カシオペア、ライヴ録音に思えない超絶演奏が満載『Mint Jams』は文化遺産に推したほどの大々傑作

カシオペア、ライヴ録音に思えない超絶演奏が満載『Mint Jams』は文化遺産に推したほどの大々傑作

  • OKMusic
  • 更新日:2021/07/21

7月21日、カシオペアの1stアルバム『CASIOPEA』と1982年のライヴ作品『Mint Jams』とが、アナログ盤で復刻リリースされた。単なる再販ではなく、多くの世界的ミュージシャンのマスタリングを行ない、数々のグラミー賞作品を世に送り出し、日本では松任谷由実のアルバムを手掛けたことでも知られるBernie Grundmanをマスタリングエンジニアに迎えて、両盤とも新たにカッティング。ファン垂涎の作品に仕上がっている模様だ。今週はそんなカシオペアから名盤をピックアップしてみた。

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(okmusic UP's)

ポップなインストバンドの草分け

…というわけで、この機会に『CASIOPEA』と『Mint Jams』を聴いた。いずれも素晴らしいアルバムであって、カシオペアの突出した才能が詰め込まれた作品であることを改めて、瞬時に理解できた。まず初めに極めて基本的なことを指摘させてもらいたい。歌がないのにポップ=親しみやすい──これがカシオペアというバンドの特徴のひとつであり、彼らがあまたあるインストルメンタルバンドに抜きん出たところであると思う。“何を今さら当たり前のことを…”と訝しがる方が多数いらっしゃると思うが、歌がないにもかかわらず、聴いた人が楽器の奏でるメロディーをスキャットで口ずさめてしまえる楽曲を多数有しているということは、案外見すごされてしまいそうな気もするので、あえて強調しておきたいのである。

さらに言えば、今となっては、T-SQUAREであったり、東京スカパラダイスオーケストラであったり、大衆性を備えたインストバンドも珍しくないけれども、カシオペアはその草分け的存在であったことも加えて強調しておかなければならないだろう。デビュー作『CASIOPEA』のリリースが1979年5月。イエロー・マジック・オーケストラ(以下YMO)のデビュー盤はそれよりも半年ほど前の1978年11月の発売なので、YMOのほうがカシオペアより世に出たのは若干早いが、YMOのヒットナンバーである「テクノポリス」「ライディーン」などが収録されたイエロー・マジック・オーケストラのアルバム『ソリッド・ステイト・サヴァイヴァー』が発売されたのは1979年9月。よって、日本においてポップなインストバンドの先駆はカシオペアと言っても大きく間違ってはなかろう(初期YMOにもボコーダーを使用した歌もあったので厳密にはインストバンドではないのだけど、メインのメロディーが歌ではないということで、大掴みでインストとさせてもらった。何卒ご理解を)。

別にインストバンドがポップじゃなきゃいけない…などという道理はない。ジャズバンドが披露するような複雑なコード進行やインプロビゼーションが悪いわけでないし、それも音楽の醍醐味として確実に存在する。ただ、それらはやるにしても聴くにしても上級者向けであることは否めない。ハードルの高さは否定できないはずだ。しかし、カシオペアの音楽がそうではないことは、この2枚のアルバムでもはっきりと確認できる。いい意味で間口が広いのである。今、その辺にいる人に『CASIOPEA』でも『Mint Jams』でも聴かせたとして、収録曲を難解だと感じる人はいないだろう。この2作の中には、映画のテーマソングになったり、CM曲として起用されたり…という、いわゆるタイアップはないものの、収録曲のいくつかはテレビやラジオで使用されていると思う。はっきりどれがどこで…とは言えないけれど、バラエティー番組のワンコーナーのBGMとか、今もさりげなく聴こえてきても不思議ではない(個人的には、かつて天気予報のバックとかで流れていたような記憶があるが…)。その辺にいる人が“どこかで聴いたことがあるかも…”と小首をかしげる可能性は十分にある。いろいろ書き連ねてしまったが、とにかく、カシオペア楽曲の中心にあるメインのメロディーがとても大衆的だという点を、それを知らない人には知ってほしいところである。

