まるで太平洋戦争前夜...? 日米vs中国の「インド太平洋」に英仏独が軍派遣する事情

まるで太平洋戦争前夜...? 日米vs中国の「インド太平洋」に英仏独が軍派遣する事情

  • 現代ビジネス
  • 更新日:2021/05/01
No image

日米共同声明に「台湾」の文字が52年ぶりに書き込まれ、あらためて注目される日米vs中国の構図。日米が連携して中国の武力による台湾統一を抑止する狙いだが、思惑通りに行かないのが世の常である。抑止が破られることはないのか。

日米と中国が互いに牽制する「インド太平洋」は、世界の貿易量の約5割、またGDPの約6割を占める重要な地域だ。東方の危機を見過ごせば、欧州にも類が及ぶ。早速、英国が空母打撃群のインド太平洋派遣を表明。フランス、ドイツも軍の派遣を進めている。

英国防省は4月26日、空母「クイーン・エリザベス」を中核とする空母打撃群を5月から数カ月間、インド太平洋に派遣すると発表した。空母打撃群は空母1隻、駆逐艦2隻、フリゲート艦2隻、潜水艦1隻、補給艦2隻で編成される。

No image

英海軍のクイーン・エリザベス=英海軍のホームページより

クイーン・エリザベスは英海軍史上最大の空母で、垂直離着陸ができる米国製のF35B戦闘機を最大36機搭載する。2017年の就役後、初の本格的な航海となる。地中海からインド洋を通って太平洋へ向かい、日本のほか、米国、韓国、インドとの共同演習が予定されている。

No image

クイーン・エリザベスを中心とする空母打撃群=英海軍のホームページより

空母打撃群派遣の背景にあるもの

空母打撃群の派遣は、英政府が3月16日に発表した欧州連合(EU)離脱後の安全保障や外交に関わる方針を包括的にまとめた「統合レビュー」を受けたものだ。

5部構成の「統合レビュー」は、「中堅国家(ミドルパワー)の成長による影響が2020年代に増大する。インド太平洋は地政学的、経済的な重要性が複数の国家により増していく」とし、インド太平洋の域内国との2国間あるいは多国間の親密なパートナーシップを長期にわたり、確立していく重要性を強調している。

そのための方策として、海軍によるプレゼンスの顕示や東南アジア諸国連合(ASEAN)などへの関与を挙げた。空母派遣は、まさに「海軍によるプレゼンスの顕示」に当たる。

クイーン・エリザベスが完成したばかりの2017年8月16日、当時のテリーザ・メイ首相は飛行甲板に立ち、乗組員を前に「この艦は、英国が今後数年間、世界を舞台に新しく前向きな任務を、自信を持って遂行する明確なシグナルとなる。私たちは完全なグローバルパワーとしてあり続けることを決断した。世界中の友好国や同盟国と協力しながら活動することになる」と演説し、英海軍の艦隊を派遣して世界秩序の安定に貢献する考えを表明した。

演説から間もない8月31日、メイ首相は日本を訪問して当時の安倍晋三首相と会談し、日英安全保障共同宣言を発表した。日英が地球規模の戦略的パートナーシップを構築し、次の段階にまで引き上げることを約束したのである。

まさに東方回帰。英国は第2次中東戦争での失敗や財政の悪化により、1968年に「スエズ以東からの撤退」を表明。中東やアフリカ、東南アジアに駐留していた英軍は一斉に撤収した。それが一転してインド太平洋へ回帰する。この積極性はどこから来ているのか。

英国「インド太平洋」関与の狙い

英国は2016年6月23日の国民投票の結果、投票者の過半数が選択したことにより、EU離脱が決まった。新しい立ち位置が問われている最中、トランプ米大統領の登場によって米国の国際的な影響力が弱まり、中国が台頭した。

中国は習近平国家主席が提唱した巨大経済圏構想「一帯一路」により、中国からユーラシア大陸を経由して欧州につながる陸路(一帯)と、中国から東南アジア、アラビア半島、アフリカ東岸を結ぶ海路(一路)の二つの地域で、インフラ整備や貿易を促進し、安全保障面での中国の影響力を強めている。

英国のインド太平洋への関与は、その中国を牽制する狙いがある。そのためには米国との連携にとどまらず、「統合レビュー」で示したように日本、韓国、豪州、インドなどミドルパワーの自由主義諸国と連携する必要がある。

特に日本を重視するのは「自由で開かれたインド太平洋(FOIP=フォイップ)」を発案し、日米豪印の「QUAD(クアッド)」の枠組みの中で、地域のミドルパワーとして存在感を発揮している国だからだ。

英国は今年1月、環太平洋経済連携協定(TPP)への参加も正式に申請した。経済面でもインド太平洋との関わりを深めようというのだ。

日本との防衛協力では2016年10月、英空軍のユーロファイター・タイフーン戦闘機が青森県の三沢基地に飛来し、航空自衛隊のF2戦闘機との間で初めて日英共同訓練を実施。翌17年8月、自衛隊と英軍が物品・役務を融通し合う物品役務相互提供協定(ACSA)が発効した。

No image

三沢基地に飛来した英空軍のタイフーン戦闘機(左)と航空自衛隊のF2戦闘機=英空軍のTwitterより

2018年9月には1カ月以上にわたり、英陸軍と陸上自衛隊が北富士演習場などで初めて実動訓練を行った。そして今年は「クイーン・エリザベス」主力の空母打撃群と海上自衛隊の護衛艦部隊との共同訓練が計画されている。

