サッカーは「世界をつなぐ」 フリースタイル元王者Tokura、W杯公式球に感じた多様性

サッカーは「世界をつなぐ」 フリースタイル元王者Tokura、W杯公式球に感じた多様性

  • THE ANSWER
  • 更新日:2022/05/14
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“Tokura”こと、徳田耕太郎氏がカタールW杯の公式試合球「AL RIHLA(アル・リフラ)」を使用してフリースタイルフットボールの演技を披露

「とにかく落とさないことに集中」、新宿のビル屋上で披露したフリースタイル

いよいよ今年11月、4年に一度のサッカーの祭典、ワールドカップ(W杯)がカタールで開催される。いまだ先が見えない混沌とした世界にあって、サッカーボールは世界をつなぐ架け橋になり得るのか。

アラビア語で「旅」を意味する「AL RIHLA(アル・リフラ)」と名付けられたカタールW杯の公式試合球は、現代サッカーの主流である試合展開の早さに対応するためにキックの正確性と飛行の安定性を実現したボールだ。

4月下旬のとある朝、新宿にあるビルの屋上で、「AL RIHLA」が軽快な音を立てて宙を待っていた。3月下旬に開催地・カタールを発ち、ヨーロッパのフランス、ドイツを経由して、イギリスのロンドンから日本の東京に降り立った「AL RIHLA」。スーツケースのなかに大切に仕舞われ運ばれてきた「AL RIHLA」を眠らない街・新宿の屋上に運んできたのは、フリースタイルフットボーラーの“Tokura”こと、徳田耕太郎氏だった。

たどり着いた屋上には落下防止用のフェンスは一切ない。高層ビルの森と明治神宮の開けた緑が背景を取り囲む。「とにかく落とさないことだけに集中してやり切った」。そう語ったフリースタイル界の世界王者(2012年)は、「1人ですべての責任を負うことが好き」で、「逆に自分を追い込まないと、ダメな時は本当にダメになってしまう」という。だからこそステージに上がる時には常に最悪を想定している。

「自分が努力をすれば、その分だけしっかりと自分の力になっていくし、力を発揮することができる。でも仕事になるとプレッシャーは計り知れないものがある。だからこそ、毎回現場に行く時には最悪を想定するんです。例えば、ステージからボールを落としたらどうしようとか。実際に落としたこともあって(苦笑)。すごく落ち込むんですけど、もう二度とミスしたくないと思って、また練習するんです。気づいたら、そういう“落とせない”というプレッシャーのなかでプレーする機会が増えたので、それをネガティブに捉えずにプラスに変えていこうと頑張って練習を積み重ねてきました」

ビル端の2メートル以内には近づけないという極限のなか、華麗な技を繰り出していく。最初は足下のコンクリートの凹凸を確認するように、動ける範囲や高さを感覚的に捉えるように。

「撮影前にあれやって、これやってって技の組み合わせを自分で考えてくるんですけど、撮影の現場を実際に見て、特に今回のような制限のある場所だと、これはできないなとか、これとこれはやりたいんだけどリスクが高いなとか、撮影しながらカメラマンさんやスタッフの皆さんの表情を見て考えながら技を修正してパフォーマンスしています」

カタールW杯の公式試合球「AL RIHLA」はフリースタイル向き

徳田氏がフリースタイルフットボーラーとしてパフォーマンスを始めたのは15歳の頃。それまではサッカーに夢中で、サッカー選手が時折見せるスーパープレーに魅せられたサッカー少年だった。

「中村俊輔選手が試合前のアップ中とかにたまにやるんですよね。僕はそういうのをビデオに撮って、何回も見て練習してきた身なんです。僕は彼らの華麗な技に魅せられちゃって。まだ全然リフティングができない頃だったんですけど、“どうやったらできるようになるんだろう?”って子供ながらにワクワクして見ていたのを今でも覚えています」

Jリーガーや日本代表選手のなかにはフリースタイルフットボーラーに負けないほどの華麗な足技を持つ選手も多く、実際に試合のプレーには関係ないところで何気なく扱ったボールプレーでスタンドを沸かせることもある。それほどサッカーとフリースタイルの親和性は高い。両者の大きな違いは、チーム競技か個人競技か。そしてゴールがあるかどうか。

