出産か仕事か? 産婦人科医が説く 30代女性の心と体に本当に必要なこと

出産か仕事か? 産婦人科医が説く 30代女性の心と体に本当に必要なこと

  • 朝日新聞telling,
  • 更新日:2022/06/23
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女性の健康について積極的に情報を発信し、支持を集める産婦人科医の高尾美穂さん。先月出版した『大丈夫だよ 女性ホルモンと人生のお話111』(講談社)には、心と体に向き合うための大切なヒントが書かれています。出産とキャリアなどで人生の選択を迫られる30歳前後の女性たちは、どのように自分の心と体に向き合えばよいのか、聞いてみました。

一番調子のいい時期を知る

――高尾先生は新刊で「女性ホルモンを知れば自分の人生をデザインできる」と述べています。

高尾美穂医師: まず、生理周期の中で自分が一番調子いいのはどの時期なのかを把握してみませんか。「生理の直後が一番調子いい」という人が7割を占めます。自分がそれに当てはまるのなら、その期間に大切な仕事のプレゼンテーションや結婚式、趣味のマラソンの予定を入れるなどの工夫ができます。

そして同時に、調子の悪い時期も意識するとよいです。女性は1カ月の中で4.8日調子が悪いというデータがありますが、生理前に3日間イライラするなどの不調があり、生理中に2日腹痛などがあるということが分かれば、その時期に大切なスケジュールを組まないのも大事な対策法です。

女性ホルモンと向き合って「自分のコンディションを整える」という姿勢が大切ですね。

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『大丈夫だよ 女性ホルモンと人生のお話111』(講談社)より

――コンディションを整えるためには、具体的にどうすればよいのでしょうか。

高尾: 漢方薬やピル、ミレーナなどの医療の助けもありますが、一番大切なのは生活習慣です。生活習慣は、①睡眠、②運動、③食生活から成り立っています。

睡眠とは次の日のために体をリカバリーするために不可欠なものですが、多くの人は1日のうち、残った時間を睡眠に割り振っています。「眠ることから1日が始まる」ぐらいの気持ちを持って、睡眠時間を確保する重要性を意識して欲しいです。

後は運動習慣です。20代、30代の女性で運動習慣を持つ人は2割を切っていますが、この時期に体づくりをしていないと、妊娠中、そして出産後が大変です。妊娠中は日本においては意識的に運動をする人はとても少なく、全身の筋肉量が減ってしまいます。特にお腹の筋肉はまず使わないので4割の筋肉が落ちてしまいます。そして2人目を妊娠すると、その状態から更に4割の筋肉が落ちてしまう。

若い人たちに知ってほしい。早い段階から「出産」を意識して

――女性ホルモンと言うと、20代後半以降、女性の頭には常に「妊娠」があって、「いつ産む?」「仕事はどうする?」との悩みがあるようです。

高尾: ある大手企業から依頼を受けて「女性が仕事も結婚も出産もして、輝ける人生を歩めるように」というテーマで講演したことがあります。実際に働いている女性社員に話を聞いてみたところ、「20代後半から30代前半という出産の適齢期に、転勤や海外駐在するのは嫌だ」という声が多くあがりました。

社会は女性に「産んで働く」ことを推奨していますが、それは少子化で労働人口が減ったことから出て来た、女性に対する「社会的な要求」なんです。必ずしも女性本人の思いを汲み取ったものではないのかもしれません。様々な思いを抱える女性たちが、それぞれの気持ちに合わせて働き方が選べるといいですね。

――女性には、転勤も含め仕事を結婚や妊娠より優先して続けていくのか、それとも結婚や妊娠を優先するのか、選択を迫られてしまう時期がありますね。

高尾: 残念ながら女性の妊孕性(にんようせい=「妊娠するための力」)だけは時間的なリミットがあります。なので、女性の場合は特に、自分がどういう人生を思い描いているのかについては早い段階で考える機会が必要です。生物学的には30代後半から妊娠できる可能性が大きく下がっていく。さらに言えば20代の方が妊娠する確率が高いのは明らかです。

20代前半の時、できれば社会に出るくらいのタイミングで、将来的な人生全体を俯瞰して自分はどうしたいのかを一度考える必要がありますね。

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高尾美穂医師 (編集部撮影)

仕事か、出産か。妊娠の時期、どう決断する?

――産むか産まないかの「決断」、難しいです……

高尾: 多くの人の意識に「子どもがいた方がいい」というバイアスが掛かっていると思います。女性は「産む性」と言われていますが、正確には「産める性」です。

産むか産まないかは、女性自身の選択です。自分が「子どもが絶対に欲しい」「何となく欲しい」「欲しくない」の3つのグループの中でどの中に属するのかを意識しておくとよいと思います。

そしてその決定を人のせいにしないことです。「自分なりの理由をもって選ぶ」ということです。「社会の流れに従ったから」「周りに言われたから」というような理由で決断してしまうと、後から納得のいかない結果になった時に、人のせいにしてしまって前に進めなくなってしまいます。

例えば、自分の将来像として、「子どもが3人庭で遊んでいる」というシーンを思い浮かべる人は、妊娠しやすい年代の単身海外駐在は避けた方が無難かもしれません。やはり子どもができやすい環境に自分を置くことが必要だからです。

朝の7時から24時まで仕事のことを考えていて、残りの時間で性交渉を持って子どもができるか、というと、なかなか難しいのではないかと思います。リラックスさせる副交感神経の働きが落ちると、卵巣の機能も落ちるからです。男性の精子の状態も、三連勤明けとそうでない時では全く違うと言われています。それぐらいに子どもを授かることはナイーブなものです。体は正直なんですね。

