過度な不安を貯蓄のモチベーションに変換する

身近なようで、なかなか実態を知ることのない年金。
2021年に発表された厚生労働省の「令和2年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」によると、厚生年金の月平均は約14万円でした。
こちらの金額を見て、少ないと感じる方や多いと感じる方など、印象はさまざまでしょう。
しかし、厚生年金を受け取れない人もいます。年金は基礎年金と厚生年金の2階建てとなっているため、それぞれ分けて考える必要があるのです。
日本の年金制度についておさらいするとともに、基礎年金だけの月平均も確認してみましょう。
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1. 年金制度の基本をおさらい!厚生年金と基礎年金とは?
日本の年金制度は「厚生年金」と「基礎年金」という2階建て構造になっています。

出所:日本年金機構
1階部分(基礎年金):日本に住む20歳以上60歳未満のすべての人が加入し、一律の保険料を納める
2階部分(厚生年金):会社員や公務員などが国民年金に上乗せして加入し、報酬比例の保険料を納める
自営業や専業主婦(主夫)などは厚生年金に加入しないため、将来は「老齢基礎年金」のみを受給することになります。
一方会社員や公務員等は、「老齢基礎年金」に上乗せして「老齢厚生年金」が受け取れます(受給資格を満たした場合)。
ただし、冒頭でご紹介した「厚生年金の平均14万円」には、基礎年金の金額も含まれています。
それぞれの受給額についてもう少し深掘りしていきましょう。
2. 厚生年金と基礎年金の平均受給額(月額)
ここからは厚生労働省年金局「令和2年度 厚生年金・国民年金事業の概況」より、基礎年金と厚生年金の平均年金月額を見ていきます。
2.1 基礎年金の平均月額
〈全体〉平均年金月額:5万6252円
〈男性〉平均年金月額:5万9040円
〈女性〉平均年金月額:5万4112円
2.2 厚生年金(第1号)の平均月額
〈全体〉平均年金月額:14万4366円
〈男性〉平均年金月額:16万4742円
〈女性〉平均年金月額:10万3808円
※基礎年金の金額を含む
基礎年金受給者では、平均が男女ともに5万円台となっていますね。厚生年金を受給している方だと、男性の平均は16万円台、女性の平均は10万円台です。
「厚生年金の平均は約14万円」とはいうものの、男女で約6万円も差があることがわかります。差があるのは男女間だけではなく、実は個人間でも見られます。
より実態をつかむために、次では受給額の分布も確認しましょう。
3. 「基礎年金受給額の分布」年金月額ごとの人数とは
厚生労働省の同資料から、実際に受給している年金額ごとの人数をご紹介します。

出所:厚生労働省「令和2年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」
3.1 基礎年金(国民年金)月額階級別の老齢年金受給者数
1万円未満:7万4554人
1万円以上~2万円未満:29万3600人
2万円以上~3万円未満:92万8755人
3万円以上~4万円未満:284万2021人
4万円以上~5万円未満:466万3638人
5万円以上~6万円未満:776万979人
6万円以上~7万円未満:1483万5773人
7万円以上~:188万2274人
平均は5万6252円でしたが、上記を見るとボリュームゾーンは男女ともに「6万円以上~7万円未満」であることがわかります。
また基礎年金では保険料を40年間しっかり納めた場合「満額」が受け取れます。ちなみに2022年度の満額は月額6万4816円。これは2021年度に比べて259円の減となっており、今後も減少する可能性は高いです。
逆に言えば、40年間すべての保険料を納めたとしても満額は月額6万4816円ということです。年額にして約78万円なので、「基礎年金がこれだけでは老後を過ごせない!」と感じる方もいるのではないでしょうか。
おひとりさま世帯や夫婦ともに自営業の世帯などでは、年金で足りない分の老後資金の必要性が高まります。
4. 「厚生年金受給額の分布」年金月額ごとの人数とは
同様に厚生年金についても、人数の分布をグラフとともに見ていきます。
4.1 厚生年金月額階級別の老齢年金受給者数

出所:厚生労働省「令和2年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」
1万円未満:10万511人
1万円以上~2万円未満:1万8955人
2万円以上~3万円未満:6万6662人
3万円以上~4万円未満:11万9711人
4万円以上~5万円未満:12万5655人
5万円以上~6万円未満:17万627人
6万円以上~7万円未満:40万1175人
7万円以上~8万円未満:69万4015人
8万円以上~9万円未満:93万4792人
9万円以上~10万円未満:112万5260人
10万円以上~11万円未満:111万9158人
11万円以上~12万円未満:101万8423人
12万円以上~13万円未満:92万6094人
13万円以上~14万円未満:89万7027人
14万円以上~15万円未満:91万3347人
15万円以上~16万円未満:94万5950人
16万円以上~17万円未満:99万4107人
17万円以上~18万円未満:102万4472人
18万円以上~19万円未満:99万4193人
19万円以上~20万円未満:91万6505人
20万円以上~21万円未満:78万1979人
21万円以上~22万円未満:60万7141人
22万円以上~23万円未満:42万5171人
23万円以上~24万円未満:28万9599人
24万円以上~25万円未満:19万4014人
25万円以上~26万円未満:12万3614人
26万円以上~27万円未満:7万6292人
27万円以上~28万円未満:4万5063人
28万円以上~29万円未満:2万2949人
29万円以上~30万円未満:1万951人
30万円以上~:1万6721人
厚生年金の平均は14万4366円ですが、全体のボリュームゾーンは「9万円から10万円」です。
男女別にボリュームゾーンを確認すると、男性17~18万円、女性は9~10万円。やはり平均と同様に、男女差が浮き彫りとなりました。
5. 年金受給額が少なくて不安な場合
実際に支給されている「厚生年金と基礎年金」の平均額を見ていきました。平均だけでなく分布もみることで、より実情がわかりましたね。
公的年金には厚生年金と基礎年金があり、どちらを受給できるかによっても水準は異なります。
ただしここ2年は年金のマイナス改定が続いており、厚生年金受給者であっても「安泰」とは言えないでしょう。
自分の年金受給額が知りたい場合、ねんきんネットにログインするかねんきん定期便で確認する方法があります。
また厚生労働省からは「公的年金シミュレーター」が試験運用されており、こうしたツールで目安額を知ることも可能です。
もし目安額が少なくて不安になったときは、時間を味方につけて「老後資金」を貯めていくことが先決です。
過度な不安感を持っていてもお金は貯まりません。大切なのは正しく危機感を持つこと。危機感を貯蓄へのモチベーションに替え、客観的なマネープランを練ってみましょう。
老後まで時間があるほどに、資産運用などの選択肢も広がります。年金に関心が持てた今がチャンスと捉え、少しずつ準備を始めてみてはいかがでしょうか。
参考資料
厚生労働省「令和2年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」(2021年12月)
厚生労働省「スマホで簡単に年金額試算「公的年金シミュレーター」を4月25日から試験運用を開始します!」
太田 彩子