「トイレ崩壊寸前」って大げさすぎでしょ? 怪しげで不快な「ネット広告」はなぜ蔓延するのか

「トイレ崩壊寸前」って大げさすぎでしょ? 怪しげで不快な「ネット広告」はなぜ蔓延するのか

  • 日刊サイゾー
  • 更新日:2021/05/03
No image

電通が2月に発表した「日本の広告費」によると、2020年の広告費全体に占める「インターネット広告媒体費」の割合は28.5%で、「地上波テレビ」の25.0%を上回った。コロナ禍で総広告費は9年ぶりのマイナス成長でも、インターネット広告費は引き続き増加している。

とはいえ最近は、「ネット広告の質の低下が著しいのでは」という指摘をツイッターなどでよく見かけるようになった。特に批判されているのが、美容健康系の広告だ。

“妻「トイレ崩壊寸前よ!」”
“洗面所で発狂。シミは台所のアレで一発”
“全主婦が号泣。白髪が生える原因は…”
“歯科医の夫「歯の黄ばみ、アレで消せるよ」”
“58歳のおばさんが20代に間違われた?”
“韓国人に目元だるだるがない理由!”

上記のようなバナーをクリックして記事を読むと、Before・Afterの写真に明らかに捏造と分かるものがある。これでは「ネット広告がテレビ超え!」などといっても、消費者にとって喜ばしくない状況が進んでいるとしか思えない。なぜこのような怪しすぎる広告が蔓延しているのか。ネットメディア関係者のCさんに話を聞いた。

ネット広告を変えた「運用型広告」

――本記事も含めてネット上でコンテンツが無料で読めるのは、そこに広告が載っているからです。広告収入があるからライターに原稿料を支払えるし、会社も利益を得られる。その広告の質がかなり怪しいものになっていることは、メディア運営に携わるCさんもご存じですよね?

C氏 私もあんな広告を踏む人がいるのが理解できないのですが、本当に踏まれるんですよね。もう写真からして気持ち悪いのに、なぜなんだろう。メディアとして広告収入を得ておきながら、こんなことを言うのもなんですけど……。

――読者からすると不快な広告が多すぎて、ストレスが溜まるんですよ。メディア側でどうにかならないでしょうか。

C氏 初期の運用型広告は(バナーなど)クリエイティブの数が限られていたので、メディアでも広告内容の事前確認ができたんです。それがターゲティング(読者の個人属性などに基づく広告の出し分け)ができるようになってから種類が膨大になり、チェックしていられなくなってしまいました。

また、以前は広告会社の「事前審査」があって、変な内容の広告は前もってちゃんと弾いてくれる仕組みがあったんです。でもいまは、新規取引の代理店を除いて事後審査のみになっているところが多いようです。大手の広告プラットフォームは、AIなどで事後チェックしている、とは言ってはいますけどね。

――広告会社は、どこまで本気で怪しい広告を排除しようとしてるんですかね。

C氏 どうでしょうねえ。最近は個人事業主がクレジットカードで簡単に広告を出せるようになっているそうです。なので、事後審査で弾かれても商号やカテゴリーを変えて出してきて、いたちごっこになっていると聞きました。

そういう物理的な限界のほかに、よく目にする広告は1表示あたりの出稿単価が高いので、そういう広告主にどこまで厳しく対応できるのかという問題もあります。審査を厳しくすると、広告会社の売り上げが下がりますし。

広告を表示するメディア側も、収入が入ればいいと開き直ってしまって、「文春オンライン」なんかも以前よりかなり怪しげな広告を堂々と出すようになっています。紙の雑誌の「週刊文春」は広告にもプライドが感じられるけど、ウェブはもう売上に舵を切っちゃったんだろうなあ、と思いながら眺めています。

