衛星とAIで東南アジアのプラごみ集積場を検出 その解析プロセスをたどる

衛星とAIで東南アジアのプラごみ集積場を検出 その解析プロセスをたどる

  • マイナビニュース
  • 更新日:2023/01/25
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●海洋プラごみ問題解決に向け衛星データ活用技術を開発中

衛星画像を情報に変え地図で表現。さくらインターネットのセミナーで学ぼう

東南アジアの国々で、プラスチックごみが問題になっている。世界経済フォーラムの2020年版報告書によれば、インドネシアでは年間約680万トンのプラスチックが廃棄され、その70%は焼却や埋め立て、海洋投棄といった、環境に悪影響を与える方法で処理されているという。

プラスチックごみといえば海洋汚染と関連付けて語られることも多いが、海のプラスチックごみの排出源は、陸上で分別されることなく埋め立てられている廃棄場だ。2019年には廃プラスチックのインドネシアへの輸入が禁止され、都市部では分別リサイクルの取り組みが始まっている。しかし、分別されることなくトラックで運びこまれ、そのまま埋め立てられる「オープンダンプ式」という処分方法も大きな問題となっている。これから排出されるプラスチックごみを適切に処理していくためには、現状の野放図な廃棄場をデータ化してモニタリングし、歯止めをかけることが大切だ。そこで、衛星データを利用して広域のプラスチックごみの状態を把握する手法の開発が始まっている。

米国航空宇宙局(NASA)の元副長官のローリー・ガーバー氏やキャスリン・コールマン元宇宙飛行士らがアドバイザーを務めるカリフォルニア州の環境保護団体「アースライズ・メディア」は、オーストラリアのミンデルー財団と共に、オープンソースの光学衛星画像や深層学習を用いて、東南アジアのプラスチックごみ廃棄場を検出する手法を開発した。インドネシアでこの手法を用い、公的記録で報告されている数の2倍以上となる374カ所の廃棄場を検出したという。そこで検出された廃棄場の2割近くが川から200m以内にあり、いずれ海へ流出する可能性も高い。

プラスチックごみモニタリングの意義は間違いないが、衛星画像からどのようにそれが可能になるのだろうか?「宇宙」「AI」とつくだけで「すごそうだけれど面倒くさい」とスルーしてしまうのはもったいない。オンラインジャーナル「PLOS One」に掲載された論文「Satellite monitoring of terrestrial plastic waste」から、衛星画像でプラスチックごみ廃棄場を洗い出すプロセスと、その考え方を追ってみよう。

衛星画像は「下ごしらえ」が必要

プラスチック廃棄場の検出には、欧州の光学衛星「Sentinel-2(センチネル2)」の画像を利用している。センチネル2は、5日おきとかなり高頻度に撮影でき、無償でデータが公開されているという利点がある。一方で分解能は中程度の10mで、画像を見ただけではぼんやりとしたグレーの地面が認識できるだけ。ここからプラスチックごみ廃棄場を区別することは非常に難しい。一方で、機械学習のトレーニングに使用された米・Maxarの光学衛星画像「WorldViewシリーズ」は分解能が0.3mと非常に高く、むき出しになった地面や周囲の施設との境界線、地面が盛り上がった場所なども判読できる。センチネル2の画像よりもMaxarの画像は観測頻度が少ないため、無償で豊富に利用できるセンチネル2で、廃棄場を検出できるようにするのが目標となる。研究では、まず10カ所の既知の廃棄場のMaxar画像から、廃棄場所をマーキングしてトレーニング用のデータセットを作っている。

プラスチックごみの埋立地は、薄いグレーまたは茶色っぽい色で、埋立作業を行っている場所へつながる仮設道路があるなど特徴を持っているという。また、さまざまなプラスチックごみが混ざりあった独特の表面状態を「高周波テクスチャ」と表現していることも、非常に興味深い。「高周波」とは細かい模様が混ざりあった画像の部分に使われる表現で、砂嵐状のパターンなどを指す。こうした特徴を「ピクセル・スペクトログラム分類器」というCNNの手法を使って検出する。

検出に向けた機械学習によるトレーニングを行う前に、その下ごしらえとして、画像から雲の除去を行っている。東南アジアで雲がない好条件の衛星画像はほとんどなく、「雲マスク」と呼ばれるツールを使って画像から雲のエリアを除去する必要がある。ただし、既存の雲マスクは精度が低いことも多く、雲の縁の部分を誤判定しやすい。論文によれば、雲マスクの判定を厳しくすることで雲の縁やもやを排除することができたという。

