時間の大きさをまじめに測ったら消えちゃったって、どういうこと!?

時間の大きさをまじめに測ったら消えちゃったって、どういうこと!?

  • 現代ビジネス
  • 更新日:2020/09/16
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自然界の多くは対称性をもっているのに、なぜ時間は一方向にしか流れないのか? 古来、物理学者たちを悩ませてきた究極の問い。ケンブリッジ大学宇宙理論センターでホーキング博士に師事し、薫陶を受けた若き物理学者が、理論物理学の最新知見をを駆使して、この難問に挑む思考の旅へと発ちました。

これまで、「方向」、「次元数」という手がかりから時間を考えてみましたが、もう1つ重要な手がかりとして「大きさ」という観点から検証してみました。ところが、時間の最小単位として、ミクロの素粒子レベルを追いかていたら、時間そのものが消えてしまいました。

「時間は流れる」なんて考えはナンセンス!? 「超弦理論」と「ループ量子重力理論」という、物理学の次世代理論の探検に、いざ出発です!

時間の大きさ――それは一定ではない

さて、時間について考える手がかりとして、「方向(時間の矢印)」「次元(次元数)」を参考に、逆戻りする可能性を考えてきましたが、もうひとつ、3つめの手がかりとして、「大きさ」を挙げたいと思います。

といわれても、「時間に大きさなんてあるの?」と戸惑われる方もいらっしゃることでしょう。 たしかに、時間に「かたち」があるとは思えません。かたちがないものに、大きさがあるとも思えません。それに、時間はつねに一定の速さで進む絶対的なものですから、大きいとか小さいとか、相対的な「サイズ」があってはいけないようにも思えます。

しかし、それらは時間についての誤った思い込みです。

第2回の〈絶対不変の時空を歪めた相対性理論。それでも破れなかったものとは?〉で触れたのですが、時間と空間は一体であると、アインシュタインは考えました。じつは、相対性理論では時空は物体の運動によって、伸びたり縮んだりします。サイズが変わるのです。だから時間の進み方が速くなったり、遅くなったりするのです。

つまり、空間も時間も、絶対的なものではなく、相対的なものである――もう100年以上も前に、アインシュタインは、そんなとんでもないことを言って、人類の自然観を根底から覆しました。

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特殊相対性理論を発表した1905年頃のアインシュタイン photo by gettyimages

でも、残念ながら日本の高等学校までの理科教育では、いまだに発見から100年もたった相対性理論が教えられていません。多くの日本人が時間に相対的な「サイズ」がないと思い込んでいるのは、このあたりに原因があるような気がします。

時間の大きさ、最小単位はどれくらい?

さらに、もうひとつ、では時間の「大きさ」には下限があるのか、あるいは、最小の単位のようなものはあるのか、という論点もあります。そこには、時間は無限に小さく刻めるものなのか、という深いテーマが隠されています。

つまり、時間をどんどん分割していくと、最後は素粒子のような最小単位に行き着くのではないか、ということです。

量子力学が何かとぶっ飛んでいることは、これまでにもたびたびお話ししましたが、 じつは時間もそんな量子世界の一員ではないかというわけです。「マクスウェルの悪魔」 が復活して時間が逆戻りしたように、量子世界では時間についても何が起こっても不思議ではありません。

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時間の単位を分割すると素粒子レベルに?

こうして考えてくると、時間の「大きさ」については、「重力」と「量子」という2つのキーワードをもとに考えるほうがよさそうに思えます。

しかし、この2つを一緒に考えるのは、じつは色々と厄介なことなのです。

"重力"は、「力」一家の変わり者!?

