北朝鮮の新型対空ミサイル発射で見えた防空能力

北朝鮮の新型対空ミサイル発射で見えた防空能力

  • JBpress
  • 更新日:2021/10/15
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北朝鮮は米空軍の最先端戦闘機を撃ち落せるか(写真は夜間に離陸準備する米空軍の「F-15 E」戦闘機、10月4日米空軍のサイトより)

北朝鮮は9月30日に対空ミサイル発射実験を行った。

朝鮮中央通信によれば、実験の成果は、「構造的には、双舵制御技術と2重インパルス飛行エンジン」を搭載し、サイルコントロール・システムの速応性と誘導正確度、空中目標掃滅距離を大幅に増やしたという。

北朝鮮の発表を要約すると、「誘導の性能を向上し、加速し射程を増加させるブースターを取り付けた。その結果、誘導が迅速かつ正確にでき、有効射程を大幅に増加させた」ということだろう。

北が今、何の実験を実施しているのかを知るために、これまで、どのようなレベルの対空兵器を保有してきたか、それらを運用した場合の欠陥(問題点)、その欠陥をいかに改善してきたか、今後は何を装備しようとしているのか、この狙いは何かを明らかにしたい。

私は、北の新兵器を分析する場合、以下のプロセスを踏むことにしている。

北朝鮮の新兵器が、ある日突然に現れることがある。

この兵器を分析する場合、自国に生産基盤や技術基盤があれば、新兵器を製造することができるが、これらの基盤がない場合、自国生産はできない。

ロシア戦闘機を例にとると、「Su-7/9/17/24/27/29/30/31/35」のように、逐次技術開発され、その成果を踏まえて、新型の兵器が登場するのが当たり前だ。

そのため、自国に積み重ねられた軍事技術がないにもかかわらず、突然、新型の高性能兵器が新たに出現した場合には、同盟国などから導入している可能性が高いと考える。

つまり、兵器は過去からの積み重ねによって製造されるものだと考えている。

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米韓機を落とせない旧式対空ミサイル

北は2016年以前、旧ソ連から供与された旧式のミサイル「SA-2」(射程50キロ)を179基以上、「SA-3」(25キロ)を133基、「SA-5」(300キロ)を38基保有していた。

中高空域の目標を射撃するための対空兵器だ。これらのミサイルは戦闘機などに直接命中するのではなく、ミサイルが接近した時に、近接信管により自爆し、その破片が当たって撃破するというものであった。

ベトナム戦争時には有効な兵器であったが、1980年頃以降では、電波妨害を受けること、対レーダーミサイルから攻撃を受けること、さらに、戦闘機の回避行動などで、戦闘機を打ち落とせない兵器になっていた。

SA-2/3/5などによる防空網(イメージ)

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縦横に対空ミサイル網が構成されるが、それぞれの防空網内の撃破効率は低い(出典:筆者作成)

中高空域では、米韓軍戦闘機の攻撃を止めることができなかった。

このことから、米韓軍は、北領空内を我が物顔で飛行することもできたし、北のどの地域でも、いつでも、航空攻撃できると考えていた。

超低空~低空域では、戦闘機やヘリを撃墜するために、北は特に2000年以降、個人携帯対空火器「SA-7/14/16」(数キロ)をロシアから購入し、合計4000~6000基を保有している。

空からの攻撃に軍の各部隊や重要拠点を最終的に守る兵器だ。

この対空火器を装備することで、北は、超低空~低空域から攻撃する米韓戦闘機に射撃して、ある程度撃墜が可能だった。

ステルス戦闘機や無人機が目視で発見されれば、この兵器で撃墜される可能性はあった。

2017年頃から防空能力が飛躍的に向上

北は、対空ミサイル「S-300」(北名ポンゲ5:KN-06)の2回目の発射実験を2016年に、3回目を2017年に行った。

軍事パレードでは、5軸のトラックにミサイルが入った発射筒が搭載された。もとは、ロシアが開発したものだが、中国が導入し、その後、中国国内で生産した「紅旗9(HQ-9)」が供与されたと考えられる。

搭載車両の形や供与される可能性から、中国から導入されたものであると評価される。

2017年以降、S-300の運用が可能になった。現在では156基保有している。射程150キロあるいは300キロの半径の防空圏を156個設定できるということだ。

このミサイルの特徴は、旧式のものと異なり、敵機に直接命中させるものである。

防空ミサイルS-300の防空網(イメージ)

