「うちらも捕まるんじゃないか」警察は取り締まりを強化...それでも解決しない“歌舞伎町の根本問題”

「うちらも捕まるんじゃないか」警察は取り締まりを強化...それでも解決しない“歌舞伎町の根本問題”

  • 文春オンライン
  • 更新日:2021/04/08

「家賃の支払いも難しくなって…」コロナ禍でも“歌舞伎町の路上に立つ”女性たちのホンネから続く

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性風俗の世界で働く女性の無料生活・法律相談窓口「風テラス」には、昨年、2929人もの相談者が殺到したという。様々な業界に甚大な影響を与え続けているコロナ禍は、いわゆる“夜の世界”で生きている女性たちの生活も一変させた。

「風テラス」の発起人・坂爪真吾氏による『性風俗サバイバル ――夜の世界の緊急事態』(ちくま新書)には、その生々しい現場の実態がまとめられている。同書より「第四章 歌舞伎町に立つ」の一部を特別に掲載する。(全2回の2回目/前編から続く

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ネットを見て集まる男性、そして摘発に動きだす警察

女性と同様、あるいはそれ以上に謎が多いのは、コロナ禍の歌舞伎町にわざわざ女性を買いに来る男性客だ。彼らはどのような理由・経路で、路上までやってくるのだろうか。

坂本「ネット等の公開情報を見てやってくる男性が多いと思います。ナイナイの岡村が言っていた現象が実際に起こっている。つまり、今まで路上にはいなかったようなタイプの女性が立ち始めている。そして値段も下がっている。そうした風評がSNSや動画サイトで広まったことで、男性が来るようになったと思われます。

女性たちからは、「冷やかしの客が増えて、すごい迷惑」「買う気がないのに話しかけてきたり、じろじろ見るだけで去っていく男が増えた」という声が上がっています。また、たまたまこのエリアを通りかかっただけの女性が、付近に立っている買春目的の男性たちから舐め回すような不躾な視線に追われることも散見され、雰囲気は悪くなる一方です」

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©iStock.com

女性たちの姿がSNSや動画で拡散され、それを見た男性が冷やかし半分、怖いもの見たさ、あるいは性欲を満たすためにやってくる……という構図があるようだ。

コロナの影響が強まって以降、歌舞伎町の特定エリアに男女が増えているということは、警察でも認識されていた。風紀の乱れを懸念する近隣住民からの要請もあり、取り締まりは強化されている。女性たちが集まりにくいように、このエリアの環境そのものを変えようという動きもあるという。

坂本「先日夜回りをした際も、顔見知りの子たちから「昨日も今日も何人も捕まっているみたい。うちらも捕まるんじゃないかと思うと怖くて仕事ができない」「稼がないと家賃が払えない。でも、ここの道を歩いている男性は、皆私服警察官のように見えてしまう」などと言われました。

あそこにいる女の子たちを散らしたところで、根本的な解決にはならない。結局行き場がなく戻ってくる可能性が高いし、他の場所で同じことをやり続けるだけです。彼女たちがネット等で買春客を募るようになれば、その存在が可視化されにくくなり、状況によっては、被害も深刻化する危険があります。

警察としても、売春防止法があるため、地域住民からの通報や相談が増えれば取り締まりを強化せざるを得ない。一方で、女性たちを検挙するだけでは根本的な解決にはならない、ということも理解している。最終的には彼女たちを公的支援につなぎ、売春ではない方法で生計を立てられるようになる方向に持っていきたい、という考えを警察も持っている。

しかし、彼女たちの多くは、公的支援で苦い思いをしてきた経験がある。行政や福祉を信頼していない。特に施設出身であればなおのこと、施設や母子寮などに一時保護されることも拒む傾向があるように見えます。また、誰かからお金を借りるのが嫌で、自分で何とかしたい、と考えている女性も多いです」

公助とつながるための前提をつくる

風テラスに相談に来る女性の中でも、一時保護されることを拒む女性は一定数存在する。彼女たちは、コロナの影響で出勤しても稼げなくなり、所持金が尽きて住まいを失い、ホテルやネットカフェで暮らしていてもなお、「体験入店すればなんとかなる」「明日から出稼ぎに行けば、なんとかなる」と、固く信じている。

それだけ、彼女たちは性風俗や売春の世界(が与えてくれるであろう高収入)を信頼している。そして、それ以外の他人や公的支援を全く信頼していない。

坂本「彼女たちは、お金が無くなったら、性風俗店に体験入店するか、デリヘルなどに在籍して地方に出稼ぎに行く、ということを繰り返している。でも結局、どうにもならない。そこで「現実は予想以上に厳しい」ということを分かってもらえたら、こちらの助言や提案にも耳を傾けてくれるようになる可能性はあります。

1、2回の声掛けで反応を示す女性は少ないです。実際に女性から身辺の状況や、困りごとなどを話してもらえるようになるまでには、それなりの時間がかかります。関係性を築けるまで、地道に足を運び、声を掛け続けるしかない。その繰り返しの中で、ようやく挨拶をしてくれるようになり、少しの立ち話につき合ってくれるようになり、ちょっとした身の上話などもしてくれるようになる。