この世の自然現象は、地球のみならず宇宙のいかなる場所においてもすべて、基本と
なる4つの力として、次の4つのものがあります。

自然界で基本となる4つの力

(1)電磁気力

電気の力と磁気の力。重力を除く、私たちがふだん感じている「力」。電子と原子核を結びつけて原子をつくる力や、原子どうしを結びつけて分子をつくる力も含まれる

(2)強い力

素粒子中のクォークを結びつけて陽子や中性子をつくり、さらに陽子や中性子を結びつけて、原子核をつくる。私たちがふだん感じるにはスケールが小さすぎるけれど、強い絆となる力

(3)弱い力

原子核のベータ崩壊、中性子の崩壊など、素粒子には時間がたつと崩壊する性質をもつものがあるが、その原因となる力。電磁気力よりもはるかに弱いことから、名づけられた

(4)重力

いわゆる「物体の重さ」として、私たちが最も身近に感じている力。質量をもっているすべての物体に働く、普遍的な力

この世の自然現象は、地球のみならず宇宙のいかなる場所においてもすべて、基本となる4つの力のどれかによって起こる。なお、(1)〜(3)の3つの力は、「ボース粒子」(あるいはボゾン)と呼ばれる素粒子を媒介として力を伝えることが、量子力学の進展により明らかになった

このうち、重力は、ほかの3つの力のように素粒子の働きとして理解することが、いまのところできていません。宇宙で重要な力であるにもかかわらず重力だけが一般相対性理論を起源としていて、量子力学とはつながっていないのです。

ほかにもいろいろ、重力の変わり者っぷり

また、4つの力の中で重力はとんでもなく小さいのです。大きさの順番は、

強い力>電磁気力>弱い力>重力

となるのですが、ここで電磁気力=1としたときの、それぞれの力の大きさを比率で示すと、強い力は、10の6乗なので、1000000です。弱い力は、10のマイナス4乗なので、0.0001となります。

では重力はといえば、なんと10のマイナス36乗です。したがって、0.0000000000000000000000000000000000001ということになります。いくらなんでも、ほかの3つと違いすぎます!

重力には、さらに不思議な特徴があります。相手に対して、引力しか及ぼさないのです。ほかの3つの力は、相手を引きつける引力と、相手を遠ざける斥力(せきりょく)をバランスよくもっているのに、なぜか重力だけは一方通行なのです。そこには、「時間の矢」と同じ匂いをほんのり嗅ぎとることができる気もします。

ただ、ほかの3つの力は引力と斥力が相殺されて大きな力にはならないことが多いのに対し、重力は一方通行だからこそ、引力だけがどんどん遠方にまで伝わっていきます。しかも重力は質量さえあればどんな物質にも作用します。

大きなスケールで見れば、あのダークマターやダークエネルギーにも、その力は及びます。4つの力のうち、広大な宇宙において、とんでもなく小さい重力の支配が圧倒的に上回っているのです。

このように4つの力の中で重力が、きわめて異質で特別な存在であることは、どの星であろうと、間違いないでしょう。

あるとき、講演をしていて学生に、「映画の『スター・ウォーズ』のフォースのような力って、本当にあるんですか?」と聞かれたことがあります。

そのとき私はこう答えました。「もしあるとしたら、必ず4つの力に入っているはずです。そして、可能性が最も高いのは重力でしょう。ダークマターにも作用する重力を操れれば、手を触れずに遠くにあるものを引きつけることもできます。重力を真に理解できれば、宇宙の支配者になれるかもしれません(笑)」

重力を操れれば、マスター・ヨーダのようにXウイングも持ち上げられる?

ちょっとあおりすぎたかもしれませんが、若い人には自身が死んでから100年たってようやく実を結ぶほどの壮大な研究に取り組んでほしいとの思いから、こんな答えになってしまいました。願わくは、彼の志がフォースとともにあらんことを。

4つの力すべてを統べる理論「宇宙重力理論」の実現

さて、重力のように重要な力を量子力学で扱えないことは、物理学にとっては大問題です。重力も量子力学で統一的に扱いたい―これは物理学の究極の目標ともいえます。我が師・ホーキング博士もそれを可能にする理論を「Theory of Everything」(=すべてを説明できる万能理論)であると位置づけ、完成させることを夢見ていました。

