「ペース配分をするな」ラミレスが選手、監督として実践した「対パ」対策

「ペース配分をするな」ラミレスが選手、監督として実践した「対パ」対策

  • Sportiva
  • 更新日:2021/02/21

特集『セ・パの実力格差を多角的に考える』

第10回 対パ・リーグで必要な投打の意識改革

@アレックス・ラミレス インタビュー(中編)

【写真】前編:「セよりパのほうが100%レベルが高い」元DeNA監督のラミレスが断言する理由

昨年までの5年間、横浜DeNAベイスターズの監督として指揮を執ったアレックス・ラミレス氏。セ・リーグで育ち、セ・リーグの指揮官を務め上げたラミレス氏は、近年話題となっている「セ・パ間格差」について、どのような見解を持っているのか。インタビューの中編では、現役時代や監督として実践していたパ・リーグ対策、セ・リーグのバッテリーに必要な意識改革について語った。

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巨人時代の交流戦で、日本ハム先発のダルビッシュ有(左)からタイムリーを放ったラミレス氏(右)

【「1、2、3、ゴー!では間に合わない」】

2016(平成28)年から20(令和2)年までの5年間、横浜DeNAベイスターズの監督を務めたラミレス氏は、パ・リーグとの直接対決である交流戦にどのような心境で臨み、どのような対策を講じて戦いに挑んでいたのか?

「これは現役時代の自分の体験談なんですが、交流戦においてパ・リーグの各チームと対戦する時は、セ・リーグの投手に対するタイミングの取り方では対応できないと感じていました。前回もお話ししたように、パ・リーグの投手陣はストレートの速い投手が多い。従来どおりのタイミングでは、どうしても差し込まれてしまいます。ならば、始動を早くして、自分のタイミングをきちんとキープしなければならない。そう考えました」

2019年に西武・中村剛也に抜かれるまで、交流戦通算最多となる183打点を記録していたラミレス氏。これは、事前の入念な対策が功を奏したのだという。

「セ・リーグ同士の対戦だとピッチャーがリリースする瞬間に対応してもバッターは間に合うけれど、パ・リーグの投手と対戦する場合は、リリースの瞬間にバットはトップの位置にあり、"割れ"ができた状態で準備していなければならない。私はそう考えていました。だから、交流戦の時期には室内練習場のマシン相手にインコースの速球を設定して、ベースに近づいた状態でバッティング練習をしていました」

前回も今回も、ラミレス氏は「パ・リーグの投手は速球が速いので、打者は始動を早くしなければならない」と力説する。その点について、さらに質問を投げかけると、実にわかりやすい表現で「対策法」を説明してくれた。

「言葉で表現するとすれば、セ・リーグ投手との対戦は、『1、2、3、ゴー!』という感じだけど、パ・リーグ投手の場合は、『1、2、ゴー!』じゃないと間に合わない。そんなイメージで打席に立つ必要があるんです」

当然、この教えはDeNA野手陣にも徹底していたという。

【ソフトバンク打線には左投手が有効】

DeNA野手陣には「始動を早くする」という教えを徹底させた。一方で、投手陣に対してもラミレス氏なりの対策法があった。そのヒントは、ラミレス監督率いるDeNAとソフトバンクが対戦した2017年日本シリーズにあったという。

「あの年のポストシーズンは、雨の影響もあって日本シリーズ直前まで広島東洋カープとのCSが続きました。ようやく広島を倒して日本シリーズでソフトバンクと対戦することになり、時間のない中でデータを分析していて、『ひょっとしたら左ピッチャーが有効ではないかな?』と感じました」

CSでのローテーションの兼ね合いもあって、日本シリーズ初戦は右投げの井納翔一が先発した。2戦目に先発した左腕の今永昇太は、敗れはしたが好投。そして、第4戦では同じく左腕の濱口遥大が8回途中までノーヒットノーランで勝利した。第5戦でも左の石田健大が好投し、ラミレス氏は確信を得る。

