今泉佑唯、渡辺みり愛、伊藤理々杏の個人PVに描かれた「人間ならざるもの」との邂逅【乃木坂46「個人PVという実験場」第20回3/5

今泉佑唯、渡辺みり愛、伊藤理々杏の個人PVに描かれた「人間ならざるもの」との邂逅【乃木坂46「個人PVという実験場」第20回3/5

  • 日刊大衆
  • 更新日:2021/07/22
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※元欅坂46今泉佑唯/画像はEXwebの記事(https://exweb.jp/articles/-/70152)より

乃木坂46「個人PVという実験場」

第20回 乃木坂46が「人間ならざるもの」を演じるとき 3/5

前回更新分では、2016年の渡辺みり愛の個人PV「わたしのみかた」(監督:タナカシンゴ)をとりあげた。このショートドラマで渡辺が演じたのは、雨模様のときにだけ姉のもとにやってくる妹の役だった。

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渡辺演じる妹はすでに生身の人間でなく、降雨とともに姿を現し、雨が上がって陽が差すと同時に消え去ってしまう。彼女にとって雨とは、姉と自分とをつなぎ、また母との思い出を現前させるための装置であった。

降雨とはその性質上、ごく一時的なものにすぎない。姉妹の穏やかな邂逅は容赦なく訪れる雨止みによってあっさりと終わりを迎え、妹は雨とともにあるべき場所へ帰っていってしまう。とはいえ、人間ならざる存在である妹のマイペースな佇まいによって、本作は哀感よりもむしろどこか軽やかな、不思議な後味を残すドラマになっていた。

伊藤理々杏の「moon,」

「わたしのみかた」を手がけたタナカシンゴはこののち、乃木坂46の22枚目シングル『帰り道は遠回りしたくなる』で企画された個人PVにおいて、今度は伊藤理々杏の個人PV「moon,」を監督し、やはりドラマ型作品に仕立てている。

「moon,」で伊藤が演じるのも、「わたしのみかた」とは異なる位相ながら“人間ならざるもの”であり、タナカによるこれら2作品は主人公の性質において同系列にある。

https://www.youtube.com/watch?v=0b4jfJSqTiQ
(※伊藤理々杏個人PV「moon,」予告編)

そればかりでなく、これら2つのドラマは互いに対をなすように基本となるイメージを共有している。すなわち、いずれの作品も降雨というごくわずかな刹那のうちに、人間と人間ならざるものとの儚い邂逅を託しているのだ。

「moon,」もやはり、「わたしのみかた」と同じく雨降りの画からドラマが始まる。「空から月がいなくなって5日がたった」という超現実的な設定がナレーションで語られたのち、語り手の少年が傘を差して学校から帰宅してくる。少年が軒先に見つけたのは、白い衣をまとった女性(伊藤)。少年から「雨が止むまで」の逗留を許された女性の姿は、明確に空からいなくなった「月」を写し取ったものであることがわかる。

同時に、伊藤演じる女性にはもうひとつの、「月」が投影されている。彼女は「海に浮かんで月を眺めるのが好きだった」と物語ってみせる。それは、作品冒頭のカットで上方へと泳いでゆくクラゲの姿と重なる。海面に浮かぶクラゲ(海月)のイメージは、空に浮かんだ月の写し絵にほかならない。彼女が雨と同時に姿を現し、「水」を欲するのは、何より彼女がクラゲの化身であることを示唆している。

やがて、「わたしのみかた」と同じように雨は止み、それを合図に異種間の邂逅はあっけなく終わる。「わたしのみかた」の渡辺は赤い傘を残して姿を消したが、本作「moon,」では伊藤は人間の姿でなくなるかわりに、ひとつの景色を少年に残して去ってゆく。ラストカットで少年がその景色を眺めるとき、わずかな刹那に思えた少年と伊藤との関わりが、実は永続的、普遍的なものかもしれないことに気付かされる。

このように、タナカシンゴは渡辺みり愛主演「わたしのみかた」と伊藤理々杏主演「moon,」とで、異なるテイストの寓話を描きながらも、相互に共通するモチーフを投影していたのだ。

今泉佑唯の「落ちてきた天使」

ちなみにタナカは欅坂46のデビュー初年度、シングル『二人セゾン』収録の今泉佑唯の個人PVでも監督を務めている。

https://www.youtube.com/watch?v=tWdYR7XUv3g
(※今泉佑唯個人PV「落ちてきた天使」予告編)

一見すると渡辺や伊藤の個人PVとはテンションが異なる、コメディ色の強いショートムービーである。しかし、全体の骨格を捉えるとき、ここでもやはり、上空から人間ならざるものが降りてきて人間と邂逅するイメージが再浮上している。

その意味では、これら3つのドラマは、2010年代後半に坂道シリーズが整備した映像コンテンツの土壌の中で、タナカシンゴという作家が生み出した連作として捉えることもできるだろう。そしてまた、貫くモチーフの骨格が類似しているからこそ、そのつど作品の筆致を大きく変えながらドラマを描こうとするタナカの試行も鮮明にうかがえる。

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香月孝史

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