『カムカムエヴリバディ』完璧な布陣で作り上げた橘家 家族の原風景はるい編への布石に

『カムカムエヴリバディ』完璧な布陣で作り上げた橘家 家族の原風景はるい編への布石に

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  • 更新日:2022/01/15
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『カムカムエヴリバディ』写真提供=NHK

「Take me to the United States.」

衝撃的な幕切れとなった安子編の結末から1カ月。『カムカムエヴリバディ』(NHK総合)は舞台を大阪に移して、色彩豊かな青春グラフィティが繰り広げられる。るい(深津絵里)は、ジョー(オダギリジョー)と出会うことで、母・安子(上白石萌音)と過ごした日々を思い出す。本稿では、あらためて安子編の橘家を振り返ってみたい。

なんという温かい光景だったことだろう。思い出すだけでじんわりと温かい気持ちになる。『カムカムエヴリバディ』安子編のワンシーン。ラジオを前にして、祖父母と両親、兄、職人たちの団らんの中心にいるのは幼い安子(上白石萌音)だ。絵に描いたような理想的な家族が、あれほど悲惨な運命をたどろうとは、この時は夢にも思わなかった。

いま思い返しても、橘家のキャスティングは完璧だった。上白石演じる安子の祖父・杵太郎と祖母ひさに重鎮の大和田伸也と朝ドラの出演経験も豊富な鷲尾真知子、父の金太と母の小しずには存在感のある名優・甲本雅裕と西田尚美を配し、物語全体のキーを握る兄・算太を10代から長いキャリアを持ち、『わろてんか』(NHK総合)以来の朝ドラ登板となる濱田岳に託した。職人役の杉森大祐、松木賢三、中村凜太郎も、それぞれ朝ドラ常連俳優である。

主人公の成長を追う朝ドラで、家族の配役が重要であることは言うまでもない。主要キャストであり、比較的長いスパンで登場する両親や兄弟姉妹には、それなりの役者を当てることが通例である。『カムカムエヴリバディ』もその例にもれないが、若干、様相を異にする。母娘3代、足かけ100年にわたる本作は、通常よりも早いペースで物語が進んでいく。ダイジェスト的になりがちな場面でも、演技の呼吸を知り尽くした俳優陣は、シンプルな会話劇にしかるべき情緒をにじませながら、温かくなつかしい家族の原風景を形づくっていた。

こうした理想化された昭和の家族を強調した理由は、後に明らかになる。杵太郎亡き後、空襲によってひさと小しずも帰らぬ人となり、ショックで憔悴しきった金太は、一度は焼け跡に「たちばな」を再建しようとするが、算太が戦地から戻る夢を見た翌朝、急死する。安子も雉真家に嫁いだのち、稔(松村北斗)と死に別れ、幼いるいを抱えて辛苦を味わう。最終的に安子は渡米、算太はふたたび失踪し、成長したるいだけが取り残される。

鮮やかな場面転換であり、心の拠りどころにしていた娘に拒絶されて海の向こうへ渡った安子の決断の是非や、朝ドラ史上に残るドミノ倒しのような展開に話題が集まる中、一歩引いた視点から見たとき、安子編は幸福だった家族がバラバラに引き裂かれる一家離散の物語だった。あれほど幸せだった一家が、時代の波に翻弄されてなすすべもなく落ちていく。終焉を運命づけられたゆえの完璧な家族だったのだ。人間の持つ避けがたい業のようなものを直視する作家の確かな力量を感じる。

それと同時に、安子編を想起したとき、不思議なことに、悲劇よりもむしろ幸せな家族の風景や笑顔が脳裏に浮かぶ。日なたの道を歩くぬくもりと言ってもいいだろう。それはラジオから流れる「カムカム英語」のテーマ曲や、あんこの味、安子の笑顔と結びついている。視覚だけでなく、味覚や聴覚も甘く満たされていた時間。その中で俳優たちが画面に刻んだのは、困難に見舞われながら娘を守り育てる母の心情、「おいしゅうなれ」と小豆に呼びかける心だった。悲劇はるいが立ち直っていく次章への布石でもある。「心配事は玄関に置いて/日なたの道へと歩き出そう」。日なたの道を歩む母娘のドラマはこれからが本番だ。(リアルサウンド編集部)

石河コウヘイ

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