〇〇の異常な愛情 Vol. 8 MN氏の場合:油絵を専攻していた広島県在住の女性は如何にして映画&ドラマの刺繍にのめり込んでいったのか

〇〇の異常な愛情 Vol. 8 MN氏の場合:油絵を専攻していた広島県在住の女性は如何にして映画&ドラマの刺繍にのめり込んでいったのか

  • 映画ナタリー
  • 更新日:2022/11/25

何かに並外れた愛情を注ぐ人や、著名人の意外な趣味にスポットを当てる連載「〇〇の異常な愛情」。第8回となる今回は、2020年のゴールデンウイークに刺繍をスタートし、映画とドラマにまつわる数々の作品をSNSで発表している広島県在住の女性・MN(Instagramのペンネーム)氏にインタビューを実施した。

一から刺繍を始めた彼女の作品数は、今や50を超える。制作するうえでのポイントや反響があった刺繍について話を聞いた。

取材・文 / 小澤康平

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MN氏による刺繍作品群。

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雑巾も縫えないくらい不器用だった

──Instagramに掲載されている刺繍を最初に見たとき、きっと映画・ドラマへの愛がすごく強い方なんだろうなと感じました。それがきっかけで取材を申し込んだのですが、最初は詐欺だと思ったとか?

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そうなんです(笑)。刺繍のプロではないですし、素人の奮闘記として載せているだけなので「私に取材……?」と。

──こうして受けていただけてよかったです(笑)。映画やドラマはお好きなんですか?

詳しいわけではないのですが好きです。最近だとNetflixの「HEARTSTOPPER ハートストッパー」が、新しい時代が来たなって感じで面白かったです。

──その“好き”が刺繍と結び付いたきっかけはなんだったんでしょうか?

始めたのは2020年のゴールデンウイークあたりでした。高校や大学では油絵を専門に学んでいまして、大学卒業後も油絵や水彩画の個展を細々とやっていたんです。ただ社会人になってからは絵を描く時間が減ってしまい、何かを作りたい気持ちを持て余していました。そんなときにコロナの影響で家にいることが多くなって、皆さん自宅でできることを探していたと思うんですが、私はSNSで刺繍をしている人たちを見て「やってみたい」と。雑巾も縫えないくらい不器用だったのですが勢いで始めました。

──最初の作品は「好きだった君へのラブレター」のラナ・コンドルですね。初作からすごく上手に思えるのですが、刺繍はまったくの未経験だったんですか?

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そうです、ミシンも手芸のために初めて買いました。ラナ・コンドルちゃんの刺繍は、手芸に詳しい人には「ちゃんと縫えていない」と言われてしまうような出来で。それでも「いいね」をいただけたりしたのはうれしかったですね。縫い方の種類のことを〇〇ステッチと言うんですが、私の場合は今でも何十通りの中の3パターンくらいしかできないんです。あまりにも刺繍が楽しすぎるという気持ちだけでここまで続けられている感じです。

──楽しいという気持ちはInstagramを見ていても伝わってきます。

ありがとうございます。今はだいぶ落ち着いたんですけど、休みの日に朝から晩までずーっと縫っている時期もありました。夜中に目が覚めちゃったときはちょっと縫ってからまた寝て、夢の中でも縫っているみたいな(笑)。楽しすぎるという心に体が追いついてなかったと言いますか、栄養ドリンクを飲んだり腕に湿布を貼ったりして縫ったこともあります。

薬のカプセルを50個刺繍、家族からは「怖い」

──始めてすぐに楽しかったんですか? それともやっていくうちに徐々にハマったんでしょうか?

すぐですね。

──刺繍が本当に合っていたんですね。周りの人からの「いいね」やコメントもモチベーションにはなっていますか?

見てもらっている方に飽きてほしくはないので、ほかの人がやっていないようにあえてごちゃごちゃ縫ってみたり、逆にシンプルにしてみたりと工夫はしています。ただ刺繍する作品を決めるうえでまず頭にあるのは、それを自分が好きかどうか。変わったことをしたほうがInstagramでのリアクションは多かったりするんですけど、そこにこだわりたくはなくて、自分自身が縫っていて楽しいという軸はぶれないようにしています。

──それは2年以上続けられている理由の1つなのかもしれないですね。刺繍にするシーンは、映画やドラマを観ているときに「ここいいかも」と思うんですか?

そうですね。物語の起点となるシーンや面白い場面はもちろん縫いたいと思うんですけど、ウェス・アンダーソン監督のように画作りのうまい方の作品に惹かれることが多いです。

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──ウェス・アンダーソン監督の「ムーンライズ・キングダム」をはじめ、「ストレンジャー・シングス 未知の世界」「ミッドサマー」といった作品では細かい刺繍をちりばめた巾着を作っていました。一方で、「燃ゆる女の肖像」「お嬢さん」などの映画では印象的なワンシーンを切り取っています。そこにはどういった意識があるんでしょうか?

