自宅で最期「温かい亡くなり方」が実現しやすい訳

自宅で最期「温かい亡くなり方」が実現しやすい訳

  • 東洋経済オンライン
  • 更新日:2021/11/25
No image

人生の最期を病院で迎えるのが当たり前の時代ではなくなってきています(写真:mits/PIXTA)

「自宅で、自分らしい最期を迎えたい」、「痛みを感じないで死にたい」――実は日本人の7割が自宅で最期を迎えたいと希望していることをご存じですか?

最前線で活躍する総勢22名の医師をはじめとした終末期医療の専門家への取材をもとに人生の最終段階を自宅で過ごすための方法をまとめた『在宅死のすすめ方 完全版 終末期医療の専門家22人に聞いてわかった痛くない、後悔しない最期 』より、在宅医療で知っておくとよいことや在宅看取りの実際について取材から一部を要約・抜粋してお届けします。

人生最期の場所は病院から自宅へ

かつて、「人生の最期は病院で迎えるもの」が当たり前だった時代が今や変わりつつあるのをご存じでしょうか。厚生労働省の「平成29年度 人生の最終段階における医療に関する意識調査報告書」によると、自宅で最期を迎えたいと思っている国民が約7割にのぼることがわかりました。「住み慣れた場所で最期を迎えたい」「最後まで自分らしく好きに過ごしたい」「家族等との時間を多くしたい」などが主な理由です。

一方、何かあるとすぐさま医療従事者のケアを受けることができる病院と異なり、在宅で終末期を過ごすことは、本人だけではなく家族等にとっても不安に感じるに違いありません。ならば、どういったことを知っておくといいでしょうか。ここでは、日本終末期ケア協会代表理事で訪問看護ステーションここりんく代表兼所長の岩谷真意さんにお聞きしました。

「最近は、在宅で受けられる医療・介護サービスが24時間365日対応となり、最期を過ごす場所は病院だけではなくなりました。だからこそ、ご本人が話せる間に、これからどのように過ごしたいのか話し合っておきましょう」(岩谷さん、以下同)

仮に本人が自宅で最期を迎えたくても、世話をする家族が高齢者であったり、病気を抱えていたり、仕事をしていたりすることもあります。在宅療養により、家族の健康維持や生活維持が困難になるのはよくありません。心配事がある際には、遠慮せず入院中から医師・看護師に相談して解決策を一緒に考えることです。

また、在宅療養をする際には、在宅医や訪問看護、介護職といった新たな人間関係が始まります。「その際は、終末期に携わる医師や看護師に、ご本人や家族のヒストリーを話してください。病気の話ではないところに、その人らしさが詰まっていて、専門職はこういった話を聞くことで病気だけではなく、その人らしさも支えます」

在宅医や訪問看護師に、今後起こりうる変化や緊急時の連絡先、どのようなときに連絡をすればいいのかを確認しておくのもポイントです。「在宅看取りを希望していたものの、病状の変化に家族が焦り、救急車を呼んでしまうことがあります。救急隊は命を救う責任があるので救命措置を行い、そうなると病院で最期を迎え、家族の後悔が残るのです。ですが、亡くなる前には呼吸の仕方や意識の深さが変わるなど、死期が迫った際の身体の変化を知っていると、慌てて救急車を呼ぶことなく対応することができます」

ACPに取り組むことで後悔を抑えられる

家族がどれだけ手厚くケアをしても、大切な人を亡くすと悲しみと後悔の念は心に残ります。ただし、後悔が大きすぎると遺族の苦しみは長引くことになり、そうならないためにも本人と話をして、医師や看護師とともに、納得しながら進めていくことが大切です。そこで実践したいのが、「アドバンス・ケア・プランニング(ACP)」だと言います。

「ACPは自分のことを知ってほしい人と、そのときの不安や気がかり、心の支えなどを明らかにして過ごし方を一緒に考えていくプロセスで、1回限りではなく、繰り返し行っていくものです。ご本人が話したいタイミングで話したい相手と始めるものであり、誰かに強制されるものではありません。お孫さんと会う時間が大切なら、その時間に痛みが出ないようにするなど、大切にしたい過ごし方や価値観を共有しましょう」

ちなみに、残された時間と話ができる時間にはタイムラグがあるそうです。ドラマでは息を引き取る間際まで会話ができるシーンがありますが、現実的には亡くなる数日〜数週間前に話ができなくなります。

