通信制教育だからこそ伸びる子どもの可能性 コロナ禍で注目

通信制教育だからこそ伸びる子どもの可能性 コロナ禍で注目

  • Forbes JAPAN
  • 更新日:2020/10/17
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新型コロナウイルスの世界的な流行が続いているが、収束後は、世界は一変するだろう。私が従事する医療や教育の世界も例外ではない。最近、ポストコロナの教育を考える機会があったので、紹介したい。

9月25日から27日にかけて、神奈川県箱根町で開催された「High School Japan Cup 2020」という高校生のフェンシングの大会に医療スタッフとして参加した。筆者は選手や大会関係者の健康管理やコロナ感染のチェックを担当した。

この大会は、インターハイなどへの出場機会を得られなかった高校生たちに、試合の機会を提供しようと、フェンシングのオリンピアンが企画して、星槎(せいさ)グループ(以下、星槎)が応援したものだ。

星槎は、彼らが管理する星槎レイクアリーナ箱根を会場として提供し、グループのスタッフが裏方を務めた。筆者が参加したのは、星槎の井上一先生から誘われたからだ。

東日本大震災での星槎の手厚い支援
星槎は、中学から大学院博士課程まで通信教育を行う学校法人。このグループをつくり上げたのが宮澤保夫氏だ。

始まりは、1972年に立ち上げた鶴ヶ峰セミナー(現ツルセミ)という学習塾だ。井上先生はその塾の最初の生徒だった。その後、不登校児に対する通信制教育専門の教育機関として発展し、現在は約3万5000人が学ぶ。

筆者が星槎との縁ができたのは、東京大学医科学研究所在籍中の2006年に、財務省から出向していた中井徳太郎教授(現環境省事務次官)から「傑物がいる」と創始者の宮澤氏を紹介されたからだ。宮澤氏は強力な磁力を有する人物だった。一目で、そのパワーを実感することになった。

星槎と我々の付き合いが深まったのは、東日本大震災だ。星槎は、郡山と仙台に学習センターがあったため、福島県の浜通り地方に土地勘があった。震災直後から浜通りに入り、被災した子供たちの支援にあたっていた。

彼らの素晴らしいところは、宿泊所の確保から食事の調達まで、自力ですべてできることだった。しかも裏方のスタッフが力強い。私は、東日本大震災直後に浜通りに入った私のところの若い医師には、星槎の宮澤氏の携帯番号を教え、「現地に入ったら、この人に電話して、何事も相談するように」と指示していた。

私たちは現在に至るまで、浜通り地方で診療、医療支援を継続している。これは星槎なしではありえない。例えば、震災から6年間、宿泊所は星槎が運営する相馬市内の「星槎寮」を利用していた。

地元での放射線説明会などのロジスティックも星槎のスタッフに協力してもらっていた。

今回のフェンシング大会も構造は同じだった。大会運営の裏方を星槎が担い、彼らの支援のもと、フェンシングのオリンピアンたちが大会を開催した。

オリンピアンにも中心人物がいた。江村宏二氏である。江村氏は元日本代表監督で、太田雄貴選手が銀メダルを獲得した北京五輪では日本チームの監督を務めていた。日本のフェンシング界を代表する指導者で、娘の江村美咲氏は東京五輪代表の有力候補だ。

江村氏はフェンシングの名門である中央大学のOBである。バリバリの体育会系の人物をイメージなさる人も多いだろうが、お会いすると、雰囲気はまったく違う。アスリートというより、ベンチャー企業の社長という感じだ。

江村氏は、この大会に26の企業や組織からの後援を取り付けていた。これだけのスポンサーを連れてくるのだから、相当のやり手だ。彼は大分県出身だが、大分県の企業である日田天領水などにも名を連ねている。

私は東京大学運動会剣道部出身で、スポーツ関係者との付き合いもある。アマチュアの競技団体が共通して抱える問題は活動資金の確保だ。このご時世、スポンサーとなってくれる企業は簡単には見つからない。多くの競技団体は補助金を期待して、政府に接近する。

スポーツは多くのメディアで取り上げられるので、政治家も関心を持つ。政治と官僚に依存すると、時に選手そっちのけの管理体制ができあがってしまう。このあたり、医療界とよく似ている。

このような状況に反発する関係者も存在する。私が厚労省に反発を感じるのと同じだ。江村氏からは、そのような雰囲気を感じた。独立独歩でフェンシングの興隆をはかろうとして、星槎と出会った。私たちと星槎が福島でコラボしたように、江村氏と星槎は埼玉県川口市でコラボしている。

