iPS細胞で人工臓器を作り「薬剤性難聴」の治療薬を開発する研究進む

iPS細胞で人工臓器を作り「薬剤性難聴」の治療薬を開発する研究進む

  • NEWSポストセブン
  • 更新日:2022/06/23
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抗がん剤シスプラチンを起因とする難聴に対し、治療薬の開発が進む

抗がん剤シスプラチンは肺がん、胃がん、悪性リンパ腫など多くのがん治療に用いられている。ただ、がん治療薬としては有用だが、約6割に薬剤性難聴という副作用が起きてしまう。一度でも難聴になってしまえば元には戻らない。そのため現在、iPS細胞から内耳オルガノイド(人工臓器)を培養し、シスプラチン起因性難聴に関する治療薬開発の研究が進められている。

【図解】iPS細胞を利用した内耳オルガノイドの作成イメージ

聞こえは音(空気の振動)が耳に取り込まれ、内耳の有毛細胞によって神経信号に変換されることで始まる。この信号を蝸牛神経節細胞が脳に伝え、音として認識される。

シスプラチン起因性難聴とは薬剤の副作用の一つ。約6割に発生し、結果的にこれらの細胞が障害されると再生されず、感音難聴は治らない。

難聴患者から内耳細胞を取り出せないので、原因究明や治療薬開発については主にマウスなど動物を使った研究が行なわれてきた。しかし、マウスに効果があっても人間には効かない治療薬が多い。

そこで現在、東京慈恵会医科大学、北里大学医学部、慶応義塾大学医学部が共同で、ヒトiPS細胞を利用した薬剤性難聴の治療薬開発をスタートさせている。

東京慈恵会医科大学耳鼻咽喉科学教室の栗原渉医師に聞いた。

「ヒトiPS細胞から蝸牛神経節細胞様細胞(機能を再現したものなので“様”細胞と呼ぶ)と有毛細胞様細胞を含む内耳オルガノイド(人工臓器)の培養に成功しました。この内耳オルガノイドには生体の蝸牛神経節細胞と同様に神経信号を伝達する機能が確認されています。これにシスプラチンを投与すれば実際の内耳で何が起こっているかを培養皿の中で再現できます」

内耳オルガノイドにシスプラチンを投与すると活性酸素種が過剰に産生される。研究では、この活性酸素種により、培養皿の蝸牛神経節細胞様細胞がアポトーシス(細胞死)を起こすことが明らかになった。他にはCDK2阻害剤という薬剤を投与したところ、24時間後の活性酸素種の産生抑制が確認され、長期的な観察では蝸牛神経節細胞様細胞のアポトーシスまでは防げなかったが、シスプラチンの神経毒性作用を短期的に抑制できたことも確認。こうした作用のメカニズムに関しては今後も研究が続けられ、将来的な治療薬候補が見つかるだろうと考えられている。

「抗がん剤は事前に投与と終了時期がわかっているので、例えばシスプラチン投与と同時に治療薬を投与できれば薬剤性難聴を予防できる可能性があります。2000人に1人といわれる遺伝性難聴の治療薬開発にiPS細胞が有効だと考えてもいます。またiPS細胞は患者の血液で作ることが可能なため、その患者の耳の病態を反映した内耳オルガノイドを培養できますから、より深く難聴の原因や有効な治療法を見つけ出したいと思っています」(栗原医師)

これからも難聴だけでなく、各分野でiPS細胞を使い、生体から取り出すことが難しい臓器の培養を成功させ、障害に対抗する画期的な創薬開発を目指してほしい。

取材・構成/岩城レイ子 イラスト/いかわやすとし

※週刊ポスト2022年7月1日号

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