太田光は「パワハラ」、有吉弘行は「いい先輩」? 対照的な“後輩指導”に学ぶ、年長者の「無難な選択」

  • サイゾーウーマン
  • 更新日:2021/06/11

羨望、嫉妬、嫌悪、共感、慈愛――私たちの心のどこかを刺激する人気芸能人たち。ライター・仁科友里が、そんな有名人の発言にくすぐられる“女心の深層”を暴きます。

<今回の有名人>
「パワハラだって思われるのは、まだその人の表現力が足りないんだよ」爆笑問題・太田光
『太田伯山ウイカの「はなつまみ」』(テレビ朝日系、6月2日深夜)

人気バラエティ番組『「ロンドンハーツ』」(テレビ朝日系)で「後輩にちゃんと慕われている? 相思相愛ウラ取りグランプリ」というコーナーがあった。オアシズ・大久保佳代子やFUJIWARA・の藤本敏史ら中堅芸人は、本当に後輩からに好かれているのか確かめる企画だ。ここで明らかになったのは、先輩芸人から後輩芸人に対しての“気遣い”である。

「芸人の世界は縦社会」だと言われることもあるが、この企画を見ると、先輩も後輩に結構気を使っている。大久保は「先輩面というか、恩着せがましい感じで接しない」と話していたし、藤本は「お笑いの話はあえてせず、おいしい店に連れて行く」と明かしていた。

しかし、後輩たちは数多くいる先輩のうち、この2人を「一番いい先輩」に認定しなかった。藤本に関しては、お笑いの話をしないため、「学ぶことがない」という後輩の意見もあったし、彼がチョイスする名店の食事も、特にありがたいと感じていなかったようだ。対して「お世話になっている先輩」として最も名前が挙がったのは、有吉弘行。毒舌で知られるタレントだけに意外な気もするが、有吉は後輩の出演した番組をよく見ていて、褒めてくれるのだという。こうした意見を聞き、当の本人は「後輩の話を聞いて、ずっと笑っているだけ」と話していた。

有吉のケースから考えると、

・仕事の話を聞いてくれて、ダメ出しや否定ではなく褒めてくれる人
・「いつも自分を気にかけている」と感じさせる人

これが現代の「いい先輩像」といえるのではないだろうか。

有吉自身、『進め!電波少年』(日本テレビ系)の出演を機に人気者になるも、すぐにブームは去り、ぱったり姿を見せなくなった。しかし、品川庄司・品川祐を「おしゃべりクソ野郎」と呼んだことが話題になり、芸能人にあだ名をつける芸で再ブレーク。今ではバラエティ番組で引っ張りだこの存在だ。ほかにも、「這い上がるにはADに気を使え」など、地獄を見た有吉だからこそ語れる話もあり、くすぶっている後輩芸人たちにとって、有吉以上の相談相手はいないように思う。

しかし、有吉は単なる“いい人”ではない。『マツコ&有吉 かりそめ天国』(テレビ朝日系)で、ある時、若い世代のスタッフなどには「注意をしない」という話になり、共演のマツコ・デラックスは「嫌われたくない」「自分が損だから」と、その理由を語っていた。これはつまり、スタッフや芸人など、自分より目下の世代に正すべきところがあっても、彼らはあえてスルーしているのだろう。

またそれは一方で、「求められていないことは言わない主義」とも考えられるだろう。『ロンドンハーツ』を見る限り、後輩は先輩に「あれはダメだ」と言われたら、それが芸に対するダメ出しだとしても、自分の人格を否定されたように受け止める人が多かったように思う。だとすれば、有吉のように「ダメ出しはしない」のは賢明な判断なのかもしれない。

一方で、爆笑問題・太田光が、有吉とは対照的な後輩指導について明かしていた。

6月2日深夜放送の『お願いランキング!』(テレビ朝日系)の水曜コーナー「太田伯山ウイカの『はなつまみ』」に出演した弘中綾香アナウンサーが、テレ朝のいち社員として、仕事の一つである「後輩育成」の難しさを吐露した。自身は新人時代に「こんなんじゃダメだとか、もっとやれとかスパルタ」な指導を受けてきたが、今の時代に同じことをやるとパワハラだと言われかねないので、どこまで注意すればいいのかわからないそうだ。

