ここにきて、日本の「半導体産業」が大復活...!世界最大手のTSMCが「熊本に工場建設」した意外なワケ

ここにきて、日本の「半導体産業」が大復活...!世界最大手のTSMCが「熊本に工場建設」した意外なワケ

  • 現代ビジネス
  • 更新日:2022/09/23
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TSMC熊本工場の衝撃

「世界中で半導体が不足して、様々な産業に大きな影響が出ている」というニュースを見ない日はない。しかし、なぜ半導体が不足しているのか? それによってどんな影響が出ているのか? そもそも半導体は何に使われているのか? 新聞やテレビでこの半導体不足に関するニュースを見ていても、これらの疑問は解消されない。

そんな中、半導体受託生産(他社が設計した半導体を製造)の世界最大手メーカーである台湾のTSMC(台湾積体電路製造:Taiwan Semiconductor Manufacturing Company)が九州の熊本に新工場を建設することが決まり現地では工事が進んでいる。

なぜ熊本なのか? 日本政府は多額の補助金を投じて、なぜTSMCの新工場を誘致したのか? 地元の熊本はどう受け止めているのか? 様々な疑問の答えを探しに熊本に飛んだ。

熊本空港から車で15分ほど、熊本市の中心部からも車で30分ほどに位置する熊本県菊陽町でTSMCの新工場建設が急ピッチで進んでいる。

車で菊陽町に近づいていくと、遠くからでも森の向こうに巨大なクレーンが数多く立ち並んでいるのが見えてくる。異様な光景だ。周りに畑が広がる工業団地の一角にある新工場建設の工事現場には、大型車両が頻繁に出入りしている。

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熊本県菊陽町の光景(撮影:春川正明)

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TSMC新工場の建設現場(撮影:春川正明)

巨大クレーンの数は30近くに及び突貫工事が進んでいる。既に菊陽町に通じる道路では他府県ナンバーの車も増えて交通渋滞も起きている。

日本初となるTSMCの熊本工場は、画像センサーを作るソニーグループと自動車部品メーカーのデンソーと合弁で建設され、今年4月に着工し2024年12月の生産開始を見込んでいる。敷地面積は23万平方キロメートルで、計画によると工場の従業員1700人のうち1200人は地元で採用する。投資総額は約1兆円で、日本政府は最大4760億円の補助金を出す。

TSMC進出を受けて、県内外から多くの半導体関連企業が熊本に進出すると見られており、地元銀行グループの試算によると、県内への経済波及効果は2022年からの10年間で約4兆2900億円に上るということだ。

台湾からはTSMCの従業員とその家族、合わせて約600人が来日する見込みで、従業員向けの住宅や商業施設、インターナショナルスクールの充実など地元経済に与える影響も大きい。

深刻な半導体不足を背景に…

地元熊本の産業界は今回のTSMCの誘致について、どの様に受け止めているのだろうか。熊本県工業連合会の田中稔彦会長はこう語る。

「そこで実際に動くお金、経済波及効果が一番のメリットだと思うのですが、それは直接的な部分で、その先にある間接的なメリットも非常に大きいだろうと考えています。

例えば、アメリカのシリコンバレーが半導体の製造、インテルが半導体を作ってそれで終わったのではなくて、その後にアップルやグーグル、フェイスブックなど、こういう世界を動かすビジネスが生まれて来たということを見ても、半導体というのは入口だと思っています。

これが一つの引き金となって、そこから生まれるハード、そしてその先にあるサービス、さらにその先には人々の幸福度の向上にこの事業が繋がっていくことを考えると、熊本に限らず、この半導体企業の進出が、日本や九州にもたらすメリットは非常に大きいと思っています」

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熊本県工業連合会・田中稔彦会長

“産業のコメ”と呼ばれる半導体について、基礎的な事柄をおさらいしよう。半導体とは、電気を通す金属などの「導体」と、電気を通さないゴムなどの「絶縁体」との中間の性質を備えたシリコンなどの物質や材料のことだ。

ある条件の時に電気を通すという電流の制御が主な機能で、本来はこの様にシリコンなどの物質を意味するが、現在では半導体を材料にしたトランジスタやIC(集積回路)を指すのが一般的だ。

半導体は情報の記憶、数値計算や演算などの情報処理機能を持ち、電子機器や装置の頭脳部分として中心的役割を果たし、パソコンやスマートフォン、自動車、家電など殆どの電子機器に搭載されている。

ではなぜ、世界中でいま半導体が不足しているのだろうか。その原因はこうだ。

新型コロナの影響で広がったテレワークや巣ごもり需要で、世界中でパソコンやタブレットなどの電子機器や家電の需要が急増し、2020年後半から世界的に半導体の不足が始まった。

その頃ちょうど自動車生産の回復も重なりIT産業と自動車産業で半導体を奪い合う状況になった。一方、米中関係の悪化により、一部の中国系半導体企業からの調達が難しくなった。

更に、昨年アメリカを大寒波が襲って多くの半導体企業の工場が停止したのに加えて、日本の半導体大手企業の主力工場で火災が発生し操業が停止。これら様々な要因が重なって、半導体不足が深刻化した。その結果、世界各国では自動車生産などに大きな影響が出ているのだ。

ところで、半導体企業は、設計から製造まで一貫してやる従来の垂直統合型が以前は主だったが、現在は、設計する「ファブレス」企業と、製造専門の「ファウンドリー」企業の水平分業型で作るように変わった。TSMCはこの「ファウンドリー」の世界最大手だ。

