iPS細胞・山中教授を助けろ! 京都府と京都市が乗り出した「支援」の中身

iPS細胞・山中教授を助けろ! 京都府と京都市が乗り出した「支援」の中身

  • Forbes JAPAN
  • 更新日:2020/11/20
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最先端の科学研究開発において、避けることのできない課題が研究資金の確保だ。

「研究者が自分の研究を進めるには、国をはじめ公的な機関による公募に応募し、研究費を獲得しなければなりません。その際、仮に資金を獲得できても、公募の条件として研究できる期間が決まっています。そのため、短期間で成果が出なければ、研究全体の継続が難しくなります」(山中伸弥『走り続ける力』28ページ)

世界の研究者は国の競争的資金の獲得に取り組むのはもちろんだが、研究組織の財政の安定化のため寄付を募って基金等を設置するという手法があり、寄付文化の成熟したアメリカでは盛んに活用されている。翻って、日本の基礎研究における資金集めの現状はどうなっているだろうか。そこでは新しい寄付の仕組みづくりが始まっていた。

研究資金集めに奔走する山中教授

ほぼ限りなく増殖し、身体の様々な組織に分化することができるiPS細胞。その発見者で、2012年のノーベル生理学・医学賞を受けた京都大学の山中伸弥教授(58歳)の趣味は「走る」ことだ。

学生時代からスポーツマンだった山中教授は、2011年、40代最後の記念にと四半世紀ぶりにフルマラソンに挑み、完走。その後、すっかりマラソンにハマった山中教授は週に5日、1時間のランニングを自身に課している。そして後述するが、所長を務める京都大学iPS細胞研究所(CiRA)の資金を募るため、各地のマラソン大会にも出場している。

iPS細胞の研究においても、趣味においても、「長距離走」に挑み続ける山中教授だが、その「伴走者」としてこのほど名乗りを挙げたのが、京都府と京都市だ。

山中教授が参加した京都マラソンが縁となって、府と市が、10月28日からクラウドファンディング型のふるさと納税を通じて、CiRAから分離した京都大学iPS細胞研究財団(iPS財団)に寄付できるような仕組みをつくりあげた。

これで一般の人でもたやすくiPS財団への寄付が可能となり、iPS細胞を使った再生医療をリーズナブルな価格で提供できるようにするための研究開発や、企業との連携などの活動を支援できるようになる。

山中教授自らマラソンに参加して寄付を呼びかけ

京都府と京都市の、ふるさと納税によるiPS財団への支援は、2018年2月に行われた京都マラソンで山中教授と西脇隆俊京都府知事が交わした会話がきっかけだったという。

それまでも研究の進展とともに、iPS細胞の研究資金確保のための体制が構築されてきた。

2009年、京都大学iPS細胞研究所(CiRA)の人件費をはじめとする研究資金を安定的に確保するため、京都大学基金「iPS細胞研究基金」が創設された。

さらに、2020年4月には移植治療のためのiPS細胞をストックしておくプロジェクトなどの機能をCiRAから分離する形でiPS財団が新たに活動を開始した。

日本における寄付文化が発展途上であるなか、山中教授は2012年3月に開催された京都マラソンに出場。マラソン完走への挑戦を通じてiPS細胞研究基金への寄付を呼びかけ、1000万円以上の寄付金を集めた。

山中教授のマラソン大会への参加による寄付募集の呼びかけはその後も続き、今年2月の京都マラソンでの西脇知事との会話へとつながっていった。その間、山中教授のマラソンの記録も、4時間3分19秒(2012年の京都マラソン)から、今年2月の京都マラソンでは3時間22分34秒と自己ベストを更新したという。

今回、京都府と京都市が設定したクラウドファンディング型のふるさと納税について少し説明しよう。

ふるさと納税は、ある地方自治体へ寄付すると、国に納める所得税と、住民票を置いている自治体に納める住民税から一定限度までその寄付金に応じた金額が控除(引かれる)される制度だ。

つまり、ふるさと納税とは「税」ではなく「寄付金」なのだが、あたかも、自分の納めるはずだった国税や地方税の一部を、居住していない自治体へ選択的に納めているかのようであることから「納税」の名が付いている。

