世界で最も“退屈”な「アストラのロケット」、ついに衛星打ち上げに成功

世界で最も“退屈”な「アストラのロケット」、ついに衛星打ち上げに成功

  • マイナビニュース
  • 更新日:2021/11/25
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●ITとロケットの天才2人が生んだ、「ロケット」という名前のロケット

新進気鋭のロケット企業「アストラ」、ロケット打ち上げに失敗

雄大な大自然が広がるアラスカ。険しくも風光明媚なこの地から、一風変わったロケットが宇宙へ向けて飛び立った。

ロケットを開発したのは、米国カリフォルニア州の宇宙企業「アストラ・スペース」。小型・超小型衛星打ち上げ用ロケットを開発しているスタートアップで、他社とは一線を画する設計のロケットが特徴である。

これまでに3度打ち上げに失敗しており、2021年11月20日(日本時間)、"四度目の正直"として宇宙へ挑戦。ロケットは順調に飛行し、地球を回る軌道への到達に成功した。

これにより同社は、衛星の商業打ち上げ市場に本格的に参入。いよいよ競合他社との直接的な競争に臨むこととなった。

アストラ

アストラ・スペース(Astra Space)は2016年に設立された、カリフォルニア州に本社を構えるスタートアップ企業で、小型・超小型衛星を打ち上げるための超小型ロケット(Micro Launcher)の開発を手掛けている。

同社のモットーは「Improve Life On Earth From Space (宇宙から、地球の生活を改善する)」。より手軽に人工衛星を打ち上げられる手段、すなわちロケットを開発することで、地球におけるさまざまな問題の解決やイノベーションに貢献したいという想いが込められている。

立ち上げたのは、クリス・ケンプ(Chris C. Kemp)氏とアダム・ロンドン(Adam London)氏という、2人の40代の起業家である。

ケンプ氏はITの専門家で、若干15歳にしてAppleで仕事をしつつ、大学でITを学んだ。その後、ITスタートアップを起業したり、米国航空宇宙局(NASA)でオープンソースのフリーソフトウェアの開発に携わったり、マイクロソフトなどと共同事業を行ったりといった実績を残す。NASAを退職後、新たにITスタートアップを立ち上げ、2015年にその会社が大手ソフトウェア会社のオラクルに買収されたことで、まとまった資金を手に入れた。

一方のLondon氏は、マサチューセッツ工科大学で航空宇宙工学の博士号を取った筋金入りのロケット・エンジニアで、2006年に「ヴェンションズ(Ventions)」というロケット・ベンチャー企業を設立し、NASAや国防高等研究計画局(DARPA)からの委託を受けて、小型ロケットの研究などを行っていた。

そんな折、手に入れた資金をもとに次の事業について考えていたケンプ氏と、ロケット屋として大きなことをしたいと考えていたロンドン氏とが出会い、意気投合。アストラを設立するに至ったという。

設立から5年が経ち、ロケットの開発や試験打ち上げを繰り返す一方、まだ一度も衛星を打ち上げた実績がなかったにもかかわらず、20件以上の商業打ち上げ契約を獲得している。

資金調達も順調で、Googleの元CEOエリック・シュミット氏が率いるベンチャー・キャピタルInnovation Endeavorsや、Airbus Venturesなど、いくつもの投資ファンドから、合計1億ドル以上を調達。今年2月には特別買収目的会社(SPAC)と合併、7月にはNASDAQに上場した。

アストラのロケット(というロケット)

そんなアストラの造るロケットは、他社とは一線を画する。

現代のロケットは、タンクなど機体構造に炭素繊維複合材を使ったり、エンジンなどの製造に3Dプリンターを使ったりと、素材も工作機械も高度なものを多用しがちだ。また、打ち上げの低コスト化、高頻度化のため、1段目機体の回収・再使用を目指す企業も多い。

しかし、アストラのロケットは、タンクにはアルミニウムを使用。エンジンの構造も可能な限り簡略化し、3Dプリンターなども使っていない。もちろん機体の回収、再使用もしない。

ケンプ氏曰く「他のロケットの設計は過剰」であり、対する自社のロケットは「かなり退屈なロケット」だとする。設計したLondon氏も、かつて米国の「Ars Technica」のインタビューの中で「私たちは、最もシンプルかつ製造しやすいロケットを造りたいと思っています」と語っている。