子どもがいてもいなくても大丈夫

――先生はこの本で「子どもがいてもいなくても大丈夫」という言葉を使っています。

高尾: 私の周りの40代50代を見ると「未婚で子なし」という女性は少なくありません。そして、老後をどのように過ごせば良いかと悩んでいる人も多い。

まずは、今ある人間関係を大切にするということを心掛けるべきです。パートナーがいる人はパートナーを含めた人間関係を大切にする。関係性を維持するというよりは関係性を成熟させていくという考え方がいいでしょうね。

長い時間と空間の共有でしか作り上げられない人間関係、信頼関係がある。まずはそれを大切にすること。その中にパートナーが入っていればそれでいいし、お友だちなど大切な人間関係があれば、子どもはいなくても問題ない、という発想です。

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高尾美穂医師 (編集部撮影)

――先生ご自身には、お子さんがいらっしゃいません。

高尾: 医局に入った時にはすでに結婚していましたが、夫が脳外科医、私は産婦人科医で、どちらもとても忙しい科だったんです。

30代前半まで、ふたりともほぼ家にいないという感じでした。そして私が37歳から40歳の年まで、夫はアメリカへ留学しました。その頃、私はちょうど東京オリンピックが決まり、スポーツドクターとしての仕事が充実し始めた頃で、渡米しないという決断をしました。

そして同時に、自分の子どもは持たない人生なのだと自覚しました。昔の占いのようなもので「子どもは3人」と言われていましたが、今は猫3匹を飼っており、今となっては猫が子どものような存在になる人生だったのかと感じています。

私自身、子どもを持たなかったことに後悔はありません。でも、妊娠しやすい時期は30代前半までという事実を知らずに後から後悔をするという轍は今の若い女性たちには踏ませたくないと思っています。そうした気持ちもあって情報発信しています。

親は妊活の勝者でもある

――不妊治療をがんばったけれども、結果が出なかった人もいます。

高尾: 他に「生きがい」を見つけるのがいいですね。女性の場合、子育てが一時的な生きがいになる人もたくさんいます。ところが、そういう人は子どもが巣立つと抜け殻になります。
それと同じで、不妊治療をしていた時間は、好きなことに没頭できた時間と考えればよいと思います。子どもが生きがいになる時間はやがて終わります。それが早く来たか遅く来たかと考えることもできる。
そもそも「自分が本当に子どもを持つべきなのか」ということについては、多くの女性があまり考えて来なかったと思います。私たちぐらいの世代までは、いい年になったら結婚して、子どもを産んでと。それが本当に自分にとって必要なことなのか、それを考える機会もまずなかったと思います。みんなそうしているからそうする、と。

ところが時代は変わりました。自分の人生のあり方は、自分で決めればいいのではないでしょうか。

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高尾美穂医師 (撮影/馬場わかな 講談社提供)

――不妊治療をしている時の両親との関係にも言及しています。

高尾: 親から妊活の状況について聞かれることがプレッシャーになりながら、その詮索を拒否できない人もいると思います。親に対して自分が「孫を見せたい」という気持ちがあるからです。
注意しなくてはならないのは、親はありがたい存在だけど、自分とは別人格ということ。そして、親は自分の代わりにはなれないということを意識すべきです。

親たちは妊娠、出産を経験した、ある意味「成功者」です。女性が子どもを持てていない場合、その母と娘(本人)は立場が違います。そのふたりでフラットな話は出来ない可能性のほうが高い。本音は話せないし、話す必要もないと思います。

「問題は何か」と向き合う

――先生が身体面の「治療」だけではなく、心の問題についても情報発信しようと思ったきっかけは何だったのでしょうか。

高尾: 不妊が原因で悩んでいたとしても、いきなり心療内科にいく人は少ないですよね。まずは産婦人科を受診するでしょう。しかし産婦人科医も忙しく、1人1人の悩みをじっくり聞くことが難しい。しかし放っておくとその人はどんどん悩んでしまう。つまり、女性の悩みは医療の現場だけでは解決できないと感じたのです。

多くの人は「問題は何か」ということに向き合っていません。不妊治療を例に取ると、直接「妊娠」というゴールに辿り着かなくても、少し考え方を変えると目の前にかかっていた霧が晴れるということもあります。「自分は本当に子どもが欲しかったのだろうか?」ということを改めて考えてみると、別の所に生きがいがあるなど、意外とそうでもなかったことに気づけたら、それも一つの解決ですよね。

また、子どもができないといっても、原因は様々です。性交渉の頻度が低いのか、高齢のために機能が落ちているのか、内膜症などの病気があるのか…。いろんな原因があるかもしれないけれど、そのあたりにはあまり目を向けることもなく、子どもができないこと、即、人生の敗北と考えてしまいがち。

そうではなくて、考え方を変えると、霧が晴れることがあると伝えたかったのです。女性ホルモンの悩みについても、「生理のつらい時期をやり過ごせばいい」とか「更年期が終わるのを待つ」など、何の対策も打たない人がいまだに多いような気がします。それでは時間がもったいないです。解決のために受診するなり治療するなりアクションを起こした方がいい。

telling,世代に伝えたいのは、早い段階で、仕事・結婚・出産を見据えた時に「自分がどのような人生を生きたいのか」について考えてみて欲しいということ。その時には悩んだり、迷ったりするでしょう。でも、「悩める、迷える」ということは、可能性や選択肢がたくさんあるからこそと思ったらいいのではないでしょうか。
そして、問題にぶつかったら解決策を考えて、一歩一歩前に進んでいってほしいですね。

(トップ画像:GettyImages)

文:熊野雅恵

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