警視庁組対4課元管理官の「マル暴刑事」が明かす暴力団捜査秘史

警視庁組対4課元管理官の「マル暴刑事」が明かす暴力団捜査秘史

  • 現代ビジネス
  • 更新日:2021/11/25
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平成の「ヤクザ事件裏面史」

「マル暴」と呼ばれる刑事たちがいる。

暴力団を担当、日常、暴力団構成員と付き合い、時に威圧、放つオーラは強烈で、ヤクザより恐い雰囲気を持つから、逆に国民にとっては「頼りになる存在」だ。

ただ、「マル暴」と付き合いのある一般庶民は、ほとんどいないだろう。関西系暴力団組事務所のガサ入れで、「開けんかい! コラ!」と、「マル暴」がドアを激しく叩く映像を報道で見て驚き、ヤクザ映画でその迫力を知る程度だ。

その「マル暴」を、警視庁で40年近く担当、退官時には、東京の治安維持に努めた功績で、「警視総監特別賞(短刀)」を受賞した櫻井裕一氏が、平成の「ヤクザ事件裏面史」といって差し支えない本を上梓した。

その名も『マル暴 警視庁暴力団担当刑事』(小学館新書)である。

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82年12月、自ら望み、25歳で警視庁赤羽署刑事課の暴力犯係に配属され、いかついダブルのスーツ、クロコダイルのセカンドバックにベルト、髪にパンチパーマをあて、ファッションからデビューした櫻井氏の警察官人生は、ヤクザとともにあった。

広域暴力団・住吉会系組織の矢野治組長を最終ターゲットに追い詰める「日本医科大学病院ICU射殺事件」を始め、明かされるのは仰天の捜査秘史だが、被疑者の心を開かせ、自供させ、事件を解決に導くのは、地道な捜査で得た物証と、相手の心情を思いやり、心を開かせる人間力だった。

暴対法や暴排条例もない時代から、ヤクザとある意味で共存してきた櫻井氏は、暴力団構成員が激減する環境のなか、変わる暴力団社会とそれでも変わらない反社会的勢力の世界を知る人でもある。

本書は、「個別事件の裏」を暴力団と「マル暴」の攻防のなかで知る格好の読み物であると同時に、シノギを含めたヤクザの変遷史としても読める。櫻井氏に「マル暴」であったことの誇りと「捜査秘史」を通じて訴えたかったことを聞いた。

(※本稿は『マル暴 警視庁暴力団担当刑事』(小学館新書)の内容に触れる部分があります)

「人として向き合う」

――トドメを刺そうと病院の集中治療室まで追い掛けて射殺する日医大事件は衝撃です。

命じたのは『平成の殺人鬼』と呼ばれた暴力団組長の矢野治。実行犯の真田光男(仮名※社会復帰しており、同書内でも同じ仮名)は、どうしても落とさなくてはならない相手でした。

――取り調べの前、真田の出身地に行き、思い出の場所を巡っています。

取調室では、まず人として向き合い、互いにわかり合う必要があります。まして真田は、服役中、懲罰房に44回もぶち込まれたような男です。乱暴というのでなく、筋が違うことが許せない昔気質のヤクザ者。取調室のなかでは、私が彼を見ていると同時に、彼も私の人間性を監察している。本気かつ本音で相対する必要がありました。

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櫻井裕一氏

――「あんたが殺ったんだろ」と勝負に出て、真田が落ちた時、双方の目から涙がこぼれたシーンが印象に残ります。

殺しの取り調べに入って17日が経っていました。真田も覚悟を決めていたんでしょう。『変化球はいい、直球で来てくれ』と。ここが勝負の時と責め立てた。落ちたからには真田には長い懲役が待っている。そう彼の人生を思った時、私も涙したんです。

――その自供が、後に、暴力団員を含む6名に発砲、一般人3名が巻き添えで亡くなった前橋スナック乱射事件の解決に繫がります。

許されない事件です。警察庁、警視庁、各県警をあげての事件となり、合同捜査本部を置きました。私が対峙した真田の供述が、命じた矢野治の逮捕に行き着いた。矢野は死刑囚となりますが、獄中から週刊誌に殺人事件を告白。延命工作と見られましたが、その捜査が始まって、さらに世間を騒がせました。しかし、それも虚しく死刑が免れなくなり、20年1月、拘置所内で自殺しました。

最後まで付き合う「覚悟」

――関わったホシ(犯人)を「無縁仏にはしない」と、取調室で向かい合った被疑者の入れ墨の写真を撮っていました。

40年以上前、三代目山口組の田岡一雄組長の襲撃犯が、指紋などがすべて消され、惨殺体で発見されましたが、唯一、背中の天女の入れ墨が科学捜査で判明、本人確認ができました。それがきっかけで始め、捜査現場を離れるまでに、約150人の写真ファイルができた。ホシと最後まで付き合うという私なりの覚悟でもありました。

――取調室の真剣勝負は同じでも、捜査手法は変わり、制約が多くなったと聞きます。

取調室は、ホシにとってタバコが吸えて息抜きができる場でした。でも、今は、利益供与にあたるからと、タバコはもちろん飲食も禁じられています。『カツ丼を取ってやる』なんて、昔のドラマの世界です。

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櫻井裕一氏

――バブル期の暴力団には勢いがあった。彼らの経済的な絶頂期をご存知です。

(最初の赴任地の)40年前の赤羽は、(縁日などの行商を起源とする)的屋の極東会、(賭博の胴元が本業だった)博徒の稲川会や住吉会などが、激しく争っていました。そこに愚連隊が加わり、さらに中国系や韓国系のマフィアもいる、といった混沌とした状況でしたが、それだけ暴力団に勢いがあり、シノギが多く、豊かでした。

――今は、様変わりです。暴力団が食えない時代となり、構成員数も激減です。

銀行口座を持てない、家を借りられない、ガスも止められる、といった状況では、ヤクザになろうという人間がいなくなるのも当然です。でも、単純には喜べません。今は、振り込め詐欺の出し子(現金の引き出し役)やかけ子(電話をかける役)が、どこの組織の誰がリーダーかをまるで知らない。巧妙化、マフィア化しており、その状況はさらに強まるでしょう。

***

暴力団構成員数は、毎年、数千人単位で減り続け、昨年末は、2万5900人だった。1万人割れは目前で、近い将来、盃を交わすことで擬似の親子、兄弟関係を築き、日本社会に一定勢力を誇った「暴力団」という存在が、なくなってしまうかも知れない。それは、国家をあげての規制強化と、櫻井氏ら「マル暴」の私生活を犠牲(実際、新宿署の組対課長時代はほとんど新宿署に住んでいた)にした努力の集積だろう。

反社会的勢力による犯罪がなくなることはないが、暴力団犯罪は確実に縮小する状況にあって、本書は暴力団犯罪の貴重な「備忘録」ともなりそうだ。

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