こうした関係を積み重ねることで、一定の信頼が得られたら、彼女たちの方から連絡をくれるようになります。「これから出稼ぎに行ってきます!」という報告や、「クソ客ばっかりです」という愚痴、「性病をうつされたんだけど、保険証を使わずに性病検査できるところってありますか?」「同じ施設出身の子が大変なので、なんとかしてくれませんか?」「死にたい衝動が強くなってる。どこかいい精神科を知らないですか?」という相談も届くようになります」

路上に立つ彼女たちを排除・摘発するだけでは、問題は根本的には何も解決されない。彼女たちを公助につなぐためには、警察と行政、民間の支援団体による連携が必要になるが、そのための課題は山積している。

坂本「初めて警察に検挙された子は、「やっぱりダメなことなんだ」とショックを受ける。そのタイミングが支援につなげる機会にもなります。警察から、本人の同意を得た上で、東京都や基礎自治体(市区町村)の福祉事務所や女性支援部門につないでもらうことができれば理想的だと考えています。草の根レベルで動くのは民間、最終的につながるのは行政、という役割分担が必要です。

検挙されるのが2回目、3回目という女性も多い。検挙された後も支援につながらず、また路上に戻ってしまう女性もいます。それを何とかして止めたい。ただ、警察も彼女たちをどこにつなげばよいのか、判断しかねている部分もある。

直接行政につなぐことが難しい場合、民間の支援団体が「翻訳者」として仲介に入る必要がありますが、そのためには、まず彼女たちと本音で話をしてもらえるだけの信頼関係を築くことが大前提になります。ただ、これに関しては、やる気や資格だけではどうにもなりません」

「今までに会ったことのない大人に会った」と思ってもらいたい

路上に立つ女性たちと信頼関係を築くためには、支援者という立場を超えて、一人の人間として関わっていく必要がある、と坂本さんは語る。

一緒にラーメンを食べながら話を聞いたり、交通費や宿泊費としてお金を貸したり、深夜に送られてくる重たい内容のLINEに返信をしたり……。スカウトマンのような振る舞いや、福祉の一線を越えた対応をせざるを得ないこともあるが、そうした方法でないと信頼関係を作れず、支援につなげることもできない。

坂本「ラーメン屋で話を聞いて、交通費とインタビュー代として2000~3000円を渡して「じゃあ、気をつけて帰ってね」と告げると、「本当に話だけでいいんですか?」と驚かれることもあります。当然のことながら、こちらはしっかりと自制する。どのような状況であれ、誰に見られても恥じることのない関係性を堅持する。

これまで彼女たちの周りにいた男性は、対価として身体の関係を求めてきたり、お金を無心するような大人が少なくなかった。しかし、実際にはそんな大人ばかりではない。

食事をおごってもらっても、お金を渡してもらっても、見返りを求めず、指一本触れてこない大人の男性もいる、ということをまず知ってもらいたい。

「今までに会ったことのない大人に会った」と感じてもらえれば、頭の片隅に残る。そうすれば、「これはマズいかも」「さて困った」という状況に陥った際に思い出してもらえる可能性が高くなり、孤立を避けることにもつながるのではないかと思います。

もちろん、100人の女性を相手にそれができるのか、と言われればできません。福祉として正しい方法かどうかも分かりません。ただ、そうした個人的な信頼関係でしかつながれない女性や、こちらからリーチしないと声を上げられない女性は確実に存在します」

一方で、女性が特定の支援者に依存してしまうと、次の支援につながらないというジレンマもあるという。

坂本「私とつながるのはよいのですが、「私としかつながれない」ことになってしまうと、他の団体や窓口とつながれなくなってしまう。お互いに依存しあうような共依存関係になってしまってはいけないし、支援されることが当たり前になってしまってもいけない。

必要なことは、当事者が自分の力で生きていけるようになるまでの、もしくはマイナスをゼロに戻すまでの、しばしの並走です。並走が終わった後に、いかにしてうまくリリースするかも大きな課題になります」

路上での直引き売春や性風俗をはじめ、既存の制度や支援が届きづらい領域では、当事者と支援者が個人的な信頼関係でしかつながれないゆえに、共依存が起こりやすい。

複雑な事情と課題を持った当事者の支援を一人で丸抱えしてしまった結果、支援者が精神的に潰れてしまうこともある。

自分で声を上げられない当事者には、支援者から声をかけるしかない。そうした一方通行の関係性の中で、「彼女たちの存在に気づき、問題を解決できるのは自分だけ」「彼女たちのことを代弁できるのは、自分たちだけ」と思い込んでしまい、他の支援団体や行政に対して、「そのやり方は間違っている」「当事者の気持ちを分かっていない」という批判を繰り返すようになる支援者もいる。

支援団体間や行政との連携ができず、それぞれがバラバラに動いて、当事者の丸抱えやお互いの批判を繰り返すだけでは、いつまで経っても課題は解決しない。

あくまで「しばしの並走」であることを理解した上で、その後に「いかにしてうまくリリースするか」は、当事者にとっても、支援者にとっても、重要な課題であることは間違いない。

(坂爪 真吾)

坂爪 真吾

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