このまま連携が進めば、1902年に締結され、23年に失効した日英同盟の再来ともなる日英安全保障条約を結ぶ動きが浮上したとしても不思議ではない。

No image

日英共同訓練で英兵(右から2人目)から通信器の説明を受ける陸上自衛隊員=陸上自衛隊のFacebookより

英国離脱後のEUも負けていない

英国が抜けた後のEUも負けていない。

EUは4月19日、オンラインで外相会合を開き、中国の海洋進出への対応などを念頭に置いた「インド太平洋戦略」を策定する方針で合意した。欧州委員会などが9月までに具体案をまとめ、加盟各国に提示する。

EU加盟国でみると、フランスやドイツは独自にインド太平洋への関与を深めている。

フランスは2018年9月、「インド太平洋におけるフランスの防衛戦略」を発表。太平洋にニューカレドニアなど自国領が点在することから「フランスは太平洋国家」を宣言し、脅威に対抗するため日本、インド、豪州などとの戦略的パートナーシップを発展させるとした。

早速、翌19年には空母「シャルル・ドゴール」を中心とする空母打撃群の5隻がインド洋に派遣され、5月にベンガル湾でフランス主催の日仏豪米4カ国による共同訓練「ラ・ペルーズ」が実施された。今年も強襲揚陸艦など2隻をインド洋へ派遣し、4月には日仏豪米印の5カ国による共同訓練「ラ・ペルーズ21」が行われた。

No image

日仏豪米訓練「ラペルーズ」に参加した仏空母「シャルル・ドゴール」(右)と海上自衛隊の護衛艦「いずも」=海上自衛隊のホームページより

No image

日仏豪米訓練「ラペルーズ」で艦隊を編成する各国艦艇=海上自衛隊のホームページより

No image

日仏豪米印訓練「ラペルーズ21」に参加した各国艦艇=在日フランス大使館のホームページより

ドイツの出番がやってくる

次はドイツの出番だ。

ドイツは昨年9月、「インド太平洋戦略」を発表した。インド太平洋を「21世紀の国際秩序を形づくる鍵」と位置づけ、国際秩序の既存ルールに疑念を投げかける中国を念頭に、共通の価値感を持つパートナー国や民主主義国と団結することの必要性を掲げた。

安全保障面が強調されたフランスの戦略と異なり、ASEANを中心とする地域的なパートナーシップの強化など広範な多国間での関与を目指している。

4月13日、日本とドイツは初めて外務・防衛担当閣僚会合(2プラス2)をオンラインで開き、「自由で開かれたインド太平洋」の実現に向けて緊密に連携することを確認した。国際法違反の疑いがある中国の海警法の問題を日本側が取り上げたが、ドイツがどのような反応を示したのか日本の外務省は明らかにしていない。

No image

初めて行われた日独の外務・防衛担当大臣会合(2プラス2)=在日ドイツ大使館のホームページより

ドイツは冷戦期、ソ連との間で粘り強い交渉で自国の安全を確保してきた歴史があり、中国に対してもより慎重な姿勢で臨んでいる可能性がある。

ただ、軍事面の関与は怠らず、今年9月にはフリゲート艦をインド太平洋へ派遣し、海上自衛隊との共同訓練を実施する。

またオランダは英国の空母打撃群に同行する形でフリゲート艦を送り込み、やはり海上自衛隊との間で共同訓練を実施することが予定されている。

日本はどうすればいいのか

欧州の主要国が入り乱れるインド太平洋。太平洋戦争の前夜、日本に対し、欧米が圧力を掛けてきた当時の様相と似てきたのではないだろうか。今回、輪の中心にいるのはもちろん中国だ。

No image

中国海軍の空母「遼寧」=ウィキペディアより

No image

航空自衛隊の戦闘機が撮影した中国空軍のH6爆撃機=統合幕僚監部のホームページより

中国は国際法を軽視して南シナ海で環礁を埋め立てて軍事基地を建設。台湾に対しては防空識別圏に軍用機を差し向けて圧力を強めている。米国のインド太平洋軍司令官は「台湾への脅威は今後、6年以内に明白になるだろう」と時期を区切って台湾有事の発生に言及、台湾海峡の緊張が高まりつつある。

経済成長に伴って軍事力を強化し、インド太平洋において米軍に対抗できる攻撃力を持つに至った中国軍。とはいえ、図体ばかりでかいガキ大将のような中国の振る舞いをただすのに数に頼った「けんか腰」でよいのだろうか。

日米豪印のインド太平洋の域内国に加え、英仏独蘭の欧州勢も集まって強力な抑止力となり、効果を発揮するかも知れない。だが、抑止が破れた場合を想定して、多国間の枠組みを生かし、軍事力一辺倒ではない道を選択するべきだろう。

日米共同声明は《台湾海峡の平和と安定の重要性を強調する》と踏み込んだ。だが、1978年に締結した日中平和友好条約には「両国間の恒久的な平和友好関係を発展させるものとする」とある。日本は、米国にも中国にも《平和と安定》を求める立場で向き合わなければならない。

この記事をお届けした
グノシーの最新ニュース情報を、

でも最新ニュース情報をお届けしています。

外部リンク

  • このエントリーをはてなブックマークに追加