どの蒸留酒とも違う東洋の摩訶不思議な酒、焼酎の謎をひもとく

どの蒸留酒とも違う東洋の摩訶不思議な酒、焼酎の謎をひもとく

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  • 更新日:2022/05/14
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黒ぢょかで飲む焼酎も格別(写真:アフロ)

「焼酎」と聞いて、どのようなイメージを持つだろうか。焼酎は、造り方でいえば、ウイスキーやブランデーと同じ蒸留酒にカテゴライズされる。しかし、飲む時は無色透明で、お燗の程度、アルコール度数、酒の肴など、醸造酒の日本酒にそっくりという不思議な酒だ。さらに、定番の芋や麦をはじめ、変わり種ではワカメなど多彩な原料を使って造ることができるのもユニークな特徴である。

既に日本酒がありながら、よく似た焼酎がなぜ日本で造られたのか。『焼酎の科学 発酵、蒸留に秘められた日本人の知恵と技』を上梓した、鹿児島大学の鮫島吉廣客員教授に話を聞いた。(聞き手:加藤 葵、シード・プランニング研究員)

──日本のお酒の歴史を辿ると、最初に日本酒が造られましたが、温暖な南国では日本酒造りが難しく、焼酎が造られるようになったといわれています。改めて、焼酎の製造方法の歴史を教えてください。

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焼酎で二次仕込みが広がったのはなぜか

鮫島吉廣氏(以下、鮫島):もともと焼酎は、日本酒にならって造られたのが始まりです。日本酒は蒸米、米麹、水を合わせて低温発酵させることで造られますが、九州地方などの温暖な地域では蒸留して保存性を高めていました。

1700年代、サツマイモが伝来すると焼酎の造り方も大きく変化していきます。サツマイモは蒸すことで糖度が高まり甘くなりますが、酒造りにとっては非常に厄介な性質でした。糖分が増えるとバクテリアに汚染されやすくなり、暖かい地域ではさらに危険性が高まるからです。そこで生まれた製法が、二次仕込み製法と呼ばれる現在主流の焼酎製造方法です。

この製法は、最初に水と米麹だけで発酵させて酵母を増やし、後から蒸したサツマイモを加えるという造り方です。先に酵母を増やすことで、酵母がサツマイモの糖分を短期間で一気にアルコールへと置換してくれるため、比較的安全に造ることができます。

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一次仕込みの様子

また、明治時代の終わりに、沖縄の泡盛に使われていた黒麹菌が焼酎でも使われるようになりました。この黒麹菌は非常にユニークで、レモンや梅干しに含まれるクエン酸を作ることができます。クエン酸によって、雑菌の繁殖を抑えることができ、より安全に酒造できるようになりました。

さらに都合の良いことに、クエン酸は蒸留しても揮発しません。つまり、蒸留した焼酎の中にクエン酸が入ることはなく、風味を損なう心配はありません。この製造方法は芋のみならず、米や麦など他の原料を使った焼酎造りにも伝播し、現在泡盛をのぞいた焼酎はすべてこの二次仕込み製法で造られています。

同じ蒸留酒でも異なる焼酎とウイスキー

──「焼酎にはさまざまな原料が使われうる」と本書に書かれています。焼酎造りの原料となるものには、なにか特徴があったり、一定のルールのもとで定められていたりするものなのでしょうか。

鮫島:不思議に思われるかもしれませんが、酒税法が関係しています。もともと「焼酎」は、日本の伝統的な蒸留酒を総称する言葉でした。

ところが、明治時代に海外からウイスキーなどが日本に入ってきました。ウイスキーは麦芽などの発芽させた穀類を蒸留させて造ったお酒、ブランデーは果実を蒸留させたお酒です。

これらのお酒が入ってきたことで、ウイスキーやブランデーの原料(発芽した穀類、果実)に抵触しないものを「焼酎」とすることが決められました。逆に言えば、ウイスキーやブランデーの原料以外であれば、あらゆるものが焼酎になりうるとも言えます。

この汎用性が、日本各地の特産品を活用した、さまざまな焼酎の銘柄誕生につながっていきました。

例えば、芋焼酎で有名な鹿児島県などは、もともと日本酒を作る上で重要となる米を作るのに適した地域ではなく、代わりにサツマイモに頼って生活していたという歴史があります。

