ロシア経済は本当に崩壊寸前なのか?西側メディアが報じぬ「経済制裁が効かない」ワケ=高島康司

ロシア経済は本当に崩壊寸前なのか?西側メディアが報じぬ「経済制裁が効かない」ワケ=高島康司

  • マネーボイス
  • 更新日:2022/05/14
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戦争が続いているが、日本ではウクライナ側に偏向した報道が多い。西側諸国の経済制裁でロシアのGDPは−12%に落ち込むとも世界の主要メディアは喧伝しているが、本当にそうだろうか。他方、ロシアの財政は安定しており、制裁に参加しないアジア圏との貿易で経済制裁は効き目がないとの報道もある。実態はどちらなのかを検証したい。(『未来を見る! 『ヤスの備忘録』連動メルマガ』高島康司)

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経済制裁はロシアにダメージを与えているのか?

周知のように、ロシアのウクライナ軍事侵攻以後、欧米各国による最大限の対ロシア制裁が継続している。

5月9日、G7はオンライン首脳会議を開催し、軍事侵攻を続けるロシアへの圧力を強化するため、ロシアからの原油の輸入を段階的、もしくは即時禁止することで一致した。岸田総理大臣も日本としてロシア産の原油を原則禁輸する方針を表明した。

また、欧州連合(EU)のフォンデアライエン欧州委員長も、ウクライナに侵攻したロシアへの追加制裁案を発表し、ロシア産原油の輸入を年内に禁止する方針を打ち出している。ロシア産依存度の高いハンガリ-など一部加盟国が反対しているので、メンバー国の全会一致の原則がEUでは実現が難しいものの、全会一致原則の改正までも視野に入れ、ロシア産原油の禁輸を実行するつもりだ。

現在、ロシアには次の5つの分野の経済制裁が課せられている。

1. 「SWIFT」からのロシアの銀行の排除
2. 原油と天然ガスのエネルギ-輸入禁止
3. ロシア企業や要人の資産凍結
4. ITを中心としたハイテク製品の禁輸
5. ロシアへの新規投資の停止

制裁項目は実に6,000を越える。これは、イランや北朝鮮に次ぐ制裁の厳しさだ。

この制裁がロシア経済にどの程度の影響を与えるのか、議論されている。

ロシアのGDP「12%縮小」との予測

この制裁によって、ロシア経済は大打撃を受ける…という観測が主要メディアでは一般的だ。

いまのところ、戦争が始まった当初は記録的な安値まで急落したルーブルも、2020年初頭以来の高値に回復したし、店にはまだ食料があふれており、原油と天然ガスの販売による収入は引き続き流れ込んでいる。

しかし制裁の影響が徐々に出てくるため、非常に厳しい時期に入る可能性が高いと見られている。

ロシア政府の財務省も、悲観的な経済予測を支持している。国内総生産(GDP)は今年12%縮小し、経済省が予想する8%の減少を上回る可能性があるという。

12%の縮小は、ソビエトは崩壊した時代以来の縮小で、ソビエトが崩壊し、資本主義になだれ込んだ1990年代初頭に見られた混乱に匹敵する経済的苦痛をもたらすだろうとするエコノミストも多い。

この主なマイナス要因は、原油の禁輸、EUによるロシア産天然ガスの放棄、それに外国企業の離脱の増加だとしている。この結果ロシア経済は、多くのマイナス要因を抱えながら2023年に向けてさらに悪化するとしている。

プーチン大統領の失脚は時間の問題?

この落ち込みの背景のひとつになっているのは、ロシアの製造業の打撃だ。アメリカ、欧州連合、およびその他の同盟国は、自動車や飛行機を含む多くの製造品の生産に使用されるマイクロプロセッサ-(チップ)などの重要技術のロシアへの輸出を禁止している。

さらに、製造業向け部品や、サ-ビスのサプライヤーなど、多くの西側企業がロシアとの取引を中止することを自主的に発表している。部品の供給がストップしているので、ロシアの製造業にとっては大打撃だ。

いまのところモスクワのようなロシアで最も豊かな都市に住むロシア人は、他の地域の人々が感じ始めている差し迫った解雇などの兆候をまだ見ていないため、楽観しているようだが、将来の経済の落ち込みは、多くの国民の予想を越えるはずだという意見も多い。

