世界でも日本だけ「声優=職業」根付いた2つの理由

世界でも日本だけ「声優=職業」根付いた2つの理由

  • 日刊スポーツ
  • 更新日:2021/02/24
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13年9月、ギネス世界記録認定を受けた加藤みどり(中)

<ニュースの教科書>

「鬼滅の刃」の大ヒットで竈門炭治郎役の花江夏樹(29)が注目され、改めて声優にスポットが当たっています。アニメ人気は多くのスター声優を生み出しましたが、実は古くから「声優」が職業として確立しているのは世界でも日本だけなのです。日本固有の声優文化の背景は。【相原斎】

「声優」が日本に根付いた理由は2つあります。40~50年代のラジオドラマ全盛期に、NHKやTBSが自前の放送劇団を作って「ラジオ俳優」を育成したこと。もうひとつは50~60年代に米国からドラマやアニメが大量に輸入され、吹き替え需要が膨れ上がったことです。

「ララミー牧場」の主人公ジェスの声を久保保夫(19~82年)がべらんめえ調で吹き替えて話題になったり、「ローン・レンジャー」や「バークにまかせろ」の若山弦蔵(88)は、独特の低音で「レディー・キラー・ボイス」と呼ばれて注目を集めました。

文芸評論家の小林秀雄(02~83年)は、雑誌「演劇」の対談(51年)で「人の声っていうのは、非常に表情に富んだものでしょう。例えば落語だって何度聴いてもいいというのは、つまり声の音楽なんでしょう」と、日本人の声に対する特別な思いを語っています。

一方、当時からディズニー作品でアニメ文化をリードしていた米国は対照的です。「AKIRA」や「妖怪ウォッチ」英語版の声を担当したジョー・ヨング・ボッシュは「Forbes JAPAN」のインタビューで「アメリカでは『キャラクターはキャラクター』という考え方のため、誰が声を演じているかについては大半の人は興味がないんです」と明かしました。米国でボッシュのように「声」を本業とする人が出てきたのは最近のことです。話題となるのは、「トイ・ストーリー」のウッディの声をトム・ハンクスが担当したり、有名俳優が出演した時だけでした。

日本でも60年代までは俳優と声優の線引きがあいまいでした。「笑ゥせぇるすまん」や「スター・ウォーズ」のダース・ベイダーで知られる大平透(29~16年)は15年のインタビューで、悪役ゴアの声を担当した特撮ドラマ「マグマ大使」(66年)の秘話を明かしてくれました。

「ゴアのスーツ(着ぐるみ)にはADの人が入っていたのですが、どうにも動きが悪い。それなら僕が入る、となり、結局第1話から僕がゴアのスーツアクターになりました」

子どもたちのゴア人気はマグマ大使を上回るほどでしたが、実は怪人の中身も声優・大平だったのです。

一方で、キャラクターと声のイメージが1つになった声優の代表格は、69年から50年続いた「サザエさん」の加藤みどり(81)ではないでしょうか。NHKドラマ「天使の部屋」(60年)に主演した一線の女優でしたが、結婚を機に声優の依頼を受けるようになりました。98年のインタビューでは「仕事がなくても生活に困るわけではなかったし、気楽に受けたのが『サザエさん』だったのですが、第1回の放送後にある新聞に、私の声は作品のイメージに対する冒涜(ぼうとく)だと書かれたんですよ。あの時は泣きました。それがバネになったんですね」とその原点を語りました。

ギネス世界記録に認定された長寿番組は、加藤の存在で職業としての「声優」も併せて印象づけることになりました。

野沢雅子(84)も「ドラゴンボールZ」と関わって40年になります。悟空、悟飯、悟天の親子を1人で演じ分ける離れ業も演じました。「3人は一見似ているようだけど育った環境が違うので、そんなに大変ではないし、絵を見るとすっと役に入れます」と89年の「アニメージュ」の中で話しています。

天性の才能だけではありません。声優ならではの体力、気力も必要なようです。「名探偵コナン」を28年演じてきた高山みなみ(56)は14年のインタビューで収録中のエピソードを明かしてくれました。

「劇場版だと12時間くらいかかります。昼休憩とあとちょっとは休みますが、終わった後にガクッときます。アクションシーンが多いと筋肉痛がすごいんです。スケートボードに乗っているシーンなどは、脳がイメージを筋肉に伝えちゃうんですね。ノイズを出さないように最小限の動きにしているつもりですが、寝る前は体中に湿布を貼るハメになります」

個性的という意味では「ドラえもん」の声を26年間演じた大山のぶ代(86)も忘れられない存在です。子どもの頃は「ドラ声」にコンプレックスがあった大山は「第1作の試写会で(原作の)藤子不二雄さんから『ドラえもんってこんな声をしていたんですね』といわれ、うれしかった。役者冥利(みょうり)に尽きる」とテレビ朝日のホームページで振り返っています。

幾多のベテランたちの才能、個性、努力を挙げれば切りがありません。日本独特の声の文化はこうしたレジェンドたちに支えられてきたのです。

◆相原斎(あいはら・ひとし) 1980年入社。文化社会部では主に映画を担当。黒沢明、大島渚、今村昌平らの撮影現場から、海外映画祭まで幅広く取材した。著書に「寅さんは生きている」「健さんを探して」など。往年の声優では「コンバット」のサンダース軍曹や「スパイ大作戦」のバーニー、そして「藤岡弘 探検隊」のナレーションを担当した田中信夫さん(35~18年)の声がいちばん記憶に残っている。

■鬼滅の声優が上位に

専門サイトの「アニメ!アニメ!」が「昨年一番活躍したと思う声優」のアンケートを行っています。

男性は<1>花江夏樹<2>下野紘<3>中村悠一。1位、2位は「鬼滅の刃」に出演した人でした。

女性1位も「鬼滅-」の鬼頭明里ですが、2位は「イエスタデイをうたって」の花沢香菜、3位は「約束のネバーランド」の内田真礼という結果です。

「声優グランプリ」(主婦の友社)の声優名鑑2020年版には男性595人、女性907人が掲載されています。日本俳優連合の会員は約2800人。日本タレント名鑑には1万人以上が掲載されていますが、声優はこの中の一大勢力といえそうです。

■ジブリ作品、有名俳優らが声の出演

ジブリ作品には多くの有名俳優や著名人が声の出演をしています。ほんの一部分ですが、「となりのトトロ」(88年)には糸井重里、「紅の豚」(92年)には加藤登紀子、「耳をすませば」(95年)には高橋一生、「もののけ姫」(97年)には美輪明宏、「千と千尋の神隠し」(01年)には夏木マリと菅原文太、「ハウルの動く城」(04年)には木村拓哉が出演しました。

公開当時の試写会で、木村は「原画があまりにも良すぎて、プレッシャーでした。いろいろ悩みましたが、ストーリーに引っ張ってもらったので、僕は何もしていません」と心境を明かしました。

宮崎駿監督(80)は05年、英紙「ガーディアン」の取材に「日本の女性声優は、男性を引きつけるコケティッシュな声を持っているが、それは私たちの望むものではない」と話しています。プロには逆に難しい「ナチュラルな声」を求めているのかもしれません。

最近では、「君の名は。」(16年)の上白石萌音(23)や、「天気の子」(19年)の森七菜(19)のように声の出演が女優としてのステップアップにつながった例もあります。

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