比類なきライヴアルバム

さて、そのポップさがあるところを大前提に押さえてもらったところで、本題に入る。今回、『CASIOPEA』と『Mint Jams』のアナログ盤が新たなカッティングで再発されるということで、当初は1stアルバムである『CASIOPEA』を取り上げようかと考えていた。こちらも大前提のポップさが発揮されつつ、どの曲においてもバンドのアンサンブルの妙は面白いし、ホーンセクションにBrecker Brothers、David Sanbornという世界的な奏者を迎えている楽曲での世界観の構築は申し分ないと言える。ロック的なキレとAORのムーディさが同居しているところもいい。デビュー作としては傑出している。

ところが…だ。『CASIOPEA』に続いて、『Mint Jams』を聴いて驚いた。ライヴ盤であることは承知していたけれど、聴き進めていくうちに徐々に度肝を抜かれていった。随所随所で“ほんとにライヴ盤!?”と感嘆したのである。自分が知るライヴアルバムと言うと、演奏テクニックうんぬんというよりも、ライヴ会場での空気感の再現が最優先である傾向があったように思う。RCサクセションの『RHAPSODY』然り、BOØWYの『“GIGS” JUST A HERO TOUR 1986』然り(チョイスが偏ってるけど…)。『MINT JAMS』は明らかにそれらとは違う。会場に立ち込めた空気感はほとんど無視していると言っていい。ライヴ会場での一発録りというか、ライヴテイクならではの緊張感ある演奏、そこだけにフォーカスしている印象である。どこのパートもめちゃくちゃテクニカルなのだ。こんなライヴ盤、少なくともポピュラーミュージックの分野では他にないと思う。

まずオープニングのM1「テイク・ミー」。ほんのわずかに残響音が感じられるところに、かろうじてライヴテイクであることを認識できるものの、知らないで聴いたらライヴ盤とは思わないであろう。楽器の音以外を極力抑えている。そして、アンサンブル。確かにギター、ベース、キーボード、ドラムの音だけが鳴っている。しかし、たった4つの音しか鳴っていない感じがほとんどしないのである。各パートの音符が多くて密集感が強い…とか、そういうことではなく、お互いがお互いの間を埋めていると言ったらいいだろうか。4つの音しかないが、まったく軽く聴こえないのである。相互に合っているかと言えば、デジタルサウンドのように完璧にジャストではない気もするけれど、それがいいグルーブを生んでいるようでもある。

M2「朝焼け」でさらにこちらのテンションが上がる。まずドラムとベースが見事にシンクロしていることに気付いて驚いた。ライヴ音源を使ってミックスしているといっても、ここまで正確にシンクロさせるのは相当に細かい作業が必要だろうから、これは実際の演奏がぴたりと合っていたということだろう。さらに、ギターのカッティングの正確さにも舌を巻く。“サンプリングマシンに取り込んでループさせているのか!?”と勢い思ってしまうほどの正確無比な演奏はすごいのひと言である。そうではないと分かっていても一応調べてみたのだが、[日本ではシンセ・プログラマーの先駆けである松武秀樹が1983年当時、国産初と思われるデジタル・サンプラーをスタジオで使用していた]ということなので、その情報が正しいとすれば、『MINT JAMS』のリリースはその1年前ということで、手弾きであったことは疑う余地すらもない([]はWikipediaからの引用)。

あと、その軽快なギターを支える他のパートの仕事っぷりも聴き逃せない。ギターがソロを弾く時になると鍵盤がギターカッティングに近いフレーズを繰り返す。そして、鍵盤が主旋律を弾くようになると、ギターがカッティングに戻りその背後を支えるというリレーション。後半、ギターが暴れ気味になっていくところは、ベースがしっかりとメロディーを鳴らす。時々スラップ的なおかずも入れながらなので、決してリズムをキープしているだけでもないベースの技にも脱帽だ。M2は終わり方のキレの良さも抜群! 気持ちいいほどにスパッと終わる。演者の息の合い方が尋常じゃないのはそこでも分かる。

