【筋肉の豆知識】理学療法士が解説「人体で最もいらない筋肉って?」不要な筋肉の役割と活用法

【筋肉の豆知識】理学療法士が解説「人体で最もいらない筋肉って?」不要な筋肉の役割と活用法

  • ヨガジャーナルオンライン
  • 更新日:2021/10/14
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体の中で、最も不要といわれている筋肉は何だと思いますか? 私たちの体は約600個の筋肉から成り立っています。不要な筋肉とその理由、活用法を理学療法士の堀川ゆきさんに教えていただきました。

必要な筋肉と不要な筋肉

前回は人体で最も必要な筋肉はどれかについてお話しました。
筋肉は大小さまざまな大きさのものが全身に約600個存在します。そのうち最も重要な筋肉をたった1つ選ぶということは、実はとても難題でした。その中でも厳選して重要な筋肉をこちらにいくつか紹介させていただきました。

理学療法士が考える【人体で最も大切な筋肉】第1位は? ヨガで大切な筋肉を鍛えよう!

今回は、前回とは逆に人体で最も不要な筋肉とはどれかについてお答えしようと思います。

筋肉はいくつある?

おさらいですが、全身に600個ある筋肉のうち、自分の意思で動かせる筋肉を随意筋といいます。私達が通常身体を動かす際に働く「骨格筋」がそれにあたります。骨格筋は約400個存在します。私達が筋肉と聞いてまずイメージする筋肉がこちらだと思います。
一方で、心臓や内臓や血管の筋肉など、自分の意思で動かせない筋肉を不随意筋といい、不随意筋は約200個存在します。心臓の筋肉は「心筋」、内臓や血管の筋肉は「平滑筋」といいます。
ですので、随意筋だけでなく不随意筋を含めると、合わせて600個以上の筋肉で私達一人一人の身体は成り立っているということになります。

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奈良勲他「標準理学療法学・作業療法学 専門基礎分野 解剖学」より改変

人体で最も不要な筋肉とは?

それはズバリ「長掌筋(ちょうしょうきん)」です。私達の腕の肘から手首にかけてある長細い筋肉です。
親指の腹と小指の腹をくっつけて、手首を軽く曲げてみてください。手首の辺りに目立った腱が見えると思います。それが長掌筋で、肘の近くで筋肉になり、肘の内側の骨までつながっています。

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Photo by Yuki Horikawa

長掌筋は、手首を曲げる動きが主な働きです。手首を曲げるはたらきを持つ筋肉は、
・橈側手根屈筋
・長掌筋
・尺側手根屈筋
の3つがあります。

長掌筋がない?

親指と小指をくっつけて手首を曲げても腱が浮き出て来ず、「あれ?長掌筋がない?」と思った人がいるかもしれません。心配いりません。長掌筋が生まれつきない人もいます。進化型タイプといわれたりもするようですが、その人数は文献にもよりますが、全体の4%とも5%とも14%ともいわれています。日本人より白人の方が多いそうです。
先述した通り、手首を曲げる筋肉は長掌筋以外にもあり、長掌筋の有無で握力や腕力の差はないことも分かっているので、長掌筋が欠損していたとしても全く問題はないそうです。

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町田志樹「町田志樹の聴いて覚える起始停止」より改変

長掌筋は何の役に立つのか?

さてそんな長掌筋は、一体何の役に立つのでしょうか?
実は長掌筋は、取り除いてもほぼ影響がないことから「移植腱」として用いられることが多いのです。リウマチの人の指の腱や、肩の再建で移植されるなど使われ方は様々ですが、この長掌筋腱を移植して損傷した腱や靭帯を補強することができるのです。中でも長掌筋腱の再建術で有名なのが、「トミー・ジョン手術」です。これは肘の靭帯断裂に対する手術で、野球の投手が受けることの多い手術です。
日本人選手では、桑田真澄選手、松坂大輔選手、ダルビッシュ有選手、大谷翔平選手なども受けている手術で、ほかにも数多くのメジャーリーガーが同様の手術を受けています。
それまでは肘を痛めてしまって引退する選手が多かった中、この手術のお陰で第一線に復帰することができるようになったことが、この手術の素晴らしいところです。
近年、少年野球や高校野球、メジャーリーグでも投球数の制限について喚起されるようになったのは、肩や肘の故障を防ぐためというのは周知のことかと思います。
私も野球で痛めた10代20代の患者さんの肩や肘のリハビリに今まで何度か携わらせてもらいました。リハビリである程度の改善は見込めますが、やはり何より故障しないことと予防が大切です。そのためには投球数の制限、正しい投球フォームの習得、全身のコンディショニングがとても重要だと思っています。

まとめ

人体で最もいらない筋肉、私が答えるとしたら「長掌筋」です。ただし、無くてもいい筋肉だからこそ、靭帯再建や腱の移植に有効に利用することのできる、かけがえのない筋肉ともいえます。
全身に600個存在する筋肉、その一つ一つが私達の身体を構成してくれている神秘と、トミー・ジョン手術のような医療技術の進歩、その背景にある医療従事者の臨床と研究への努力には、本当に頭が下がる思いです。

参考:
町田志樹「町田志樹の聴いて覚える起始停止」三輪書店,1019
坂井建雄「筋肉のしくみ・はたらきゆるっと事典」長岡書店,2018
町田志樹「PT・OTビジュアルテキスト専門基礎 解剖学」羊土社,2018

堀川ゆき

理学療法士。ヨガ・ピラティス講師。モデルやレポーターとして活動中にヨガと出会い、2006年にRYT200を取得。その後健康や予防医療に更なる関心を持ち、理学療法士国家資格を取得し、慶應義塾大学大学院医学部に進学。現在大学病院やスポーツ整形外科クリニックで、運動機能回復のためのリハビリ治療に携わる。RYT200解剖学講師も務める。

堀川ゆき

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