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Photo by gettyimages

TSMCは時価総額4200億ドル(約60兆円)の世界のトップ10に入る規模の企業で、最先端の半導体製造技術と供給力を持ち、TSMCに製造を委託する企業は500社にも上るなど世界の半導体の価格決定力を持っている。

半導体の受託生産ではTSMCの市場シェアはトップの約54%で、先日発売されたiPhone14で使用されている先端の半導体も、TSMCが独占供給している。

現時点で最先端技術による回路線幅3ナノ(ナノは10億分の1)メートルの半導体の量産は韓国のサムスン電子に先行されたが、TSMCは2025年には超先端半導体である2ナノの量産を予定している。

このように、半導体は電子回路の線幅を細くするという微細化を進めるほど性能が高まるのだ。

地元では人材獲得競争に不安の声も

こうした強みを持つTSMCは世界各国から工場建設を打診されていて、アメリカのアリゾナ州では先端の5ナノの工場建設が決まっている。

アメリカがTSMCを誘致する理由は、半導体を微細化する最先端技術を手に入れることと、半導体の製造能力を拡大することだ。バイデン政権は半導体の製造能力を押し上げるために520億ドル(約7兆5400億円)の補助金を出すという。

中国の半導体受託生産最大手のSMICも投資総額75億ドル(約1兆円)で天津市に半導体工場を新設するなど、世界各国で半導体工場の誘致合戦が繰り広げられている。

しかし、気になることがある。なんとTSMCの熊本工場で製造される半導体は最先端のものではないというのだ。熊本で作られる半導体は微細加工レベルが10~20ナノ台で、月に5万5千枚作られる予定だ。これらのサイズの半導体が最先端だったのは約10年前で、必要な技術は何世代も前に確立されたものだ。

ではなぜ高額な補助金を出してまで日本政府はTSMCを熊本に誘致したのか。実は、この世代の半導体は自動車産業などで今でも数多く使われており、不足しているからだ。

因みにかつて半導体で世界をリードしていた日本でいま製造されている半導体は40ナノまでで、日本の半導体製造技術は世界的にみると大きく後れを取っているのだ。

地元ではTSMCの進出を歓迎する一方で、地元企業との人材獲得競争に頭を悩ませている。TSMCの熊本工場では大卒の初任給が28万円と高水準で採用を行っており、地元企業では、人材引き抜きに困惑する声も聞かれる。

前述の田中会長はこう語る。

「今まで私たちが熊本の水準で出していた給与が、引き抜くときにはぐっと上がって行くわけです。私たち企業経営から見れば、それって困ったなという話なのですが、一方で働いている熊本の人たちから見れば、その分給与が上がる、所得が上がるということは決して悪い話だけではない。

そうやって経済が活性化することは、熊本全体の経済から見てもプラスに働く。それが回りまわって、業種によっては結局その給与が上がって行くことが自分たちの産業に追い風になるという人もいます。

もちろん『人が奪われるのではないか』、『自分たちの給与をもっと上げるにはちゃんとやっていけるか』ということを抱えている企業は「困ったな」というところがありますが、功罪両面あると思っています」

「シリコンアイランド九州」の復活か

世界的企業の進出を生かして、熊本を更に発展させるべきだという声も聞かれる。

カーボンクレジットや自動車業界に詳しい伊藤忠総研上席主任研究員の深尾三四郎氏は自身の著書の中で、TSMCの熊本進出に関連して、熊本にEVの工場を立ち上げることを提案している。

<熊本を中心に半径1500kmの円を描いてみると、その円の中には世界トップレベルの企業が集結しているのが分かる。(中略)EVを生産するのに欠かせない最先端半導体と車載電池、その他の主力コンポーネントはこの円の中に収まっており、世界的にみても魅力的なEV供給網を熊本を中心にした経済圏として構築することができるのである。>(深尾三四郎著『モビリティ・ゼロ 脱炭素時代の自動車ビジネス』より)

地政学リスクの分散と、TSMCが懸念する水と再生可能エネルギーの不足を解消できる点からも、TSMCの進出先の熊本にEV工場を作ることが望ましいと深尾氏は指摘している。

半導体製造には純度の高い水が必要だが、熊本は地下水に恵まれ水資源が豊富だ。それに加えて九州は太陽光や地熱など再生可能エネルギーに恵まれている。熊本など九州には1960年代以降、半導体関連の企業が数多く進出し「シリコンアイランド九州」と呼ばれたが、今回のTSMCの熊本進出がその復活に繋がればという期待もあるのだ。

「これからは国内の色々な企業、ひょっとすると韓国や台湾や世界中の企業と連携しながらモノ作り、開発が必要になるのではないかと。それを考えると決して熊本だけの問題ではなく、東アジアぐらいの視座は持つべきではないのかなと感じています」(熊本県工業連合会・田中稔彦会長)

米中の半導体を巡る覇権争いが激化する中で、半導体の安定的な確保は、日本の経済安全保障の要である。TSMCの熊本進出は、かつて世界シェアの50%を誇った日本の半導体産業が復活する足掛かりになるのだろうか。

今回のTSMCの熊本進出を取材してみてふと思った。ひょっとしたら今回のTSMCの熊本進出の先には、ソニーとホンダの合弁会社が作るEVの工場が将来、熊本に出来るという可能性もあるのではないか。さらに、アップル・カーの工場も熊本になどと、私の頭の中では空想が広がった。それだけ衝撃の大きいTSMCの熊本進出なのだ。

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