成熟したバンドアンサンブル

キレが良いのは続くM3「ミッドナイト・ランデブー」もそうで、途中のブレイクは不思議なくらいピタッと止まるし、ドラムの俗に言う“ダチーチー”のところとか、小節のつなぎ目で見せる短いユニゾンとか、キレッキレだ。リズムが微妙にオフビートで、ギターもキーボードもベースも、フリーキーに弾いているように思えて、締めるところではしっかり締めてくる。確信的とも思えるアンサンブルの重ね方は心憎く思うところだ。アルバム『CASIOPEA』にオリジナル音源が収録されているM4「タイム・リミット」は、このテイクではホーンセクションがないためか、16ビートでの独特の緊張感が増大している印象。ギターだけでなく、ベースも鍵盤も急いている感じでロック的な雰囲気を出していて、カシオペアというバンドの懐の深さをうかがわせる部分もある。

M5「ドミノ・ライン」は本作の白眉であろう。ギターが奏でるメロディーラインが曇りのない空のような、軽快かつ開放感のあるナンバーであって、それだけでも十分に気持ち良く聴けるのだが、これもまたバンドアンサンブルが半端ない。当初はギターの主旋律を鍵盤が補完し、リズム隊はボトムをしっかりと支える感じではあるのだが、キーボードのソロが始まる辺りから徐々に本領発揮。ハイトーンに突き抜けっていった先にはベースソロ、ドラムソロが待ち構えている。このソロパートはいずれも実際の演奏されたのはもっと長くて、アルバム収録に当たってはカットされているというが、これでも十分にそのテクニックを堪能できる(個人的には、冗長ではなく、ちょうどいい印象ではあった)。ベース、ドラムそれぞれの演奏もさることながら、ここでもさりげなくバンドの息の合ったところが垣間見える。それぞれに1拍、ないしは3連で全員の音を同時に鳴らすところが何ヵ所かあるのだが、あのビシッと音が決まるところはやはりとてもすごい。他の追随を許さないバンドの成熟さ、老獪さを如何なく感じさせるところである(老獪と言っても、この頃、メンバーは皆、20代なのだが…)。また、M5後半のギターとキーボードとがユニゾンで主旋律を奏でるところや、ドラムの手数が増える箇所などは、ライヴらしさが感じられるところでもある。

続く、M6「ティアーズ・オブ・ザ・スター」も、スタジオ版にあったサックスが入っていないため、印象が異なる感じ。アーバンな雰囲気はそのままだが、次第に幻想的かつ壮大に展開していき、後半ではHRかプログレかと見紛う演奏が聴けるのが面白い。まさにライヴ盤といったテイクで、これもまた素晴らしい。M7「スウェアー」は終始、軽快なギターのカッティングが続いていきながら、これもまたギターとキーボードのリレーションが楽しい。さらにはギターの速弾きの他、鍵盤はジャジーなものから可愛らしい旋律まで、いろんな表情を見せるものの、全体的には生真面目に…というか、突飛なところなく、しっかりと演奏していることが分かる。ドラムの連打で、観客を煽っているところはライヴならでは…であろうし、演奏後には歓声も入っている。ライヴ盤らしいフィナーレとなる。

その演奏の熱が少しでも伝われば…と、こちらも興奮気味に全曲解説してしまった。どこまで伝わったか甚だ疑問ではあるが、この『Mint Jams』は本当に名盤であることは間違いない。[アルバムタイトルは、ミント・コンディション(新品同様、極上のコンディションの意) のミントとジャム・セッションのジャムを合わせた造語「最高の演奏」であり、メンバーのイニシャルのアナグラムでもある]という([]はWikipediaからの引用)。アナグラムとは、野呂一生(I.N)、向谷実(M.M)、櫻井哲夫(T.S)、神保彰(A.J)の組み合わせである。こういうところはもはや本作は神がかっていると言っていいのではないだろうか。国内外で何度も再発されているようだし、こうなったら、文化遺産として登録するのもいいのではないだろうか。結構マジでそう思う、邦楽史上屈指の、傑作中の傑作である。

TEXT:帆苅智之

アルバム『Mint Jams』

1982年発表作品

<収録曲>
1.テイク・ミー
2.朝焼け
3.ミッドナイト・ランデブー
4.タイム・リミット
5.ドミノ・ライン
6.ティアーズ・オブ・ザ・スター
7.スウェアー

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