大谷翔平所属のエンゼルス、他球団に“劣る”補強戦略 今後は抜本改革も必要か

大谷翔平所属のエンゼルス、他球団に“劣る”補強戦略 今後は抜本改革も必要か

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  • 更新日:2021/07/20
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エンゼルスの大谷翔平(写真/gettyimages)

7月末はMLBにとって非常に大きな意味を持つトレード期限。プレーオフ進出、ワールドシリーズ制覇を目指すチームは短い残りシーズンで戦力を底上げしてくれる即戦力を求め、来季以降を見据えるチームは主力と引き換えに若手有望株を集める。前者だけを見れば刹那的な補強に思えるかもしれないが、長期的な視点に立てば重要なのはむしろ後者だ。

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どのチームスポーツでもそうだが、「育てながら勝つ」というのは容易なことではない。本当に必要不可欠・代替不可能な選手を可能な限り長くチームに在籍させつつ、一方で世代交代によって新陳代謝をもたらしてチームを活性化させるのはGMら編成担当者にとって永遠の課題だろう。

有力選手を獲得できれば一時的に戦力は上がるが、その代償として若手有望株を手放すことで傘下のマイナー球団の人的資源は枯渇していく。それはつまり、うまく育てれば低コストで大きな戦力となる生え抜き選手が出る可能性の低下を意味している。トレードでの補強では後者のリスクは避けられないため、見返りに獲得した大物選手たちが期待に応えてくれなかったら丸損。しかも彼らは短期間で退団していくため、翌年以降はさらに戦力が低下していくことになる。

このじり貧状態に陥っているのが、大谷翔平選手の所属するエンゼルスなのだ。エンゼルスが最後にプレーオフに進出したのは2014年で、2016年以降は昨季まで5年連続で勝率5割を切っている。かといってシーズン100敗するほどどん底にいるわけでもなく、二刀流で大活躍中の大谷や現役最高の呼び声もあるマイク・トラウト外野手といった大物も在籍している。

だがこの中途半端な状況が続いていることこそがエンゼルスが長期的展望を欠いている証拠だ。MLBでは主力の高齢化や成績低下などでチームのピークが過ぎたと判断されれば、在籍していたメジャー契約選手の大半を放出して若手有望株をかき集め、文字どおりゼロからチームを作りなおすこともある。そこまでいかずとも、年俸高騰のタイミングで惜しげもなく主力選手を手放すことは珍しくない。抜本的なスクラップ&ビルドが結果的に再建を早めることにつながることがあることは歴史が証明済みだからだ。

2013年にワールドシリーズを制覇したレッドソックスは、翌14年に主力の移籍や故障、不振などで一転して低迷した。すると球団はジョン・レスター投手やジョン・ラッキー投手、ジョニー・ゴームズ外野手ら主力を次々と放出。低迷が続いた15年もマイク・ナポリ一塁手らの放出が続き、結果として2年連続で地区最下位に沈んだ。

しかしその間にムーキー・ベッツ外野手やザンダー・ボガーツ内野手ら生え抜きや、トレードで獲得したエドゥアルド・ロドリゲス投手ら若手が台頭。さらにクリス・セール投手ら実績ある選手らの補強も当たり、18年には早くもワールドシリーズ王者に返り咲いた。

逆の例を挙げるならばマーリンズ。長期的な展望など投げ捨てたかのようにとにかく大金を費やして大物選手をかき集めることで、1997年と2003年にワールドシリーズ制覇を果たした。しかしいずれも優勝直後から次々と主力を手放す「ファイアーセール」を敢行し、あっという間にチームは解体。当然の帰結として低迷期に入ったが、ワールドシリーズ優勝という目標はとにもかくにも達成したのだから、その観点で言えば成功として差し支えはないだろう。

話をエンゼルスに戻すと、エンゼルスのここ数年の補強で大物獲得と呼べるのは19年オフに7年総額2億4500万ドルで契約したアンソニー・レンドン三塁手くらい。投手陣はリッキー・ノラスコやバド・ノリス、コディ・アレン、トレバー・ケーヒル、フリオ・テヘラン、ホセ・キンタナ、ディラン・バンディら陰りが見え始めた中堅クラスを獲得しては期待外れに終わることを繰り返している。

その間のドラフト指名もパッとせず、トレードでの有望株放出も重なった結果、エンゼルスの傘下マイナーチームは弱体化。今季開幕前にMLB公式サイトが出したファームシステムランキングでは25位だった。

