「対立」と「協調する配慮」が並行 米中関係の複雑な状態

「対立」と「協調する配慮」が並行 米中関係の複雑な状態

  • ニッポン放送 NEWS ONLINE
  • 更新日:2022/06/23

神奈川大学法学部・法学研究科教授でアジアの国際政治専門の大庭三枝が6月23日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。6月21日にアメリカで施行された「ウイグル製品輸入禁止法」について解説した。

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あいさつする中国の習近平国家副主席(当時、右)と、バイデン米副大統領(当時)=2011年8月19日、北京市内(共同) 写真提供:共同通信社

アメリカが「ウイグル製品輸入禁止法」施行 世界の供給網に影響か

強制労働を理由に中国の新疆ウイグル自治区からの輸入を原則禁じる法律が6月21日、米国で施行された。企業は強制労働と関係がないことを証明しなければ商品を持ち込めず、調達ルートの明確化など新たな対策が求められる。ただ、米税関当局による貨物検査の対象取引が10倍超に膨らむ可能性があり、国際サプライチェーン(供給網)の混乱、悪化が懸念されている。

飯田)アメリカのアジア、特に中国への向き合い方ですけれども、日本を始め、いろいろな企業に影響が出そうですね。

強制労働と関連がないことを企業が証明しなければ、輸入できない

大庭)いままでは強制労働と関連があるということで、いくつかの品目や企業が対象になっていましたけれども、今回は新疆ウイグル自治区からの輸入がすべて禁止されるため、管理も大変だろうと思います。

飯田)今後はすべて。

大庭)「強制労働をさせているものではない」ということを証明できれば輸入できるそうなのですが、その証明は企業がやらなければなりませんので、企業の負担も大きいです。しかも、強制労働をしていると言われている新疆ウイグル自治区への中国当局のコントロール欲は非常に強い。そこを掻い潜って、「強制労働していない」という証明を取るための調査を企業が行うのは、難しいのではないかと思います。

企業目線でのコスト削減を中心とするグローバルバリューチェーンを自由に展開できなくなる ~各企業が政治リスクをこれまで以上に考慮に入れなければならない

飯田)国連の人権高等弁務官が視察に入ったときも、ウイグル族の人権状況を把握するのは難しかったということでした。

大庭)外からの調査を中国当局は嫌うでしょうから、自由に調査できるとは思えません。

飯田)そうですね。

大庭)それだけではなく、アメリカは人権や強制労働に絡む形の輸入禁止を伴う規制に加えて、もう1つ、戦略的に重要なアイテムに関する囲い込みを行う「貿易のコントロール」も行おうとしています。

飯田)貿易のコントロール。

大庭)いままではグローバル化で、なるべく企業が自分たちのコストを削減できるように、生産拠点をいろいろなところに持ち、原材料の調達先を選ぶことができていたわけです。しかし、企業目線でのコスト削減を中心とするグローバルバリューチェーンが、自由に展開できる時代ではなくなっているということです。

飯田)グローバルバリューチェーンを。

大庭)政治的な配慮が入ってくるので、今後は各企業が、これまで以上に政治リスクを考慮に入れなければならないのです。新しい時代の流れですね。

中長期的には東南アジア諸国など他の国も米中の応酬に巻き込まれる

飯田)いままでは、コスト面などで中国が選ばれていました。今後は「チャイナプラスワン」などと言いますけれども、東南アジアへさらに拠点を移す企業が多くなりますか?

大庭)多くはなるでしょう。しかし、東南アジアに生産拠点が移るというのは、東南アジアにとって短期的にはプラスなのですが、政治的な意図で経済活動が規制されること自体がリスクです。そこと無縁ではないという意味で、東南アジア諸国の各企業もあまり楽観視はできないという感じがします。東南アジアに展開している企業も同様です。

飯田)東南アジアに展開している企業も。

大庭)アメリカがさまざまな形で、中国からの輸入を規制する動きを取っているのに対し、中国も、中国側が外国から差別的な制裁措置や内政干渉を受けた場合、報復できるという「反外国制裁法」を施行しています。

飯田)反外国制裁法。

大庭)貿易をめぐるアメリカと中国のさまざまな応酬に、他の国々も巻き込まれざるを得ないので、東南アジアにとっても短期的にはともかく、中長期的にはいい状態ではないという気がします。