「濱口の投球を見ていて、『やはり、ソフトバンクには左投手が有効だ』と手応えを感じました。当然、交流戦でもソフトバンク戦では左ピッチャーを中心にしたローテーションを組むつもりでした」

幸いにしてDeNAには、前述した今永、石田、濱口に加え、2018年入団の東克樹と左の好投手がいただけに、ラミレス氏は交流戦の戦いにも手応えを感じていた。彼らにはまだ若さがあり、勢いがあった。しかし、彼らに対してラミレス氏は何度も何度も同じことを説いたという。

「今永、濱口、それぞれまだ若いのでスタミナもあります。長いイニングを投げることも可能です。でも、私は彼らに対して、『7回、8回、9回を投げようと思うな』ということは何度も言いました。いまだに野球界には『先発投手は長いイニングを投げるべきだ』という考えがありますが、相手打線が三巡目になる6回くらいに、先発投手が捕まって敗戦するケースはとても多い。ならば、先発投手には、『長いイニングを投げるためにペース配分するのではなく、目の前の1イニングに全力投球しろ』と言い続けました」

ソフトバンクには質量ともに充実した豪華投手陣が揃っているため、先発投手たちは「自分の後には優れた中継ぎ陣がいる」という思いで、初回から全力投球を続けている。ラミレス氏はこの点に着目していたという。だからこそ、自軍の若き投手たちにも「決してペース配分をするな」と言い続け、交流戦においても実践してきたのだ。

【「積極的にインコースを攻める」という投手と捕手の意識改革】

さらに、DeNAが誇るサウスポー陣に対しては、「具体的な配球の指示もしていた」とラミレス氏は述懐する。

「前回も言ったように、パ・リーグには速球派投手が多いため、打者も速球の対応には自信を持っています。そうなると、左投手のチェンジアップ、フォーク、カーブでストライクを取ったり、右打者に対してバックドアでカウントを整えたりすることが有効なんです」

ラミレス氏の言う「バックドア」とは、打者から見て外側のボールゾーンからストライクゾーンに変化球を投げてストライクを取る投球を指す。前回述べたように、投手不利のカウントでもインコースにストレートを投げ込むパ・リーグの野球とは正反対の攻め方こそ有効だと、ラミレス氏は訴える。

しかし、こうした考えこそ、「セ・リーグの変化球偏重」の傾向をさらに推し進めることになり、よりパ・リーグとの差が開いてしまうことになるのは皮肉なことだ。だからこそ、レギュラーシーズンでは次のような指導を徹底していたという。監督時代に出版された『CHANGE!』(KADOKAWA)にはこんな一節が記されている。

「監督になった暁には、自軍の投手陣には内角攻めを確実に覚えてもらおうと考えていた。投手陣に対する要求の1つとして、投球の7割が内角、3割が外角というプランを私は持っていた」

監督を務めた5年間、「投球の7割が内角」は実践できたのかを問うと、ラミレス氏の白い歯がこぼれた。

「監督初年度の最大の改革が、キャッチャーに対して『もっとインサイドを要求しろ』ということでした。確かに、それまでよりは内角へのサインは増えました。それでも私からすればまだアウトコース中心の配球でした。キャッチャーだけでなく、ピッチャーの意識の中にも、『デッドボールを与えたらどうしよう......』という恐怖心がありました。一度、打者に当ててしまうと、インサイドを立て続けに攻めることができなくなる。そんな状態はまだまだ続いていますね」

前回の話と総合すると、セ・リーグ投手陣が積極果敢に打者のインコースを攻めるようになるためには、投手の球速を上げて内角攻めへの自信を持つことを前提として、投手は打者の胸元をえぐることを恐れないこと。捕手はどんどんインサイドへのサインを出すこと。そんな「意識改革」が求められていることがよく理解できる。

(後編につづく)

長谷川晶一●取材・文 text by Hasegawa Shoichi

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