「機密費使って贈答品」だけではない馳浩知事の問題発言 地元テレビ局幹部が明かす「会見に社長を出せ」のクレーム

「機密費使って贈答品」だけではない馳浩知事の問題発言 地元テレビ局幹部が明かす「会見に社長を出せ」のクレーム

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  • 更新日:2023/11/27
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石川県の馳浩知事

石川県の馳浩知事が、東京都内で講演した際の東京オリンピック招致(2021年開催)をめぐる発言が物議をかもしている。東京オリンピックの招致に際して、安倍晋三元首相から「必ず勝ち取れ」「金はいくらでもある」「官房機密費もある」と言われたと話したが、翌日には「事実誤認だった」と撤回した。だが、具体的に発言のどこが「事実誤認」だったのかには言及せず、対応に批判が集まっている。これ以前にも、馳氏は地元で問題発言をしており、言動が問題視されている。

*  *  *

馳知事は17日、都内で講演した際、自身が自民党の東京オリンピックの招致推進本部長だった当時を振り返り、こんな裏話を披露した。

「当時、総理だった安倍晋三さんからですね。『国会を代表してオリンピック招致は必ず勝ち取れ』と。ここから、今からしゃべること、メモを取らないようにしてくださいね。『馳、カネはいくらでも出す。官房機密費もあるから』」

「それでね、IOC委員のアルバムを作ったんです。IOC委員が選手の時に、各競技団体の役員の時に、各大会での活躍の場面を撮った写真が(あり)、105人のIOC委員全員のアルバムを作って、お土産はそれだけ。だけども、そのお土産の額を今から言いますよ。外で言っちゃダメですよ。官房機密費使っているから。1冊20万円するんですよ」

馳氏はこれらの発言が明るみに出るとすぐに撤回。記者団には「事実誤認の部分を私も確認をしていて、発言は全面撤回した」と説明した。だが、発言のどの部分を事実誤認していたのかという追及には、

「五輪招致にかかわることであり、スポーツ庁、文科省にも報告しているので、これ以上私からのコメントは差し控えたい」

と答えなかった。それ以外の質問にも「事実誤認だった」「全面撤回した」と繰り返すばかりで、具体的な説明を避け続けた。

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馳氏の「師匠」である森喜朗元首相

■森喜朗氏が「師匠」

馳氏は1984年のロサンゼルスオリンピックにレスリングの日本代表として出場。その後、プロレスラーを経て、1995年に参院議員に当選して政界入り。2000年に衆議院にくら替えすると、衆院議員を7期務め、文部科学相などを歴任。昨年3月の石川県知事選で当選を果たし、知事に就任した。

ジャーナリストの鈴木哲夫氏は馳氏についてこう語る。

「馳さんは政治家になると、森喜朗元首相、安倍元首相の流れをくむ『清和会』に入りました。森さんはスポーツ界の人脈が豊富で、スポーツ関連政策を数多く手がけてきた。それをスポーツ事業へとつなげる、いわゆるスポーツ族議員です。馳さんにとっては、森さんが師匠。だから、彼もまたスポーツ族議員なんです」

馳氏が記者会見で話したところによると、講演会は日体大と連携協定を結んでいる地方自治体の意見交換会。講師として招かれ、公務として講演したという。

なぜこのような発言が飛び出したのか。

「馳さんとしては、慕っていた安倍さんをしのぶような思い出話が出てしまったのだと思います。確かに、馳さんの発言は軽率ではありますが、黙っていたらそのまま永遠に闇に葬られていた事実であり、“けがの功名”とも言えるわけです。馳氏の失言のおかげで、東京オリンピックがカネと利権の巣窟だったということが、再び浮き彫りになったのです」(鈴木氏)

その上で、馳氏の発言内容の問題点をこう指摘する。

「IOC委員100人以上に賄賂を渡していて、そのお金が内閣官房の機密費から出ていたということが最大の問題です。機密費が汚職に使われた可能性が浮上したわけです。この問題は、しっかりと国会で検証されるべきでしょう。そのためには、国会に馳氏を参考人として呼ぶなり、政府を追及して答弁を引き出すなりして、きちんとケジメをつける必要があります」

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馳氏から抗議を受けた「石川テレビ」の本社

■ドキュメンタリー映画に抗議

馳氏の発言が事実であれば、もちろん、IOC倫理規定に抵触する可能性も出てくる。東京オリンピックをめぐる汚職・談合事件では、電通などから複数の逮捕者が出ており、すでに裏金の存在が明らかになっているが、新たな疑惑が発生したことになる。

実は、馳氏の発言が物議をかもしたのはこれだけではない。

今年1月には、馳氏も題材として取り上げられたドキュメンタリー映画「裸のムラ」(昨年10月公開)に対して、馳氏自身や県職員の映像を無断で使用したと批判。「肖像権の取り扱いとして納得できない」と、制作した石川テレビの社長に「2月の定例会見への出席」を求めた。そして、同社社長が出てくるまでは定例会見を開かないと公言するなど、強硬な態度を示した。

石川テレビの常務取締役放送本部長で、「裸のムラ」でプロデューサーを務めた米澤利彦氏はこう話す。

「保守王国である石川県では前々知事が8期31年、前知事が7期28年を務め、長期県政が続いています。そうなると、どういう組織でも忖度が生まれます。映画は、果たしてそれがいいのかという問題提起がテーマです。また、一般家庭でも、父親が絶対的でそれに女性と子どもが従う『家父長制』の風潮が残っており、その風潮と県政への忖度が似ているのではないかということを描いています」

映画では、終盤に馳氏が新知事として登場するシーンがある。

「馳さんの主張は、商業映画の場合、県庁の職員に肖像権があり、事前に承諾を得るべきではないかというものでした。ですが、私たちは議会や記者会見など、取材活動が認められた場所から撮った映像しか使っていません。ドキュメンタリー映画であって、報道活動と何ら変わりません」(米澤氏)

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今年9月、議場で大あくびをする馳氏

■議会中にあくびを繰り返し批判も

馳氏は映画の内容に相当不満だったのだろう。石川テレビ社長が定例会見に出席するよう求めたが、同社は応じていない。

「当社の社長はいまだ出席しておりませんし、出るべきではないと考えています。定例会見というのは、県政について記者と知事がやりとりをする場です。(映画に対する議論は)まったくなじみません。もっと県民の生活に直結した課題を議論すべきでしょう」(米澤氏)

では、本当に定例会見は開かれていないのか。

馳氏も引くに引けなくなったのだろう。4月以降は「定例会見」という呼び方はせず、「随時会見」「県民会見」などという呼び名を付け、月に3回ほど会見を開いているという。

これ以外にも、今年9月15日には、石川県議会で、議員の質問中、馳氏があくびを繰り返して緊張感や謙虚さがないと批判を浴びたこともあった。

自らの体験を基にした発言が「事実誤認だった」という釈明は、誰が聞いても理解に苦しむ。その一方で、自身の意に沿わない報道に対しては強権的な態度を取る……111万人もの人口を抱える石川県を指揮する知事として本当にふさわしいのか、改めて注視していく必要があるだろう。

(AERA dot.編集部・上田耕司)

上田耕司

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