――先ほど「運用型広告」という言葉が出ましたが、一般読者が理解できるように説明してもらえますか。

C氏 インターネット広告のしくみは本当に複雑になっていて、そんなの無理(苦笑)。メディアの視点でざっくり説明すると、インターネット広告の種別は「検索連動型」や「ディスプレイ広告」「動画広告」などに分けられます。

広告費が一番大きいのが検索連動型で、検索エンジンの検索結果の上位に、検索ワードに関連したテキストが出てくるものです。次に金額が大きいのが、ウェブサイトの広告枠に表示される、画像を中心としたディスプレイ広告です。

ディスプレイ広告にも2つあって、ひとつは「予約型広告」。表示期間や回数、クリエイティブなどをあらかじめ決めて、視認性の高い場所に表示する昔からあるものです。もうひとつが「運用型広告」で、読者の反応に応じて広告素材や入札額などをリアルタイムに変更しながら、広告パフォーマンスを最大化するしくみです。

――昔は広告代理店と1件ずつバナー広告を契約していました。いまは枠だけ契約しておけば、広告が自動的に配信されて、PV(ページビュー)やクリック数に応じて広告収入が入ってくるから楽になりました。

C氏 広告主も、広告会社のプラットフォームを使って、複数媒体の広告枠をリアルタイムに入札できるので、このターゲットに、この予算の範囲内で、こういうクリエイティブで、この期間露出して、このリンク先に飛ばす、といった細かな設定ができます。少額からできるので、純広告しかなかった時代には広告が出せなかった小さな会社でも出せるようになったんです。

その代わり、メディアでは広告の内容をコントロールできなくなってしまった。とはいえ、カテゴリー単位では非表示を選べます。はっきり言うと「美容健康系を出さない」と決めれば、変な広告がだいぶ減るんです。

同じ運用型広告会社を使っていても、大手新聞社のサイトに怪しげな広告が出ていないのは、そういう理由です。

――でも美容健康系は、やっぱり儲かりますよね。

C氏 実は表示される広告があまりにひどいので、いちどカテゴリーごと切ったことがありました。そうしたらPVあたりの売上がガッツリ下がっちゃって、泣きたくなりました。結局、元に戻しましたけど。

消費者庁が「健康食品の宣伝や広告の中には、誇大表示や契約条件が不明瞭なものがあり、注意が必要」と名指ししているくらい、この分野は以前から怪しい会社が多いです。特に劇的な効果をうたう会社には、コンプライアンス上の問題があるといっていい。

もちろん美容健康系の中にも、まじめにやってる会社もあるんです。でも、さっき言ったように、怪しい会社が高単価で入れてくればそちらが優先して出るし、カテゴリーごと切ればまじめな会社も表示されなくなってしまいます。

ネット広告の質は「見ている人の鏡」でもある

――運用型広告の中でも、最近広告内容が特にひどいと言われているのが「コンテンツ・ディスカバリー」といわれる種類のものです。

C氏 記事内容と親和性が高く、スタイルも記事に似せた「ネイティブ広告」を記事下に出すことで、読者のコンテンツ体験を妨げない手法と言われていますが、実際の運用はそうなっているといえるかどうか。

――美容健康系広告のもうひとつの問題として、PVを大量に集め、そのような広告をクリックする判断力の弱い人を集めようとすると、テレビネタ、芸能ネタを増やすのが早道になります。このしくみは、質の高いコンテンツを増やすインセンティブにはなりません。

C氏 私は読者の興味関心がある限り、芸能ネタが必ずしも悪いとは思いません。それにうちの場合は、芸能ネタの読者の広告クリック率が高いというデータまでは出ていません。

とはいえ、もしもおっしゃる通りに、政治経済など知的レベルの高い人向けの記事ではそういう広告が踏まれる割合が低くなるとすれば、売上を増やすためにはそういう記事の割合を減らせということになりますよね。うちの場合、営業はコンテンツの中身には干渉しないようにしてますけど。

あと、広告主をかばうわけでは決してないんですが、広告のクリエイティブやネイティブ記事の内容は、膨大な数のA/Bテスト(比較)が行われていて、その結果が表示されているともいえるんですよ。

――あの醜い広告は、読者自身が選んでいると?

