大量ワクチンを直接提供、米国より断然手厚かった日本の台湾支援

大量ワクチンを直接提供、米国より断然手厚かった日本の台湾支援

  • JBpress
  • 更新日:2021/06/11
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台湾に到着した、日本政府から提供されたワクチン(2021年6月4日、提供:Taiwan Centers for Disease Control/AP/アフロ)

(北村 淳:軍事社会学者)

新型コロナパンデミックの抑え込みに成功していた台湾で、5月中旬以降、突如感染が急拡大した。これまで台湾当局は1年以上にわたって感染拡大防止戦略を優先させ、その戦略が功を奏していた。そのため、ワクチンの大規模接種により集団免疫状態を形成して新型コロナウイルスを葬り去るワクチン戦略には重きを置いてこなかった。

日本では、政府はじめオリンピック開催推進陣営が、オリンピック開催を前にワクチン接種率が低迷している状態をアメリカやイギリスなど欧米諸国から懐疑的に見られることを気にしていることから、ワクチン接種を急速に展開し始めている。

しかしながら、そもそもワクチン戦略はアメリカやイギリスにとって窮余の一策であった。つまり、感染予防拡大防止戦略が大失敗して対ウイルス戦初期段階で完敗したため、ともかく急いでワクチンを造り出し、可能な限り多数の国民に打ちまくって集団免疫状態を可及的速やかに達成させようという戦略である。多くの国民がマスク着用に嫌悪感を抱くため、なかなか感染予防拡大防止戦略が功を奏さないという事情もあった。

そこでトランプ政権は莫大な予算をワクチン開発に投入した。また国防総省が主導して研究が進んでいたmRNA技術なども役に立って、予想よりも早く新型コロナに対抗可能と考えられるワクチンが誕生した。アメリカ保健衛生当局も、「新型コロナとの戦争」という戦時であるがゆえ、本来は完全な承認まで数ステップ(少なくとも1年以上の期間が必要)の諸テストが残っているワクチンの緊急使用を承認し、アメリカ国民に対するワクチンの大量接種(実質的には大量治験)を開始したのである。

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「外交下手」日本のファインプレー

一方、台湾では5月中旬まではワクチン戦略はそれほど必要とされてこなかった。実際に蔡英文政権は20万回分のアストラゼネカ・ワクチンをイギリスから買い付けただけであった。それも突発的感染拡大への対処として医療従事者に接種して使い果たしてしまった。台湾当局は「ワクチンを打てば安心」と信じている世論から突き上げられ、政治的危機にも直面してしまった。

中国共産党政府はその状況を見て、好機到来とばかりに中国製ワクチンの提供を繰り返し申し出た。だがもちろん蔡英文政権としては中国共産党政府に頼るわけにはいかない。また台湾国民の多くも、政治的理由とは別に中国製ワクチンへの不信感を抱いているため、中国からの台湾へのワクチン供与は実現しそうもない。

とはいえ、世界中(アメリカとイギリスそして一部EU以外の)でワクチンが不足している状況で、台湾が急遽大量のワクチンを入手するのは至難の業である。

このような状況下で、外交下手では定評のある日本が、タイミング良く124万回分のアストラゼネカ・ワクチンを台湾に無償供与したのである。蔡英文政権にとっては極めて朗報となった。

ただし、日本ではイギリス製のアストラゼネカ・ワクチンはアメリカ製のファイザー・ワクチン(厳密にはアメリカ・ドイツ)およびモデルナ・ワクチンよりも安全性が懐疑的に見られている(実際には、アメリカのCDCには、因果関係は未確認であるものの、すでに5000件前後のワクチン接種後死亡事例が報告されているのだが)。そのため、日本で使わないワクチンを台湾に寄付するのか? という声もあるようだが、上記のように台湾ではすでにアストラゼネカ・ワクチンが使用されているのである。

バイデン政権はどう動いたか

日本による台湾へのワクチン寄贈に対して、自らがワクチン外交を展開している中国政府は5月31日、「ワクチンを政治利用してはならない」と“伏兵”(中国はアメリカによる寄付を警戒していた)日本を批判した。

さらに中国政府は、大量のワクチンを自国での使用に抱え込んで国際貢献を果たしていないとして、アメリカ政府に噛みついた。6月3日、人民網(英語版)で、「アメリカよ、さっさとワクチンを世界に寄付しろ!」と題して、下記のようにアメリカ政府を批判している。

「米国は、未承認のアストラゼネカ・ワクチン8000万回分が入手可能になり次第、必要としている諸国に寄付する計画であった。──米国が寄付を計画していたアストラゼネカ・ワクチンはこれまでに0回分寄付された」

「米国が購入したファイザー・ワクチンとモデルナ・ワクチンは6億回分で、3億人分に相当する。──米国が確保したアストラゼネカ・ワクチンは3億回分で、多くは臨床試験の結果を待っている」

(筆者注:アメリカでは自国製のジョンソン&ジョンソン・ワクチンも緊急使用が許可されており、3種類の自国製ワクチンで十二分に自国民全員への接種が可能なため、アストラゼネカ・ワクチンのような他国製のワクチンは必要ない状況である。もっとも、有効性がファイザー・ワクチンとモデルナ・ワクチンより劣るとされているジョンソン&ジョンソン・ワクチンは人気がない。筆者周辺のドラッグストアやスーパーマーケットではジョンソン&ジョンソン・ワクチンは予約なしでいつでも接種可能となっている。)

こうして中国政府が米国を批判した日(6月3日)に、バイデン政権はトータルで8000万回分のワクチンを、主として「COVAX」(ワクチンを共同で購入し途上国などに分配する国際的な枠組み)のシステムを通して、ワクチンを必要としている国々へ寄付するとの公式声明を発した。そして具体的なワクチン寄付計画書には、COVAXを通して寄付する国々の中に台湾も含まれていた。

しかしながら、COVAXという仕組みによる台湾への75万回分のワクチン寄贈では、すでに直接124万回分のワクチンを寄付した日本に比べてもかなり見劣りする。台湾支援の本気度の薄さが透けて見えるのは否めない。これでは、バイデン政権による「台湾を中国の脅威から防衛する」という姿勢そのものにも、疑問符を付けざるを得ないだろう。

北村 淳

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