ブラジル政治の未来を分ける大統領選で注目すべき視点

ブラジル政治の未来を分ける大統領選で注目すべき視点

  • Wedge ONLINE
  • 更新日:2022/09/23
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10月2日に行われるブラジル大統領選挙がいよいよ目前に迫ってきた。8月末から9月初めの世論調査では、ルーラ元大統領は、依然として8~12%の差で現職のボルソナーロをリードしており、5月頃の20%を超えていた頃に比較すれば縮小の傾向にはあるが、依然としてルーラ有利は変わりがない。

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Serhej Calka / iStock / Getty Images Plus

ブラジル政治の専門家の米国ハンプデン=シドニー大学のパグリアリーニ助教は、Foreign Policy誌のウェブサイトに8月31日付けで掲載された論説‘The Future of Brazilian Politics Will Be Decided in Sao Paulo’で、ルーラの勝利を所与のものとして、同日のサンパウロ州知事選挙で労働者党(PT)のフェルナンド・ハダドが勝利すれば、反PT感情の強い同州を始めて制することになり、一期で退く意向のルーラの後継者として最も有力な候補となり、今後のブラジル政治に大きな影響を与えることになる、と指摘している。論説は、次のようにハダトを高く評価する。

・ハダトは経験豊富な政治家で、2005年から12年まで教育大臣を務め、更に13年から17年までサンパウロ市長を務めた。

・18年の大統領選挙ではボルソナーロの対抗馬となった。

・今次知事選では、ボルソナーロ政権の元インフラ大臣タルシシオ・ゴメス・デ・フレイタスとサンパウロの政治を長年牛耳っている中道右派ブラジル社会民主党(PSDB)の現職のロドリゴ・ガルシアが最も有力な対抗馬である。もし、ハダドが勝利すれば、大統領に当選しても一期限りで退く意向のルーラの後継者として最有力ということになろう。サンパウロ州民にとって、ハダドに投票することは将来の大統領に投票することになり、今後10年以上にわたるブラジル政治の行方は、この州知事選挙の結果に大きく影響されることになる。

・ルーラとは異なり、ハダドは扇動家的ではなく、時としてブラジル政治の過熱ぶりに不快感を示すこともある。ルーラは以前から、ハダドがPTのメンバーの中で最もPSDBに近いと言っていた。

・現在、世論調査によれば、デ・フレイタスの支持率は、ハダドの32%に対して17%、PSDB現職のガルシアは、わずか10%である。

・ハダドはサンパウロで政治的変化を起こし、州レベルの無気力な中道右派政権とブラジリアの過激だが無能なボルソナーロ政権に疲弊した有権者に対する解毒剤と位置付けることができる。

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ハダドについては、18年の大統領選挙で汚職容疑により逮捕されたルーラに代わって急遽PTの大統領候補となり、ボルソナーロに惨敗した冴えない政治家とのイメージであったが、パグリアリーニは、ハダドの政治家としての資質を極めて高く評価し、分断したブラジル社会の将来を担い得る望ましい政治家として持ち上げている。

ルーラの大統領当選も、ハダドのサンパウロ州知事当選もまだ決まったわけではなく、まして、5年後の大統領選挙を巡る状況は予測しがたいにもかかわらず、有力なブラジル研究者がここまで踏み込むのであれば注目しておいても良いであろう。

大統領選におけるボルソナーロの劣勢の原因の1つには、かつての支持層であった福音派キリスト教徒がボルソナーロに失望し支持率が低下していることがある。ボルソナーロは、ルーラの信仰問題を取り上げまた汚職疑惑を強調してその挽回を目指すと共に、貧困層への現金給付によるバラマキの公約を打ち出してルーラの支持層である低所得層の取り込みを図っている。

ルーラの汚職問題について、ルーラ自身は政治的冤罪であるとしてこれを認めていないが、裁判所の管轄権という手続き上の問題で有罪判決が取り消されたもので、汚職疑惑自体について判断されたものではなく、ルーラにとっては弱みではある。

他方、ボルソナーロの不人気の背景には、COVID-19対策の失敗を始め、憲法制度や民主主義を脅かし女性やマイノリティを蔑視する数々の暴言、アマゾンの熱帯雨林の破壊等に加えて、続く不況やインフレによる国民の失望と不満が厳然として存在している。唯一、ボルソナーロがルーラを上回るのがSNSの巧みな活用であり、油断はできないがこの劣勢を覆すことは難しいであろう。

10月2日の投票でルーラが有効投票数の過半数を取れなければ、10月30日の決選投票となり、ボルソナーロがかなり追い上げ、かねて主張している投票システムに対する不信を理由に敗北を認めず実力行使に訴えるといった可能性も排除されない。そのような事態にならないよう、また有権者や官憲が同調しないことが望まれる。ルーラとしては、1回目の投票で決着するか、少なくとも10%以上の大差をつけることが、勝利を動かしがたいものとする上で望ましいであろう。

2人の候補の政策上の違い

ルーラとボルソナーロの政策上の違いは明確で、ボルソナーロは、汚職対策の一環としても国営石油会社、国営電力会社、郵便電信公社の民営化を打ち出しているのに対し、ルーラは、これらの民営化には反対との立場である。

外交政策では、ボルソナーロは、経済協力開発機構(OECD)加盟や国際通貨基金(IMF)等国際機関への関与を強調し新たな貿易パートナーや外国投資を求めることを主張しているが、ルーラのマニフェストでは、メルコスール、南米諸国連合(UNASUR)、ラテンアメリカ・カリブ諸国共同体(CELAC)等、ラテンアメリカ内部の統合や連帯の強化、BRICSの強化、「南南協力」(開発における途上国間協力)等が強調されている。

ルーラ政権となる場合には、欧米等先進国との協調よりもラテンアメリカ諸国間の連帯やBRICSに軸を置くことが予想され、西側としては対ロシア及び中国とのパワーバランスの関係で留意が必要となろう。

岡崎研究所

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