世界の観光産業は2023年に完全復活か 1億2600万人分以上の新規雇用が創出されるとの見込みも

世界の観光産業は2023年に完全復活か 1億2600万人分以上の新規雇用が創出されるとの見込みも

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  • 更新日:2022/05/14

新型コロナウイルス感染症拡大の影響で、大打撃を受けた世界の観光産業。世界旅行ツーリズム協議会が4月下旬に開催された年次総会で発表した予測では、世界の損失額は年間2兆1000ドル、影響を受けた観光関連産業従事者は7,500万人以上にのぼるとされた。

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https://www.traveldailymedia.com/travel-hesitancy-real-for-some-not-for-most/

しかしながら、観光産業は2年以上もの間停滞を乗り越え、いま復興の兆しだけでなく、コロナ前の水準への回復も見えているという。同協議会によると、世界の観光産業は2023年にコロナ前の水準に完全復帰し、これから10年間の成長率は世界経済の成長率を大幅に超える5.8%に達する可能性すらあるとし、1億2600万人分以上の新規雇用が創出される見込みだ。

一方消費者の間では安全性に対する意識変化が起こっている。旅行先を選ぶ基準や消費パターンに変化が起こり、消費構造が変わる可能性も指摘されている。

新型コロナウイルスにより大打撃を受けた世界の観光産業

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世界旅行機関(UNWTO)による2019年と比較した2020年、21年、22年1月の海外渡航者数の推移。すべてが大幅なマイナス数値だ。(UNWTO World Tourism Barome

新型コロナウイルス感染拡大に伴うパンデミック以前、観光産業は世界のGDPの10%を占める主要産業であり、世界中で約3億3千万人が従事していた。2019年に1泊以上の海外旅行をした人たちは延べ15億人、これが2020年には11億人減の4億人、2021年になっても4億1500万人程度の回復にとどまった。

2020年と21年の2年間の損失額は、4兆1000万ドル(当時のレートで約450兆円超え)になると国連貿易開発会議(UNCTAD)と国連世界観光機関(UNWTO)が推計を発表(2021年)、約18.5%にあたる6,200万人が失業したという統計もある。

日本では、2019年に約3,200万人を記録した訪日客が2020年には412万人(前年比87.1%減)、訪日外国人による消費額は2019年の4兆8100億円強から20年には7500億円弱(同84.5%減)、4兆円余りの減収と影響は甚大だ(統計:観光庁による令和3年度観光白書)。

爆発する旅行熱

未知のウイルスによる感染症の拡大に伴い、不要不急の外出や出入国が厳しく制限され世界中の人々が旅行はおろか移動の自由を奪われた2年間だった。

今年に入ってから制限が徐々に緩和され、欧米諸国では早くも4月のイースターホリデーから海外旅行に出かける人たちが急増。SNSにはスイスでのスキーやタイのビーチ、待ちに待った家族でのディズニーランド訪問などの投稿が相次いだ。

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注目が集まるエコツーリズム(ハワイ州観光局

日本でも今年のゴールデンウィークは3年ぶりに制限のない休日として、各地で人出が大幅増となり連日ニュースをにぎわせた。

航空・鉄道各社の予約状況発表によるとJRでは一部列車で自由席の乗車率が100%を超え、航空会社の国内線予約は前年比1.7倍、国際線は4.7倍と好調。高速道路では20キロ以上の渋滞が相次ぎ、復調が見えてきているように感じる。

しかしながらこれはパンデミック以前と比較して、6割程度にしか過ぎない。しかもインバウンド客はほぼ皆無に近い。

世界中で入国制限の緩和が進む中、アジア太平洋地域では観光客を受け入れていない国も多く、日本もその一つだ。

マレーシア、タイ、インドネシア、ベトナム、オーストラリア、カンボジアが制限を緩和した結果、観光産業が回復傾向に転じている一方で、日本や中国、マカオ、台湾、太平洋のサモア、バヌアツ、ミクロネシアやマーシャル諸島の一部は、4月27日現在、観光客を原則受け入れていない。

5月に発表されたばかりのイギリスの保険会社World Nomadの調査によると今年、イギリスの人口の約40%にあたる2100万人が旅行に出たいと答え、うち43%が35歳未満の若い層であったという興味深い結果が出た。

目的地はヨーロッパが1位、次いでアメリカ、カナダ、メキシコ、アラブ首長国連邦、タイが人気トップ5。ヨーロッパ内や地中海での休暇が主流だったこれまでの傾向から、2年間の我慢を強いられたのち、エジプトや日本、キューバといった遠くに出かけたいと回答する人たちも多く、「これまでになかった旅」を望んでいる傾向が顕著だとされている。

調査ではまた、42%が「パンデミックによる抑圧が新しい経験のできる旅への欲望をかき立てた」と回答し、24%にあたる1,270万人が実際に、旅行計画を延長、ないしアップグレートしたと回答している。思い出に残る旅のために、特に今年はより多くの支出をする予定があるとする人も多く、そのために十分な蓄えをしてきたと答える人も28%いた。

一方で慎重論もある。サウジアラビアのリヤドで5月に開催された航空フォーラムに先駆けて発表されたYouGovによる調査では、不明瞭な規制による空の旅への不安を抱える人がまだ多いと専門家が警告している。

アラブ湾岸6カ国、アメリカ、イギリス、イタリアで実施された回答者のうち、アラブ湾岸諸国に暮らす46%、イギリス人とイタリア人の40%、アメリカ人の32%が渡航の規定や入国規則の混乱による不安から、2022年に空の旅をしたくないと回答。アラブ湾岸諸国の回答者68%と、イタリア、イギリス人がそれぞれ60%以上、アメリカ人の46%が同様の理由で、2021年には実際に旅行をしなかったと答えている。

