“アベノミクス”の失敗を実感した...本当に怖い「金儲けの核心」

“アベノミクス”の失敗を実感した...本当に怖い「金儲けの核心」

  • 幻冬舎ゴールドライフオンライン
  • 更新日:2022/06/23
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【前回の記事を読む】長年の肉体労働で上がらない肩…体を回復させた現代医療に感慨

創業そして解散

ところで、老化と自分なりに判断したのに訳がある。以前、太股に痒かゆみのある十円大の痣(あざ)ができて、何度かお世話になった、歩いて百数十歩の皮膚科に飛び込んだ。それが患者を安心させるだろう大きな声で、決まり文句の「どうしました」で診察を受けた。患部(かんぶ)を素手(すで)で、指先(ゆびさき)で摩(さす)って「体質(たいしつ)が変わったね」と塗り薬をくれた。

体質が変わるってどういうことだろう、とすぐには納得できずに、例によってそのあと二日(ふつか)三日(みっか)考えた。政党(せいとう)の体質が変わったならなんとなく分かるが、一個の肉体が突然(とつぜん)、変化(へんか)する。それがたしかなのは怪我か病気しかない。病名も知らされず、先生はなんの説明のないまま塗り薬しか出してくれなかった。

ひねり出した結論は老化(ろうか)だった。たしかに耆(き)老(ろう)らしきはとうに超えている。遺(い)老(ろう)は何歳を言うのだろう。老翁(ろうおう)は眼に心地よいが、老獪(ろうかい)はいかがなものか。老(ろう)がなんなのかと、とうとう頭が老害(ろうがい)になった。とにかく老化(ろうか)によって、皮膚に取り付く黴(かび)への抵抗力(ていこうりょく)が減っていると、耄碌(もうろく)の始まりを予感した。

患者に、患部にじかに手を触ふれて安心を呉れるのは整形外科の先生も同じだった。おしなべて聴診器(ちょうしんき)で診察(しんさつ)する先生よりも、理学療法士・作業(さぎょう)療法士(りょうほうし)などの患者と濃厚(のうこう)接触(せっしょく)する人のほうが、親密(しんみつ)さのうえ、なにがしか敬(うやま)う心持(こころも)ちにさえなる。それでCOVID-19だが、クラスターの予防には限界(げんかい)があって、人情(にんじょう)を持ち出せば避(さ)けられない理屈。少なくとも昭和はそうだった。

ところが今こうして、書きつつあるこの時、新型コロナウイルスの蔓延(まんえん)が人と人の距離を離そうと働いている。遮断(しゃだん)しようとしているのは、だから反社会性の強い病になるのだろう。でなければ新しい社会、国際交流のあり方への促しだろう。国と国を切り離す現実には全く別の思いがあるのだが。

それで、ともかく手術の気配(けはい)は一切(いっさい)なく、民間委託の市民病院で整形外科の先生が処方した薬は新薬(しんやく)らしかった。どうやら服用(ふくよう)の量に上限があって、二ヶ月五十六日分をまずは日々控えめに出してくれた。なにか体内に徐々に蓄積(ちくせき)する用法のようで、痛みが増したからとにわかに量を増やしても、効き目がすぐに現れないと言い含められた。むしろ劇薬(げきやく)らしくさえ聞こえる。

服用して一週間もすると痛みは明らかに和らいだが、目標にはさらに時間を要した。養生のような時間が快方に向かうのとは違っても、薬の効き目には時間だった。途中、徐々に量を増やして、三ヶ月あとにはすっかり、見かけは健康になった。見かけとは病状(びょうじょう)を評(ひょう)するなら、骨格(こっかく)の変形(へんけい)が元に戻る異常が、奇異(きい)がないかぎり、完治(かんち)したとはいえないからだ。痛みのみが薬で和らいだだけで、骨が、骨格が戻ったわけではないのだから。完治は望むべきはなかった。

これは中小企業の経営者が陥りやすい、経営の、金儲けの核心(かくしん)に似ている。

痛くなければ、苦しくなければ怪我でも病気でもない。利益が上がれば、儲かれば商売をしなくても製造業でなくても、つまり実業でなくてもよいとして、投機(とうき)に走る。そうやって儲けたとして、向こうに損をする者がいることに気が回らない。いや、初めっからその向こう側だったりする。向こうが分からなければ、取引は片道切符、空しさの極み。

公営(こうえい)博打(ばくち)の公営(こうえい)競馬(けいば)を娯(ご)楽(らく)に取り込んでも、カネで投機(とうき)は手を染めなかった。その読みが存外(ぞんがい)これまでなんとか会社を持続(じぞく)させた、は手前(てまえ)味噌(みそ)で、この味噌を飲み込んで未曽(みぞ)有(う)の不景気(ふけいき)になる予感(よかん)。自己中(じこちゅう)の予感を生(う)んだ政策の“アベノミクス”の大失敗(だいしっぱい)を実感(じっかん)した※1。

見立(みた)ては観光(かんこう)乞食(こじき)ならぬ、乞食のお粥(かゆ)だった。米粒(こめつぶ)の実(み)のない湯(ゆ)うばっかりだと、言うばっかりは筑つく波ばの蝦が蟇まの油売り、全く信用できなかった。

実は、この読みが会社を解散することにした第一の理由だった。

“アベノミクス”の初めから、赤字倒産にならないで会社を畳む機会を窺(うかが)っていた。三本の矢は束(たば)ねてこそ、になるのに、すべてを順に放(はな)つと言うから、聞いた初めからもう駄目だった。良くない方向に発想の転換は認められない。まさに愚の骨頂だ。

そのまた前に聞いた初めは、“美しい日本”で、これが虚言(きょげん)の嚆矢(こうし)だった。実勢のない景気、虚の趨勢(すうせい)、虚数ならぬ虚趨(きょすう)だ。不景気の予兆はこうして嚆矢という一本の矢に始まった。

もっと古い話、景況(けいきょう)をグラフにして、“今は踊り場”といった人(堺屋太一氏)がいたが、政(まつりごと)に文学(ぶんがく)は唐土(もろこし)(昔、日本が中国を呼んだ呼称)の白(はく)楽天(らくてん)にしても、つまり平安時代ならいざ知らず。今時(いまどき)は科学(かがく)だと思うから尊敬(そんけい)できなかった。

それもそうだが、何(なに)がいやかといって、生きているうちに自分の記念館を建てるやつ。あんなやつがノーベル文学賞なら俺は自殺するといったら、いった相手は、聞いたやつはあざけり笑った。それでもなんとか生き延びた。

皮肉(ひにく)にも会社清算は、時の政権の長きに付き合ったことになる。七年あまりを要したのだ。案外政権の延命政策に乗っかっていたかもしれない。

※1:前出『白(はく)氏(し)文集(もんじゅう)』“新楽府しんがふ)”その四十七、(天可度)“天(てん)も度(はか)る可(べ)し”とも。

道木 竹士

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