世界のビジネスハブ競争、香港の凋落と注目が集まる「ドバイvsシンガポール」

世界のビジネスハブ競争、香港の凋落と注目が集まる「ドバイvsシンガポール」

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  • 更新日:2022/09/23

世界各地に散らばるビジネスハブ。その地位を得ようと、政府や地方自治体の努力も激しく、長らく競争が続いている。日本からのアクセスも至便なアジアのハブといえばシンガポールと香港だ。両者ともに金融・ビジネスハブとしての基盤を有し、長らくライバル関係として動向が注目されてきた。

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香港のハブとしての魅力が揺らぐ近年、注目が集まり始めたのがドバイだ。「石油王が街を闊歩するリッチな首長国」という間違ったイメージも無くなりつつあり、ビジネス拠点としての認知度がアップしているドバイ。日本からは直行便でも11時間弱と距離があるものの、比較的近いシンガポールと比べてどのようなビジネスハブの魅力があるのだろうか。

外国人も流出する香港

世界中の金融機関が支店を持ち、上級幹部クラスや精鋭の金融スタッフが世界から派遣されていたアジアの国際金融センター香港。誰もがその地は不動のものと信じていたが、2019年の大規模な抗議活動の後に中国政府による「国家安全法」が施行されると、加速度的に中国寄りになる香港に警戒感が高まった。

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さらに新型コロナウイルスの感染拡大の際には、中国と同様の厳しい出入国制限措置が取られたことも懸念材料となった。香港から出国すると、再入国には約3週間ものホテル隔離(しかも自腹)が強制され、祖国との行き来や海外出張ができなくなった在住外国人駐在員たちが続々と出国し始めた。2020年には9万3000人、2021年には2万3000人が脱出したとの報道もあり、この数はまだ序の口、今後さらに増加するという予測も聞かれる。

安定と不動の人気のシンガポール

香港の政情や将来の不安定さが際立つ一方で、安定のシンガポールは、金融ならびに各企業のアジア拠点としての人気を不動のものにしている。その理由を見てみよう。

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ロケーション:マレーシアのすぐ南側の島にあり、マレーシアを含む急成長するアジア諸国へのアクセスが充実している。また人口が世界1位の中国、2位のインドといった巨大市場へのアクセスも至便。

インフラ:世界一の空港にもたびたび選ばれているチャンギ国際空港が、世界の主要都市をはじめ約300都市を結んでいること。また港湾の設備も充実、海路の拠点としての地位は世界の最も活気ある港トップ10に常にランクインしている。

経済:市場が成熟しており、スタートアップが試験的に展開するのに最適な環境であること。2019年の統計で名目GDPは約5100億シンガポールドル(約50兆円)、1人当たり名目GDPは世界第5位。的確なマクロ経済政策の思考と、政治的・法的環境が安定している。

QOL(生活の質):最新の「世界の安全な都市ランキング」でシンガポールは第2位、第1位の東京とはわずかに0.5ポイントの差であった。また、海外駐在先トップ10は第5位。生活全般に満足している駐在員が8割近く、そして9割近くの人たちが医療体制に満足していると回答している。

シンガポールは年間を通じて四季がないモンスーン気候の高温多湿。とはいえ、空路や海路の問題となる台風がなく、自然災害が少ない。東京23区とほぼ同じ面積で移動も比較的楽なうえに、マレーシアまでの陸路も充実している。英語が公用語なのは、外国企業にとって進出しやすく魅力だろう。中華系をメインに、マレー系、インド系の国民、それに外国人が3割弱を占めている多国籍の構成もユニークだ。

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一方で気になるのは物価の高さだ。前述の海外駐在先トップ10のアンケートでも、シンガポールのスコアは「生活コスト」の点で最低で、21%しか満足であると答えておらず、インフレや増税によるコストの増加も懸念されている。

さらに、シンガポールでは主に海外駐在家族の子どもが通うインターナショナルスクールの費用の高さも目立つ。費用の中央値は2万1000ドルとされており、これは香港やドバイを上回る。家族連れでの駐在には、会社としても社員としても難しい選択を迫られることになる。

1980年代からシンガポールを目指していたドバイ

近年注目を集め始めているドバイはどのような政策なのだろうか。

2000年代に急速に発展したドバイは当初、中東で「シンガポール」を目標に発展していった。世界中から人や物が集まり、多国籍の人が働く意思を持って駐在し生活に満足できる、クリーンな街づくりを目指したのだ。