「大切なのは、最期の瞬間よりも、話ができる時間です。一緒に過ごした時間を語り合いながら、『いろいろあったけどよい人生だった』『頑張ってきた』と思えることで気持ちが穏やかになっていきます。感謝の気持ちなど伝えたいことは話ができるときに伝え、会わせたい人には早めに会えるようにしましょう。終末期に眠れているということは苦しんでいないということなので、決して悪いことではありません。自然な経過として見守りましょう」

このように、知っておくと役立つ終末期の心構えは、たくさんあります。今のうちから学んでおきたいものです。

やまと診療所における在宅医療の取り組み

自宅で最期を迎えるにあたり、医療的なケアを提供するのが在宅医です。具体的には、どういったことをしているのでしょうか。ここでは、東京都板橋区を中心に在宅医療を展開する、やまと診療所の副院長で緩和ケアが専門の柳澤博医師にお聞きしました。

同診療所は2013年に前身となる、やまと在宅診療所高島平を開設以降、約5000人の患者を受け入れ、看取りまでを提供しています。最も受け入れが多いのはがん患者(43.7%)で、フレイル(10.5%)や認知症(8.9%)、脳卒中(6.5%)など、がん以外の患者の方も診ています(2021年9月1日現在)。

「在宅で終末期を過ごすということは、最期まで自分らしく『生きる』ことです。患者さんやご家族の世界観を尊重して、希望する医療を提供することを最優先で考えています」(柳澤医師、以下同)

現在は1200名の患者を診ていますが、訪問診療を希望される患者や家族からの直接の問い合わせや、病院内の退院相談支援室のMSWや看護師からの紹介が基本だと言います。

「問い合わせや紹介があると専門スタッフが伺い、在宅医療や医療保険・介護保険について説明し、患者さんの症状やお住まいのエリアなども確認。受け入れが決まると、必要に応じて関係するケアマネジャーや介護サービスへの連絡・調整も行い、訪問診療が始まります」

在宅を選ぶ時点ですでに症状は悪いことが多く、やまと診療所の場合、がん患者であれば初回受診から看取りまでの期間は平均で2カ月。がん以外の患者で1~2年。訪問のペースは2週間に1回が基本ですが、非がんで身体が元気なうちは月1回ということも。医療に加え生活環境のサポートを行います。一方、がん患者さんには痛みを取り除く緩和ケアを中心に行い、具合が悪化すると訪問頻度を週1回に増やします。

痛みを最小限に抑えながらみんなに囲まれて

「がんの症状はさまざまあり、痛みの治療だけではなく、食べることができないなら点滴、肺がんで息苦しいなら酸素など、症状に応じて治療の内容や訪問回数を調整します」

No image

やまと診療所の診療から看取りまでの流れ(*図はおおまかな流れを示したもの。実際は患者さんの病状やご家族の要望を伺いながら、最適化した医療を提供します)(出所)『在宅死のすすめ方 完全版 終末期医療の専門家22人に聞いてわかった痛くない、後悔しない最期 』(世界文化社)

No image

看取りまで1週間ほどになると患者さんの意識は途切れ、食事もできなくなります。この段階ではご家族から見るとつらそうに見えても、意識のない患者さんはそれほどの苦痛がないこともあります。身体の変化に対する家族の不安を取り除くように努め、ご家族から連絡があればできるだけ主治医が駆けつけ、自然な形での最期を見守ります。

「私の経験的な感覚では、住み慣れない病院より、勝手知ったる自宅にいる方がせん妄は起きにくく、痛みを最小限に抑えながらみんなに囲まれ最期を迎える『温かい亡くなり方』が実現しやすくなります。そういった方が増える世界を目指しています(柳澤博医師)」

いまや、在宅だからといって痛みが取れない、治療ができないということはなく、病院と同じような終末期の治療を受けられるようになりました。かつ、やまと診療所のような人生の最期に寄り添った在宅医療があることで、自宅で亡くなることは当たり前になりつつあります。

(取材・執筆:大正谷成晴/ライター)

(『在宅死のすすめ方』取材班)

『在宅死のすすめ方』取材班

この記事をお届けした
グノシーの最新ニュース情報を、

でも最新ニュース情報をお届けしています。

外部リンク

  • このエントリーをはてなブックマークに追加