
英文ライティングスキルを向上させる第一歩は、主語を工夫することです(写真:CORA/PIXTA)
英文法を一通り理解し、ある程度の語彙を習得して、それなりに難しい英文を読むことのできる人であっても、思った通りのことをそのまま英語で表現するのは難しいもの。しかし、考え方のコツを理解すれば、日本語に縛られた英語から卒業して、洗練された英語を使いやすくなるようです。
『ここで差がつく! 英文ライティングの技術』『自由英作文の合格教室』などで知られる、予備校講師で翻訳者の鈴木健士氏がこのたび『アメリカ人教授に学ぶ 英文ライティングのメタモルフォーゼ』を上梓。本記事では、洗練された英語を使うための考え方とテクニックを解説します。
英語は「I」で書き始めない
英文ライティングスキルを向上させる第一歩は、主語を工夫することです。主語を変えれば、おのずと書ける英語も変わります。
例えば、「無意識に行動してしまい、周囲の微妙な変化に気づきにくいこともある。」という日本語を英訳してみましょう。中級以上の学習者であれば、それほど難しい文ではないと思います。以下のような英文を瞬間的に作れる人も多いのではないでしょうか。
I behave automatically, so I sometimes cannot see subtle changes around me.
語彙や文法面で問題はなく、自然な英文が書けています。このままでも問題はありませんが、「SV, so SV.」のような同じパターンの文を繰り返さずに英語にする方法を身につけておくと、さらに表現の幅が広がります。
そのために、以下の3ステップで書きかえることを意識してみてください。
STEP 1 主格を所有格にする。…I ⇒ My
STEP 2 動詞を名詞にする。…behave ⇒ behavior
STEP 3 名詞のカタマリ (My automatic behavior) にmake OCを続ける。
…S makes it hard to see subtle changes around me.
make OCで「Vできない」という内容を続けるには、make it impossible for~ to Vを使いましょう。impossible をhard やdifficultにすると意味が弱まります。
反対に「Vできる」なら、make it possible for~ to Vが使えます。possibleをeasyにすると「Vするのは簡単だ」という意味になりますね。意味上の主語が文脈から明確な場合には、for~は省略可能です。
make OCはとても便利なのですが、makeを多用しすぎないように、他の動詞で書きかえることも意識してみましょう。「可能にする」という意味のenableもその一つです。
例えば、「He kindly helped me, so I was able to complete the transaction.(彼が親切に手伝ってくれたお陰で、会計を済ませることができた。)」を、先ほどの手順にmake以外の動詞を使うという一工夫を加えて書きかえていきましょう。
STEP 1 名詞のカタマリを作る。…He kindly helped me ⇒ His kind help
STEP 2 make OCを繋ぐ。…S made it possible for me to complete
STEP 3 動詞の書きかえ。(make it possible for~ to V ⇒ enable~ to V)
…made it possible for me to complete ⇒ enabled me to complete
他にも、「この革新的なスマホアプリのおかげで、多くの学生が聴解力を高めることができるだろう。」であれば、enableを使って、This innovative smartphone application will enable many students to improve their listening comprehension skills.という英文にすることができます。
基本の「型」からさらに発展させる方法
無生物主語+make OCで作った文を、強調構文(分裂文)にしてニュアンスを加えることもできます。
例えば、先ほどの「His kind help enabled me to complete the transaction.」であれば、his kind helpをIt wasとthatの間に挟んで、「彼に手伝ってもらったからこそ」という意味になるように強調できます。強調されるのは、名詞や副詞(のカタマリ)です。
以下の3つの文を同様に強調構文にするとどうなるでしょうか。
1. Her love enabled me to get through my ordeal.
2.That book helped me (to) finish my homework.
3.This acute hay fever prevents me from focusing on my work.
(解答例)
1. It was her love that enabled me to get through my ordeal.
2. It was that book that helped me (to) finish my homework.
3. It is this acute hay fever that prevents me from focusing on my work.
*過去のことは、原則「is」ではなく「was」を使います。
主語を工夫してからmake OCを続けてみること、さらにmake以外の動詞を使って書き換えることを、以下の10題で練習してみましょう。
手を動かして書いてみることが、何よりも大切です。その際に主語への意識を高めるようにしてください。
1. タケシは私の兄に似ている。
2. 彼女からもらった手紙を読んで自分の高校時代を思い出した。
3. この奨学金のお陰で、私は修士号を取得することができた。
4. 鈴木ゼミナールで勉強したら、TOEIC®で高得点が取れた。
5. 一年休みを取ってトモは世界中を旅することができた。
6. これらのアプリを導入して私たちは業務を合理化することができた。
7. 深刻な汚染のせいで健康に暮らせない人がたくさんいる。
8. 隣人たちがうるさくてぐっすり眠れなかった。
9. 先生に叱られたので、英語を勉強する気が失せた。
10. 何度も失敗したので、もう太平洋横断は懲り懲りだ。
(解答例)
1. Takeshi reminds me of my brother.
2. Her letter reminded me of my high school days.
3. This scholarship helped me (to) obtain a master’s degree.
4. Suzuki Seminar helped me (to) achieve a high score on the TOEIC®.
5. One year off work allowed Tomo to travel around the world.
6. These applications have allowed us to streamline our operations.
7. Serious air pollution prevents many from living healthy lives.
8. My noisy neighbors prevented me from sleeping well.
9. My teacher’s criticism discouraged me from studying English.
10. Repeated failures discouraged me from crossing the Pacific.
お馴染みの動詞でも、表現の幅を広げることができる

1〜2はremind、3〜4はhelp、5〜6はallow、7〜8はprevent、9〜10はdiscourageを使って英訳しました。
高校までの英語学習で目にすることの多いお馴染みの動詞でも、表現の幅を広げることができるのです。
英文ライティングスキルを高める方法は、難しい単語をたくさん覚えることだけではありません。
もちろん、具体的な状況を指し示すためには語彙は豊富な方が良いのですが、「英語で発想する」ことで、これまで培ってきた語彙力を生かすことも併せて意識してみましょう。
(鈴木 健士:トフルゼミナール英語科講師、通訳者、翻訳者)
鈴木 健士