週刊誌で「新しいダイエット法」が話題になるようなもの? 医者も誤解する感染症薬の効果と理由

週刊誌で「新しいダイエット法」が話題になるようなもの? 医者も誤解する感染症薬の効果と理由

  • 文春オンライン
  • 更新日:2020/10/16

フェス、ライブ、クラブ、コンサート 新型コロナと共存しながら実現可能な音楽イベントとは?から続く

日本において新型コロナウイルスの初感染者が報告されて、はや9ヵ月もの時間が経つものの、終息に向けての光明は見えていない。より長期的な対応が求められるフェイズになっているといえるだろう。待ち望まれるのは感染症薬の完成だが、果たして実現は可能なのか、また、その効果はどのように実証されるのか。新型コロナウイルスの感染が広がったクルーズ船ダイヤモンド・プリンセス号に一時乗船した感染症医としても知られる岩田健太郎氏による著書『丁寧に教える新型コロナ』(光文社新書)から本文を引用し、紹介する。

◇◇◇

治療効果の吟味は「比較」から始まる

最後に、COVID-19の治療についてコメントしておきます。ただ、本稿執筆時点(2020年7月3日時点)では「これだ」という決定打がないのが現状です。たくさんの治療薬の効果が話題になっていますが、それは決定打が存在しないことの逆説的証左と言えましょう。女性週刊誌で毎週のように「新しいダイエット法」が話題になるようなものです。

以下、今のところ分かっている治療について、簡単にまとめておきます。

ただ、治療の研究は進歩が激しいので、本稿執筆後も新しい論文、データが多々出てくるであろうことは申し上げておきます。興味のある方は、最新論文も読んで知識をアップデートしてください。

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©iStock.com

さて、まず基本的なところをお話ししておきますが、治療の効果を吟味するエビデンスは、

比較

からできています。つまり、Aという治療をやった群と、やらない群の比較です。

比較は必須です。単に患者さんにAという治療を提供しただけでは、治療の効果は分かりません。特にCOVID-19は、大多数が「自然に良くなってしまう」病気です。Aという治療薬が効果を示したのか、単にAという薬を飲んだ患者が自然に良くなってしまったのか。治療行為だけを観察していたのでは、両者を区別することはできません。いわば、因果関係と前後関係の区別、と言ってよいでしょう。

治療“効果”とはいったい何なのか

次に、「効く」の「意味」を確認する必要があります。

一番よい「効く」は、パワフルな「効く」です。例えば、

死ぬ

が、

死なない

になるとか。これは「死亡を回避する」というパワフルな「効く」になります。

パワフルさが足りない「効く」もあります。例えば、

体温38℃

が、

体温37.5℃

になる、はどうでしょう。まあ、効果といえば効果かもしれませんが、それほどパワフルな効果ではありませんね。

新型コロナは「治療効果を示すのが難しい」やっかいなウイルス

さて、ここからが難問です。

多くのウイルス感染は、感染早期、発症早期に治療するのがよいとされます。「早期発見、早期治療」です。COVID-19も例外ではなく、効果的な抗ウイルス薬、あるいは別のメカニズムの治療薬は、発症早期に用いてこそ、その効果を発揮しやすい。感染が進行して、重症化して、肺の炎症や血栓形成が進み、サイトカインと呼ばれる体内物質が体中に炎症と臓器障害を起こしてからでは、いくらウイルスをやっつけても、体は回復しにくい。

しかし、先ほども言いましたように、COVID-19は8割がた、自然に治ってしまう、全体で言えば「軽い」感染症です。一部の患者だけが重症化してしまう。「自然に治ってしまう」病気を「さらに良くする」のは困難です。

よって、ある治療薬を「発症早期」に試してみた場合、この治療薬の効果を示すのは容易ではありません。それは、シンプルに「自然に良くなる病気をさらに良くするのは難しい」という事実から来ています。

かといって、重症患者に的を絞るのも問題です。

重症患者に的を絞れば、パワフルな効果、例えば「死ぬ」を「死なない」に転じる効果を示しやすくなります。「死なない」病気を「さらに死ななく」するのは困難ですが、「死ぬ可能性が高い」病気を「死ににくい」病気に転じる効果は、統計的には示しやすいからです。