ちなみに26位以下はアスレチックス、ロッキーズ、ブルワーズ、アストロズ、ナショナルズ。このうちアスレチックスとブルワーズ、アストロズは毎年安定した成績を残し続けており、ナショナルズは19年にワールドシリーズを制覇したばかり。ロッキーズも17年から2年連続でプレーオフに進出している。つまりランキング下位の球団のうち、エンゼルスだけがプレーオフにも届かずファームに有望株も少ないという苦境にあるのだ。この事実は、エンゼルスが大物補強を目論んでも交換相手になり得る魅力的な若手が足りないということを意味している。

一方、ランキング上位は1位がレイズで、2位以下はタイガース、マリナーズ、マーリンズ、オリオールズ、パドレス、ブルージェイズと続く。育成と編成がずば抜けてうまく、大物選手抜きでもプレーオフを常に狙える位置につけるレイズは例外としても、近年は低迷して再建期を過ごしている球団は順調に若手有望株を集めていることが分かる。パドレスやブルージェイズなどはすでに低迷期を抜けて上昇モードに入った感もあるほどだ。

今や現役屈指の若手スラッガーとして注目されるパドレスのフェルナンド・タティス内野手は、メジャーデビュー前のトレードでホワイトソックスから移籍した選手。その際にパドレスが手放した交換相手はメジャー通算100勝以上を挙げていたジェームズ・シールズ投手だったが、そのシールズは18年にア・リーグ最多の16敗を喫したのを最後にメジャーの舞台から姿を消している。パドレスにしてみれば会心のトレードだった。

ブルージェイズも今季にオールスター初選出を果たすまでになった強打者テオスカー・ヘルナンデス外野手を17年途中のトレードでアストロズから獲得。このトレードでは青木宣親外野手もブルージェイズへ移籍し、交換相手も元オールスター左腕フランシスコ・リリアーノ投手だったことから日本ではヘルナンデスへの注目度は低かったが、当時からブルージェイズの本命がヘルナンデスであることは現地報道では周知の事実だった。

現地19日終了時点で、エンゼルスは46勝47敗でア・リーグ西地区4位。首位アストロズからは10ゲーム差をつけられているが、ワイルドカード争いでは2位アスレチックスまで6.5ゲーム差となっている。

地区優勝には届かずとも、故障離脱中のトラウトやレンドンが復帰して大谷が無双を続ければワイルドカードならあるいは……という希望を抱くかもしれないが、同地区のマリナーズならともかく、直接対決が少ない他地区のライバルたち(ブルージェイズ、インディアンス、ヤンキース)をごぼう抜きするのは容易ではない。

だが現時点でエンゼルスが今季を諦めて移籍市場で売り手に回るという話は出ていない。それとは対照的に、46勝48敗でナ・リーグ中地区4位のカブスはすでに主力放出に動くことを明言した。同地区首位のブルワーズから9.5ゲーム差、ワイルドカードでは圏内から8.0ゲーム差という状況はエンゼルスと大差なく、主力の多くが今季終了後にフリーエージェントとなる条件も同様だが、決断の早さには明確な違いがある。

実際にカブスは昨オフにドジャースから移籍したばかりだったジョク・ピーダーソン外野手を15日にブレーブスへトレード。ブレーブスの若手有望株ランキング12位だった長距離打者ブライス・ボール一塁手を獲得した。今後も元リーグMVPのクリス・ブライアント三塁手やアンソニー・リゾ内野手、ハビエル・バエズ内野手らの放出が有力視されている。

もちろん、カブスのこの決断が必ずしも成功を約束されているわけではない。ボールら若手有望株が大成せずに低迷が長引く可能性もある。しかし中途半端に主力を残してもプレーオフに届かない可能性が高い以上、やるなら徹底的にというのも理にかなっている。エンゼルスに足りないのはこの断固たる決意、英語で言うところの「determination」なのだろう。

とはいえ、エンゼルスも昨オフにGMがペリー・ミナシアンに替わっている。ミナシアン新GMはブルージェイズやブレーブスでキャリアを重ね、特にブレーブスではGM補佐として低迷していたチームの再建に成功。若手選手の発掘や育成に定評があるとされている。果たしてエンゼルスはミナシアンGMの下でトレード期限で買い手に回ってプレーオフを目指すのか、それとも売り手として動いて再建への一歩を踏み出すのか。いずれにしても、ここ数年の煮え切らない状況から脱却できるドラスティックな改革を期待したい。(文・杉山貴宏)

杉山貴宏

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