こうした物理学者の願望は、いま(1)電磁気力と(2)弱い力をまとめるところまでは「電弱統一理論」、あるいは貢献者の名をとって「ワインバーグ=サラム理論」によって実現されました。次は、これと(3)強い力をまとめた「大統一理論」が、まだ未完成ながら、力を媒介する素粒子が明らかになっていることから、道筋が見えてきています。

問題は、現在「量子重力理論」と呼ばれる、重力を含めた4つの力すべてをまとめることにあります。

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4つの力の特徴と、理論の統一。最初に枝分かれした重力を統一するのが物理学者の悲願

「量子重力理論」確立のネックは"ゼロ"

量子重力理論をつくるうえでの困難は、重力を量子化するにあたって、重力を媒介する素粒子(たとえば重力子と仮定されているもの)には大きさがないことです。これは重力にかぎった話ではなく、物質の最小単位である素粒子は、極小の「点」ですが、この点には大きさがないのです。すると、困ったことが起きます。

みなさんは数学で、絶対にやってはいけないことが1つだけあるのをご存じでしょうか。先生の頭を叩くこと? 違います。そう、ゼロで割ることですね。どんな数であれ、ゼロで割る割り算は、「発散」といって答えが無限大になってしまって決められなくなるので、禁止されているのです(まあ違反しても罰金をとられるわけではありませんが)。

そして素粒子に大きさがない、つまり大きさがゼロだと、量子力学に必要な計算をやっていくうえで、どうしてもゼロで割るという禁じ手を犯さなければならなくなってしまうのです。

電磁気力の場合は「繰り込み」といって、問題をよりミクロな世界に押しつけることでこのピンチを切り抜けましたが、自然界の最も基本となる空間や時間(時空)を相手にする力である重力は、もうほかに押しつけられるところがありません。ここに量子重力理論の難しさがあります。

じつは、21世紀になって20年が経ついまも、どうすればいいのか、軸となるアイデアは定まっていないのですが、その有力候補とされるアイデアは2つ提唱されています。1つは「超弦理論」、もう1つは、「ループ量子重力理論」です。

高次元世界で弦を奏でる「超弦理論」

超弦理論は、簡単にいえば、素粒子を大きさがゼロの点ではなく、長さをもつ「弦」と呼ばれるものであると考える理論です。

そうすることで、ゼロで割ると無限大に発散するという超難問を回避しようという発想です。弦はそれぞれが振動していて、その動きぐあいでどんな素粒子かが表現されます。弦は「ひも」とも呼ばれるため、「超ひも理論」という呼び方もされています。

超弦理論のもう1つの大きな特徴は、9次元の空間と1次元の時間という、きわめて高次元の時空を考えることです。

ごく大づかみにいえば超弦理論では、物質をつくる「フェルミ粒子」(あるいはフェルミオン)と、力を媒介するボース粒子には対称性があると考えます。これをとくに「超対称性」といいます。

そして、この原理とさまざまな計算の結果がうまくかみあうよう整えていくと、結果として9+1という高次元の時空になるというのです。そして、私たちにとっては余分な6次元の空間は、人工的な「コンパクト化」と呼ばれる収縮をして、目に見えないようになると考えます

また、超弦理論では、弦は2種類あると考えます。1つは、両端に何もないひも状のもので、もう1つは、両端がくっついて輪になったものです。前者を「開いた弦」、後者を「閉じた弦」といいます。そして、物質をつくるフェルミ粒子や、電磁気力などの力を伝えるボース粒子は、開いた弦であり、重力を伝える重力子だけ、閉じた弦で表現されると考えるのです(下図)。

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超弦理論の2種類の弦。開いた弦(右)と閉じた弦が振動しているイメージ

さて、自分で説明しておいて恐縮ですが、ここまでの話が「理解できた」と思っている方は、おそらくほとんどいらっしゃらないのではないでしょうか。なにやら煙に巻かれた気がしているのではないかと思います。