また、日本酒を造るためには、寒造りという寒冷な環境が必要ですが、温暖な九州地方では再現できなかったため、南国に適した蒸留酒の造り方が編みだされました。それが、その土地に定着していったと考えています。

──焼酎の製造方法は、ワインなどの醸造酒とは大きく異なるものなのでしょうか。

鮫島:芋焼酎で説明すると、原料は米とサツマイモです。米は蒸した後に酵母菌を種付けし、繁殖・発酵させた米麹にします。この米麹を発酵させたものを、一次モロミといいます。このモロミに蒸したサツマイモを加え、10日間程度さらに発酵させ、蒸留し、出てくる湯気を冷やして液化したもの、つまり湯気の集まりが焼酎になります。

醸造酒は、モロミを蒸留せず、絞ったものをお酒にしています。蒸留酒はモロミを蒸発させ、その湯気を冷やして造られます。だから蒸発しない成分は蒸留酒に含まれないことも特徴ですね。

焼酎が熟成させなくてもおいしく飲めるワケ

──ウイスキーやブランデーは長期間熟成させるのが一般的ですが、同じ蒸留酒にもかかわらず、焼酎はそうではありません。熟成という観点から見た、焼酎とそのほかのお酒の違いはどこにあるのでしょうか。

鮫島:これは焼酎の不思議なところの一つですね。焼酎は日本酒と見た目だけでなく、お燗の温度や度数、肴まで似ています。湯気の集まり(蒸留酒)である焼酎が醸造酒の日本酒と同じような性格を持っているのは世界的に見ても稀です。

他の蒸留酒との違いが生み出された要因の一つは、造り方にあります。ウイスキーは密閉状態で2、3日という短い期間で発酵させて造ります。できたてのウイスキーは風味が荒々しく、これを落ち着かせるために樽で寝かせて熟成させます。

対して、焼酎はフタを開けた開放状態で2週間以上発酵させます。この開放状態というのがポイントで、フタを開けておくことによって風味の邪魔をするアルデヒドなどの嫌な成分が揮発する。そのため蒸留直後でも、新酒としておいしく飲むことができるわけですね。

酒税法により、焼酎を熟成することは可能ですが、ウイスキーのような濃い色がつくまで樽に寝かせることは認められていません。また、熟成させると樽の風味がうつったり、個性がより強くなったります。繊細な味わいの和食との相性を考えると、焼酎自体が強い個性を持ってしまうことはあまり求められていないのかもしれません。

日本の蒸留酒にも古酒(クース)と呼ばれる泡盛の熟成酒がありますが、鹿児島などの焼酎は新酒で飲めるため、熟成文化が発達しなかったといえるでしょう。とはいえ、蒸留酒そのものは寝かせれば当然熟成しますし、昨今では熟成した焼酎も開発され、市場に出回っています。

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最近は樽で醸造する商品も増えている

芋焼酎が芋臭くなってしまう理由

──芋焼酎は「芋臭い」と言う人がいます。確かに、人によっては苦手ともとれる独特の香りがあると思いますが、なぜこのような香りが生じるのでしょうか。

鮫島:今はそうでもないですが、確かに昔の芋焼酎は臭いと言われていました。

原因の一つは、原料のサツマイモがとても傷みやすい点です。掘り取ってすぐに加工しなければおいしい焼酎を造ることができず、鮮度管理が非常に難しい材料でした。現在はコガネセンガンという品種を主に、傷みのない材料を使うため、芋の傷んだ臭いはしなくなりました。

もう一つの原因は、焼酎に限った話ではないですが、日光に当てると焼酎の微量成分が酸化して油臭くなってしまう点です。

焼酎の原酒を市場に出す際、販売中に酸化してしまうものが非常に多くありました。現在はお酒自体の品質を安定させ、ある程度日光を遮断できる茶瓶をパッケージに採用しているため、酸化リスクはより軽減されています。そのため、今では昔ほど「芋臭い」と言われることは少なくなってきたように思います。