各段の機体の寸法も、一般的な輸送コンテナに収まるように設計されており、輸送コストの削減にも配慮されている。

それに加え、London氏は「私たちは100%の信頼性を求めて打ち上げるわけではない」とし、わずかな信頼性の低下と引き換えに、大幅なコスト削減を図ることを目指すとも語っている。具体的にどのようなことをするのかは不明だが、たとえば機体の強度マージン(余裕)を、標準的なロケットより少なくしたり、打ち上げ前の試験などを簡略化したりといったことを考えているのかもしれない。

こうした思想は、同社のロケットの名前が、ずばり「ロケット」という無味乾燥なものであるところにも表れている。

一方、ロケット開発の手法には、設計・実装・試験の工程を何度も繰り返して、システムの完成度や質を徐々に高めていく、反復型開発という開発手法を採用。この手法はソフトウェア開発でもよく見られるもので、IT分野出身のケンプ氏の思想が生きている。とくに、この方法を採用したことで、徐々に打ち上げ能力などの性能を向上させつつ、コストを下げていくような発展が可能になったという。

また、ロケットエンジンのターボ・ポンプには、ロンドン氏がかねてより研究、開発していた電動モーターで駆動させる仕組みを用いており、押さえるべきところは押さえている。

ロケットは2段式で、第1段、第2段ともにケロシンと液体酸素を推進剤に使う。第1段エンジンは「デルフィン(Delphin)」と呼ばれ、これを5基束ねている。第2段は打ち上げ時にはフェアリングの中に入っており、球形タンクを2つつなげた串団子のような形をしている。エンジンは「イーザー(Aether、エーテル)」と呼ばれるものを1基のみ装備する。

打ち上げ能力は、地球低軌道に630kg、高度500km、軌道傾斜角50°の軌道に500kg、そして高度500km、軌道傾斜角98°の太陽同期軌道に335kgで、競合他社のロケットとも遜色はない。

打ち上げはアラスカ州コディアック島にあるPSCA (Pacific Spaceport Complex-Alaska)から行う。

ロケットの打ち上げ価格について、現在は公にはされていないが、2020年にケンプ氏が語ったところによると、「1機あたり250万ドル程度を目指す」とされていた。

ちなみに、超小型ロケットの分野でトップ・ランナーであり、アストラのロケットとほぼ同等の打ち上げ能力をもつ、米国ロケット・ラボ(Rocket Lab)の「エレクトロン(Electron)」ロケットの打ち上げ価格は1機あたり約750万ドルであり、わずか3分の1の数字となる。

●四度目の正直での打ち上げ成功、そして超小型ロケットの市場競争が始まる
四度目の正直での打ち上げ成功

同社はまず、2018年から試作ロケットを使い、PSCAから軌道に到達しない(サブオービタル)試験飛行を2回実施。どちらもトラブルで失敗に終わったものの、衛星打ち上げへの挑戦に移った。

2020年9月12日には、初の軌道到達を目指した「ロケット3.1」の打ち上げ試験を実施。しかし、ロケットの誘導システムに問題が起き、打ち上げから30秒後に飛行を中断させるコマンドが送られ、失敗に終わった。

同年12月には、改良した「ロケット3.2」による打ち上げを実施。高度100kmを超え、初の宇宙到達はなしとげたものの、第2段エンジンの混合比に問題があり、計画より早くエンジンが停止。軌道速度には達しなかった。

今年8月には、タンクを延長するなどして改良した「ロケット3.3」が打ち上げられたが、第1段エンジン5基のうち1基が、離昇直後に停止。ロケットは横滑りしたのち、のろのろと上昇し始めたものの、最終的に打ち上げは失敗に終わった。原因は、打ち上げ前にロケットに推進剤を充填するためのクイック・ディスコネクトから燃料が漏れ、ロケットと発射台の間で発火し、ロケットの電子機器が破損したことだとされる。

そして通算4度目の挑戦となった今回、ロケット3.3の2号機、シリアルナンバーLV0007は、日本時間11月20日15時16分(太平洋標準時19日22時16分)に、PSCAから離昇した。

ロケットは順調に舞い上がり、ぐんぐん加速し、やがて宇宙空間に到達。第2段エンジンも問題なく動き、そして打ち上げから8分47秒後、ロケットは7.61km/s、すなわち軌道速度に達した。