通信制教育が大きな武器になる
星槎国際高校は、埼玉県川口市のキャンパスに「スポーツアスリートコース」を開設し、フェンシングに力を入れている。星槎は、その指導を江村氏が代表を務めるエクスドリーム・スポーツに業務委託している。同社の主要なメンバーは、彼と同世代の中央大学フェンシング部のOBたちだ。

彼らには世界で戦ってきた経験とネットワークがある。フェンシングで身を立てたい高校生が全国から川口に集う。一流の指導者が教え、国内外で経験を積むのだから、成長は早い。9月26日、星槎国際高校川口3年生の小久保真旺君がフェンシング全日本選手権サーブルで優勝した。高校生男子の全日本選手権の優勝は史上初だ。小久保君は三重県出身。江村氏の指導を求めて、川口にやってきた。

実は、星槎の成功例はこれだけではない。星槎国際高校横浜2年生のスケート選手である鍵山真優君は、2019〜20年のシーズンにローザンヌユース五輪で優勝、世界ジュニア選手権2位、成人の世界4大陸選手権で3位となっている。コーチの父との二人三脚を星槎が支援している。また、星槎国際高校湘南の女子サッカー部は、2018年度に全国選手権を制した。わずか創部5年目での快挙だ。

なぜ、星槎のような新しい高校が、ここまで実績をあげるのだろうか。全ての生徒が超一流の素材というわけではないだろう。私は、星槎が学業とスポーツの両立を本気で考えているからだと思う。そして、前者に関して通信制教育は大きな武器になる。世界中、どこにいても学ぶことができるからだ。

通信制教育について、星槎には一日の長がある。既にさまざまな分野にこのシステムを応用している。医療関係ならば、専門学校を卒業した看護師、多くは病院の管理職を対象に通信制の修士、博士課程も設置している。私も客員教授を務めている。現場経験を積んだベテラン看護師が入学して、熱心に学んでいる。通信制なので、日常業務との両立が可能だ。

問題は教員の手間が増すことだ。学生を学校に長時間、拘束できないため、効率よく、集中して指導しなければならない。一方、教育を効率化し、時間をつくることで、生徒は課外活動や日常勤務をすることが可能になる。

これは、われわれの世代の進学校が、集中力を高めて、勉強とスポーツを両立してきたことと本質的に変わらない。われわれの世代との違いは、リモート教育を活用することで、地理的な制約がなくなることだ。

指導者に人的ネットワークがあり、幾ばくかの経済的な支援があれば、若きアスリートは国内外を転戦しながら、力をつけることができる。その成果とも言えるのが、前出の小久保君や鍵山君、星槎国際高校湘南の女子サッカー部だ。

このやり方は大学教育にも応用できる。学生をキャンパスに縛りつけず、世界各地で経験を積ませ、教員はリモートで指導することも可能だ。Zoomのような便利なシステムも普及した。

人材は「教室」ではなく「現場」で育つ
実は、このやり方は、その気になれば今でもできる。自験例をご紹介しよう。私は2016年3月まで東京大学医科学研究所に在籍し、大学院生を指導していた。その1人に坪倉正治医師がいた。

彼は大学院博士課程の4年間、福島と東京を往復しながら、診療、研究に従事した。前出の星槎寮に住み込み、星槎のスタッフで「寮長」を務める尾崎達也先生と寝食を共にした。坪倉医師は「プロジェクトマネージメント、信頼関係の構築の仕方など、多くを尾崎先生から学んだ」という。彼は尾﨑先生から「多くを盗んだ」そうだ。

坪倉医師は、原発事故が福島に与えた影響を約130報の英文論文にまとめて発表した。米エキスパートスケープ社が選ぶ「地震に詳しい医師」として世界第2位にランキングしている。現在は福島県立医科大学の放射線健康管理学講座の主任講座を務め、昨年はフランス政府から原発事故対策のガイドライン改定の作業に協力を求められて、渡仏した。

彼が若くして成功したのは、福島県相馬地方という「現場」で診療・研究活動に従事したからだ。私はメール、携帯電話、フェイスブックのメッセンジャーなどを介して指導したし、被災地には星槎をはじめ、多くの優秀な人々が集っていた。人材は「教室」ではなく「現場」で育つのだ。

教育の本質は教師と生徒の交流だ。さらに、若者は異郷や異文化に触れて育つ。コロナ禍をきっかけに、リモート教育が普及した。場所の制約を受けない新しい教育のかたちは、さらに優秀な若者たちを育てるにちがいない。世界の教育は一変するだろう。われわれも変わらねばならない。

連載:現場からの医療改革
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