もう一つの財務省? 菅新総理「デジタル庁」創設に迷走する霞ヶ関の悲喜交々

  • 日刊サイゾー
  • 更新日:2020/09/15

自民党総裁選に決定した菅義偉官房長官が9月5日、日本経済新聞のインタビューで言及した「デジタル庁創設」をめぐり霞ヶ関では早くも空中戦が繰り広げられているという。

この発言についてどのような反応が挙がっているのか、官僚たちに胸の内を聞いた。

デジタル庁は「もう一つの財務省」

まず、国のDX(デジタル・トランスフォーメーション)の旗振り役を自認する経済産業省では今回の発言をどのように捉えているのか。関係者はこう口を開く。

「経済産業省は2018年に、『DXレポート―ITシステム“2025年の崖”の克服とDXの本格的な展開―』を発表しました。ざっくりと中身を説明すると、今のように政府や企業、業界でバラバラにシステムを構築していると、DXが実現できないばかりか経済的損失も大きいので、統一的なデジタルインフラを整備しようということです。

イメージは道路です。日本中に張り巡らされた道路は道幅や信号、標識、制限速度など共通の規則・規格ですよね。だから、誰がどこに行っても安全に通行できる。それと同じことをデジタル領域でも実現しようということです」(経済産業省関係者)

菅官房長官が述べたデジタル庁創設の目的は、新型コロナウイルスへの対応で遅れが明らかになったデジタル行政を加速すること。一見すればこの政策に正面から異議を唱える国民は、いないのではないか?

「ところが、霞ヶ関では“総論賛成各論反対”の雰囲気です。日本のすべての役所、企業、そして国民が直接利用するデジタルインフラを所管するわけですから、その権限は絶大です。現在、国のシステムは各省庁が独自のシステムを構築していますが、今後は共通プラットフォーム化が推進されるでしょう。

例えばマイナンバーカードと健康保険証、運転免許証などを一体化させようという動きがありますが、マイナンバーカードは総務省、健康保険証は厚生労働省、運転免許証は警察庁と所管が分かれています。まずここで、どの役所が一体化されたシステムを主管するのかという問題が起きます。次にシステムを実際に設計・運用するのはデジタル庁になりますから、主管官庁であってもデジタル庁から『技術や予算的に無理』と言われると何もできなくなります。

つまり、デジタル庁創設とは、査定庁として絶大な権限を握る財務省がもう一つできるということです。全国に税務システムを張り巡らす財務省もいずれはデジタル庁に首根っこを抑えられるでしょう」(同)

行政組織や情報通信など国の基本的仕組みを担当する総務大臣出身の菅氏が、「もう一つの財務省」(前出の経済産業省関係者)ともいわれるデジタル庁創設をぶち上げたのだから、官僚の胸中は穏やかではない。

新型コロナウイルスの出現で、日本のデジタル対応の脆さが露呈した。隣国の台湾では唐鳳(オードリー・タン)デジタル担当大臣が天才的なIT技術を駆使してコロナを押さえ込み、韓国ではコロナ休校中が決まると小学校から高校まで一挙に、オンライン授業に移行してIT先進国の力量を見せつけた。

だからこそ、文部科学省関係者は「デジタル庁創設は教育IT化のチャンス」と期待を寄せる。

「コロナ休校が決まった日本では、9月入学が検討されたり、夏休み短縮が行われたりしましたが、子どもたちに役立つ施策が行われたかと問われれば否というほかありません。

韓国では小学校低学年までは教育テレビを視聴し、中学年から高校生までは双方向リアルタイムで教育コンテンツに表示される課題をクリアする形態のオンライン授業が行われています。日本は機会の平等にこだわるためタブレットやWi-Fi環境がない家庭をどう扱うのかという議論がされましたが、日本の学校にはそもそもタブレットが配布されていませんから、仮に子どもたちがタブレットを持っていたとしても教師がタブレットを使いこなせないのです」(文部科学省関係者)

コロナ禍の日本で、オンライン授業に移行できた自治体は熊本市だけ。「熊本市モデル」とも呼ばれる教育IT化については、「ポストコロナの“9月入学”が引き起こすパラダイムシフト、「熊本市モデル」が示す日本社会再生への道」で詳しく紹介したとおり。だが、こんなお寒い日本の教育IT事情にも増して文部官僚の発言は凍りつくようなものだった。

「前川喜平元次官のせいで、文科省は官邸から見捨てられていましたので、デジタル庁創設は『教育IT化』の名目で予算を獲得できる絶好のチャンスです。菅“総理”も日本が韓国の後塵を拝しているのは我慢できないでしょうから、文教族の先生方にも精一杯働いてもらいます」(同)

省益しか頭にないキャリア官僚の話は一旦横に置いて、不夜城といわれる霞ヶ関で働くノンキャリア官僚はデジタル庁創設に、何を期待するのだろうか。

「はっきり言って、何も期待していません。過去にOA化が推進された時はペーパレスが謳われましたが、膨大な規則とその規則に基づいて作成する大量の書類でむしろペーパモアになりました。デジタル庁ができてもシステムを取り仕切るデジタル庁からの指示や省庁間の調整に翻弄されるだけだと思います。

デジタル庁創設よりも、まずは役所のハンコ文化をどうにかして欲しいです。コロナで在宅勤務が増えた中でもハンコを押すためだけに出勤しなければならない。休暇なんか取ろうものなら机の上の決済箱にはハンコ待ちの文書がうず高く積まれています。

ハンコを押す方も大変ですが、現場の担当者は上のハンコをもらわないと仕事が前に進まないので、1日が“スタンプラリー”で終わるなんてざらです。デカい役所ではルーチン業務でも、大臣決裁まで1カ月以上かかるんです」(農林水産省関係者)

コロナ禍で政府の対応が後手に回ったのは、政治家の決断が遅れただけではなく、大臣決裁まで1カ月も要する“霞ヶ関システム” も大きな原因だったのではないか。

「私は民間からの転職組なんですが、丸の内だと会社支給の薄型パソコンを持ち帰って自宅で仕事する『テレワーク』は当たり前ですよね。でも、霞ヶ関では情報保証の規則があるので、そもそも自宅で仕事しちゃダメだし、持ち帰れる薄型パソコンもない。そんな霞ヶ関がテレワーク推進を民間に要求してるんだから。笑っちゃいます。

ITについては霞ヶ関より民間の方がはるかに優れているから、デジタル庁なんか創っても官僚がデジタルインフラを構築したり、システムを運用したりできるとは思えません。いっそのこと民間に全部委託したほうがいいんじゃないですか。個人的にはグーグルあたりにやってもらいたいですが、外資には任せられないですよね(笑)」(内閣府関係者)

官僚から聞こえてくる話は残念な話ばかりだが、デジタル庁創設は最近では唯一夢のある話ではないか。若者の官僚離れがだいぶ前から言われているが、もしデジタル庁ができたらそこで働きたいという若者は少なくないだろう。

次の総理大臣が誰になるのか現時点では分からないが、ぜひともデジタル庁を創設して、デジタル界のガラパゴス諸島と化した霞ヶ関だけではなく、中国や韓国、台湾にも遅れをとった日本全体を変えていってもらいたい。

この記事をお届けした
グノシーの最新ニュース情報を、

でも最新ニュース情報をお届けしています。

外部リンク

  • このエントリーをはてなブックマークに追加