これに対し、太田はある経験談を披露。解散が決まった後輩芸人に「解散するならネタを見せてみろ」と要求した太田は、「ここはこう(やれ)」などと6時間にも渡って指導をしたという。太田は善意で後輩を指導したのだろう。「これは技術指導だから、パワハラにはならないわけ」と主張したが、共演者であるタレント・ファーストサマーウイカは「パワハラに取る人いますよ」、神田伯山も「俺も横で聞いてて、パワハラだと思ったもん」と同意してみせた。

太田は「パワハラだって思われるのは、まだその人の表現力が足りないんだよ」とも語っており、教える側に卓越した能力があれば、受け手はパワハラだと取らないと考えているようだ。しかし、私も太田の指導はパワハラだと思った。後輩がそれを求めていたのならまだしも、もう解散すると決意した芸人に、今さら指導してどうなるのか。後輩もいくら太田の善意だとはいえ、指導を「もう結構です」とは言えないだろう。

一方、芸能界で「とにかく売れたい」と思う人なら、先輩のアドバイスを求め、基本的には受け入れるはずだ。また、太田のファンならば、仮に解散や引退が決まっていても、太田に直接指導してもらえるのは夢のような話で、キツいことを言われてもパワハラとは取らないと思う。要するに太田は、「後輩に求められていること」がわかっていなかったのではないか。

とはいうものの、先輩のどんな言葉でもパワハラだと感じやすい受け手がいることも事実だろう。「自分について考えてばかりいる人」や「相手のことを考えられない人」が、それに当てはまると思う。

芸能界は努力したからといって、それが必ず報われる世界ではないが、「売れたいけれど、売れない」時の対策として考えられるのは、「相手を研究すること」だろう。仕事をもらえる人と自分の違いを比較したり、仕事を与える側(番組のプロデューサーなど)はどんな芸が好きか、何を求めているのかを分析することで、自分の足りない部分を補強するのだ。

けれど、「自分について考えてばかりいる人」や「相手のことを考えられない人」は、それができない。「私は売れていない、だからやめよう」でも「私は売れていないけど、まき返すぞ」でもなく、「売れていない私、かわいそうな私」というふうに、私の評価、私の価値みたいなものばかりを気にするので、次の手を打てない。

この状態に陥ると、先輩の“指導”は“ダメ出し”にしか聞こえず、「傷つけられた」「パワハラだ」と思うのではないだろうか。売れていない自分を俯瞰で見られるかどうかがポイントで、客観性がない人はパワハラに敏感なのだと思う。

こうして整理すると、先輩が後輩に求められていることを理解せず、しかもその後輩が「自分について考えてばかりいる」「相手のことを考えられない」タイプである場合、あらゆるハラスメントにつながっていくことがわかる。

その結果、有吉のように「ダメ出しはしない」のが、先輩として最も無難な選択肢になるのだろう。

芸人や料理人など、職人気質な世界は上下関係が厳しく、一昔前まで、ある意味パワハラは当たり前だった。その代わりと言ってはなんだが、師匠は弟子の将来や生活設計にある程度の責任を持った。だからこそ、弟子は師匠についていくのだと思う。しかし、今はそんな濃密な人間関係は好まれないし、お金や時間を使って人を育てることを、責任が重く割に合わない行為とみなす年長者も増えている。

そんな時代に若い人を指導しようと思ったら、注意すべきは“善意”ではないだろうか。おそらく太田は善意で後輩を指導したのだろうが、実はこれが一番厄介で、善意ゆえに歯止めが利かないし、周囲も指摘しにくい。指導をするなら、「相手の人生に責任を取る」くらいの覚悟がないといけないのかもしれない。

この記事をお届けした
グノシーの最新ニュース情報を、

でも最新ニュース情報をお届けしています。

外部リンク

  • このエントリーをはてなブックマークに追加