日本をはじめ欧米の主要メディアは、ロシア経済はこれからソビエト崩壊後の1990年代初頭に経験したような壊滅的な落ち込みとなり、それを背景にして国民の怒りが爆発し、プーチン大統領が失脚するのは時間の問題だという見通しも多くなっている。

無視できないロシア経済の強靭さと石油生産の伸び

しかし、いまのところこのようになる兆候はまったく見られない。

ロシアの独立系の世論調査機関、「レバタ・センター」の4月の最新調査では、プーチンの支持率は82%であった。これは3月の83%から1ポイントほど低下したものの、ウクライナ戦争前の支持率は60%台だったので、それと比較するとプ-チンの支持は圧倒的だ。失脚するような予兆はまったくない。

また、ロシア経済の要である石油の輸出も好調だ。欧米の制裁で落ち込みが懸念されたロシア国内の原油生産量が、5月に再び増加傾向にあることが明らかになった。アレクサンダー・ノバク副首相兼元エネルギー相は、「状況は安定している。生産量は4月に比べて増えている。5月には部分的に回復し、より良い数値になると期待している」と語っている。

これは、特にアジア太平洋地域のいくつかの目的地への輸出が実際に増加したことが要因だ。ロシアは現在、中国へのパイプラインの拡張や新しい港の建設など、石油供給の多様化のための新しいインフラ・プロジェクトの開発を検討している。実際にロシア産原油の輸出は好調だ。欧米の輸入減少を補って余りある量の原油が、インドや中国に輸出されている。4月26日のデータでは以下のようになっている。

<欧米への輸出量>

・アメリカ:-83%
・フィンランド:-81%
・ドイツ:-79%
・イギリス:-70%

<アジアへの輸出量>

・インド:8.4倍
・トルコ:2.4倍
・中国:1.13倍

全体では、すでに4月の段階で、昨年の平均輸出量と比べても7%も増加している。さらに折からの原油価格の高騰もあって、ロシアは欧米の制裁の痛手は受けていない。5月には、さらにこの水準よりも原油の輸出量は増えているということだ。

中国との貿易額の急増

また、ロシアは中国との経済関係を強化しており、貿易額は急増している。

中国の税関が発表した最新のデータによると、4月のロシアと中国の相互貿易額は約510億9,000万ドルに達し、1年前の同期と比べ25.9%増となった。

中国がロシアから輸入する商品のうち、原油、天然ガス、石炭が70%近くを占めている。また、ロシアは銅と銅鉱石、木材、燃料、魚介類を輸出している。

中国はロシアに、スマートフォン、産業・特殊機器、玩具、履物、自動車、エアコン、コンピュータなど、幅広い製品を輸出している。

12月には、ロシアと中国は、両国間の貿易業務を第三者を介さずに行うためのインフラ整備で合意している。両国は制裁の可能性を避けるため、貿易の通貨を米ドルとユーロから、人民元とルーブルに切り替えている。

これを見ると、ロシア製造業に打撃を与えるとされた機械部品やIT関連製品の欧米による禁輸処置は、中国からの輸入の増加によって十分に補われている可能性がある。経済制裁でロシアのGDPは-12%も落ち込むとする見通しは、現実にはならないかもしれない。

痛手を受けていないロシア経済

もちろんウクライナ戦争が長期化した場合、ロシアに有利なこうした傾向が今後も続く保証はない。大きく落ち込むことも考えられる。しかし、ロシア経済の国内の動向を見ると、いまのところ大きく落ち込む予兆はほとんど見られない。

ロシアの経済活動を示す「リアルタイム」の指標は、ほぼ維持されている。電力消費量も微減にとどまっている。ロシア最大の銀行である「スベルバンク」が運営する支出追跡システムによると、3月に一服した後、ロシア人はカフェやバー、レストランでかなり自由に消費しているようだ。

ロシア経済が堅調な最大の理由は、先にも書いたように、やはり原油と天然ガスにある。フィンランドのシンクタンク、「Centre for Research on Energy and Clean Air」によると、ウクライナ戦争以降、ロシアは少なくとも650億ドル相当の原油と天然ガスを船やパイプラインで輸出してきたという。

2022年第1四半期、これらからの政府の収入は前年同期比80%以上増加した。5月4日、欧州委員会はロシアの全原油の輸入禁止を提案し、年内に完全発効する予定だが、アジア圏への輸出急増によって損失分は補われてしまう可能性も示唆されている。

有力シンクタンクの予測

では、実際にはどうなるのだろうか?