しかし、このあたりを丁寧にやるとそれだけで1冊の本になってしまいますし、正直にいうと、理解できなくても、とりあえず今回のお話を読んでくださるうえで不都合はありませんので、超弦理論ってこんなものなんだなと思っていただければ良いかと思います。

新たな時空モデルを構築した「ループ量子重力理論」

さて、もう1つの有力候補、ループ量子重力理論は、第3回の「量子力学は、アインシュタインも認めた"因果律"を破れるか」でもちょっと登場したイタリアの物理学者カルロ・ロヴェッリが提唱したものです。

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イタリアの物理学者カルロ・ロヴェッリ photo by gettyimages

この理論では、時空は3次元の空間と1次元の時間という現状どおりの設定になっています。その点は超弦理論に比べると、とても落ち着きます。

ただし、時空の扱いを、量子的に「離散的なもの」として取り扱います。

第3回の記事で量子力学の奇妙な性質として、「エネルギーの量は飛び飛びの値をとる」という話をしました(第3回「怪・その1 時間の流れは連続的ではない!?」)。量子力学で、エネルギーがとる値は間のない連続的なものではなく、飛び飛びの不連続なものになるということを「離散的」といいます。

これと同じように、連続的と思われていた時空もじつは不連続で、空間も時間も飛び飛びの編み目のように離散的な構造をしていると考えるのです。

具体的には、「ノード」と呼ばれる点と、それらを格子状に結ぶ「エッジ」と呼ばれる線からなるネットワークで、時空の全体が表されると考えます。

このイメージは、鉄道やバスの路線図や、電気回路などをつくるときに「つながり方」を考えるときや、最近ではSNSのような社会的なネットワークの問題を解くときにツールとして有効ともいわれる、数学の「グラフ理論」に似ています。

ループ量子重力理論が予言する時空のネットワークでは、「スピン」と呼ばれる素粒子の回転の方向が重要な意味をもちます。そこで、このネットワークはしばしば「スピンネットワーク」とも呼ばれます。そしてスピンネットワークには、重力を表す「輪っか」があることから、ループ量子重力理論の名がつきました。

ループ量子重力理論とは、このように時空を離散的に扱うことで、空間や時間にはそれ以上は分割できない最小単位があることを示す理論です。そうすることで、時空そのものを量子化し、さらに最小限の「大きさ」を与えることで、先ほど申し上げた「ゼロで割る」という発散の問題も回避しているのです。ここに、超弦理論との本質的な違いがあります。

超弦理論では、9+1=10次元という高次元の時空を想定しますが、それは既存の4次元時空に、人工的にコンパクト化した6次元空間をくっつけたものであり、その意味では、一般相対性理論からみちびかれた時空の概念を大きく変更するものではありません。

一方のループ量子重力理論は、時空の量子化をめざして、一般相対性理論とも量子力学とも異なる「飛び飛びの時空」という新たな時空モデルを構築しています。

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ループ量子重力理論が考える時空。スピンを結ぶネットワークで形成される

では、本当に時空が飛び飛びの量子だとしたら、空間や時間の最小単位はどのくらいのサイズなのでしょうか。

ミクロ世界に描いた壮大な夢の結晶

ループ量子重力理論の提唱者ロヴェッリは、それは「プランクスケール」になると考えています。プランクスケールとは量子力学の生みの親ともいわれるプランクが示した、自然界のさまざまな量について極小と考えられる値の総称で、プランク長(長さの単位:10のマイナス33乗cm)、プランク温度(温度の単位)、プランク時間(時間の単位)などがあります。

このうち、プランク時間は、光子がプランク長だけ進むのに要する時間と定義されていて、それは10のマイナス44乗秒というオーダーです。1億分の1秒を10億分のにして、さらに10億分の1にして、さらに……またさらに……と4回やったらこうなります。

時空を量子化すると、空間はプランク長に、時間はプランク時間になるとロヴェッリは考えています。

著書『時間は存在しない』によれば、彼は大学時代に「10のマイナス33乗(=プランク長)」と書いた紙を寝室に掲げ、「このスケールの世界で何が起きているのかを理解すること」を、自分の目標としたそうです。人間がとらわれているマクロな時空の制約から自由になり、ミクロの世界を理解したいという壮大な夢が、この理論の原動力だったのでしょう。