その後、2019年6月から2021年6月までの2年分の衛星画像から、50カ所の正規の廃棄物処理場の画像を用いて、試験用のデータセットが作成された。廃棄場で雑草が伸びて表面が覆われてしまうことも珍しくないため、植物の活性度を示すNDVIを適用して草に覆われたエリアを除外し、純粋に埋め立てられたプラスチックごみがむき出しになっている場所を試験に用いている。

●AIを活用し東南アジアにおける廃棄場の変化を検出
廃棄場をピクセルごとに分類

廃棄場の検出試験では、異なる時期に撮影した2つの衛星画像から、対象エリアを12バンドの波長データと時系列変化を持つピクセル単位に分解・分類して、廃棄物の可能性が高いピクセルのヒートマップを作っている。12バンドすべてを使用すると計算量が大きくなりそうだが、論文では、RGBと近赤外バンドだけで検出すると検出率が30%未満とかなり低くなってしまったと報告されている。

一方で、ピクセル分類器は廃棄物ではないプラスチック(温室のプラスチック屋根など)まで誤認識してしまうリスクがあるため、パッチ分類器と呼ばれる位置の情報をもった複数ピクセルのまとまりで、補完的な検証も行っている。

さらに、廃棄場とOpenStreetMapの地図データを組み合わせて、廃棄場と川などの水路との位置関係のデータを作成。川から5km以内の廃棄場を洗い出している。そして、ピクセル分類器を2017年以降のセンチネル2画像に適用し、廃棄場の可能性がある場所の1カ月ごとの変化をデータ化した。

こうして検出されたプラスチックごみ廃棄場の可能性がある場所を、高解像度の衛星画像を使って人間の目で検証する。廃棄場で時間とともに進行する変化には、色や高周波テクスチャといった特徴に加え、廃棄物を焼却する際の煙、トラックなどの作業車も含まれている。こうした変化の大きな部分は人間の目で判別しやすく、またGoogleストリートビューなどの地上から見た様子も検証に加えているという。
正規のものではない廃棄場も多数発見

こうして何段階もの検証を重ねた結果、研究チームは2019年1月から2021年3月までのインドネシア全土の衛星画像から、374カ所のプラスチック集積場を検出した。これは、データベースに登録された集積場の2倍以上の数だといい、その中には正規の廃棄場ではない場所も含まれていた。一例として、バリ島の場合は一般的に正規の廃棄場の面積が0.5~4.5ヘクタール程度であるのに対して、見つかった廃棄場の82%が0.5ヘクタール未満で、0.1ヘクタール程度の場所も多かったという。このことから、小さな廃棄場の多くが正規のものではない「勝手」廃棄場であることがうかがえる。加えて、廃棄場の場所は人口とよく相関していて、人口が増えると廃棄場も増えるようだ。

また、東南アジア全体にこの検出方法を拡大したところ、996カ所の廃棄場が検出された。これは、OpenStreetMapに廃棄場として登録されている場所の3倍以上の数だという。

東南アジア全域で見つかったこれらのプラスチック廃棄場の2割近くは川から200m以内にあり、最終的にはプラスチックゴミが海に流れ込むことで、生態系に悪影響を与える原因になる。川に溢れ出す廃棄物や、川の流れで廃棄場の一部が削り取られた地形も見つかっているといい、増え続けるプラスチックごみに実態の把握が追いついていない実態がうかがえる。その対策としては、陸上の廃棄場を迅速に把握する必要があり、衛星画像を用いて客観的に廃棄場を検出・モニタリングする手段が必要だ。

データはミンデルー財団の「グローバル・プラスチック・ウォッチ」サイトで公開されており、世界のプラスチックごみのモニタリングに利用されている。同様の取り組みは、国連開発計画(UNDP)と有人宇宙システムが協力してベトナムでも行われている。ベトナムの事例でもセンチネル2の画像が利用されており、精度向上に向けてハイパースペクトルセンサの利用も検討されているという。

無秩序に増えるプラスチックごみ対策において、広域を一度に調査できる衛星画像は強力なツールとなる。とはいえ、廃棄場の性質や人口動態との関連などをより詳細に把握するため、技術の向上が必要だ。機械学習にとって、挑戦しがいのある新たな応用ではないだろうか。

秋山文野 あきやまあやの フリーランスライター/翻訳者(宇宙開発) 1990年代からパソコン雑誌の編集・ライターを経て宇宙開発中心のフリーランスライターへ。ロケット/人工衛星プロジェクトから宇宙探査、宇宙政策、宇宙ビジネス、NewSpace事情、宇宙開発史まで。著書に電子書籍『「はやぶさ」7年60億kmのミッション完全解説』、訳書に『ロケットガールの誕生 コンピューターになった女性たち』ほか。 この著者の記事一覧はこちら

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