この調査結果は、中東の観光産業は2022年に2,460億ドル(約32兆円)の利益をもたらすとする前述の世界旅行ツーリズム協議会が発表した予測と相反する結果となり、関係者は困惑を隠せない。

回復の兆しが見えてきた航空、ホテル、レンタカー

それでも、欧米の主要航空会社は2022年第2四半期には業績が黒字回復すると確信している。海外にいる家族に会うため、留学、出張などこれまで抑圧されてきた移動が規制緩和とともに爆発的に増加しているからだ。

ブリティッシュエアウェイズをはじめとする航空会社グループIAGは、ロシアによるウクライナ侵攻の影響も少なく、第2四半期にはパンデミック前の80%、年末までには90%の回復ペースと発表。ルフトハンザ航空、エアフランス、KLMも同様の傾向だとしている。

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ただここでも短距離フライトが好調を牽引しつつも、長距離フライトには不安を抱える人も多く、アメリカから欧州への移動に際してウクライナ情勢による不安を抱えるアメリカ人が多いことも指摘されている。

ホテル業界も同様の回復傾向だ。インターコンチネンタル、ホリデイイングループは、スプリングブレイク休暇の予約が好調で、すでに第1四半期にパンデミック以前のレベルへと回復、マリオットグループも2022年末までにアメリカ・カナダで全面回復を見込んでいる。

またレンタカー業界では、ホノルルやロサンゼルス、フロリダなどの人気の旅行先で価格の高騰が起きている。人々が公共交通機関を敬遠したための急激な需要の高まりによるものであるが、1週間のレンタルで中古車が購入できると嘆く消費者の声も聞かれるほどだ。

こうした世界各地での物価の高騰もパンデミック後の旅行ブームに多少なりとも影響を与えつつ、業界へは大きな収入増となりそうだ。

ニューノーマルの旅行スタイル、消費者の期待

さて、パンデミック以前と規制緩和が進む現在では、旅行形態にどのような変化が起きているのか。

日本に限らず、世界中で人々の生活様式が変わった。半ば強制されたテレワークによって、どこでも仕事ができる世界へと移行し、関連テクノロジーの発展も目覚ましい。不可能とすら思われていたリモートワークが、実現可能なのだと誰もが実感しているところだ。

ホテルやレストランの入口には消毒液が置かれ、体温のチェックはもはや日常、マスクをつけたキャビンアテンダントやホテルスタッフがマスク越しに接客やおもてなしをする姿に違和感すら覚えなくなってきている。

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入口で手指の消毒と検温などホテル側の徹底した健康管理対策は通常基準となってきた。写真はタイ・パタヤのホリデイイン

人々は混雑や公共交通機関を避けるようになって以来、自家用車や郊外の一軒家への引っ越しも増加。家族だけ、夫婦だけでの行楽が人気となり、他人との接触を避けた一軒貸しの宿や、貸し切り温泉、キャンプやグランピンクがこれまでになく人気を博しているのも今までにない傾向だ。

ワーケーションと呼ばれるスタイルが注目を浴び、仕事と休暇の境界線があいまいになりつつある一方で、ライフスタイルの変化とともに、本格的な休暇を取りやすくなっている。日本の企業でも週休3日制度の採用が始まるなど、ワークライフバランスが優先される傾向も顕著だ。

また、パンデミック以前から始まったSDGsや自然環境保護に重点をおいたツーリズムへの意識も高まっている。

日本人にも人気の観光地ハワイでは、パンデミックの最中にワイキキビーチの水が見違えるほど透明になり多くの魚が戻ってきたとされ、入場禁止となっていたハナウマベイ自然保護区では自然環境が大幅に改善された。人が介入しないことによって自然環境が守られ、短期間でも目覚ましい改善がみられることが証明され、人々の意識にも影響を与えている。

世界的にもまだ短距離ないしは国内旅行、少人数単位での旅行がメインとなる予想だが、旅行者がこれまでにないゆとりある空間や個人的なスペース、ウェルネスを重視し、安心安全衛生への配慮にプレミアムを支払う思考へとシフトしている。旅行業界、ホテル業界は高付加価値、高価格商品を中心に集客を伸ばし、ニューノーマルへの調整が求められている。

制限の緩和とともに高まる人々の旅行欲は一気に高まる中、量よりも質、高価格へと目を向け始めた業界は消費者心理とのバランスも要求される。安心、安全で質の高いサービスが求められる中で、世界の観光産業はパンデミックで整理した人員の確保も急務の課題となりそうだ。

文:伊勢本ゆかり
編集:岡徳之(Livit

参考
https://edition.cnn.com/travel/article/popular-destinations-closed-tourism/index.html
https://www.unwto.org/impact-assessment-of-the-covid-19-outbreak-on-international-tourism
https://www.mlit.go.jp/common/001408385.pdf
https://www.independent.ie/life/travel/travel-news/the-recovery-is-going-to-be-so-stellar-global-tourism-projected-to-bounce-back-by-2023-41576479.html
https://www.independent.ie/life/travel/travel-news/the-recovery-is-going-to-be-so-stellar-global-tourism-projected-to-bounce-back-by-2023-41576479.html
https://www.arabnews.com/node/2076191/business-economy
https://financialpost.com/pmn/business-pmn/europe-sees-travel-recovery-as-covid-restrictions-ease

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