量子重力理論の候補たちは、時間をどう考えるのか

重力と量子を統一的に扱える量子重力理論というものが本当に存在するなら、それは超弦理論なのか、ループ量子重力理論なのか、それとも何か別の理論なのか、もちろんまだまだ結論が出せることではありませんが、答えはこのうちのどれかになるはずです。

どちらの理論にも、現実の観測にもとづく証拠があるわけではないので、直接に正しいかどうかを検証することはできませんが、拙著『時間は逆戻りするのか』では、「答えがわからない問題について、説得力ある根拠をもって回答を予言できるか」という観点から、両者を比較しましたので、ぜひ読んでみてください。

ここでは、これらの量子重力理論の候補は、私たちの旅のテーマ「時間の逆戻り」について、なんらかの可能性を示してくれるのか、ということを検証してみましょう。

じつはループ量子重力理論は、時空を量子化して、時間にも素粒子サイズの「大きさ」があることを示しただけではなく、ついには時間の存在そのものを消してしまいました。逆戻りどころではありません。ここでは、この驚きのマジックを、ロヴェッリの著書も参照しながら種明かししてみようと思います。

時空は一定不変ではなく重力によって伸び縮みすることを明らかにした一般相対性理論と量子力学を統一的に扱うために、超弦理論では時空は本質的にそのままにして、重力を量子化することを考えました。そのために、重力子などの素粒子が弦でできていると仮定します。

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時空はそのままに、重力を量子化することを考えた photo by gettyimages

それに対して、ループ量子重力理論が考えたのは、重力が伝わる「場」、すなわち「重力場」の量子化でした。

物理学では、場は物質としての実体をもっていると考えられています。そして量子力学にしたがえば、物質はすべて素粒子でできているので、重力場も素粒子でできていることになります。この重力場こそ、重力を伝える時空にほかなりません。つまり、空間も時間も、素粒子でできているというわけです。これが、ロヴェッリが考えた時空の量子化です。

時間も量子世界の一員ということになると、たちまちぶっ飛んだことが起こってきます。その1つが、揺らぎです。

揺らぎは時間と空間の区別さえ崩壊させる

素粒子である時間は不確定性原理によってあっちこっちに揺らいで、位置や速度を決めることができません。〈シュレーティンガーの猫〉で、箱の中の猫が「生きている」か「死んでいる」かに決まるのは、あなたが箱を開けて中を観測したときである、ということのように、誰かが観測したときに決まるのです。

たとえばアインシュタインが考えた、因果律を表す光円錐も揺らぎます。光円錐では、光が進む線を表す境界線は、斜め45度に描かれます。ところが、時空が揺らぐと光円錐も揺らぎ、時間を表す方向が空間を表す方向になるといった、時間と空間の入れ替えが起こると考えられているのです。

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時間と空間が入れ替わる。時空が揺らぐと、光円錐も揺らいで時間方向が空間方向になる

この現象はブラックホールの内部でも起きていると考える研究者もいます。そこで
は、もはや空間と時間の区別さえ崩壊しているというのです。想像を絶する状況です。まあ、このあたりの話は抽象的すぎますが、あれだけ堅物に思えた時間も量子世界に仲間入りしたとたん、ならず者になってしまうということです。

時間が消えた!?

