スキージャンプの小林陵侑が取り戻した強さ。スーツのルール変更に翻弄されても五輪王者の力を発揮

スキージャンプの小林陵侑が取り戻した強さ。スーツのルール変更に翻弄されても五輪王者の力を発揮

  • Sportiva
  • 更新日:2023/01/25

女子に続き、男子も3年ぶりの日本開催となったスキージャンプW杯男子札幌大会。大会前のW杯ランキングでは21位だった小林陵侑(土屋ホーム)は、この札幌3連戦で2勝と、3位1回の好成績を挙げ、W杯ランキングを7位に急上昇させた。

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札幌で調子を取り戻した小林陵侑

昨季は北京五輪でノーマルヒル優勝、ラージヒル2位の成績を残し、W杯総合優勝も3シーズンぶり2回目の獲得を果たしていた小林。今季オフシーズンは、本業以外の忙しさもあってトレーニングを十分には積めず、股関節にも違和感があり「準備不足」と本人も言う状態でシーズンイン。

さらにジャンプスーツのルール変更で、これまでスーツ寸法はボディ寸法に対し、1~3cm差だったのが2~4cm差に変更されたなか、11月5日のW杯開幕戦で小林は7位になったが、翌日の第2戦は30位。11月26日の第3戦から1月6日の第12戦ビショフスホーフェン大会までの長い遠征では、15位が最高で、そのうち3戦は2本目のジャンプに進めず0点という、これまでは考えられない結果になっていた。

北京五輪前に札幌で決意を語ってくれた高梨沙羅
札幌大会も初日の予選は128.5mを飛んで9位だったが、本番の1本目は予選と同じ弱い向かい風のなか、予選よりスムーズな飛び出しをして135mを飛び、W杯ランキング1位のダビド・クバツキ(ポーランド)に3.9点差の2位という滑り出しになった。

それでも5位まではW杯上位の選手もいる大混戦。これまでを考えれば、表彰台は厳しいと思えた。

だが2本目は、そのトップ5が飛ぶ頃になると、それまでの向かい風が追い風に変わり、120m台前半のジャンプが出るようになってきた。小林の順番になると追い風がより強くなり、しばらく待たされた。

「そんなに結果は考えていなかった」と言い、心は平静だった。風が少し収まった秒速0.31mの追い風の条件で130mを飛んで合計得点を271.5点に。そのあとのクバツキが125.5mに終わり、今季初優勝が決まった。

「今季は苦しんでいたので、初表彰台がいきなり優勝というのはうれしいですね。この大会にはそこまで懸けていなかったのでプレッシャーもなかったですし、そもそも勝つことは考えていなかったのでビックリしています。スタートのシグナルと風も味方してくれたのだと思います」

日本チームの作山憲斗コーチも「勝ったのはサプライズです」と言いながら小林のジャンプをこう分析する。

「1本目は条件もよかったけど、踏み切りも少し柔らかさが出てきたというか。これまでは結果が出ないのでずっと助走姿勢もガチガチに組んでいたのが、やっとなくなってきて、彼本来の柔らかさが出てきたのかなと思います。2本目は上位の選手は力が入っているかなという感じで、陵侑も踏み切りのタイミングが少し遅れていましたが、そこでしっかり踏めたことで逆に上体が前に流れずに、追い風に合う空中姿勢を保てたのがよかったと思います」

小林自身もこれまでの結果を考えれば、まだ勝てるまでの状態にはなっていないと考えていた。だからこそ僅差の争いとなった2本目も欲を持つことなく冷静に飛べていた。それが運を味方に引き寄せての今季初勝利につながった。

そこには第13戦のザコパネ大会をスキップして帰国した効果もあった。これまでのW杯で日本チームは、新ルールのジャンプスーツへの対応に苦戦していた。遠征に持参したスーツの数も少なく、毎試合のように改良したスーツを使用できるヨーロッパ勢には後れを取っていたからだ。