そして、「納税」の見返りとして、その自治体の名産などの返礼品が得られる。これがふるさと納税の人気を過熱させているのはご存じの通りだ。

ただ、ふるさと納税には、ある自治体に対して用途・目的を指定せず全般的に使ってもらうように寄付するメニューがある一方、動物愛護や文化施設運営など、その人が特別関心を払っている課題や政策に限定し、目的を指定して寄付するメニューも用意されている。納税や自治体の予算について意識的に考え、自治体に何を望むかを自覚するきっかけにもなっている。

目的指定寄付の形を発展させた

クラウドファンディング型のふるさと納税は、こうした目的指定寄付の形を発展させたものと言える。クラウドファンディングのプラットフォームサイトの形式を借り、政策課題を解決する特定のプロジェクトへの寄付を、目標金額と募集期間も設定して募集する。

クラウドファンディングでは、目標金額を達成できなかった場合、プラットフォームによって寄付を受け取ることができない成功時実施型(オールオアナッシング)と、達成した金額を受け取ってプロジェクトを実行する実施確約型(オールイン)に対応が分かれるが、クラウドファンディング型のふるさと納税は、この分類でいくと実施確約型となる。

また、クラウドファンディング型のふるさと納税については、寄付する人の課題への思いを重視し、そのプロジェクトにのみ使われることが強調され、返礼品は用意されていない場合が多い。

そして、このクラウドファンディング型のふるさと納税と相性がいいということで、しばしば寄付の使用目的に設定されるのが、ある政策課題の解決に資する活動や事業を行っているNPO(非営利団体)や企業への支援だ。

自治体は注力したい政策を推進するためにNPOや企業に補助金や助成金を出すことがあるが、支援先の組織名と活動を公表・紹介したうえで、支援の原資そのものをふるさと納税として募ることで、ふるさと納税する人がその団体や企業に直接寄付したのと同じ効果を生むことができる。

寄付する側としても、寄付額に応じて税金が控除されるうえ、ふるさと納税のプラットフォームを通じて手間をかけずに寄付できるというメリットがある。

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京都府と京都市によるIPS細胞研究支援ふるさと納税プロジェクト記者会見にて(10月28日・京都市)。左から門川大作京都市長、西脇隆俊京都府知事、山中伸弥iPS細胞研究財団理事長(オンライン参加)、川村憲一トラストバンク代表取締役。

今回京都府と京都市が寄付を募集する、iPS財団への支援プロジェクトの目標金額はそれぞれ2200万円と1500万円。府も市も、iPS細胞技術を活かした再生医療等の推進と関連する産業の振興というメインテーマだけでなく、AI・IoT等を活かした医療等(府)や、ライフサイエンス(市)に関連する中小企業等支援というサブテーマが設定されている。

京都府の場合、目標通り2200万円が集まった場合、iPS財団に1500万円、京都スマートシティ振興協議会に700万円が交付される。府も市も、募集ウェブサイトにおいて、目標金額を達成できなかった場合でも支援を行い、目標金額以上の寄付が集まった場合もこの事業に活用される旨を明記している。

今回の寄付の募集期間は府も市もともに来年1月31日(日)まで。詳細な支援対象の活動内容や、寄付申込先についてはふるさと納税プラットフォーム「ふるさとチョイス」の特設ページを参照されたい。(京都府はこちら、京都市はこちら

iPS細胞を活用した医療の開発と普及といった、最先端の研究に対して国がいかに資金を手厚く支援していくかについては議論と検討の余地が大いに残されているが、まずは地方自治体や市民レベルでの寄付が容易になるチャンネルが増えたことはとりあえず喜びたい。

参考文献(読書案内)

・山中伸弥『走り続ける力』毎日新聞出版、2018年

直筆コラム、対談、インタビュー、評伝で立体的に山中教授の研究と人生を浮かび上がらせる。話題は多岐にわたっているが、新聞連載がベースなので読みやすい。なぜマラソンに挑戦を続けるのかなど、山中教授の肉声が感じられる。

・上坂和美『折れない心で希望をつなぐ! iPS細胞を発見! 山中伸弥物語』PHP研究所、2017年

小学生から理解できる、山中教授の伝記。シンプルな筆致だからこそ、海外と日本の研究環境の差が強調される。

・山中伸弥(監修)、京都大学iPS細胞研究所(編著)『iPS細胞の世界 未来を拓く最先端生命科学』日刊工業新聞社、2013年

一般の人にも研究内容を開いていく科学コミュニケーション重視の姿勢から、研究の背景、医療での応用と専門的な内容にまで立ち入って解説。ノーベル賞受賞当日のドキュメントも。

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