しかし、多くの場合、重症化は発症後1、2週間経ったころに起きます。重症者ではすでに臓器障害や呼吸機能障害といったいろいろな問題が発生しており、これをひっくり返すのは、単にウイルスの活動を抑えるだけでは難しい。「遅れた治療を取り戻す」のは難しいのです。

というわけで、新型コロナウイルスは、感染症薬の治療効果を示すのが本質的に難しい、とてもやっかいなウイルスということになります。ほんと、こいつ、たちが悪い。

統計的な差と、臨床的な差

さ、そういうわけで、いろいろ大変なのですが、治療薬を検討していきましょう。見当ポイントは以下のようなものです。

・薬のメカニズム

・誰に薬を用いたか

・比較はあるか

・結果はなにか

なお、「結果」については「統計的な有意差があるかどうか」が一つのポイントになりますが、「臨床的に意味のある差」かどうかも、さらに重要なポイントになります。

統計的な有意差とは、「まぐれではないと考えるほうが妥当な、確実な差」ということです。

統計的な有意差を具体的に解説する

阪神タイガースが読売巨人軍と戦ったとしましょう。本稿執筆時点、2020年7月3日の段階で、絶賛最下位の阪神(涙)と同日トップを走る巨人との伝統の一戦です。もはや伝統の一戦と呼んでいるのは関西の人だけなのかもしれませんが(涙)。

さて、第1戦、阪神勝ちました。巨人、負けました(*この物語はフィクションであり、実在のチームとは関係ない話です)。

果たして、この結果を見て「阪神は巨人より強い」と結論づけてよいでしょうか。

いいえ、そうは言えません。一回くらいの勝ちは「まぐれ勝ち」ということがあるからです。

では、第2戦。阪神、またもや勝ちました。これではどうか。

2連勝くらいでは、まだまだまぐれの可能性があるでしょう。

では、3連勝は?

両者の力に「差がない」と仮に考えてみましょう。引き分けを無視すると、阪神が勝つ確率は5割、巨人の勝つ確率も5割です。つまり、1/2と1/2です。

ということは、阪神3連勝の確率は、「1/2×1/2×1/2=1/8=0.125」です。12.5%。ま、3連勝くらいはまぐれでも起きそうな話です。

4連勝は? 同じように計算すると、6.25%です。決して奇跡的なミラクルな確率ではありません。

5連勝は??? 3.125%です。つまり、5%未満ということになります。

通常、ぼくらの領域では習慣的に(あくまで習慣的に、ですが)、「差がない」という仮定のもとでの5連勝……その確率は両者に「差がない」場合は5%未満なのですが……は「まぐれにしてはできすぎ」「まぐれじゃないだろう」と考えます。これが「統計的な有意差がある」という意味です。イエイ、やっぱ阪神、強かった(ぼくの頭の中の妄想では)。

ところが、野球というのはそんなに「勝ち」と「負け」だけで強さを判定しませんよね。

二つの差に目を向けることが大切

仮に巨人が阪神に、

25対0

のコールド勝ちをしたとしましょう(あくまで、ぼくの妄想世界の話です)。これだと、ズルをしているのでなければ、

巨人のほうが強い

と考えるのではないでしょうか。「いやいや、もう1戦やってみないと、どっちが強いかは分からん」と言うのは、そうとう、現実世界が見えていないか、極端に負け惜しみな涙目のファンだけなのではないでしょうか。

治療薬の効果は、「比較」がなければいけません。その比較は、先ほどもご紹介した、

統計的有意差があるかどうか

と、

臨床的な差があるかどうか

を見ます。統計的な「差」は「まぐれじゃないかどうか」の判定結果であり、「臨床的な差」は、さっきの「何点差で勝ったか」みたいな「差」のことです。どちらも大事な概念ですが、より重要なのは実は後者です(この点は、プロの医者ですら、ときに勘違いしています)。

(岩田 健太郎)

岩田 健太郎

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