核を発射させるな!米軍も危惧するトランプの動き

核を発射させるな!米軍も危惧するトランプの動き

  • JBpress
  • 更新日:2021/01/14
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デモ隊による占拠から一夜明けた米連邦議会議事堂(2021年1月7日、写真:ロイター/アフロ)

(北村 淳:軍事社会学者)

1月6日に発生したアメリカ連邦議事堂での“叛乱(はんらん)”事件を受けて、アメリカ連邦下院議長のナンシー・ペロシ氏は、1月8日、アメリカ軍軍人トップの統合参謀本部議長マーク・ミリー大将と、トランプ大統領が核兵器を使用をさせない方策について話し合った。

またトランプ政権前半の国防長官を務めたジェームズ・マティス海兵隊退役大将も、国民軍としてのアメリカ軍の伝統を守るために、トランプ大統領を痛烈に批判している。

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「錯乱した大統領はこの上なく危険」

ペロシ下院議長が公開した書簡によると、1月8日朝、ペロシ氏はミリー大将と「不安定な大統領が軍事的敵対行為を開始したり、発射コードにアクセスしたり、核攻撃を命じたりするのを防ぐための利用可能な予防策」について話し合ったという。

なぜそのような措置を検討したのかについて、彼女の書簡には「この錯乱した大統領の状態はこれ以上危険なものはないと言える。私たちは、私たちの国と私たちの民主主義に対する彼の不均衡な攻撃からアメリカ国民を守るためにできる限りのことをしなければなりません」と記してある。

このようにペロシ下院議長はトランプ大統領を「不安定な大統領」「錯乱した大統領」と呼んで、乱心している大統領に「核のボタン」を委ねるわけにはいかないため軍最高指導者と対策を協議したというのだ。ペロシ氏との協議は事実であることを、ミリー統合参謀本部議長は確認している。

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トランプ大統領の一般教書演説が終わったあと、トランプ大統領のスピーチ原稿を破くナンシー・ペロシ下院議長(2020年2月4日、写真:ロイター/アフロ)

歴代国防長官たちの警告

ペロシ下院議長は民主党所属議員でありトランプ大統領の政敵である。ペロシ氏のトランプ大統領への批判、両者の対立は今に始まったことではないが、“叛乱”事件に先立つ1月3日には、以下の歴代の国防長官経験者全員(18代レス・アスピン長官と16代以前の長官は死去している)が連名で、大統領選挙結果について疑義を呈する動きに関して、米軍関係者たちへの異例の警告文をワシントン・ポスト紙に掲載している。

第17代国防長官 ディック・チェイニー(共和党・ブッシュが任命)
第19代国防長官 ウィリアム・ペリー(民主党・クリントンが任命)
第20代国防長官 ウィリアム・コーエン(民主党・クリントンが任命)
第21代国防長官 ドナルド・ラムズフェルド(共和党・ブッシュが任命)
第22代国防長官 ロバート・ゲーツ(共和党・ブッシュ、民主党・オバマが任命)
第23代国防長官 レオン・パネッタ(民主党・オバマが任命)
第24代国防長官 チャック・ヘーゲル(民主党・オバマが任命)
第25代国防長官 アシュトン・カーター(民主党・オバマが任命)
第26代国防長官 ジェームズ・マティス(共和党・トランプが任命)
第27代国防長官 マーク・エスパー(共和党・トランプが任命)

この警告文では、全てのアメリカ軍人ならびに国防総省関係諸機関職員は、国内外の敵勢力から合衆国憲法を擁護し防衛することを宣誓しており、この宣誓は特定の個人や政党に対して行ったものではない、とアメリカ軍そして軍関係者に課せられた政治的中立義務(ただし公務上の)を再確認している。

そして、アメリカが関与した全ての対外戦争での戦死者の総数よりも多くの人命を犠牲にした南北戦争という唯一の例外を除いて、政党間対立が深刻な時期でも、戦争に際しても、疫病に直面しても、大恐慌に見舞われても、選挙の結果に基づいて大統領が交代することこそがアメリカの民主主義の大原則となってきたのであり、今回(2020年大統領選挙)も例外であってはならない、と選挙結果に基づいた政権移行の歴史的意義を指摘している。

そのうえで、
「大統領選挙は実施された、
いくつかの州では監視付き再集計も実施された、
いくつかの州では司法審査も実施された、
州知事たちによる証明書が発行された、
大統領選挙人団による投票も実施された、
もはや憲法と法令に従って当選が正式に決定される時期が到来した」
として、2020年大統領選挙の結果に疑義を呈する時期は過ぎ去ったことを強調している。

また歴代国防長官たちは、「アメリカ軍には大統領選挙結果に関する何らの役割も存在せず、軍部を大統領選挙の結果に関する議論に関与させようとする試みは、危険なだけでなく法令違反であり、憲法を踏みにじることになる」と、トランプ大統領が選挙結果に反対する動きに軍隊や軍関係者を巻き込もうとした動き(戒厳令を発動するという噂まであった)に警告を発した。

マティス大将による「国民軍」への戒め

上記の警告文に名前を連ねた第26代国防長官マティス大将は、「連邦議事堂での“叛乱”事件はトランプ大統領によって引き起こされたと言っても過言ではない」とトランプ大統領を強烈に非難している。

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海兵隊総司令官時代のマティス大将

その理由としてマティス大将は、「なぜならば、卑怯者/臆病者として不名誉な名を残すであろう似非政治指導者たち(すなわちトランプ大統領とその取り巻きたち)が、トランプ大統領が大統領職を利用して選挙に対するアメリカ国民の信頼を破壊し市民同志の互いへの敬意を毒することを助長したからである」と激しい言葉を連ねている。

マティス大将は2年間にわたって国防長官としてトランプ大統領を補佐した。その経験から、トランプ大統領が国民軍としてのアメリカ軍を指揮する人物として不適格であると確信したがゆえに、痛烈なトランプ批判を展開したものと考えられる。

本コラム(2020年6月18日「マティス大将がトランプに激怒、これほど怒る原因は」)で述べたように、「海兵隊員の中の海兵隊員」と呼ばれた猛将でもあるとともに、戦史や戦略に精通する理論家でもあったマティス大将は、国民軍としてのアメリカ軍の大原則を防御しようとしているのである。

マティス海兵大将をはじめとする米軍退役将官たちから発せられているトランプ非難は、国民軍としてのアメリカ軍の原則を守り抜くという信念から生じているという側面があることを見落としてはならない。

北村 淳

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