C氏 私やうじいえさんはターゲットじゃないけど、ああいう広告を踏んでしまう人が一定数いるから表示されているわけで。ネット広告というのは「見ている人の鏡」でもあるんです。あの広告に釣られる人がいる限り、ああいう広告はなくならないでしょうね。

――運用型広告のしくみについては、どう評価されますか。

C氏 いろいろ弊害はあるけど、いまは個人への細かなターゲティングが進んでいるので、あれだけの量の広告をさばくにはこの方法しかないでしょう。ある意味すごい技術ではあるし、うまく使えば読者の利益にもなるはずなんです。

でも、読者側にもおかしな誘惑に釣られやすい限界があるし、悪い奴らは儲けるためなら隙間を突いて何でもやる。カネのためなら時間も手間も惜しまない(笑)。審査後を見計らってクリエイティブや記事を変えてくるとか、いろんな方法で排除しても、その情報を横で交換し合っているのか、また乗り越えてやってくるようです。

――広告内容は、本来は広告主の責任ですが、広告代理店に責任を押し付ける例もあり、広告を表示する広告プラットフォーム会社の審査が最後の砦となります。そういえば運用型広告会社が集まって「健全化」に向けて共同声明を出したことがありました。

C氏 「フェイク広告とコンプライアンス違反広告の根絶に向け」というやつですね(2019年7月)。あの9社の中には、確かコンプライアンスで注意を受けてクライアントを失った会社も含まれていました。でもその会社も、最近は新しい技術を開発したと発表していて、そういう取り組みが広告の質の向上につながればいいなと。

あと、ヤフーが昨年秋に「コンプレックスに関する表現の広告審査」を厳しくすると宣言して、ある種の美容健康系の広告主を排除しましたよね。ああいう流れがもっと他社に広がるといいのに、とは思います。とにかく、このままではまずいでしょうね。

――今後のコロナ禍の行方も、広告の質に影響を与えるでしょうか。

C氏 特に先期の前半は大手の広告主が予算を引き上げてしまったので、余計おかしな業者が目立ってしまった側面はあると思います。広告会社も目先の儲けを優先して、審査が甘くなっていたのでしょうか。景気が戻ってきたら、広告会社も審査を厳しくして、あらためて公序良俗に反する広告を一掃してくれるのでは、と期待しています。

<インタビューを終えて>

気になる噂がある。見るからに怪しげな広告を出している会社の中に、コロナ禍で打撃を受けた反社会勢力が混じっているというのだ。ある広告業界関係者が「ぼったくりバーに客が入らなくなったり、飲食店からみかじめ料が入らなくなった暴力団が、ネット広告の審査の甘さにつけ込んで商売をしているらしい」と耳に入れてくれた。

広告クリエイティブのひどさも、普通の人ではクリックしないと重々分かっていて、最初から「あんなバナーでもつい踏んでしまうほどの“頭の弱い人”」をターゲットとしており、「踏み絵」のように使っているのだという。

4月27日に内閣官房デジタル市場競争本部が公表した「デジタル広告市場の競争評価」の最終報告でも、「反社会的勢力との関連が疑われるような国内外の悪質事業者」が、不正に広告収入を得るアドフラウドに関わっている可能性が指摘されている。

このまま自浄作用が働かなければ、いずれ国の指導や規制が入るだろう。目先の収入源を批判することになるので、ネットメディアは積極的にこの問題に手を出したがらないが、ネット広告業界が崩壊したら、真っ先に影響を受けるのはネットメディアだ。

この記事をお届けした
グノシーの最新ニュース情報を、

でも最新ニュース情報をお届けしています。

外部リンク

  • このエントリーをはてなブックマークに追加