──焼酎造りの過程で出てくる、焼酎粕。造った焼酎の倍近くの粕が出るそうですが、どのような活用用途があるのでしょうか。

鮫島:もともと焼酎粕は家畜の飼料として活用されていましたが、焼酎の生産量が大幅に増えたことで、焼酎粕が出すぎてしまい、非常に大きな問題となりました。

現在はさまざま活用方法が見出されています。焼酎粕をメタン発酵させ、メタンガスをボイラーで燃やすと重油やガソリンの代わりになるエネルギーを得ることができます。このエネルギーを用いて焼酎粕を乾燥させることで乾燥肥料ができます。

焼酎は主として原料に含まれるでんぷん質がアルコールとなるため、焼酎粕にはアミノ酸やミネラルなどの栄養分が豊富に含まれています。配合飼料に混ぜたり、魚の養殖に使ったりすることで非常に栄養価の高いエサとなります。このような形で焼酎粕は有効利用されています。

「黒」が加速させた焼酎ブーム

──先生は現在、大学で焼酎の研究に携わられています。なぜ、焼酎を研究対象にしようと思われたのでしょうか。

鮫島:私はもともと、ウイスキーを造る会社に勤めていました。ウイスキー造りに関わってきた者から見ると、焼酎は同じ蒸留酒だけれども、今までの常識では考えらない、非常に不思議なお酒だと感じていました。

たとえば、ウイスキーは発酵期間が2、3日なのに対し、焼酎は2〜3週間近く、それも30度程度の高い温度で発酵させます。

通常のお酒であれば、これ程長く、しかも高温で発酵させると「腐造」といって味が酸っぱくなったり、嫌な臭いがついたりしてしまう。ところが、焼酎で有名な鹿児島県などでは、小さな酒造メーカーを含め、この製法でおいしいお酒を造っています。

原料としても非常に厄介なサツマイモを使っているのに、小さな酒造メーカーでもおいしいお酒を造ることができるのはなぜだろうか、という疑問が出発点ですね。

──たびたび訪れる焼酎ブーム。それぞれのブームで何か違いはありますか。

鮫島:最初の焼酎ブームでは、焼酎の飲み方が注目を浴びました。

もともと焼酎は、「強い酒」というイメージを持たれていましたが、ロクヨン(焼酎6:お湯4)にすることで飲みやすさが認知され、芋焼酎の売り上げが大幅に伸びました。今ではゴーゴー(焼酎5:お湯5)で飲む人が多いですが、この第一次ブームで薄めて飲むという文化が広まったのです。

次のブームでは、麦焼酎が出てきます。芋焼酎は個性が強いですが、麦焼酎は淡麗でクセがなく飲みやすい。また、カクテルでも、ロック、水割りでもおいしいということで、若い人を中心に人気になりました。

しばらく麦焼酎のあっさりした味わいが注目されていましたが、その後反動としてより本格的な焼酎の味わいを求める動きが強まります。その際に選ばれたのが芋焼酎でした。

この頃には焼酎の酒質も向上しており、さらに黒麹がブームを加速させました。鹿児島と言えば黒豚、黒酢というように黒のイメージがありますが、鹿児島と焼酎(黒麹)のイメージを結び付けることができたため、売り上げが増加していきました。

──焼酎が発展した背景には、日本人独特の体質も関係しているのでしょうか。

お酒の苦手な日本人と和食にほどよくマッチした焼酎

鮫島:日本人の約6割はお酒に弱い体質だといわれています。日本人、いわゆるモンゴロイドは悪酔いの原因であるアセトアルデヒドを分解する酵素を持っている人が少なく、体質的に飲めない人が多いのです。

しかし、日本文化の中でも酒宴は重要なイベントの一つで、酒の席は断りにくいという風潮もありました。お酒が飲めない人も飲める人も一緒に楽しめて、なおかつ長時間楽しむことができる、そんなお酒を必要としていたという文化的背景があったのです。

そのためには、度数が低く、なおかつ繊細な、和食と合うようなお酒がぴったりでした。中華料理のような、脂っこくてスパイスの効いた料理には高濃度のアルコールが合いますが、和食には薄めて飲む焼酎や清酒程度のアルコール度数がほどよくマッチしていたといえます。

