
試合終了後の東北ナイン【写真:共同通信社】
ペッパーミル・パフォーマンスを注意され「ダメな理由を僕らは聞きたい」
第95回選抜高校野球大会は18日、阪神甲子園球場で開幕し、大会初日の第1試合で東北(宮城)が1-3で敗れた。19年ぶりの春1勝とはならなかったが、佐藤洋監督が掲げる“自律・自立”させる野球は最後までブレなかった。選手が塁上での「ペッパーミル・パフォーマンス」を注意されると、高野連の指導に対して問題提起を行うなど、高校球界に向け一石を投じた形となった。
プロ注目の最速145キロ右腕・ハッブス大起投手(3年)が5回途中2失点で降板し、打線も5安打1得点と相手エースを打ち崩せなかった。惜しくも初戦敗退となったが佐藤監督は「選手はいつも通り、笑顔で楽しんでいた。ずっとテーマは『野球を子どもに返す』こと。少しは子どもたちに野球を返せた」と、ナインを称えた。
監督として初めての聖地を踏み、子どもたちの全力プレーを目に焼きつけたが、ある違和感も感じていた。初回、先頭の金子和志内野手(3年)が遊ゴロ失策で出塁すると一塁上で日本代表でおなじみとなった“ペッパーミル・パフォーマンス”を披露。だが、攻撃終了後に一塁塁審から、パフォーマンスを控えるようにと注意されたという。
日本高野連もすぐに声明を発表。「高校野球としては、不要なパフォーマンスやジェスチャーは、従来より慎むようお願いしてきました。試合を楽しみたいという選手の気持ちは理解できますが、プレーで楽しんでほしい」としている。敵失で塁を得た際にパフォーマンスを行ったことも忘れてはいけない。相手のミスを喜んでいると誤解されては誰も幸せにならないとも思う。学生野球憲章にある「フェアプレーの精神」に触れたという考えも理解できる。
ただ、佐藤監督は試合直後、審判からの注意について「私は大反対」と覚悟を持って、言葉を口にした。
「これはちょっと問題にして頂けるとありがたいです。ちょっと高野連にケンカ売るかもしれないが……。でも、日本中が盛り上がっているし。なんであれがダメなのか、ダメな理由を僕らは聞きたい。私の方に火の粉が飛んできてもいい。もう少し子どもたちが自由に野球を楽しむ方法も、考えてもらいたい」
昨年8月から監督に就任し、取り組んだのは高校野球特有の“しきたり”をなくすことだった。丸刈りをやめ、選手には自立・自律を求めた。「とにかく楽しく、笑顔いっぱい。失敗も怒ることない。一生懸命やっての失敗であれば問題ない。若者の特権なので、どんどん失敗すればいい」と、試合では“ノーサイン野球”で、その場の状況を個人で判断させてきた。
「自分で考えて自分で行動する部分は野球人がすごく苦手な部分」
名門校が取り組んだ大改革。巨人でプレーし、引退後は少年野球の指導者を行うなど全てのカテゴリーを見てきた佐藤監督の指導方針はチームに浸透した。練習メニューについても口出しはせず、選手たちに管理させる。12年ぶりの選抜出場という結果も残したことで周囲の雑音も振り払った。
「野球って皆、監督さんの采配でその通り、言われた通りに動く。自分で考えないので、指示待ち人間を作りたくない。あえて、今日は甲子園の初戦ですし、皆が頑張って勝ち取った。そこは大人が邪魔したくなかった。我々、大人が皆同じにすると、皆同じ打ち方、捕り方になる。でも、そうすると勝てるんです。高校野球って。だから、そこに一石を投じたい。自分で考えて自分で行動する部分は、野球人がすごく苦手な部分」
高校球児には勝ち負け以上に大切なことを伝えたい。その信念は大舞台にきても変わらなかった。
「彼たちのこの先に生きていく。その答えはすぐには出ないかもしれないが、5年後、10年後、20年後か分からないが、そのことを通して高校野球で学べれば、うちはいいかなと。変わったスタイルです」
近年は勝利至上主義が問題視されるアマチュア野球界。名門・東北は試合に敗れはしたが、新たな高校野球像を見せつけ甲子園の地を去っていった。(橋本健吾 / Kengo Hashimoto)
橋本健吾 / Kengo Hashimoto