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S-300による濃密な対空ミサイル網。それぞれの防空網内では、撃破効率が高い。米韓軍機は、この圏内の飛行が難しいことが分かる(出典:筆者作成)

米韓軍機は、2017年を境に、ステルス機を除き、北領土内を自由に飛行できなくなったことになる。

米韓軍は北領土内を攻撃する場合には、かなりの被害を想定しておかなければならない。

平壌や核・ミサイル製造施設、ミサイル基地などの重要施設を含んだ、ほぼ全域の中高空域の防空を実施できる。

一方で、S-300の防空上の問題は、米韓軍の地形に沿って低空域を飛翔する巡航ミサイル、ステルス戦闘機・爆撃機・無人機や大気圏外を飛翔する弾道ミサイルには、対応できないということにある。

今回の実験した対空ミサイルの性能

ロシアの「S-400」の車両発射台は車軸が5軸である。

ロシアのS-300や中国の紅旗9(HQ-9)の車両発射台は、車軸が4軸である。

北の昨年と今年の軍事パレードでは、車両発射台は車輪が5軸、そこに長い発射筒と短い発射筒を搭載している。

発射の写真を見ると、車両発射台は、車軸が5輪(軸)で北の軍事パレード(2020年10月と今年1月)に登場した地対空ミサイルと同じだ。

パレードでは、発射筒が長いものと短いものがあった。

今回発射に使用されたものを発射筒と発射台の長さから判断すると、短い発射筒だと前から3番目の車輪に届かず、長い方だと3番目のタイヤまで届く。つまり、長い方のミサイルだった。

車両発射台と発射筒の長さの関係

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このミサイルは、搭載トラックとミサイル発射筒の形がロシア(中国)のS-300やS-400に似ている。

では、S-300とS-400どちらなのか。ミサイルの本体が長くて、射程も長いS-400の可能性が高い。

このミサイルは、射程を延伸するブースターが取り付けられ、その結果、ミサイルが長く、直径が大きくなっているS-400の可能性が高い。

S-400は、S-300の改良型で、射程が250~400キロと長く、弾道ミサイル、無人機や巡航ミサイルにも対応できる。レーダーの探知距離は、700キロである。

弾道ミサイルに対しては、高度約60キロまで対応が可能で、米国のパトリオットミサイル「PAC3」の改良型に匹敵する。

中国はこれまで、ロシアからS-300を導入し、現在64基を保有している。2018年からS-400を導入し、同年実験に成功した。

2020年には16基を保有している。北の中国から3年遅れての実験は、意外と早いとは感じるが、防空能力が脆弱な北が早急に防空能力を高めているとしても不思議ではない。

各種対空ミサイルの性能・諸元

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使用されるミサイルの形式(ブースターの有無など)により、性能諸元は変わる(出典:ロシアの各種資料を参考に作成)

不自然な飛翔中ミサイルのシルエット

今回の実射実験で、北が発表した写真は1枚だけだった。動画もない。

とはいえ、北はこれまでS-300ミサイルの発射実験を行ってきたので、ある程度は、S-300またはS-400であることは信用できる。

ただ、北朝鮮労働新聞の同一記事における画像において、10月1日と10月8日(8日、たまたま確認のためチエックしたところ)の写真を比較すると、10月8日の画像の解像度が著しく悪くなっていた。

特に、飛翔するミサイルの形が判別できなくなっている。これまでは、このようなことはなかった。この写真に、何か手が加えられていると見てもよい。

今回発射した対空ミサイル(左:10月1日、右:10月8日)

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10月8日の写真の解像度が、著しく低下しているのが分かる(出典:北朝鮮労働新聞2021年10月1日と10月8日)

ミサイルのシルエットがよく分かる10月1日の写真にも不自然さを感じる。

米露が公開している対空ミサイルの動画映像を見ると、ミサイルが発射筒から発出されたその瞬間の映像が公開されている。

これらの映像では、ミサイルの速度が遅いので、ミサイルの形は明瞭に判明する。

発射後スピードを上げた後飛翔するミサイルのシルエットが分かる写真は公開されてはいない。これを公開したのは、今回の北のミサイルだけだ。

世界の軍事研究者を信じ込ませたいのであれば、米露が公開しているように、発射筒から飛び出した瞬間の映像をアップで公開すれば、映像を撮影しやすいし、明瞭に映るはずだ。