そんな(ほかのあらゆる物質と同様に)あやふやなものを、あえて「時間」と呼んで特別扱いする意味があるだろうか。ロヴェッリはそう考えました。

時間とは、あらかじめ決められた特別な何かではない。時間は方向づけられてなどいないし、「現在」もなければ、「過去」も「未来」もない。だとするなら、あるのはただ、観測されたときに決まる事象どうしの関係だけだ。これまでは量子力学も、時間の発展を前提としていたが、もはや時間は表舞台からきれいに姿を消してしまった。時間とは、関係性のネットワークのことである。

これがループ量子重力理論の本質です。いわば複数の絵を一つのストーリーに沿って見せていく、紙芝居のような時間は幻想であり、たとえば2枚目と5枚目の関係を示すものにすぎないというわけです。

物理学では、「すべての方程式は、時間的に発展することを暗に前提としている」という大命題があり、量子力学の方程式もその例外ではありませんでした。しかし、時間が未来へ発展するものではなく、ただ関係性を表すものにすぎないとされたことで、時間は方程式の中に溶け込んだのです。

「時は無知なり」…… ゆえに議論は続く

なんと、「時間は逆戻りしないのか」を追いかけて、その「大きさ」を検証していたら、時間そのものが消えてしまいました。そこまでしなくても、と言いたい気持ちにもなります。でも、ロヴェッリからすれば、「逆戻り」というテーマ設定がそもそも「時間とは流れるものという幻想に縛られているのだ」と言いたいところかもしれません。

量子力学の重要な性質に、ab≠baというものがあります。「量子の非可換性」といって、量子aと量子bをかける順番には厳然とした順序がある、ということです。量子の世界ではミクロの量子は揺らいでいるため、量子の位置が確定してから速度が確定した場合と、速度が確定してから位置が確定した場合では、量子の状態に違いが生じるためです。一方向にしか進まない時間の流れは、じつはこうした量子の非可換性から生まれているとも考えられています。

ロヴェッリの論旨を意訳すると、abとbaがイコールだと思っているのは、私たちが無知だからです。私たちがこの世界を、非常に粗く、ぼやけた見方でしか認識できないために、同じに見えているにすぎないというのです。

そして、エントロピーなるものが存在しているように見えるのも、私たちが世界を曖昧なかたちで記述しているからであり、かりにミクロなレベルでの量子の状態を完全に知ることができたら、エントロピーが示す時間の一方向性も消えると断言しているのです。

ロヴェッリは、「物理学における〈時間〉とは、結局のところ、私たちがミクロの世界の詳細を知らないために生じているものなのだ」と結論づけたあとで、こう言い添えています。

「時とは、無知なり」

私自身は、「時間が揺らぐ」という発想は興味深いと思いますが、「時間が消える」とまで言いきるには、まだいささか論理の飛躍があるように感じます。

そして、ループ量子重力理論に取り組む研究者が増えにくい理由の一端には、物理学者といえどもぬぐい去れない、時間に対するタブーのような感覚があるようにも思います。

時間を量子化できるかという問題には、このように時間の本質にかかわる多くのテーマが隠れていて、まだまだ熱い議論が続きそうです。

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時間の本質にかかわる多くのテーマが隠れていて、まだ熱い議論が続きそうだ

この記事は、ブルーバックス 『時間は逆戻りするのか』より作成しました。

時間の不思議と逆戻りの謎を巡る旅、連載「時間は逆戻りするのか?」
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好評の過去記事はこちらから

第1回 ホーキング博士最後の弟子が紐解く「人類の時間発見」

第2回 絶対不変の時空を歪めた相対性理論。それでも破れなかったものとは?

第3回 量子力学は、アインシュタインも認めた"因果律"を破れるか

第4回 エントロピーが「時を戻す悪魔」を倒すまでの150年におよぶ戦い

第5回 マクスウェルの悪魔復活! 量子力学は盤石の定理を破るか?

第6回 教えてドク! 過去でママに恋されたら、マーティーは消えちゃうの?

時間は逆戻りするのか宇宙から量子まで、可能性のすべて

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「時を戻そう」は本当に可能になるかもしれない!

一方通行と考えられてきた時間は近年、逆転する現象が観測され、なんと「時間が消えるモデル」までもが提唱されている。ケンブリッジ大学理論宇宙論センターで晩年のホーキングに師事した「最後の弟子」が語る、新しい時間像。読めば時間が逆戻りしそうに思えてくる!

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