そのため1月6日の第12戦のあとは帰国して各自で調整した。札幌開催のコンチネンタル杯に出場して調整した選手もいたが、小林は「あの時は新しいスーツがこなかったので、出場して自信を失うのも嫌だった」と出場しなかった。

そのあとにカッティングを変えた新しいスーツが届き、10本ほど飛んで手応えを得た上での札幌大会だった。新しいスーツの効果を小林は「後半の伸びも戻ってきて他国とも戦えるものになってきたと思います」と話す。

作山コーチも「ヨーロッパでは自信が持てなくなっていて難しい部分はあったのですが、ようやく選手の体に合ったマテリアルになっていると思う。これから世界選手権へ向けて勢いをつけていける」と期待の言葉を口にした。

そんな小林は2日目の試合では、初日の勝利を自信に変える強さを見せた。この日は向かい風基調の条件だったが、1本目の途中から徐々に弱まってきて、追い風に変わるタイミングもある難しい条件の試合。「多少力みがあった」と話す1本目は、弱い向かい風のなかで129m。1位のシュテファン・クラフト(オーストリア)には17.9点差の11位という発進になった。

作山コーチは「助走姿勢を作りすぎた感じもあって、助走路の角度が変わるR部分で少し突っかかって姿勢が低くなり、ポジションが前気味になったまま飛び出した感じでした。それを指摘したら、本人も『その可能性はあります』と答えていて、2本目はそれを頭のなかでうまく修正できたのだと思います」と説明する。

その2本目は、弱い追い風でもジャンプ台にしっかりと力を伝えたスムーズな飛び出しで、ヒルサイズ(137m)超えの137.5mまで距離を伸ばした。

「2本目は本当に飛び出したあとも空中でしっかり力を伝えきれている力強さもあって。昨日の2本目よりもパフォーマンスはメチャクチャ高いジャンプで、コーチボックスにいた他の国のコーチもビックリしていました」(作山コーチ)

1本目1位だった今季2勝のクラフトと2位で今季5勝、ジャンプ週間総合優勝のハルヴォル・アイネル・グラネル(ノルウェー)はしっかり飛んで順位を維持するなか、3位にジャンプアップし強さを見せた小林。

「1本目は飛びに行ってしまったというのが終わった瞬間にわかった。シーズン前半はいろいろ厳しかったので、そこまでわからなかったですが、今はけっこうわかるようになりました。まだ確率はあまりよくないので、これから去年の状態に近づけていければと思います」(小林)

そんな2本目のジャンプで自信をつけた小林は、3日目にはその自信をそのまま体現する完璧な強さを見せた。試合開始がこの2日間の午後4時から午前10時に変わったこの日は、終始強い向かい風が吹く条件。

小林は予選で、上体を起こさずにそのまま前に素直に進んでいく柔らかな踏み切りをすると、作山コーチが「元々空中はうまいですが、マテリアルの不安もなくなったことで、空中のうまさが際立ってきた」と言うように140mを飛び、飛型点も19.5点(20点満点)を並べて1位に。

1本目も予選と同じような踏み切りで141mを飛んだが、陵侑より少し弱い追い風のなかで140mを飛んだグラネルには6.2点差をつけられる2位。2本目は1本目より少し弱い向かい風のなかで143mを飛び、着地のテレマークもきれいに入ると、飛型点も審判5人中3人が満点の20点をつける完璧なジャンプを披露した。グラネルに12点差をつけて逆転優勝。強い陵侑の復活を印象づけた。

2本目のジャンプを飛んだあとは、大きくガッツポーズも出た小林。「けっこううれしくてはしゃいじゃいましたね。今シーズンの前半は苦しんでいろいろ考えていたので、これからは楽しむ時間になったかな」と明るく笑う。

試合後はジャッジのひとりから「俺が20点をつけたのは初めてだから、一緒に写真を撮ってくれと言われた」と言うが、次の1月28日からの第17、18戦は彼も大好きなフライングヒル。シーズン後半へ向け、札幌でつけた勢いをさらに加速させていきそうな雰囲気になってきた。

折山淑美●取材・文 text by Oriyama Toshimi

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