飛翔中のミサイルのシルエットを公表するのは不自然だ。

シルエットが見えるようにした意図

なぜ、北は形が分かるような写真を公開したのか。ロシアのS-300やS-400とは異なると主張したいのか。

公表された写真を分析すると、以下の通りである。

この写真では、ミサイルが上昇してから曲がり始めたところまでだ。飛翔全体の写真を公開してもよいはずなのだが、掲載していない。

一方、ミサイルの形状は明瞭に判別できる。ミサイルの飛翔速度が速いので、一般的にはぼけた写真になるか、軍事機密であることから映像を出さないのが普通だ。

世界でも日本でも、発射した瞬間のミサイル映像はあるが、速度を急速に上げて飛翔するミサイルの映像はあまりない。

もし、高感度カメラで撮影したとして、公開するのであれば、何か意図があるからであろう。

北の狙いは何か。北は新しく開発した対空ミサイルの実験で、1枚の写真を掲載し、「誘導性能を向上し、射程を大幅に延伸し、驚くほどの戦闘能力を向上させた」ことを発表した。

この写真の発射トラックや噴射煙は嘘ではなく事実であろう。

飛翔するミサイルだけは、嘘か事実かは決められない。嘘の可能性もある。あるいは、実物ではなく、CG等で作ったものか。

どちらにしても、公開された写真の狙いを分析する。

誘導性能向上という観点では4種類の翼の形を、射程延伸ではブースターの形を、それぞれ軍事研究者に見せ、S-300を超えた、最新型のミサイルを開発していることを訴えたかったのだろう。

ロシアのS-400と同等の能力のミサイル、それも北が独自に開発しているとしたかったのではないか。

さらに、ロシアが開発し、完成に近い「S-500」の可能性もあるが、ロシアが、中国にS-500を輸出したという情報はない。

ロシアが、金払いが良くない北に、S-500の技術を渡すとは考えられない。

北朝鮮の防空能力向上への願望

北は近年になって、旧式のほかに、新型のミサイルを著しく増強させてきた。防空能力に大きな欠陥があったものを、是正してきた。

それでも、米軍の空からの攻撃兵器は、北の防空能力をはるかに超えている。

これまで装備してきたS-300では、例えば、米軍のステルス戦闘機・爆撃機・無人機の攻撃には、全く効果がない。

レーダーの反射面積が小さい巡航ミサイルに命中させることは極めて難しい。

最大の欠陥は、弾道ミサイル対応能力が全くないことである。日米韓は、ミサイル防衛能力を保持しているにもかかわらずに、である。

北としては、これらの欠陥をできるだけ早急に改善する必要があると考えているであろう。ロシアのS-400あるいはこれ以上の能力を保有する防空ミサイルを保有したいと熱望している。

とはいえ、北の親分である中国でさえも、ミサイル防衛については、実験中である。

ロシアのS-400であっても、近距離ミサイル防衛パトリオットミサイルPAC3の改良型のレベルだ。

イージス艦搭載の「SM-3」や韓国に装備した「THAAD」レベルのものはない。

韓国は、潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)と発射母体の3000t級潜水艦を完成させ、9月15日に実験を成功させた。

北は、後れを取った悔しさをにじませて、「このSLBMを初歩的なものだ」と発表している。

韓国のSLBMよりも大型のミサイル実験に成功しているものの、発射できる潜水艦をまだ保有していない。北は、このSLBMに対処できないのだ。

北は、南侵して成功するための兵器、例えば各種弾道ミサイル、巡航ミサイル、各種ロケット、戦車、装甲機動車を整備してきた。精強な軍隊を作ってきた。

だが、まだまだ大きな欠陥があり、是正しなければならない。

北は、少なくともS-400あるいはこれ以上の防空ミサイルを一刻も早く保有したいと熱望しているのは確かだ。

この能力を保有しなければ、韓国への侵攻能力と米韓軍に対する防衛能力は完成しない。

北は、極超音速弾道ミサイルや弾道ミサイル防衛システムを開発したいと熱望しているが、まだ、完成はしていない。

そこで、まだ完成していない最新型の兵器の写真を作って、実際に実施しているように見せかけていると推測する。

西村 金一

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