「ただ、最近思うのは個人競技のなかでもちょっとサッカーに寄せるじゃないですけど、何人かのチームで一緒にボールを蹴ったり、ボール回しをしながら技を見せ合ったりすることも楽しいんですよ。最近はフリースタイルにもサッカーからかけ離れてダンスっぽい技もたくさんあるんですが、僕自身も始まりはサッカーですし、そういったサッカーとの親和性は大切にしたいと思っていて。だから僕は“ボールを蹴る”ということを大切に、フリースタイルをやっていこうというスタンスでやっています」

サッカー好きにとっての夢の舞台、W杯。今回、初めて公式試合球「AL RIHLA」を蹴った感触はどうだったのだろうか。まるでボールに磁石が埋め込まれているのでないか、と疑ってしまうほどのコントロール力でサッカーボールを繊細に扱う徳田氏は「これはフリースタイル向きだな」と感じたことを明かした。

「フリースタイラー的に見ると、ボールによって表面がツルツルしていて滑ったり、逆にガチガチ足にまとわりつくグリップ力が強かったりというのがあるんですけど、この『AL RIHLA』は割とグリップ力が強めのボールだったのでフリースタイル向きだなって最初に蹴った時に思いました。あとは少し重量感もあるように感じたんですけど、これもフリースタイル的には技の安定感が出やすくていいんです。軽いボールだと風でちょっと流されたりするんですが、ビルの屋上で蹴ったのにそういう影響も全然感じなかったですからね」

繊細なタッチは同じだが、サッカー選手がインステップでボールをコントロールするのに対して、フリースタイラーは足先でボールをコントロールする。ボールへのこだわりは自然と強い。フリースタイラー的に伝説のボールだったのが、2006年ドイツW杯の試合公式球だった「チームガイスト」だったと教えてくれた。

「1人ひとりの個性を認め合う」多様性はサッカー界にも存在

「僕、前回のロシアW杯決勝を見に行かせてもらったんですよ。初めてW杯の空気感を味わったんですけど、やっぱりあれって他にはない、本当に特別なイベントなんだなって思いました。世界中からいろんな人がサッカーを見に来ていて、応援している。あれだけの数の、さまざまな国の人が4年に一度、世界を巻き込んで熱狂的になるというのは物凄いイベントなんだなって実感しました」

W杯は、まさにサッカーが世界を一つにすることを表現できるコンテンツだ。年齢、性別、趣向、職業、言語や国籍は違えど、“サッカー”というスポーツを通してみんなが一つになれる。その中心にあるのが、サッカーボールだ。ボール1個があれば、パス交換で言葉の壁を簡単に乗り越えられる。

「初めて世界大会に出場した18歳の時に感じたんですけど、当時、英語が全く話せませんでした。大会参加者のなかで、僕だけが言語ができなくてコミュニケーションが取れなかったんです。でも、みんなが練習しているところに入って、一緒にボールを蹴り出したら、もう言葉なんて逆にいらなくて。『え? そんなことができるの? じゃあこれもできる?』ってジェスチャーで伝えて実際にやってもらって、それで十分だったんです。本当に言葉がいらなかったことにびっくりしました。このボールがあったからこそ、これだけ多くの人と知り合うことができましたし、本当にサッカーボールって全然違う国の人たちを簡単に繋げることができるんだなあと身をもって感じました」

フリースタイルもサッカーも勝負の世界なので、勝敗はもちろん存在する。しかし、そのなかにも「いいものはいい」と認め合えることこそ、スポーツのなかにある多様性なのかもしれない。

「フリースタイルっていうのは、本当に言葉のまま“フリー”だし、自由でいいって僕は思っているんです。いろんな国の選手が一堂に会して大会をやるんですけど、国とか地域とかっていうのをみんな全く気にしていないし、フリースタイラーは自然と1人ひとりの個性を認め合っているんだと思います」

それはサッカーも同じだ。「敵ながら素晴らしいゴールだった」「負けたけど、いい試合だった」。そんな言葉が自然と聞こえてくる世界観がある。

「W杯の決勝の舞台に日本代表が行くのを、僕たちファンは楽しみに応援しています」

新宿の摩天楼を見渡すビルの屋上で、極上のフリースタイルのプレーに世界の頂点への夢を乗せて、サッカーボールが世界をつなぐ旅は、また次の都市へと飛び立っていった。

(THE ANSWER編集部)

THE ANSWER編集部

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