──焼酎のお湯割りを作る際、お湯が先か焼酎が先かという疑問をよく聞きます。どちらがおすすめでしょうか。

鮫島:これは昔からよく議論されていることですが、私のおすすめはお湯を先に入れる作り方です。お湯を先に入れることでコップが温まり、焼酎を注いだ時に対流が起きやすくなりますし、ほどよくお湯の温度をさげることができます。

コップが温まっているため、飲みごろといわれる40度前後の温度が長続きするのもポイントです。逆に焼酎を先に入れ、お湯を後から注ぐと対流が起きにくく、混ざりにくくなってしまいます。

──焼酎初心者向に向けて、おすすめの飲み方や焼酎の選び方はありますか。

鮫島:かつては、焼酎の産地である鹿児島県でも、特に女性にとって焼酎はとっつきにくいお酒でした。ですが、今は香り高さを売りにした商品やおしゃれなボトルに詰められた焼酎、度数の低いものなど女性への飲みやすさを考慮したものも数多く出回っています。

焼酎をどのように選ぶかということですが、まず3つのタイプがあることを頭に入れておくといいと思います。

まずは芋焼酎に代表される伝統的なタイプ、2つめは麦焼酎に代表されるようなあっさりとしたクセのないタイプ、そして最後はウイスキーのように熟成したタイプです。それぞれの原料の焼酎が、この3つのタイプを持っています。

麦焼酎といっても一般的な淡麗なものから焼酎らしさを前面に出した商品もありますし、当然、樽に寝かせたタイプもあります。この3つのタイプを知り、次に原料を選ぶことで自分に合うものが見つかるかもしれません。酒屋で店主と相談する際の指標にしてみてはいかがでしょうか。

また飲み方も、焼酎そのもののおいしさが味わえるロックや、ふんわりとした風味を楽しめるお湯割りなどいろいろな方法があります。ご自分の好みを見つけ、いろいろな飲み方を楽しんでみてください。

世界的に珍しいお酒を薄めて飲む習慣

──最近は海外でも焼酎が注目されているという話ですが、お酒を薄めて飲む習慣がない海外で焼酎文化は受け入れられるのでしょうか。

鮫島:確かに、海外ではお酒を割る文化はありません。割るための水が良質である必要がありますが、そもそも低濃度で飲む文化自体がほとんどないのです。

海外ではウイスキーやブランデーをストレートで飲むため、お酒を水で割ることを嫌う外国に、どのように焼酎を浸透させるかは大きな課題です。そもそも焼酎自体が知られておらず、まずは認知を高める必要があります。

また蒸留酒は海外では、アルコール度数が基本的に高く、健康に良いとは言いがたいため、酒税が高く設定されています。かつて、焼酎の酒税はそれほど高くなかったのですが、国際酒税紛争の結果、現在では日本酒の倍近くかかっています。酒税も焼酎の輸出をより困難にしている原因の一つとも言えるでしょう。

そのような状況下で、近年、焼酎は東洋の摩訶不思議な酒というイメージで注目を浴びつつあります。

焼酎は麹、いわゆるカビを使っているのに、なぜこれほど良い香りがするのか、一度の蒸留で高濃度の酒を造ることができるのかと、とても不思議に思われているようです。WSET(国際的なお酒の教育機関)の教科書にも焼酎は取り上げられており、少しずつ海外でも知られ始めてきています。

焼酎は時代を先取りしたお酒だと思っています。焼酎は、蒸留酒の中では唯一食中酒として飲むことができ、健康にも良いという特徴があります。酔い覚めがよく、悪酔いをしない、血糖値も上げない。そして、アルコールを多飲することによる害は世界中で知られていますが、焼酎は水やお湯で割るため低濃度で飲むことができます。

私は、焼酎のもつ独自性、オリジナリティは世界の蒸留酒が辿るべき道を示しているのではないかと考えています。焼酎を普及させるには、日本の酒文化や日本食、健康と酒との関係性への理解が必要となります。

体に良い飲み方とともに焼酎の良さを知ってもらうことが大事なのではないでしょうか。日本文化の広がりとともに、多くの人に焼酎を楽しんでもらうことを期待しています。(構成:水上 茜)

鹿児島大学の鮫島吉廣客員教授の動画インタビューはこちらをご覧ください

加藤 葵

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