):売上高総利益率とは、売上高に対する売上高総利益の割合を表す経営指標です。別名、粗利率とも呼ばれます。

売上高ハード比率が上昇すると売上高総利益率が下降し、売上高ハード比率が下降すると売上高総利益率が上昇します。つまり、両者は原則として逆の動きをする関係にあることがわかります。

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出典:『会計クイズを解くだけで財務3表がわかる 世界一楽しい決算書の読み方[実践編]』

ハードが売れないとソフトも売れない

この2種類の指標の推移グラフからもわかるとおり、ゲームはハードよりもソフトのほうが利益率が高いことが読み取れます。ハードが普及しなければソフトも買ってもらえないことから、まずはハードの価格を下げて購入を促し、その後のソフトで利益を拡大するという販売戦略が財務数値の動きから読み取れます。

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出典:『会計クイズを解くだけで財務3表がわかる 世界一楽しい決算書の読み方[実践編]』

つまり、肝いりで開発したゲームハードがこけてしまった場合、業績も芋づる式に悪くなってしまうのです。実は、前回の3回目でも触れた2010年代の赤字の原因はそこにあります。

ということで、その時代の事例も紹介していきます。

ハードの販売不振と、その業績への影響が顕著に現れた事例を紹介します。任天堂の売上高と売上高原価率を時系列で並べてみると、2012年3月期頃から売上高原価率が大きく上昇していることに気づきます。なぜ、この時期だけ売上高原価率が増加しているのでしょうか?

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出典:『会計クイズを解くだけで財務3表がわかる 世界一楽しい決算書の読み方[実践編]』

3DSの販売が大不振で苦渋の価格改定

その原因を調べるため、当時の開示資料を確認しにいきます。すると、2011年7月にニンテンドー3DS(携帯型ゲーム機)を元の販売価格から1万円も値引きして販売していることがわかります。

当時、スマートフォンの普及が一気に進んだ背景もあり、ソーシャルゲームが台頭し任天堂が逆風に見舞われていた時期でもありました。そのため、携帯型ゲーム機であるニンテンドー3DSの販売が大きく伸び悩み、苦肉の策として大幅な値引きが実施されたのです。

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出典:『会計クイズを解くだけで財務3表がわかる 世界一楽しい決算書の読み方[実践編]』

2012年3月期の有価証券報告書の生産実績と販売実績を確認してみると、販売実績よりも生産実績のほうが上回っています。期首と期末の在庫部分が考慮されないため、販売実績と生産実績同士の比較は正確な対応数値とはなりませんが、原価率の上昇も含めてかなり苦戦していたと考えられます。要するに、製造した商品が売れていない状態です。

この事例からもわかるとおり、ゲームハードの普及というのは任天堂の業績に重要な影響を与えるということが読み取れます。

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出典:『会計クイズを解くだけで財務3表がわかる 世界一楽しい決算書の読み方[実践編]』

まとめ

これまでの分析を総合すると、ハード製品を普及させ、ヒット商品を開発し、年末商戦の時期にリリースするという3段階が決まると、任天堂の売上高が大きく伸びる傾向にあることがわかりました。

普通に暮らしていると、ゲームを作って・売るだけの会社だと思いがちですが、「任天堂」という会社がヒットゲームを生み出す背景には思っていたよりも多くの要素が組み合わさっていたようです。

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出典:『会計クイズを解くだけで財務3表がわかる 世界一楽しい決算書の読み方[実践編]』

興味のある企業の特徴を読み解ける

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このように、任天堂の売上高が大きくブレる理由について、決算資料のみからでも読み取ることができました。皆さんも自分の興味のある企業について、決算資料の数字を時系列で並べ、その特徴を見つけてみてください。

【情報のソース】リスクの状況

ちなみに、今回の内容は有価証券報告書の【事業等のリスク】という部分から抜粋しています。ここにはその会社のビジネスの特徴などが書かれているので、企業特性について知りたいときは、ぜひこちらにも目を通してみてください。

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出典:『会計クイズを解くだけで財務3表がわかる 世界一楽しい決算書の読み方[実践編]』

(大手町のランダムウォーカー:株式会社FUNDA代表取締役)

大手町のランダムウォーカー

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