ヒトラーと東條英機は大戦後も生きていた!?『アフリカン・カンフー・ナチス』の舞台裏

ヒトラーと東條英機は大戦後も生きていた!?『アフリカン・カンフー・ナチス』の舞台裏

  • 日刊サイゾー
  • 更新日:2021/06/11
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アドルフ・ヒトラーは第二次世界大戦後も生きており、ナチス帝国は今も存在する。そんな都市伝説は多くの人を魅了し、SF映画『アイアンスカイ』(12)や社会派コメディ映画『帰ってきたヒトラー』(15)などが公開され、スマッシュヒットを記録している。どちらも閉塞感漂う現代社会への痛烈な風刺が込められた内容だった。そんなヒトラー伝説を扱った作品に、さらに振り切ったアクション映画『アフリカン・カンフー・ナチス』(原題『African Kung-Fu Nazis』)が加わった。ヒトラーだけでなく、東條英機も生きており、アフリカで新たな帝国を築こうとしていた。しかも、空手パワーによって……。というトンデモ系カンフー映画となっている。

妄想好きな中学生男子でもなかなか考えないような本作を企画・製作したのは、日本在住のドイツ人、セバスチャン・スタイン監督。「ガーナのジョージ・ルーカス」と呼ばれるニンジャマン監督とタッグを組み、ガーナロケを敢行。ガーナ人を洗脳して「ガーナアーリア人」に仕立て、世界征服の野望に再び燃えるヒトラーとその盟友・東條が、ガーナでカンフー修行中の若者と対決する。ヒトラーは生きていたという歴史改ざんものに、ブルース・リー主演の大ヒット作『ドラゴン 怒りの鉄拳』(72)、『燃えよドラゴン』(73)、さらにはジャッキー・チェンの出世作『ドランクモンキー 酔拳』(78)をごちゃ混ぜにしたようなカオティックムービーなのだ。

ヒトラーにはまるで似てないヒトラーを演じているのは、セバスチャン監督自身。脚本はアルコール依存症の一歩手前状態だったセバスチャン監督が2日間で書き上げたそうだ。気になる東條英機に扮しているのは、セバスチャン監督とは旧知の仲というパンクロッカーの秋元義人。普段は「便利屋」を営んでいることから、セバスチャン監督の要望に応え、ガーナロケに参加している。ヒトラーも東條も空手の達人という設定だが、セバスチャン監督も秋元も上半身裸になるとどちらも中年のおじさん体型で、トホホ感が漂う。

ところが、ガーナでキャスティングされた俳優たちは、なかなかの逸材ぞろい。身体能力がハンパない上に、カンフーアクションが実に決まっている。ガーナでも、カンフー映画がとても愛されていることが彼らの俊敏な動きから伝わってくる。さらに本作には日本では知られていない未知なる調味料が加味され、不思議な味わいを映画にもたらしている。

本来なら、B級、C級どころかZ級トホホ映画に認定されるだろう『アフリカン・カンフー・ナチス』を、味わい深いものにしているのがガーナの国民的アルコール飲料「アドンコ」。セバスチャン監督に尋ねたところ、もともとはガーナの薬用ハーブ酒だったものが、近年になってブランド化され、ガーナで大変な人気を呼んでいるらしい。アルコール度数40%の「アドンコ・ビター」を、ガーナ人はストレートで飲んじゃうそうだ。その「アドンコ」が本作のタイアップメーカーになったことから、キャストたちは劇中でもアドンコを飲みまくり、リアル「酔拳」を披露している。

酔えば酔うほどに、フィクションとリアルの壁は崩れ、ドイツ人・日本人・ガーナ人らが一緒になって映画熱にうなされながら、おかしなカンフー映画を作っているただのおかしな集団となっていく。実在したナチスドイツと違って、ピースフルなことこの上ない。日本から来たスタッフも、アドンコを飲んでいたおかげで食べ慣れない地元料理を口にしても食当たりなどせずに済んだそうだ。その代わり、撮影はいつも午後からのスタートになったそうだが。

