
日本でも数多くの魅力的なボーイズレーサーが誕生したハチマル時代。
本場ヨーロッパでは、キラ星のごときホットハッチが続々と生み出された。
その中でも、最も異彩を放っていたモデルの1つを紹介しよう。
【1990年式 ルノー サンク GT ターボ Vol.3】
今回の取材車両であるシュペールサンクGTターボは、シリーズ後期型に当たる1990年式。個性派ショップ「ガッティーナ」が手塩にかけて用意した、おそらく日本で最もオリジナリティーが高く、コンディションも優れた個体である。
ハチマル時代の高性能ホットハッチというと、いささかプリミティブかつジャジャ馬的なドライブフィールが想像されるが、このシュペールサンクGTターボは、とことんまで洗練された乗り味を身上とする。この時代の小型大衆車をベースとする割には、ボディ剛性はなかなかのもの。フランス車の伝統にしたがってサスペンションはソフトなセッティングとされるが、ダンパーが「いい仕事」をするせいなのか、クイックかつよく粘るハンドリングを披露してくれる。
また、後期バージョンということで120psのスペックを誇る小さなOHVターボエンジンも、この上質なシャシーにピッタリのパワー感を見せている。スロットルを深く踏み込んでも、ややくぐもった独特の排気音を荒げることなく、ターボ過給の立ちあがった回転域から、まるで前方に吸い込まれるような怒涛の加速に突入。ふと気づけば、速度計は予想外のスピードを示すことになる。そして、これらすべての動きが完全一体化し、ドライバーは「冷静と情熱のあいだ」で、不思議な陶酔感に浸ることができるのだ。
>>【画像18枚】220km/hまで刻まれたスピードメーター。ハチマル高性能車のシンボル、ブースト計などで構成される計器盤など
生誕地であるフランスをはじめとするヨーロッパはもちろん、日本のエンスージアストをも魅了してしまったこのフィーリングは、「フレンチロケット」なる異名のもと、ハチマル時代のフランス製高性能車の雄、ルノー21ターボ、あるいはルノー・アルピーヌV6ターボにも酷似している。
そう、このスタイリッシュなホットハッチこそ、まさしく「小さなフレンチロケット」だったのである。
>> 1.4Lから120psを発生する4気筒OHVターボエンジン。この時代のものらしくターボラグは大きめだが、かえってトルクの盛り上がりを実感させる。ノーマルでは大人しいサウンドも、独特の魔性を感じさせる。
【1】【2】から続く
1990年式 ルノー サンク GT ターボ(E-C405)
SPECIFICATION 諸元
●全長×全幅×全高(mm) 3600×1600×1360
●ホイールベース(mm) 2405
●トレッド(mm) 1350/1320(前/後)
●車両重量(kg) 850
●エンジン種類 水冷直列4気筒OHVターボ
●総排気量(cc) 1389
●ボア×ストローク(mm) 75.8×77.0
●最高出力(ps/rpm) 120/5750
●最大トルク(kg-m/rpm) 16.8/3750
●燃料容量(L) 50
●変速機 5速MT
●ステアリング形式 ラック&ピニオン
●サスペンション前 マクファーソンストラット
●サスペンション後 トレーリングアーム
●ブレーキ形式 ディスク/ドラム(前/後)
●タイヤサイズ 195/55R13(前後とも)