
ナレーションのせいで集中できない…?
大河ドラマ『青天を衝け』、第一回の視聴率が20.0%と、大河では2013年の『八重の桜』以来となる20%台での好スタートを切った。
2月21日には第二回が放送された。前回は、おもに主人公・渋沢栄一の少年時代が描かれ、演じていたのも子役の小林優仁がほとんどだった。今回は後半から、青年となった栄一を吉沢亮が演じ、本格的にストーリーが動き始めたかたちだ。

吉沢亮〔PHOTO〕Gettyimages
が、そんななか、同作のある演出が視聴者の間で賛否を呼んでいる。それは、ナレーション(公式サイトでは「語り」とされている)についての賛否である。
ツイッターなどSNSで目立つのは、ナレーションが多すぎるのではないか、という声だ。SNSには、以下のような趣旨の投稿が相次いだ。
「ナレーションが多くてドキュメンタリーを見ている気分になる」
「ナレーションが必要以上に多くてくどい」
「ナレーションが多くて集中できない」
「ナレーションが多くて朝ドラっぽい」
「説明が多くて、視聴者がナメられているように感じる」
たしかに今作は、普段の大河ドラマよりナレーションの量が多い印象がある。
たとえば、第二回の放送では、中盤、渋沢家のエピソードから、一橋家のエピソードに場面が転換する際、画面の切り替わりにあわせて〈江戸城 一橋邸〉という字幕が入ったが、そこに上乗せするかたちで「さて、こちらは江戸城内にある一橋家」という語りが入った。
また、一橋(徳川)慶喜の登場シーンでは、
「一橋家に入った七郎麻呂は、家慶の『慶』の字をたまわり、徳川慶喜となりました」
と慶喜の名前の由来をナレーションが説明。
さらにその後、将軍・徳川家慶が慶喜に面会に訪れるシーンでは、
「『上様』とは、江戸幕府第十二代将軍・徳川家慶です」
と、ナレーションによる解説が入った。

徳川慶喜〔PHOTO〕Gettyimages
もちろんこうした解説は、同作が描く時代に親しみがない視聴者にとってはうれしい「親切設計」であることは間違いない。
実際、SNSでは、
「ナレーションがわかりやすい」
「ナレーションがいい仕事をしている」
といった趣旨の投稿も多く見られた。
が、一方で、すでにこの時代についての基本的な知識を持っている人にとっては、「上様」が将軍を指すことなどは当たり前であり、ナレーションが説明過剰に映るのかもしれない。それゆえ、上で紹介したように、「ナレーション多すぎ」と不満を漏らす声が聞こえてくるのだろう。
「家康」の存在感
さらに、今回、いつも以上にナレーションに注目が集まっているのには、「徳川家康」の存在も影響を与えている可能性が高い。
『青天を衝け』の作中のナレーションを担当するのは、NHKの守本奈実アナウンサーだが(滑舌が抜群によく、話が聞き取りやすい)、それに加えて、番組冒頭で、北大路欣也演じる徳川家康が「解説役」として登場する。
番組をご覧の方はよくご存知だと思うが、家康は、渋沢栄一が活躍した時代がいかなる時代であったかを「神の視点」で解説する、狂言回しのような役割を果たしている。
第二回の放送では、冒頭で、江戸時代の鎖国の実態についてやアヘン戦争について解説した。守本アナのナレーション同様、これもストーリーの背景を理解するには重要な役割を果たしている。
だが一方で、ナレーションと同様、家康の存在によって微妙に興を削がれてしまう視聴者もいるようだ。とりわけこの家康、言葉遣いが現代風で、「東アジア」「大ピンチのタイミング」といった言葉を話す。SNSを見ると、この言葉遣いに「せっかくの時代劇だから、その時代の雰囲気を味わいたいのに…」といささかの不満を感じている視聴者もいた。
大河ドラマは、2009年の『天地人』以降、平均視聴率20%超えを記録した作品がなく、NHKとしてはなんとかして視聴率を上げたいところだろう。
また、NHKは若年層への訴求を大きな課題としており、今回のナレーション戦略は、普段あまり時代劇を見ない層、ことに若年層に向けて親しみやすさを演出するという意図があるのかもしれない。
しかしSNSでの反応を見ると、そうした層への配慮は、大河ドラマを見慣れている視聴者層にとっては、一種の「過剰」と映っている可能性もある。
どんな視聴者を意識し、どんな視聴者にフォーカスした演出をするのか。『青天を衝け』のナレーションのあり方は、ドラマの演出の難しさを教えてくれる。