その後のデータ分析で、ロケットは高度約500km、軌道傾斜角86.0°の、計画どおりの軌道に入っていることを確認。打ち上げは完璧な成功を収めた。

ロケットの第2段には米宇宙軍が開発した「STP-27AD1」という性能確認用の機器が搭載されていた。この機器は分離される形式の衛星ではなく、第2段に装着されたまま軌道を周回している。

初の打ち上げ成功を受けて、ケンプ氏は「アストラにとって、軌道に到達できたことは歴史的なマイルストーンとなりました。これにより私たちは、お客さまへのサービス提供と、ロケットの生産、打ち上げ頻度の向上に集中することができます」と語った。

「ロケットのチームは何年にもわたって、懸命に取り組んできました。反復に次ぐ反復、失敗に次ぐ失敗を経て、ついに成功につながりました」。

また、共同設立者で同社CTOも務めるロンドン氏は「この成功は、私たちの素晴らしいチームと、これまで築いてきた文化によってもたらされたものです。今日の成功に至るまでに行われた、製造、打ち上げ、構築、失敗からの学習、そしてその反復を続けた勇気と献身には感謝の気持ちしかありません」と語っている。

アストラは今後、今年中に次号機となるLV0008の打ち上げを計画しているほか、LV0009やLV0010の製造も進めているという。

超小型ロケットの市場競争が始まる

今回のアストラのロケット打ち上げ成功は、米国の民間企業が衛星打ち上げに成功した例としては、オービタル・サイエンシズ、スペースX、ロケット・ラボ、ヴァージン・ギャラクティックに続いて5例目となった。米国の超小型ロケットに限れば、ロケット・ラボ、ヴァージン・ギャラクティックに続いて3例目となる。

現在、超小型ロケット界のトップ・ランナーはロケット・ラボで、同社のエレクトロン・ロケットはこれまでに22機中19機が成功。100機以上の小型・超小型衛星を宇宙へ送り込んでおり、この分野の商業打ち上げ市場でほぼ独占状態にある。

ヴァージン・ギャラクティックの「ローンチャーワン」ロケットは、今年1月18日に初めて打ち上げに成功。6月には2機目の打ち上げにも成功し、少しずつ実績を積み上げている。すでに宇宙インターネット「ワンウェブ」の衛星など、多数の受注も獲得している。

アストラも、前述のようにすでにに20件以上の打ち上げ受注を獲得済みで、今回ついにロケットの打ち上げが成功したことで、小型・超小型衛星の商業打ち上げ市場に本格的に参入。いよいよロケット・ラボやヴァージンとの直接的な競争に臨むことになる。

また、この3社以外にも、ファイアフライ・エアロスペースやレラティヴィティ・スペースといった企業がロケットの開発を行っている。さらに世界に目を向けると、欧州や日本などにも、このクラスのロケットを開発している企業が数多く存在する。

さらに、小さな衛星を打ち上げるのは小さなロケットだけの仕事ではない。大型ロケットで小型・超小型衛星をまとめて打ち上げる「ライドシェア」というサービスもあり、打ち上げ時期などの自由度はアストラのような超小型ロケットより劣るが、衛星1機あたりの打ち上げ価格が安くなるというメリットがあることから、選択肢のひとつとして、超小型ロケットのライバルとなっている。こうしたライドシェアによる商業打ち上げは、米国のスペースXや欧州のアリアンスペース、インドのISROなどが手掛けている。

こうした動きを背景に、今後数年のうちに競争は一気に激化し、また吸収合併や撤退といった淘汰も始まるものとみられる。

今回のアストラの打ち上げ成功は、商業打ち上げ市場における本格的な競争の始まりという、ビジネス面で大きな出来事になったのはもちろんのこと、従来とは一線を画する設計思想のロケットが成功したことは、技術的にもきわめて興味深い出来事となった。

超小型ロケット界の異端児ともいえるアストラは、今後どんな旋風を巻き起こすのだろうか。

○参考文献

・Astra Reaches Orbit | Astra
・Astraさん (@Astra) / Twitter
・Astra Announces LV0007 Launch Window For The United States Space Force | Astra
・At Astra, failure is an option | Ars Technica
・Nasdaq, We Have Liftoff! | Astra

鳥嶋真也

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