
来年で発売60年となる「ジャイアントコーン」(写真:江崎グリコ)
学校が夏休みに入り、多くの会社がお盆休み(夏季休暇)をとる8月は、アイスクリームが1年で最も売れる時季だ。メーカーの販促活動にも一段と力が入る。
実は、さまざまな食品メーカーを取材すると、各担当者が共通して話す言葉がある。
「最近の消費者は『味で失敗したくない』思いが強く、どんな味かわからない新商品は売れません」
それもあるのか、売れ筋アイスはロングセラーブランドがほとんどだ。上位ブランドや発売年は後述するが、今回は、その中で「ジャイアントコーン」(江崎グリコ)を紹介したい。人気アイスの中でも最古参で、前身の商品(「グリココーン」)の発売は1963(昭和38)年と、来年で60年を迎える。だが、現在も人気が高いのだ。
なぜ、これほど人気が続くのか。ブランドの担当者に取材し、消費者心理も考えた。
累計出荷数「40億本」を達成した取り組み
「『ジャイアントコーン』はナッツなどのトッピング、チョコレート、アイス、コーンなどの多くの素材を組み合わせたアイスで、ザクザク感も特徴です。発売以来の累計出荷数は40億本(※)を突破しました。現在も好調で、調査データではコーンアイスの中で売り上げナンバー1です。一方で、歴史や伝統に甘えるのではなく、さまざまな取り組みもしています」
※江崎グリコの出荷個数 (期間:1963~2020年)
江崎グリコの桑田知佳氏(アイスクリームマーケティング部 ジャイアントコーンブランド担当)はこう話し、近年行った次の取り組みを紹介する。
(1) 「できたて品」をお届け
(2) 「コーンの品質改良」と「チョココーティング」
(3) 「しあわせのチョコだまり」の誕生
それぞれ簡単に説明してもらった。
「『できたて品』は、それまで工場関係者しか知らなかった『できたてならではの美味しさを楽しんでいただきたい!』と思い、始めたものです。不定期になりますが店頭販売やキャンペーンなどで、製造10日以内の商品となる『できたて品』をお届けしています」(同)

今年4月から5月にかけて「できたて品」プレゼントキャンペーンを行った(写真:江崎グリコ、同キャンペーンは終了しています)
また、よく「昔と変わらない味」と話す人もいるが、時代とともに消費者の舌は肥えており、送り手側は「昔ながらの味」に改良しないと現代の消費者には支持されない。
「ジャイアントコーンも発売当初に比べて大きく進化しています。例えば『コーンの品質改良』では、一般的なモナカコーンより吸湿に強い配合と製法にこだわり、製品化するまで工場での取り扱い管理も徹底し、食感の良いコーンを用いて製造しています。
『内面チョココーティング』では、コーンの内側に独自改良を重ねたチョコを塗布し、塗布技術もコーンにまんべんなく塗布される製法を採用し、コーンの吸湿を防いでいます」
「昔はナッツがよくこぼれた」という指摘もあったが、最近の商品は総じて好評のようだ。

ジャイアントコーンのブランドを担当する桑田知佳氏(写真:江崎グリコ、撮影のためマスクを外しています)
消費者の声から生まれた「チョコだまり」
「しあわせのチョコだまり」とは何なのだろう。
「以前から、お客さまの『時々コーンの先にチョコがたまっていて、それに出合えるとうれしい』という声がありました。これを提供できないか、と社内で検討を始めたのです。
そして、コーン先端(しっぽ)部分のチョコを増量し、2020年に誕生したのが『しあわせのチョコだまり』です。多くの方に喜んでいただき、売り上げも大きく伸長しました」

「しあわせのチョコだまり」にして、喫食後の満足感も高めた(写真:江崎グリコ)
この話は、マーケティングの視点でも興味深い。以前、「最後に好印象を持つとブランドの支持が高まる」という事例を聞いたのだ。
全国展開を行う、あるビジネスホテルは、朝食のクオリティーに力を入れている。会社規程の予算内で泊まる利用客の満足感を追求した結果、「朝食」に注力したという。その理由として「ほとんどのお客さまにとって、朝食はチェックアウト前の最後の行動なので、満足されるとリピーターになっていただける」と話していた。
消費者の目が厳しくなった現代社会では、こうした取り組みも大切だろう。
今年、調達・購買業務コンサルタントの坂口孝則氏が抽出した「ファミリーアイスの『買物指数』」という調査データがある。(売れ筋アイス『トップ300商品』ランキング最新版/東洋経済オンライン/2022年5月18日配信)
同調査は、6000万人規模の消費者購買情報を基にした、True Dataのデータベース「ドルフィンアイ」を使って、主要な全国のスーパーマーケットのPOSデータを基に上記の「買物指数」(来店客100万人あたりの売り上げ点数)を抽出したものだ。
それによれば、「ジャイアントコーン」は「チョコモナカジャンボ」(森永製菓)に次いで2位となっており、同ブランドを支持する消費者が非常に多いことがわかる。