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もともとドバイは中継貿易で栄えてきた歴史がある。今でも旧市街の運河沿いには、きらびやかな近代都市とは対照的なダウ船と呼ばれる伝統的な船が連なり、イランなどへ物資を載せて出港している。観光スポットにもなっている新旧のコントラストが印象的な風景だが、観光目的ではなく実用のものだ。

1980年代にはジェベルアリ・フリーゾーン(自由貿易地域)が開業。外国企業を誘致し、現在では100か国以上から8700社が集まる世界一のフリーゾーンとして確立している。税制の優遇など、外国企業が開業しやすく、様々なインセンティブ、そしてヨーロッパやアフリカ、南アジアへも近いという立地、航空網の発達も人気の秘密だ。世界の人口の3分の1に4時間以内のフライト、3分の2には8時間以内のフライトでアクセスできる。名実ともに24時間ひっきりなしに稼働しているドバイ空港は、たとえ午前2時に出発しても到着しても、活気にあふれていることに驚く。

積極的な外資誘致と優遇

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ジェベルアリは港にあるフリーゾーンで、その後空港のフリーゾーン、メディアやIT企業を中心としたインターネットシティ、メディアシティを90年代後半から2000年にかけて開業、その後もコモディティやヘルスケア、中国製品専門、花卉に至るまで多岐に渡るフリーゾーンを設定し、各産業における外資企業の誘致に成功している。

またドバイは、イスラム教国でありながらも一定のルールさえ守れば宗教の戒律を外国人に強要することはなく、自由な雰囲気も暮らしやすさの一因といえる。前述の「海外駐在先トップ10」ではシンガポールよりも上位の第3位、アラビア語と英語を公用語に採用し英語ができれば生活にも仕事にも不自由することはないため、若い労働者とともに家族連れでの駐在が非常に多い。原油以外の資源が乏しいが、近隣諸国から食料品や生活物資が多く輸入されるため、バラエティ豊富にものが手に入るのも魅力だ。

こうしたことがドバイ政府側、企業側にとっても駐在員が家族連れで快適に赴任してくれるため、長期間滞在が可能になり業務と暮らしが安定するという利点もある。

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例えば今年3月に発表された「私立学校の学費凍結」発表もこの一環だ。私学を管理する政府機関が2022〜2023年の学費を凍結すると発表、学費を負担する家族や企業からは歓迎の声が上がった一方で、学校からはインフレとの折り合いがつかないとして不満も聞かれた。

パンデミックによる経済の不況、現地で働く人々の減給措置による家計ひっ迫などに政府が対応した形だが、ドバイではこのような「外国人労働者に寄り添った」政策が施行されることが多い。人口の8割以上を占める海外からの労働者とその家族を守ることが、ドバイという首長国を守ることにつながる、と理解しているからだ。

毎年恒例のResonance Consultancyによるベストシティランキングで、ドバイは2021年に第5位。東京は6位、シンガポールは7位、香港は29位だった。

パンデミックで変わる人の流れ、広がるドバイの可能性

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前述したように、香港に見切りをつけて脱出する外国人たちが次に目指しているのは、シンガポールだと言われている。特にファイナンスや、法律、リクルート関連はその傾向が強く、次いで東京、韓国、タイへ向かっているとされるが、欧米の主要企業はドバイに移動しているケースも多い。ペプシやユニリーバ、P&Gが香港の駐在員をドバイに移動させている。

中東のイスラム教国というイメージとは裏腹な暮らしやすさに注目が集まり、シンガポールと比較しても生活費や教育費が安いこと、企業の進出のしやすさ、赴任のしやすさも魅力だろう。欧州や米国にも比較的簡単にアクセスできるため、一時帰国が簡単にできる安心感もあるのだろう。

そして何よりも、中国政府による強硬政策などといった不安定要素は、ドバイでは今のところ見つからない。

世界的なインフレが進み、ロシアによるウクライナ侵攻といった問題も徐々に影を落としているため、ドバイの生活費も上昇している。香港からの移住と、魅力度での巻き返しを図りたいシンガポールはドバイと同様にスタートアップ企業の誘致も展開しているが、ドバイも負けてはいない。

5Gネットワークを構築し、2030年までにドバイのすべての交通を自動化する目標に向けて準備態勢を整えているほか、健康や医療への最新技術の導入(3D義肢など)、税関や政府機関関連の書類の完全デジタル化、2030年までに25%の建築物を3D印刷にするという目標もある。

「世界一」が好きだと揶揄されることが多いドバイ。これからは世界一だけでなく世界初、世界最新でより多くの人、お金、物資を集める都市になることになりそうだ。

文:伊勢本ゆかり
編集:岡徳之(Livit

AMP編集部

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