何の説明もなく、ふいに現れるアドンコマン(アドンコの宣伝大使を務めているガーナのおじさん)も不思議な存在感を放っている。ヒトラーの世界征服計画とはまるで関係ない人物だが、ヒトラーが開催する最強格闘家トーナメントをアドンコを飲みながら見物している。ヒトラーの片腕であるゲーリング役の地元俳優がカメラマンとケンカして、現場から姿を消すという大ピンチの際には、アドンコマンがカメラの前に立つことで窮地を凌いだそうだ。さまざまなトラブルが『アフリカン・カンフー・ナチス』の撮影現場を襲ったが、アドンコとアドンコマンによって乗り切ることに成功している。

セバスチャン監督の略歴も紹介しておこう。ドイツのバイエルン地方の小さな村に生まれたセバスチャン監督は、香港の古いカンフー映画を観ながら少年時代を過ごした。高校に入ると、パンク音楽などのサブカルチャーにハマり、1999年にはパンクバンド「Horst Hitler and the Swastikas」を結成し、セバスチャン監督はヒトラーに扮し、なぜか女性の下着姿での演説スタイルで歌唱するという過激なプロモーションビデオも制作している。ライブ演奏後には、右翼集団から顔面を殴られる経験もしたそうだ。

本作の脚本を酔っ払って2日間で書き上げたというセバスチャン監督だが、ヒトラーとカンフー映画、そしてパンク精神はセバスチャン監督にとって、長年培って来た重要なモチーフであったことが分かる。

ドイツではいまだにヒトラーもナチスもタブー扱いされているが、「タブーにすることで逆に神秘的な雰囲気を生み出し、逆効果になってしまう」とセバスチャン監督は考えている。ヒトラーやナチスを描くなら、徹底的にバカバカしく、ギャグにしてしまえと。かくして、振り切った超Z級ポリティカル・アクションコメディ大作『アフリカン・カンフー・ナチス』が完成した。

ドイツ、オーストリア、スイスなどのドイツ語圏ではすでに公開され、成功を収めている。コロナ禍のためにスクリーンでの上映は少なかったものの、DVDやブルーレイの売り上げは好調で、売り切れ店が続出しているという。また、過激な内容だが、予想に反して作品完成後のトラブルはいっさい起きていないそうだ。

ちなみにセバスチャン監督のドイツにいる家族も、すでに鑑賞ずみとのこと。収容所体験を持つユダヤ人の継父に育てられた母親からは「映画製作からは引退したほうがいい」、父親からは「パート2に出演したい」と言われたそうだ。

バカバカしい映画だと思う人がほとんどだろうが、セバスチャン監督はカンフー映画への愛情とアドンコの力を借りて、実に多く困難を乗り越えてみせた。一冊の本が書けるくらいの体験を味わったという。そんなセバスチャン監督がくれたメッセージを最後に紹介したい。

「僕たちは、生きている限り何だって可能なんです。日本に住んでいる酔っ払いのドイツ人と神奈川の便利屋が、ヒトラーと東條がアフリカでカンフーをする映画を作ることができるなら、何だって可能なはずです。あなたにもできます。そして、人生で一度くらいはリスクに挑んでみましょう。ドイツにはこんな言葉があります。『リスクに挑まない者は、決して何も勝ち取れない』。これは本当に正しいと思います。なぜなら (1)そこから新しいことを学ぶことができる。(2)人生で最も面白い経験ができる。(3)運が良ければ、大当たりするかも。私の場合、(1)と(2)はすでに実現しましたが、(3)についてはまだ期待しています(笑)。あともうひとつ、どこに行っても人間の本質はみんな同じだというです。誰もが自分と家族のために良い生活をしたいと思っていますが、置かれている環境がただ違うだけなのです」

振り切った作品を撮り終え、それを完成させた者しか味わえない美酒の味を、セバスチャン監督は知っている。この映画を観た人は必ず、アドンコが飲みたくなるだろう。アドンコとカンフー映画の魅力に陶酔させるプロパガンダムービーとして、『アフリカン・カンフー・ナチス』はあなたの記憶に忘れ難く残るに違いない。

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『アフリカン・カンフー・ナチス』

監督/セバスチャン・スタイン、ニンジャマン 脚本/セバスチャン・スタイン

出演/エリーシャ・オキエレ、マリスエル・ホッペ、秋元義人、ンケチ・チネドゥ、アンドリュース・メンサー、アマンダ・アチアー、ウォーカー・ベントル・ボアテング、クアク・アドゥ、セバスチャン・スタイン 配給/トランスフォーマー6月12日(土)より渋谷シアター・ イメージフォーラムほか全国順次公開

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