日本を含め欧米の主要メディアではロシアのGDPの-12%以上の落ち込みによるロシア経済破綻の予測とシナリオが喧伝されている。

しかし他方、ロシアへの制裁には参加していないか消極的なアジア圏との関係が強化されるので、ロシア経済はさほど影響を受けないとする見方も強い。

この見通しの違いは、アジア圏との経済関係をどう評価するかに依存する。現実的には実際どうなのだろうか?

そのような疑問に答えてくれる有力シンクタンクのレポートがあった。ドイツのキールに本拠地がある「世界経済学研究所」というシンクタンクがある。ここは2017年に世界でもっとも影響力のあるトップ50のシンクタンクに入っており、経済政策の分野ではトップ15にもランクインされている。世界でもトップクラスの経済系シンクタンクだ。

5月6日、ここの研究員で世界貿易の専門家のロルフ・ラングハマー博士が興味深い予測をしている。筆者はさまざまな記事を読んだが、この記事がもっとも説得力があった。それは、「ロシアは長期戦に備える─石油禁輸の場合でも」という短い記事だ。よい内容なので全訳した。以下である。

ロシアが西側の抜本的な制裁に直面してウクライナ戦争にすぐに屈服するという期待は、失望させられる可能性が高い。国家予算の状況とロシア経済の構造的特徴の両方が、自給自足に基づく戦争経済を長期にわたって持続させるための健全な条件を作り出している。

ロシアは近年、安定した財政状態を構築することに目に見える成功を収めている。これには、国際的に見て非常に低い公的債務(GDPの20%)、高い貯蓄、抑制的な支出政策、強力な準備金の蓄積などが含まれる。国際通貨基金(IMF)も、ロシアのマクロ経済状況に関する最新の報告書(2021年1月発行)で、このことを立証していた。また、ロシアがドルへの依存度を下げることに成功したことにも言及している。

また、現在、制裁を回避している国や、ドイツのように購入を一部維持している国へのエネルギー輸出による収入が増加している。現在の原油価格は、IMFがロシアの財政を均衡させるために必要な10~15ドルという試算をはるかに上回っている。EUの石油禁輸措置は、当分の間、これを決定的に変えることはないだろう。

構造的には、ロシアは民間サービス業の重要性が低く、公共部門の雇用が高いことが救いである。これらの従業員は、国内におけるプーチン大統領の政治的支持の保証人であり、価格統制や所得支持を通じてインフレ上昇の影響から保護される、つまり優遇された支援を与えられている。闇市の出現は社会を分裂させ、政治的支持を弱める可能性があるので、政府は大規模な対策を講じる。

海外からの重要でかけがえのない資本財の不足という非常にネガティブな結果は、長期的には確実に発生するが、ロシア経済がすぐに破滅に追い込まれることはないだろう。西側諸国は、長い持続力を示さなければならないだろう

出典:Russia is financially prepared for longer war—even in case of an oil embargo – Kiel Institute(2022年5月4日配信)

要するにロシアは財政的に非常に健全で、また民間部門よりも公共部門のほうが大きいので、経済制裁による民間部門の落ち込みの影響はあまり受けない。またエネルギー価格も高騰しており、輸出も堅調だ。したがって、欧米の制裁があってもロシア経済は相当に長い間持ちこたえるだろうという予測である。

おそらく、これがもっとも現実的な予測であろう。主要メディアで喧伝されているロシアのGDPの-12%を越える落ち込みという状況にはならない可能性が高い。また、経済制裁をきっかけとして、中国とロシアによる新しい決済システムの構築をベースにして経済圏として自立するという楽観的な見通しもあるが、これは記事を改めて書くことにする。

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