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「燃ゆる女の肖像」「お嬢さん」に関しては、作品の美しさや世界観を大事にしたい気持ちがあったので、ごちゃごちゃ縫うよりは写実的にワンシーンを縫ったほうがいいんじゃないかという考えでした。自分の作風みたいなこだわりは今のところなくて、作品によって縫い方は変えていますね。

──髪の毛や服の部分を見ると、その細かい表現に驚かされます。先ほど縫い方は3パターンくらいしかできないとおっしゃっていましたが、限られた手札であれだけの描写ができているんですね。

そう言っていただけるとすごくうれしいです。

──これまでに転機になった刺繍はありますか?

「クイーンズ・ギャンビット」のトートバッグです。初期に作ったもので、薬のカプセルを50個くらい刺繍したんですけど、たくさんの反応をいただけて。それまでは刺繍ってワンポイントのイメージが強かったんですが、いっぱい縫ってもいいんだと気付きを得ることができました。なので感慨深いですね、この作品は。

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──ちょっと自由になった感覚ですか?

はい。ただ、この刺繍に取り組んでいるときは朝から晩まで縫いすぎていて、家族から「怖い」と言われました(笑)。「上手だね」とかじゃないのかよ!って(笑)。

三途の川が何度も見えました(笑)

──今までにもっとも反響があった刺繍も教えてください。

「ストレンジャー・シングス」の巾着だと思います。刺繍をするうえでは糸を1本取り、2本取り、3本取りにするかで線の太さが変わってくるんですけど、あの作品では1本取りで細かく縫ったうえで、登場人物もたくさん配して電飾の色まで変えました。目と手首が痛くなって、三途の川が何度も見えました(笑)。

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──電飾……! よく見ると確かにすごいこだわりですね。

本当に大変でした……。この刺繍をしているときはシーズン1から4を観ながら「この場面縫おう、このシーンも縫おう」と考えて過ごしていました。右上にはイレブン(エル)の好物であるワッフルも縫ったりして。

──制作期間はどれくらいですか?

小さかったりシンプルなものは2週間くらいですが、この刺繍には2カ月掛けました。ときどき気分転換に別の刺繍をやったりして。毎日何かしらを縫ってはいます。

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──そうやって長期間作品と向き合えることには、油絵や水彩画を描いていた経験も関係しているんでしょうか?

3、4時間絵を描くことは普通で、手を動かすことが苦痛ではないので刺繍にもハマれたのかなと思います。絵では何も成し遂げることができなくて、創作活動に対するコンプレックスはすごくあるんです。昔は「絵を描くのをやめたら死ぬ」くらいに思っていたんですけど、一時期描くのをやめていたとき、それでも平気なんだと気付いてしまったのがショックで。あ、絵がなくても私の人生は続くんだと。だから今、刺繍に打ち込むことができて毎日楽しいです!

マーベルヒーローの全キャラクター刺繍に挑戦したい

──今取り組んでいるのはなんの作品ですか?

もう完成して乾かすだけなんですけど、Netflixで配信されるティム・バートン監督の「ウェンズデー」です(11月23日配信)。あとはマーベルヒーローの全キャラクター刺繍にも挑戦したい気持ちがあります。すごく大変そうなので老後になるかもですが(笑)。

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──刺繍以外に、アイロンビーズの作品も拝見しました。そもそも何かを作ることがお好きなんですか?

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そうですね。刺繍は大好きですが、それだけにこだわっているわけではないので、いろいろなものにチャレンジしていきたい気持ちはあります。

──ちなみに刺繍に関しては「販売してほしい」という声もあると思います。権利の関係があるので難しいかもしれませんが、将来的に販売したいという気持ちはあるんでしょうか?

売ってほしいとコメントをいただけるのはうれしいですし、励みにもなっているんですが、決して手芸が上手なわけではないので今は販売・量産は考えていないです。今の目標は刺繍が上達することなので、手芸教室に通って基礎をきちんと勉強したいですね。

──販売されたら自分も買おうと思っていたので、それは残念です(笑)。最後に、刺繍を始めて変化したことがあれば教えてください。

もともとせっかちな性格なんですが、刺繍って本当に時間が掛かるので気が長くなった感覚はあります。気のせいかもしれないですけど(笑)。

MN(Instagramのペンネーム)

広島県在住の女性。2020年のゴールデンウイークに映画やドラマの刺繍を始め、これまでに50以上の作品を制作してきた。

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