アメリカに刺激を受けて誕生した「コーンアイス」
ところで、前身の商品が生まれた1963年は高度経済成長期だった。なぜ、開発したのか。
「当時、日本ではキャンデーアイスやカップアイスが主流で、コーンアイスはほとんどありませんでした。でもアメリカでは、アイス市場の20%をコーンタイプが占めていました。
そこで当時の開発陣が、『コーンアイスならそのまま食べられる。包装費はカップなどに比べて安価に抑えられ、その分、中身を充実できる可能性がある。アイスクリーム市場でひとつの分野を創れるのではないか』と考え、信念で開発を進めていったのです」(桑田氏)

発売当時の「グリココーン」(写真:江崎グリコ)
江崎グリコは大正・昭和期に、お菓子の「グリコ」+「おもちゃ」で一時代を築いた。もともと創業者の江崎利一氏が、牡蠣(かき)の煮汁に含まれるグリコーゲンを子どもの健康づくりに活用したいと考え、グリコーゲン入りお菓子として誕生したのが「グリコ」だ。
そのためキャラメルではなく「栄養菓子」、付属品のおまけでなく「おもちゃ」と呼ぶ。菓子メーカーの技術や、ちょっとした遊びの精神が、各商品に受け継がれている。
「『ジャイアントコーン』は、トッピング+チョコレート+アイス+コーンの4つの素材の組み合わせで、最初から最後までザクザクとした食感と味わいの変化も楽しめます。発売当時の『グリココーン』から、すでにこの独特な形態となっていました。
また、チョコレート部では、カカオ含有量が高めのチョコレートを使用し、カカオ感のある味わいを提供。当社で製造している“カカオマス”を使用し、ロースト温度や時間にもこだわり、冷凍下でもカカオの香ばしさを感じられるチョコレートにしています」(同)
長寿ブランドに対する信頼感
冒頭で紹介した「味で失敗したくない」思いも考えてみたい。これまでの取材では、「子ども時代から親しんでいた食品は、大人になってからも選びやすい」「自分の子ども向けに買う場合、昔からあるブランドは安心できる」といった声を聞いてきた。
また、食文化の視点で日本の消費者と向き合うと、「高度成長期に定着した飲食は強い」と感じる。現在、日常的に楽しんでいる飲食は、この時代に定着したものが多いからだ。
アイスクリームの売れ筋ブランドも似ており、上位4つは昭和時代に登場している。こうした長寿ブランドについて「時々、無性に食べたくなる」と話す人も多い。


「チョコジャンボモナカ」(下)や「エッセルスーパーカップ」(右上)の人気も高い(2021年6月、筆者撮影)
購買層は男女半々、シニア世代も支持
最後に「ジャイアントコーン」の購買層も紹介しよう。
「一般にアイスは女性の割合が高いのですが、ジャイアントコーンは男性の購入も多く、男女比はほぼ半々です。2014年からは濃厚な味わいの“大人シリーズ”も発売しています。ボリュームのある商品ですが、シニア層にもご利用いただいているのも特徴です」
実は、この10年のアイス市場規模を押し上げた要因のひとつに「シニア世代の消費」がある。過去の取材でも「人口の多い団塊世代(1947~1950年の早生まれ)が企業の第一線から退き、飲み会も減った結果、自宅でアイスを楽しむ人が増えた」という話を聞いてきた。
違うブランドに切り替える「ブランドスイッチ」をあまりしない、シニア世代に支持されるのは強みだが、メーカー視点では、中期的にはスムーズに世代交代を図るのが理想だ。
また、アイスクリームは生ケーキなどに比べて安い。これも値上げご時世では強みだろう。
多くの業界がコロナ禍で減収となり、業務用アイスも打撃を受けたのに対して、巣ごもり需要を追い風にした「家庭用アイス」は好調だった。
新規感染が再拡大し、外食や旅行を控える動きが出てくると、これまでも繰り返された“息抜きアイス”の需要が高まりそうだ。その時に「思い出してもらえるブランド」は強い。
(高井 尚之:経済ジャーナリスト、経営コンサルタント)
高井 尚之