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19日、ビデオメッセージを発表する習近平氏。中国の習近平(しゅう・きんぺい)国家主席は19日、新興5カ国(BRICS)外相会議の開幕式でビデオメッセージを発表した。(北京=新華社記者/李学仁)= 配信日: 2022(令和4)年5月20日、クレジット:新華社/共同通信イメージズ 写真提供:共同通信社

一方ではお互い緊張のエスカレーションを抑えようと配慮する米中

飯田)その巻き込まれ方というのは、「お前はどちら派だ?」というような踏み絵を迫られるということですか?

大庭)先日、シンガポールで開催された「シャングリラ・ダイアローグ」では、アメリカのオースティン国防長官、中国の魏鳳和・国務委員兼国防相がそれぞれスピーチしています。そのなかで、「踏み絵は踏ませない」というようなメッセージは発しているのです。それと、米中の間でも、「関税をお互いにかけ合うということはやめた方がいいのではないか」というような、緊張のエスカレーションを抑えようとする配慮も働きつつあるようです。何とか対話の糸口を見つけようとする動きも一方ではあるようです。

飯田)米中で。

大庭)ですので、緊張をそのまま高めようという方向ではないのですが、ウイグルに関しては、アメリカ議会のなかで人権に強い関心を持っている人たちもいます。これはこれでまた、アメリカの現実なのです。

米中が絡む世界全体が複雑な状態に

大庭)中国側も、アメリカ側のさまざまな経済安全保障上の法律制定による輸出入の制限については、やはり対抗せざるを得ないし、中国側が仕掛けている部分もあります。そういう意味では、あるところでは協調しなければいけないという配慮も働きながら、一方では対立が深まっていくという複雑な状態を、米中だけではなく、米中が絡む世界全体で感じます。

飯田)外交の話だけではなく、アメリカ議会、あるいは中国側も秋の党大会に向けた権力闘争などが絡んでくると、変数が多くなってしまう。

大庭)変数が多いですね。中国では、それまで次の外務大臣になるのではないかと言われていた方の降格人事があり、レースから落ちたという話がありました。親ロシア派で有名だった方なのですが、その方が降格されたということは、もしかしたらロシアに対する外交、あるいは対米外交にも変化が見られるかも知れないという観測も出ています。とにかく変数が多いというのはおっしゃる通りで、なかなか読みづらいところがあります。

飯田)読みづらいですね。

大庭)東南アジアや日本もそうですが、我々自身の国内政治もあるし、東南アジアは東南アジアで、各国の国益もあります。変数はインド太平洋を見ても、世界を見ても多いのだろうと思います。

米中、どちらとも関係を深める戦略のASEAN ~日本、オーストラリア、インドとの関係も強化

飯田)ASEAN各国は、どこにも与しないというか、縛られないことに1つのプライオリティを置いているように見えます。その動きで行こうとするけれども、どこまで行けるかというところですか?

大庭)それはASEANの中心性に表と裏があり、表の部分では絶対にどちらにも与しないという態度を示すことで、それなりの影響力を行使するという方向性だったと思います。

飯田)表の部分では。

大庭)それは1990年代~2000年代までは成功していましたが、2010年代になり、米中が対立を深める形になると、踏み絵を踏まされそうになるシーンがたくさん出てきたということです。

飯田)米中に。

大庭)彼らは、どちらも選ばないのだけれど、どちらも選んでいるとも言えて、米中それぞれとの関係を深めることで、自分たちの一定のバーゲニングパワーを維持しようということだと思います。「どちらなんだ」と言われても、「どちらも大事です」というのが彼らの戦略なのです。

飯田)どちらも大事であると。

大庭)世界では、「戦略的パートナーシップ」をいろいろな形で結ぶ例が多くなっていますが、ASEANを見ていると、中国と戦略的パートナーシップの格を上げれば、同じように、アメリカとの間でも上げるという形を取っています。米中だけではなく、日本やオーストラリア、インドなどとも関係を強化しています。あまり日本では報道されていないのですが、16日にASEANはインドとのパートナーシップ樹立30周年を記念して、特別外相会合をニューデリーで開いています。それにはASEANがみんな出席しているのです。

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